IS 朱夜の残光   作:六馬 楽音

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 さあ、やっと主人公のISが登場しますよ!


崩れ始めた平穏!『ウサギと龍とそして修羅と』

 

 

 

「さあ、たーくん!ちょっとそこで束さんとお茶しようそうしよう!」

 

 

 こちらが追われているのにも関わらず、目の前のウサミミを付け、不思議の国のアリスのような服を着た女性ー篠ノ之 束(しののの たばね)ーは開口一番に言った。

 

 

「いえ、結構です」

「即答!?こんなに美人な束さんが誘っているのに!?」

「貴女が本当に束博士なのかどうかは知りませんが、ちょっと忙しいんで失礼します」

 

 

 そう言って辰人は逃げようとした。だが、

 

 

「逃がすわけにはいかないよー?ちょぉっと付き合って貰うからね?」

 

 

 いつの間にかまた目の前に立ちはだかっていた束を見て、辰人は逃走を諦める。そして束を持ち上げ、走り始めた。

 

 

「あはは、はやいはやーい!流石たーくん!たーくんの脚力は世界一ぃぃいぃぃいぃぃぃぃ!」

「あんまりはしゃいでると噛みますよ?」

 

 

 のちに、目撃者の証言では『物凄いスピードでお姫様抱っこをしながら走るイケメン』が通り過ぎて行った、と供述されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……少し疲れたな」

 

 

 街を駆け抜け、外れの廃工場に辰人と束はいた。

 

 

「いやぁ、楽しかったねたーくん!」

 

 

 声の主を睨みつけると、彼女はその視線を受け止め、体をくねらせている。

 

 

「きゃー、たーくんってば大胆。人気のない所に連れ込んで、束さんに乱暴するつもりだね!」

「ソンナコトハゼッタイニシナイカラアンシンシロ(棒)」

「片言で棒読み!?でも許しちゃうよ!こんなに束さんをいじれるのはたーくんだけなんだからね!」

 

 

 左手の人差し指を『ビシィッ!』とでも聞こえるように突き付けながら束は言う。

 

 

「そう言えば、さっきからたーくんたーくんって……。初対面ですよね、俺たち」 

 

 

 まるでその発言を待っていたかのように、束は辰人に微笑みかける。それは、悪戯が成功して喜ぶ子供のようだった。

 

 

「確かに会うのは初めてだけど、私はたーくんのこと4年前(・・・)から知ってるよ。凄かったね、初めてであれだけ動く子は中々居ないよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「そうなんですか?一体どこで出会ったんですかね?」

「君が乗っていた打鉄ISのコアにちょっと面白いことが起きてたからね。束さんはものすごーく興味しんしーん!ねー、検体番号E-5番くん?」

 

 

 その発言に、辰人は唯々無言だった。

 

 

(流石、ISを作った開発者……ばれてたのか……)

 

 

 そんな辰人の動揺を余所に、束は顔が触れるほどの距離まで

 

 

「正しくは、キミのその右目が、だね。ちょぉーっと、解析させてもらうよ~」

 

 

 そう言うと、更に近づきその赤い瞳に触れる。数秒の静けさを終えて、直前まで笑みが張り付いていたその表情に真剣なものを浮かべていた。

 

 

「これはこれは……束さんを舐めているのかな?酷く不快だよ、これは。あ、決してたーくんのことを言ってるわけじゃないよ?束さんはたーくんのこと普通に好きだからね!」

「ちょっとそこから動かないでくださいね?」

「スルー!?またスルーしたね!?」

 

 

 騒いでいる束を余所に、辰人は廃工場の入口を伺う。そこには、先ほど自分たちを追っていた黒服の1人が周辺をうろついているのが見えた。束に『静かにしてください』と口の前に人差し指を立て、黒服の様子を観察する。

 黒服が入口に近づいたその瞬間、辰人は動いた。すぐさま黒服の首を片手で絞めつつ、もう片方の手で口を塞いで工場内へ引きずり込む。黒服は、一瞬の出来事だったためか、その動きに対応することが出来なかった。

 

 

「おお!仕事が早いねたーくん!」

「はいはい」

 

 

 自分の腕の中でもがいている黒服の首を更にきつく締める。黒服は不利を悟ったのか、次第に抵抗する力を失った。

 

 

