IS 朱夜の残光   作:六馬 楽音

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 お待たせしました。話の都合上、一夏の戦闘を入れると1万字を超えるので、端折らせていただきます、すいません。

 それではどうぞ、お楽しみください!


女尊を破る『男の意地』

 

 

 クラス代表の座をかけて、模擬戦をすることが決まった。だが、授業は普通に続く。こうしている内に、放課後となっていた。

 放課後、あまり人がいなくなっている中、そこに3人はいた。

 

 

「うう……」

「全く、一夏。お前は、何の根拠も無く挑むつもりだったのか?」

「箒、それは言わないでくれ……」

 

 

 一夏から、幼馴染である篠ノ之箒を紹介された辰人は、3人で一夏の今後について話していた。

 

 

「悪いな、俺が一方的に話を進めたのに。お前まで巻き込んでしまって申し訳ない」

「気にするなよ辰人。俺だって少しムカついてたし、辰人がああ言ってくれてむしろスカッとしたぜ」

 

 

笑いかける一夏だったが、すぐさま顔を顰める。原因は、一夏の机の上にあった。

 

 

「い、意味が分からん……。なんでこんなに難しいんだ……」

 

 

 それは、つい先程千冬から渡されていた、ISの参考書である。控えめに言って分厚い辞書と同じ厚さがあり、専門用語の多さも相まって、一夏を悩ませていた。

 

 

「2人は問題ないのか?」

「ああ」

「まあ、なんとかな」

 

 

 2人の返答に、授業に置いついてないのは俺だけか、と一夏は頭を抱えた。

 

 

「なあ、辰人。教えてくれないか?」

 

 

 そう投げかける一夏の言葉を聞きつつ、辰人はちらりと箒を見る。心なしか、箒は苛立っているように感じた。

 

 

「いや、俺は遠慮しておく。その代わり、箒に教えて貰え」

「な、なな……何を言っているのだ辰人!?」

「じゃあな、お二人さん。ごゆっくり~」

 

 一目で箒が一夏に惚れていることを察した辰人は、教室を後にし、学生寮へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「個室か……。助かる」

 

 

 1027室、と書かれた扉を開いて見ると、女子の姿は見られない。既に寮の門限を超えていることを考えると、この部屋は個室であることが分かった。

 荷物は既に運ばれている。その荷物の中から、あるものを取り出す。

 

 

「俺は……元気にやってるよ、皆」

 

 

 それは、北良家全員が写っている写真。それを眺めつつ、自嘲気味に笑う。そして、自分の右手首に装着してある朱い腕輪を眺めた。

 

 

「イギリス代表候補生、か……。精々楽しませてもらうとするか」

 

 

 その笑みが狂気に滲んだ笑みに変わっていったことに、辰人自身、気づくことが無かった。

 

 

 

 

 

 

「なあ……」

「…………」

「なあ、いつまで怒ってるんだよ」

「……怒ってなどいない」

「何だ?裸でも見られたのか?」

「なっ!?」

「……それは一夏が悪いな」

 

 

 セシリアの宣戦布告の翌日。午前8時、寮の食堂の一角は少し凍りついていた。明らかに機嫌の悪い箒、何故怒りが収まっていないのか不思議な一夏、痴話喧嘩の巻き込みは勘弁してくれと少し疲れ気味な辰人の3名がその原因である。

 

 

「2人とも、落ち着け。終わったことだから、今更責めても何も出ないぞ?」

「そうそう。箒、悪かったって」

「一夏はもう少し誠意を見せるように……」

「だから、私は怒っていないっ」

 

 

 一夏と箒は和食セット、しかし辰人は違った。

 

 

「……辰人。お前そんなに食べて大丈夫なのか?」

「ああ、問題ないぞ」

 

 

