制服のポケットに入れているデバイスが鳴る。
クエストが発令される時はこれに通知が来るらしい。
…が、アタシはまだクエスト受けるまでの要件を全部済ましてはいない。つまり…メールか。見た事無いメルアドだな。
『時間がある時で構わない。今日のうちに報道部室に来て欲しい。』
…報道部。
部活動には全く興味無かったからなにも調べてなかったが…そんなのあるのか。
そういやこないだ会長と面談した時にドアの向こうにいた奴が「特ダネ」とか言ってたな。あいつがそうか。
──会長と面談したあの日から丸一日経っている。
あの日のうちに魔力測定は済ませた、今日は魔法適正の検査をする予定だ。
…スルーだな。
アタシはさっさとクエストに出られる状態になっておきたい。
無駄な寄り道は避けよう。
訓練所はあっちか。
広い敷地だけど、デバイスのマップを見てれば迷うことは無いな。
-訓練所-
とりあえず着いたが…このまま入っていいのかな。
まあ時間指定もされてるから大丈夫だろう。
さっさと終わらせて──
「うわっと!」
「っ!」
あぶね、中から出てきた人とぶつかりそうになった…
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫……ん。」
珍しいな、男子生徒か。正直グリモアに入学して初めて見たような気がする。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないですよ。」
「そうですか…よかった。」
「あー‼︎あんたもしかして、新しい転校生⁉︎」
「夏海ちゃん、知ってるの?」
男子生徒の後ろに女子生徒が2人いた。
「ほら、あたしが取材しようとして失敗したって言ってたでしょ。」
ん。このツインテールの声…聞き覚えが…。
「そっか。昨日喋ってたね。」
「盗み聞きしようとして失敗したって話?」
…!
「ち、違うわよ!れっきとした取材だってば!」
「ああ、生徒会室のドアの向こうに張り付いてたの、あなただったんですね。」
「ちょ⁉︎」
「夏海ちゃん…」
「…やっぱりか。」
ふむ、だいたい掴めたね。いつもこんな感じなのか。
「…えーと、ところで、今から何処に行こうとしてたんですか?」
男子生徒が話題を切り上げてこっちへ向けてきた。
「え、何処って…訓練所ですけど。」
「訓練所? 訓練所は今から精鋭部隊が使うから入れないけど…。」
え。でも指定時間に訓練所使って適正検査するって……、、、
…うん、完璧に時間間違えたね。
「ま、まあ、1時間後だし…何処かで時間潰せばいいんじゃない?…あ、そうだ、時間潰すついでに学園の案内してあげればいいじゃない。転校生が転校してきた時もやったんでしょ?」
「そうだね、あの時は智花に案内してもらったっけ。もう懐かしく感じるよ。」
「そ…そうですね。」
「なんであんたたち自然な流れでそういう雰囲気になんのよ…。」
あー、えっと…。
「あ、あの、お誘いは嬉しいですけど…別にも用事があるんで、そっちに行くことにします。」
「あら、そうなの。じゃー仕方ないわね。」
「ええ、案内はまた今度お願いしますよ。それじゃあ、これで。」
…ったく、暇潰し代わりに行ってやるしかないか…。
「あのっ、すみません。」
ツインテールじゃない方が声をかけてきた。
オレンジのリボンが印象的。
「私たち、まだお互い自己紹介してないですよね?」
「あ、確かにそうだったわね。あたしは岸田夏海、よろしく!」
「南智花です、よろしくお願いします。」
「僕は…
──♪ ♪ ♪ ♪ ♪!!
持ち主の言葉を遮るようにデバイスが鳴り響いた。
「おっと、ごめんなさい、ちょっと…。」
画面を数回スワイプして連絡内容を確認した男子生徒はすぐにこちらに向き直った。
「ごめん、急ぎの呼び出し来た。行かないと。」
言い終わるが早いか、男子生徒は足早にその場から立ち去ってしまった。
「ちょ、名前ぐらい言えたでしょ…。まいっか後で。」
「転校生さんって、いつも…というか最近特に忙しいんです。」
「ふーん…大変なんですね。あ、アタシは九十九湧魔、よろしく。」
…興味ねえ。
-報道部室前-
「ここだな。」
コンコン。
「どうぞ、入ってくれ。」
部屋には女子生徒が1人。こいつがメールの主に間違いない。
「急に呼び出してすまなかったね。出来るだけ早く君とは話がしたかったから。」
この人は多分…服部が言ってたアタシのことを知ってる生徒の1人だな。
「たまたま時間が空いてたから来ただけです…。どんな御用ですか?」
「何をそんなに焦ってるのか知らないけど…クエストはそう頻繁には出ないよ。…まあそこに座ってくれ。僕は遊佐鳴子。報道部の部長をしている。」
『遊佐』…服部が昨日言ってた名前だ。
「報道部…取材か何かですか?」
「はは、今回は報道部は関係ないんだ。僕個人として君と話したかったのさ。」
報道部長は微妙な笑顔を見せた。
「で、何を話せばいいんです?」
…こんなセリフ、昨日も言ったな。
「話してほしいというか…君がどういう人間か把握しておきたいんだ。このままグリモアの生徒として暮らしてもらって大丈夫かどうか…ね。」
こちらの心を見透かそうとするような眼差し、薄く笑った口元。
完全にこちらの出方を窺っている。
「大丈夫か…とはどういう意味ですか?」
「…、既に察してると思うけど…僕は君がグリモアに来た経緯を知ってる。ここまでいえば分かるだろう?」
あくまでこっちから言わせる気か…
「…アタシにその心配はいりませんよ。霧の護り手やライならともかく。」
……。
「そうか、なら今はその言葉を信じておくよ。時間を割いてもらって悪かったね。」
……。
「いえ…ではこれで、失礼しました。」
バタン。
…。
「彼女は今のところ、そこまで妙なことはないみたいだね…問題は…『彼ら』が九十九君に対してどう動くかだ。」