「仕事が早いね!一家に1台あれば便利!」

「よし、もう1人に事情を聞くかな」

「ねえ、そろそろスルー止めない?束さんそろそろ本気で泣くよ?」

 

 

 そう話しながら、辰人は黒服の上着の内ポケットから拳銃を取り出すと、躊躇なくその引き金を引く。放たれた8発の弾丸は、狙い通りに黒服の両手足に2発ずつ撃ち込まれた。

 

 

「……っがぁ……て、めえ……ガキのくせに、躊躇なく撃ちやがって……」

「それで、なにか吐く気になったか?」

「たーくん、仕事は早いけど効率が悪いね。この束さんにかかれば、子供の頃の恥ずかしい思い出までまる分かりだよ?」

「今はふざけてる暇じゃないですよ。こいつ、束さんと会う前から尾行されてましてね。……ちょっと、気になることもあるので」

 

 

 そう束と会話しつつも、黒服への拘束を緩めない辰人。それに対し、黒服は戦慄した。

 

 

(こいつ……ガキのくせに、さっきの銃撃といい、一切の躊躇がない……。この年で、化物め……)

 

 

 黒服は、己のプライドがずたずたに刻まれている現状に歯噛みする。

 

 

「それで、誰に雇われた?吐かないと今度は腹に風穴が空くぞ?」

「わ、分かった!言う、言うから勘弁してくれ!」

 

 

(……命あっての物種か。しょうがねえ、ゲロってトンズラするか)

 

 

 黒服は、内心で舌打ちをしつつ、観念して依頼主の情報を話そうと口を開く。だが、その時、黒服に異変が起きた。

 

 

「…………ッ!?」

 

 

 一瞬、黒服の体が震えると、黒服の力が抜ける。その異変に、辰人がすぐに気づき、急いで脈を取った。

 

 

「……ばっちりな情報漏洩対策だ。心臓が動いていない、やられたな」

「たーくんも詰めが甘いね!まあ、こんなゴミを有効利用するためには、使い捨てが一番だけどね」

 

 

 束の発言は、過去に実験動物扱いされていた過去があるため、思うところが無いわけではなかった辰人だが、特に何か言うつもりもなかった。

 すると、黒服のポケットが震える。そのポケットから辰人が取り出したのは、携帯端末だった。

 

「はい、もしもし」

『やあ、驚いたかい?しかし、残念だ。使えると思って雇ったのに、そいつに仕込んでいたナノマシンが発動されてるみたいだったからね』

「……やっぱりあんたの差し金か……義兄上(あにうえ)……。何故、こんなことをした。理由を聞こうか」

『理由を言うと思うかい?ただの拾い子の分際で。……まあ、そんなことはどうでも良い。さて、問題です。今、僕は一体何をしているでしょう、かぁ?』

「何言って……」

『ヒント、はいどうぞ』

 

 

 そう言った龍令の声の向こうで、乾いた音が響き、直後男の痛みをこらえる声が聞こえる。その声を辰人はよく知っていた。聞き間違えるわけがない、その声の人物は、自らを実の息子のように優しく、時に厳しく育ててくれた劉玄その人だったのだから。

 携帯端末を握りつぶしそうにしながら、辰人はその瞳に殺意を滲ませ、絞り上げるような声で答える。

 

 

『正解は、北良家本殿!現在、義兄である僕が当主になるための式の真っ最中(・・・・・・・・・・・・・・)でぇす!その前に、いらない奴らは処分が当然だよな、そうは思わないか?』

「……手前ェ、こんなことして分かってるんだろうな?命は無いと思えよ」

『ああ、良いねぇーその声。悔しい感じが端末越しにも伝わってるよ!さあ、辰人?来たければ来な。ただし、一人で、だ』

 

 

 直後、龍令との通話が切れる。辰人は、すぐに山に向かうために走り出そうとした。だが、

 

 

「待って、たーくん!これ持って行った方が良いよ!」

 

 

 束の声が響いた後、振り返った辰人に彼女は何かを投げる。難なく掴んだそれは、血のように赤いバングルだった。

 それを右手首に付けると、辰人は駆けだす。

 

 

(あいつのことだ……。従わない奴は片っ端から殺すに決まってる。なら、奴は俺が)

 

 

 胸中に渦巻く黒い殺意をその身に染み込ませるように、武甲山へ向かった。

 

 

 

 

 