 2人の好奇の視線を気にせず、辰人はスプーンを止めない。

 辰人のメニューは『火星丼』と呼ばれる、IS学園の学食のメニューの中でも、最も異色なものであった。超大盛りのご飯にこれでもかと掛けられたハヤシライスのルー。その上に可愛らしいとは言い難い大きさのたこさんウィンナーが乗っている。辰人が頼んだものは、それの『特盛』だった。

 

 

「うん、美味い。流石はIS学園」

「本当に大丈夫なのか?そんなに食べて」

「朝はこれくらい食べないとやっていけないもんでね。俺から言わせれば、周りの女子たちの方が心配だ」

「お、それは俺も思った」

 

 

 美味しそうに火星丼を食べる辰人に問い掛けた箒だったが、本人は黙々と食している。逆に辰人が、周りの女子生徒を心配し、それに一夏も同調した。

 

 

「ねえねえ、あれが噂の男子2人だって」

「なんでも1人は千冬様の弟らしいわよ」

「え、ホント!?そしたら彼も強いのかな~」

「でも、辰人君。すごく綺麗に食べてる、カッコいいな……」

「妙に落ち着いてて、本当に同い年とは思えないわ……」

 

 

 周りの女子の視線を受けつつ、3人は余り気にせずに食べ進めた。すると、

 

 

「いつまで食べている!食事は迅速かつ効率的に摂れ!遅刻者には、グラウンド10周させるぞ!」

 

 

 千冬の言葉に、慌てて食べ始める女子たち。IS学園のグラウンドは1周5kmもある。その罰則の重さに急いで食べる女子を余所に、辰人たちは問題なく食べ終わり、余裕を持って教室に入ることが出来た。 

 

 

 

 

 

 二時間目が終了した後、辰人は一夏を見つめる。当の本人はグロッキー気味で、今にも崩れ落ちそうだ。

 

 

(まあ、何にもやってないならそうなるだろうな……)

 

 

 そう考えながらも、授業は続いていく。山田先生は、少し詰まりながらも、説明を続けていた。辰人は集中しているふりをし、一夏は頭を悩ませている。

 こうしているうちに、チャイムが鳴り響く。

 

 

「あ、えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動ををやりますからね」

 

 

 ここ、IS学園では実技と特別な科目でない限り、基本的に担任が全て請け負うらしい。ご苦労様です、と男子2人は心の中で思った。

 山田先生と千冬が教室を出た瞬間、女子の半数が男子に殺到する。そこは、さながら戦場だったと一夏は語る。辰人は、いつの間にか教室を抜け出し、女子の群れを回避していた。

 

 

「ねえねえ、織斑くん!」

「しつもんしつもーん!」

「今日の昼暇?放課後暇?夜暇?」

「北良君とはどういう関係なの!?」

 

 

 同時にくる質問に対応できずに、困る一夏。必死の思いで、箒にアイコンタクトをするも、そっぽを向かれてしまった。

 女子の視線が全て自分に集中しているので、その何とも言えない圧力に一夏は心の中で、教室を抜け出したもう1人の男子生徒を恨んだ。

 

 

「千冬様って普段どうなの?」

「え?案外だらしn」

 

 

 そう言葉を紡ごうとしたとき、背後から出席簿を頭に叩き込まれた。背後を振り向くと、そこには千冬が立っている。

 

 

「休み時間は終わりだ馬鹿共。散れ」

 

 

 その言葉で、女子たちは瞬時にそれぞれの席に座る。辰人はどうしたのか、と一夏は振り向いたが、そこにもう既に座り何事も無かったように授業の準備を終えていた。少し恨めし気に見つめていると、その肩は小さく震えてる。笑っていることは明々白々だった。

 

 

「ところで織斑、お前のISだが準備に時間が掛かる」

「へ?」

「予備機が無い。それにより、学園の方で専用機を用意するそうだ」

「??????」

 

 

 一夏がその言葉の意味を分からずに呆けていると、周囲がざわつき始めた。

 

 

