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それでは今回もよろしくお願いします。
「比企谷君?」
「お、おう……南か?」
「そうだよ?」
わかりきっていることなのに、つい確認をしてしまう辺り、俺のコミュニケーション能力はさほど上がってないのだと、はっきり思い知らされる。いや、会ってる時には普通に話せるから、別に構わない。
そもそも、何故いきなり電話をかけようと思ったかすら、よくわからない。今日学校での材木座との会話でメイドカフェの話が出たからだろうか。戸塚が今日も可愛かったからか。葉山グループの賑やかさがいつにも増して聞こえてきたからか。
「比企谷君?」
考えていると、耳元を南の声がくすぐった。とりあえずでもいいから、何か言わなくてはならない。
「元気……か?」
「う、うん、元気だよ」
……さすがにこれはひどい。
もうちょい頑張ろうぜ、俺。
自分から誰かに電話をかける機会が少ないせいか、無駄に緊張している。目を見て話すより緊張するとか、どうなってんだよ……。
「最近……寒いな……」
「あはは、寒いね……」
……だから、何やってんだよ俺は。
温かなやり取りかもしれんが、もっと他にあるだろう。
「今、電話大丈夫か?」
「あ、うん!」
電話からは、賑やかなBGMが漏れ聞こえる。デパートか何かにいるんだろう。
ふと、先月のことを思い出した。
「先月の約束の事なんだが……」
「…………」
南は何も言わない。気まずい沈黙ではなく、続きを促すような沈黙に思えた。電話の向こうの息遣いを想像しながら、言葉を紡いだ。
「そっちの都合がよければ、今度……会わないか?」
「え?」
「あ、いや、忙しいならいいんだ。そろそろラブライブの全国大会ってのも知ってるし。まあ、息抜きの時間にでも会えればいいと思ったんだが。まあ、いきなり悪かった」
今度は、自分が想像するより、わりと多めに言葉が溢れてきた。まるで、いきなり堤防を取り除いたような気分だ。
「だ、大丈夫だよ!」
「……そっか」
了承を得たことに安堵する。
しかし、何かボソボソと聞こえていた。
「じ、実は私も……いなって……」
「?」
「な、何でもないよ!じゃあ、今度の日曜日でいいかな?」
「ああ、悪いな」
「むぅ……」
「ど、どうかしたか?」
「こういう時は『ありがとう』の方が好きだなぁ」
「そうか、わ……ありがとう」
「ふふっ。よろしい♪」
得意げな笑い声に、ついこちらの頬が緩む。
「じゃあ、そっちに行くから……」
「ちょっと待って!」
「おう……」
「あの……私がそっちに行っていいかな?」
「俺は別に構わないけど……」
「じゃ、じゃあ、比企谷君の家に行くから!」
「わかった。迎えに……は?」
今……何て言った?
そこからあっという間に約束の日を迎えた。
掃除はまあ、完璧だろう。カマクラは……眠っている。
家族も今日はいない。いや、変な意味ではなくて。からかわれるの面倒じゃん?
飲み物のチェックを終えると同時に呼び鈴が鳴ったので、まずはインターホンのモニターを確認する。
……間違いない。南だ。
少し鼓動がはやくなった気がした。
そして、特に意味もなく深呼吸した後、寒い中待たせるのは申し訳ないので、玄関まで走る。
扉を開けると、やはりそこには南が立っていた。
「おはよう……比企谷君」
「……おはよう」
「…………」
「…………」
二人共、しばらく玄関でお互いの顔をチラ見しながら、立ち尽くしていた。
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