日が暮れて、満月が映える夜。山を登り、北良家へと辿り着いた先に辰人が見たものは、燃え上がる家と、周囲に散らばる赤と灰のコントラスト。そこには、かつて暮らしていた家族がいた――――はずだった。

 

 

「龍ぅぅぅぅぅぅぅぅ令ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

 燃え盛る炎の中から現れたのは、三機の打鉄だった。三機とも、実体刀を構えこちらを見つめている。

 

 

「どうだい?悔しいか?間に合わなかったっていうのは!残念だが、もう全部終わったよ。後は、僕に任せな。それじゃあ、Goodbye」

 

 

 そう言って現れた龍令が手を振り上げ、それを振り下ろした瞬間に、三機の打鉄は一瞬で距離を詰め、実体刀を振り下ろす。

 

 

「あははははははははははっははははは!やった、死んだ。死んだぞ!惨めに死んだ!……これで、更識よりも優れた我が北良家を再び立ち上げることができる!」

 

 

 声を上げ、叫ぶように笑っていた龍令だったが、打鉄搭乗者の内のリーダー格の1人の声で我に返る。

 

 

「いえ、龍令様。北良辰人の反応が消失(ロスト)。突然、消えました」

「馬鹿言え!奴が突然消えるわけないだろう!何処かに隠れたはずだ、さg」

 

 

 突然、声が途切れた龍令。不審に思い、三機の内の一機の打鉄が振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 満月を背に、それは浮遊していた。血に濡れているような朱き全身装甲、新緑のデュアルアイが光り、右手には先端が槍のような錫杖、左手には、龍令の生首(・・・・・)を持っている。

 

 それを見た瞬間、打鉄の一機が高速で接近し、実体刀を振るう。だが、朱いISはそれを舞うように回避すると、擦れ違いざまに錫杖を振るった。薙ぎ払われ、後退する打鉄に、龍令の首を躊躇無く投げつけた。

 

 

「……っっ!」

 

 

 一瞬対応が遅れた打鉄に、捻じ込むように朱いISは突きを放つ。全身の体を使い、力を一点に集めた突きは、打鉄の搭乗者の体を容易く貫いた。

 

 そして、錫杖をそのまま振り上げ、まだ仲間の死に驚きを隠せない残りの二機に向かってその死体を投げ放つ。二機はすぐに回避行動をとるが、二機が更にその顔に驚愕を浮かべることになった。

 

 

「……遅いな」

 

 

 その声ともに、朱きISが目前に迫っていた。朱きISは錫杖を相手の頭に突き立て、脳漿を飛び散らせる。

 

 更に、その体に何度も何度も突き立てた。残ったリーダー格の女は、戦うことを忘れて、唯々このISの強さに震えていた。

 

 

(強すぎる……!何だ、このISは……!それに、何故かこいつは女じゃないような気が……まさか!?)

 

 

「お前……お前……!何で……っ、何で男がISに(・・・・・・・)……っ!」

「さあね。まあ、これから死ぬあんたには関係ない。それじゃあ、死の旅路へと誘うとしよう」

 

 

 そして、錫杖が振るわれ、女の首は撥ね飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、武甲山で謎の山火事が起きたと、メディアでは報道されたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱いISが降り立ち、ISを解除する。そこに居たのは、北良辰人その人だった。

 

 

「ねえ、たーくん。これからどうするの?」

「さあ、どうだろうな。まあ、俺の好きなようにやりますよ」

「だったら、束さんの所に来ると良いよ!ISの操縦(・・・・・)にも慣らしたいでしょ?」

「それは良いね。じゃあ、そうしますか。そうだ、束さんに聞きたいことがあったんだ」

「……なーに?」

IS(こいつ)の名前って何なんだ?」

「それはたーくんが決めていいよ」

 

 

 束は、興味深そうに辰人の方を見ている。

 

 

「……夜天光。夜天光にしよう」

「夜天光か~……。たーくんらしいネーミングだね」

 

 

 

 

 

 

 そう言うと、2人は歩きだした。




 さあ、ついに終わった前日譚!次の舞台は2年後、IS学園!周りが女子のみだが、一向に気にしない辰人に対し、声をかけてきたのは”世界で一番目のIS男性搭乗者”織斑 一夏だった。

 そこに現れる、金髪ドリルの影が迫る……!辰人の学園生活は、吉と出るか、果たして凶と出るか!

 次回、IS 朱夜の残光!「穏やか『だけど刺激的』」を、皆で読もう!
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