「せ、専用機!?1年の、この時期に!?」

「政府の支援かぁ……。良いな~」

「私も専用機欲しい」

 

 

 まだ意味が分からない様子の一夏に、千冬が呆れる。その様子を見て、辰人が口を挟んだ。

 

 

「一夏、教科書の6ページ読め。今すぐに」

「え、えーと……『現在、幅広く・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機……』」

「要するに、467機しかないISだけど、特例でお前専用のISを用意するってことだよ。目的は多分データ取りだな、ですよね先生?」

「正解だ、北良。織斑もしっかりやれ。お前は嫌でもこいつと比べられる立場にある事を忘れるな」

 

 

 その一言に、一夏はぐうの音も出ない。そうしていると、女子の1人が手を上げた。

 

 

「先生、質問です。北良君には、専用機は無いんですか?」

「それは心配いらん。こいつは既に専用機を所持している」

 

 

 千冬がさらりと言った一言に更に周りがざわつき始める。

 

 

「辰人君、今のってホントなの!?」

「ああ、本当だよ。保護者がIS開発者だからな」

 

 

 更にざわつく女子たち。その中で、箒が驚いた表情で辰人の方を見つめている。それに気づきながらも、辰人は気づいていない振りをした。

 

 

「えー!?本当に!?凄い凄い!」

「ひょっとして、もうISの操縦結構してるの?」

「後で操縦教えて!」

 

 

 その騒ぎに千冬は顔をしかめつつ、良く通るドスのきいた声で

 

 

「静かにしろ」

 

 

 と言った。瞬間、クラスが静まり返る。

 

 

「では、山田先生。授業の号令を」

「は、はいっ」

 

 

 こうして、授業は平和に始まる。

 

 

■ 

 

 

 

「安心しましたわ。訓練機では相手にもなりませんもの」

 

 

 昼休みに入り、再びセシリアが現れた。それを見た辰人はあからさまにセシリアを嫌そうに見つめ、一夏は少しげんなりしている。  

 

 

「そう言えば、セシリアさんも専用機持ってるんだっけ?」

「はい、そうですわ。(わたくし)、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生にして専用機を持っていますの。即ち、エリート中のエリートですわ」

「そうか、すげーんだな」

「あー、凄い凄い。あんたが1番だよ」

「……馬鹿にしていますの!?」

 

 

 叫ぶセシリアに対し、辰人と一夏は早く飽きて帰って欲しいと思いつつ、ただ耐えた。

 

 

「まあ、どちらにしてもクラス代表になるのは(わたくし)、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」

 

 

 そう言い残し、髪を払い立ち去って行った。2人はため息をつくと、学食へ向かおうとした。

 

 

「箒、辰人。飯行こうぜ」

「すまない、一夏。私は少し辰人に話がある。先に行っててくれないか?」

「?ああ、分かった」

 

 

 箒の言葉に一夏は頷き、2人より先に学食へ向かう。

 

 

「ここじゃ少し話しづらい。場所を移して良いか?」

「おう、俺は別に構わない」

 

 

 そう言って、箒の後に続いて辰人は教室を出た。

 

 

 

 

 

 2人が向かった先は屋上だった。少し寒い風が吹いてるためか人が居ないので、箒はほっとする。

 

 

「それで?話って何だ?一夏のことなら、箒の方が知ってるだろう?それとも、恋愛を手伝って欲しいとかか?」

「な、何を言っている!?わ、私は一夏の事などっ」

 

 

 そう言う箒だったが、頬が赤くなっていることを見れば丸わかりだった。

 

 

「そ、そう言うことではない!……姉さんのことだ」

 

 

 姉、と言った時、箒の表情は陰りが浮かんでいる。

 

 

「本当に、姉さんが保護者なのか?」

「本当だ、束さんには助けてもらったよ。正直返したくても返せないくらいの恩義がある」

「……」

 

 

