「…………」
「…………」
ど、どうしよう……また勢いで……。
周りにはカップルばかりで、少し……いいや、かなり気まずい気分だ。別に注目を浴びている訳じゃないし、そんなに浮いている訳じゃないのに……。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、はい!じゃあ、このチョコレートパフェを」
「じゃあ、俺はコーヒーで」
店員さんに反射的にメニューを告げると、ようやく一息ついたように体の力が抜ける。外の人の流れに目を向ける余裕も出てきた。
何か聞きたい事……そうだ!
「あの……」
「お、おう……」
「比企谷君は彼女とかいるの?」
「ぶふぉっ!」
彼は思いきり吹き出した。
「げほっ!げほっ!」
「だ、大丈夫!?」
「あ、ああ……てか、何なのいきなり。唐突すぎんだけど」
「……何でだろうね。ふふっ」
申し訳ないと思いながらも、その狼狽えぶりに笑いが溢れてしまう。ああいった質問は苦手なのかもしれない。
「いや、まあ別にいいんだけど」
「それで?」
「?」
「質問の答えは?」
「ぐっ……」
あぁ、私今いじわるな笑顔になってるかも。彼をからかいたい衝動に駆られている。いや、既にからかっている。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼はそっぽを向いて答えた。
「……いない。いた事ない」
「そ、そっか」
そっかそっか。いないのかー。
そんなやり取りをしている内に、パフェとコーヒーが運ばれてきた。
取り繕うようにスプーンでパフェを口に運ぶ。蕩けるような甘さが口の中に広がり、ごちゃごちゃになりかけていた頭の中がすっきりしていくのがわかる。
「うん、このパフェ美味しい……え?」
彼の方を見たら、砂糖とミルクを大量にコーヒーに注ぐべく、準備を整えていた。
「ス、ストップだよ、比企谷君!」
「どした?」
「そ、それは?」
「ああ、まずは甘さを調整しないとな」
「ダ、ダメだよぅ……体に悪いよ?」
「好きな物を我慢する方が体に悪くないか?」
「それは一理あるかも。じゃなくて!ほら……」
スプーンに乗せられるだけ生クリームを乗せ、彼に差し出した。
「はい、甘いのはこっちを食べればいいでしょ?」
「いや、さすがに……ちょっと……」
「と、溶けちゃうよ~」
「……っ」
半ば強引に口の中へと押し込む。周りの事なんて一つも気にならなかった。
「どう、甘いでしょ?」
「……甘すぎる」
「え~、わがままだよ~!」
「……甘いのはもう十分だ」
比企谷君は顔を紅くしながら、砂糖とミルクを元の位置に戻した。その様子で、自分のした事に改めて気づき、驚いてしまう。
今わかるのは、私の顔も紅くなっているという事だけだ。