 その言葉に、箒は複雑そうな顔を浮かべ困惑している。それはそうだろう。彼女の家族は、束によってバラバラになったと言っても過言ではない。

 

 

「箒、俺が言えたことじゃないのは分かってる。だけどな、束さんのおかげで助かった人間もいることを憶えていてほしい。少なくとも、俺は救われた」

「お、お前に何が分かる!?どうして要人保護プログラムなんて理由で両親や一夏と離れ離れにならなければならないんだ!それもこれも、姉さんがISを……」

「俺の家族は全員死んだよ、もう俺には誰もいない」

「え?」

 

 

 もうこの話は終わりだ、と言うかのように辰人は箒に背を向け、屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 そこから、淡々と時が流れ、遂にその時がやって来た。現在、第3アリーナのAピットに辰人、一夏、箒、千冬、麻耶の5人が居る。反対のBピットには、セシリアが居るであろう。一夏は入学初の模擬戦なため、あからさまに緊張していた。それに反して、辰人は落ち着いている。そんな中、一夏が口を開いた。

 

 

「なあ、箒。俺の間違いなら良いんだけどさ」

「ああ、それはきっと間違いだろう。うむ」

「……いや、それは違うぜ。だって、これまでISの訓練のIの字が1つも無かったぞ!」

「し、仕方がないだろう!」

 

 

 箒と一夏の掛け合いに内心微笑みつつ、辰人は千冬に言った。

 

 

「織斑先生、先に俺が行っても良いですか?一夏のISはまだ『初期化(フォーマット)』と『最適化(フィッティング)』が終わってないみたいですしね」

「……ふぅ、全く。良いだろう、但し、加減はしろ(・・・・・)。良いな?」

 

 

 千冬の言葉に、辰人は口角を上げる。それは、戦うことに悦びを見出している、修羅の笑みだった。

 

 

「――――――夜天光」

 

 

 そう呟くと、光の粒子が溢れ、一瞬煌めく。その後、現れたのは、血に濡れたような朱の装甲。そして、顔を覆っている朱の兜から唯一覗く深緑に輝くデュアルアイ。その佇まいは、さながら信仰の為に戦う僧兵のような美しさを感じさせる。

 

 

「これが、辰人のIS……」

 

 

 ISから滲み出る謎の危うさに圧倒される一夏を余所に、辰人は黙したままだ。夜天光は浮き上がると、滑るような自然さで、ピットを出る。

 

 

「あら、全身装甲(フルスキン)のISですか。珍しいですわね」

 

 

 アリーナの中央に出た瞬間、周りのアリーナ鑑賞席にはたくさんのギャラリーが待ち受けていた。辰人と同時にセシリアが反対側のピットから現れる。

 

 

「それに、ピットから出てきた際のISの操縦。中々の物ですわ。ですが、この(わたくし)、セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》には敵いません事よ?」

「…………」

 

 

 セシリアの言葉に、辰人は、ただ黙って相手の言葉を聞いている。

 

 

「……ちょっと、無視しないで下さいまし!」

「……少し、静かに出来ないのか?お前にとっては、重要な試合のはずだが?」

「ふ、フン!貴方は(わたくし)には勝てません。それを身をもって、教えて差し上げますわ」

 

 

 その直後、試合開始のブザーが鳴り響く。先手を取ったのは、セシリア――――――――では、無かった。

 セシリアは、その手に握られていた七十六口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》から熱線(レーザー)放つ。彼女の予想では、辰人は避けられずに、致命打となるはずだった。だが、

 

 

 ”――――警告 ダメージ:106 実体ダメージ:高”

 

 

 《ブルー・ティアーズ》からハイパーセンサー ーISに必ず搭載されている、オーバースペックと言うに相応しいセンサー ーから送られる情報に、セシリアの表情が驚愕に染まった。

 

 

「どうした?驚いているのか?」

 

 

 背後から聞こえる声を聞き、振り向きざまに射撃。精度の高く、当たると思われた熱線(レーザー)も、辰人は《夜天光》を駆り、空中を舞うように避ける。その右手には、銀色に輝く槍の如き錫杖が握られている。

 

 

「もっと、もっと楽しませてくれよ。イギリス代表候補生……!」

 

 

 目にも止まらぬスピードで、《夜天光》が肉迫する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、何が起こったんだ?見えたか箒?」

「いや、私にも見えなかった」

 

 

 セシリアが辰人に先制攻撃受けたとき、モニターを見ていた一夏と箒は、何が起きたか分からなかった。

 

 

「織斑先生、あれは……」

「ああ、山田先生の言う通りだ。夜天光(アレ)は、単純に速いんだ(・・・・・・・)

 

 

 千冬の一言に、一夏と箒が首を傾げる。 

 

 

「なに、《夜天光》は現状のISの中で最速というだけだ」

「だけど、それだけじゃないよな?」

「……よく分かったな、織斑。その通りだ、《夜天光》はその速さ故ピーキーな機体性能となっている。あれをまともに動かせるのは北良(ヤツ)だけだろうな」

 

 

 そう話す中でも、モニター中で戦闘は続く。《ブルー・ティアーズ》の名の由来である自立機動兵器ーブルー・ティアーズーを4基稼働させ、オールレンジ攻撃を行っているが、《夜天光》は舞うように回転し、華麗に避ける。そして、攻撃の間隙を縫って振るわれる錫杖は、確実にセシリアのSE(シールド・エネルギー)を削っていく。

 ISバトルのルールは単純で、相手のISのSE(シールド・エネルギー)を0にすれば勝利となる。但し、当たった攻撃はある程度軽減されるが、実機も損傷し、継戦能力が低下してしまう。心理的な駆け引きと、戦闘に於けるセンスや鍛え上げられた技術、武器の特性やISの操縦技術etc……。

 操縦者に要求されるものが多く、そのため大いに盛り上がる。それが、ISバトルだった。

 

 

「辰人の動き、あれは武道……いや、槍術か?」

「ああ、確かにあの動き、なんて言うか、洗練されてるよな」

 

 

 そう話す一夏と箒を置いて、試合は動いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

(有り得ませんわ!こんな……こんなハズでは……!)

 

 

 セシリアは戦慄していた。遊んでゆっくりと嬲るはずの相手に、今自分は全力を注ぎ、射撃を続ける。セシリアの射撃技術は、世界の全候補生の中でも高い部類に入るのだ。だが、相手を灼くはずの熱戦(レーザー)は空しく空を切り、逆にセシリアに槍のような錫杖が、着実に叩き込まれSE(シールド・エネルギー)を削られていった。

 中でも、辰人の駆る《夜天光》の、舞うように回転しつつ行われる有り得ない機動。今まで見たことのないこの独特な機動によってセシリアの射撃は掠りもしない。

 

 

「墜ちなさいっっっ!」

 

 

 そう叫びながら、セシリアは《ブルー・ティアーズ》のビット4基を巧みに操作し、死角からそれぞれタイミングをずらして熱線(レーザー)を撃つ。完璧なタイミングだったそれも、《夜天光》の回避機動によって難なく避けられている。

 

 

「……温いな。温すぎるぞ、セシリア・オルコット」

 

 

 辰人は淡々と熱線(レーザー)を舞うように避けている。現在に至るまで、辰人の《夜天光》には、掠り傷1つ付けられていない。この男は、自分よりも遥か高い領域にいることはもう分かっていた。だが、以前の発言があった今、それを素直に認めるわけにはいかなかった。

 

 

(わたくし)は、絶対に勝ちますわ!」

 

 

 対してセシリアの実力に、辰人は酷く落胆していた。専用機を所持しているイギリスの代表候補生。この肩書のある人間ならば、ギリギリの攻防が楽しめると心の中で期待していた自分が居た。だが、期待した結果は最悪の一言。辰人から言わせれば、まだ未熟も良い所だ。

 

 

「……そろそろ、終わりにしよう」

 

 

 巧みな回避をしつつ、言い放った辰人の発言に、セシリアは憤慨する。

 

 

「何を言って……!」

 

 

 直後、《夜天光》が目前から消えた。

 

 

「え……?」

 

 

 その光景に、セシリアは絶句する。《ブルー・ティアーズ》の誇るビット4基が、ほぼ同時に破壊される(・・・・・・・・・・)

 そして、爆発の向こうから有り得ない速度で目前に現れた《夜天光》。《夜天光》は目にも止まらぬ速さで錫杖を、突き、払い、叩きつける。

 

 

 ”試合終了 勝者、北良辰人”

 

 

 それが決め手となったのか、試合終了のブザーが鳴り響く。それを聞いた辰人は、セシリアに背を向け、ピットへ戻っていった 

 

  

 

 

 

 

 

 

「辰人、やったな!お前凄ぇよ、俺も頑張って勝つから見ててくれよ!」

 

 

 辰人の強さを目の当たりにして、興奮気味に一夏は話しかける。だが、辰人からの返事がない。ISを解除し、現れた辰人は、顔面蒼白だった。

 

 

「辰人、どうしたんだ!?」

 

 

 心配する一夏と同じく心配する視線を投げかける箒。だが、辰人には、全く聞こえていない。

 

 

「北良、これからの試合、棄権ということで良いな?」

 

 

 その言葉に、辰人は僅かに頷く。そして、そのまま控室を出て行った。

 

 

 

 

 

 保健室に辿り着き、ベッドに横になり数十分の後、辰人は目を覚ます。現在、ここに人は辰人しかいない。どうやら、養護教諭はどこかへ行っているようだった。

 

 

「……まだ、未熟か(・・・)……」

「そーかな?束さんとしては乗れてる方だと思うけどね」

 

 

 辰人の独白に、本当なら誰も応える者はいないはずだった。だが、辰人のベッドのすぐ側に、束が立っている。

 

 

「……何で束さんがいるんですか?」

「たーくんが折角戦うって聞いたから、来ちゃった☆」

 

 

 ウインクをしながら言う束に、辰人は苦笑する。

 

 

「でも、たーくんは本当に《夜天光》はこのままで良いの?正直、今のままでも人が扱えるレベルを軽く超えてるよ?」

「ああ……このままで良い……。《夜天光(こいつ)》もそれを望んでいる」

 

 

 束の言葉を聞きつつ、辰人は右手首の朱い腕輪を眺めながら、それでも決意は変わらない、と答える。

 

 

「そっか。でも、流石に心配だから単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は禁止。リミッターも、5つから6つに上げといたからね!今回は使ってないようだから良いけど、ほんっっっとうに危ない時しか使っちゃダメだよ!言いつけ破ったら束さんは泣いちゃうからね!」

 

 

 真剣な顔でそう言うと、最後には微笑みながら手を振りつつ、走り去っていこうとする。だが、急に止まり、

 

 

「あ、言い忘れてた。いっくんもぎりぎり勝ったってさ!じゃーね、たーくん。また会おう!」

 

 

 そうして、束は去っていった。

 こうして、クラス代表を選抜する戦いは、幕を閉じた。

 

  




 女尊を破り、意地を示した男たち。再び日常は静かに過ぎていく。だが、それは次の嵐が来る前の、ほんの少しの平穏だった!

 イギリスの次は、3千年の歴史を持つ、中国からの刺客!それは、織斑一夏のもう一人の幼馴染、凰 鈴音!一夏を中心に動く、女たちの愛憎劇。

 だが、同時に辰人にも、ミステリアスな2年生の影が迫っていた。

 次回、IS 朱夜の残光!恋も憎いも『青いうち』を、皆で読もう!
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