捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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THE BORDER

「泊めて……くれないかな?」

「……はい?」

 私の言葉に、八幡君はキョトンとした表情になった。彼がこんな表情をするということは、それなりの衝撃があったということだ。

 何より、私自身も上手く現実を飲み込めていない。

 吹雪の影響で、電車が止まっていると知ったのは、今さっきのお母さんからの電話だ。私が八幡君の家にいることを聞いたお母さんはこう言った。

『それじゃあ、今日は……うん、泊めてもらいなさい♪』

『え!?お、お母さん!?』

『頑張ってね!』

 お母さん……理事長、だよね?女子校の理事長だよね?

 こうして、千葉に友達のいない私は、八幡君にお願いすることになった。

 もちろん彼の事が嫌いなはずがない。おそらく、好き……なんだと思う。

 だ、だからこそ……順序を大事にしたいと思うな!

 そ、それに……。

 軽い女の子とか、思われたりしないよね?

「……り……ことり?」

「は、はひゃい!?」

 八幡君の声に驚き、跳ね上がってしまう。どうやら、自分の世界に浸っていたようだ。彼も驚いた表情をこちらに向けていた。

「ど、どうした?」

「え、あ……その……」

「?」

「は、八幡君にへ、へ、変な事されたいだなんて思ってないんだからね!」

「本当にどうした!?」

 わ、私、何言ってるんだろう?

 八幡君は、私の様子に苦笑して、そっぽを向き、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。

「俺は……別に、ことりが泊まっても構わないが……」

「あ、うん……」

「ただ、今日は妹も帰ってこないから、その……二人だけになる……それでもいいか?」

 彼の頬が赤くなるのにつられて、自分の顔が熱くなってきた。多分、赤くなっている。

「だ、大丈夫……」

「それと……」

「な、何かな?」

「妹が帰ってこないから、あまり晩飯は期待しない方がいい。小学校以来、あまり台所に立っていないからな」

「あ、じゃあ、私がやるよ!!」

 つい勢い込んで言ってしまう。

「私、結構得意…………かも」

 どうしよう、自分から得意なんて言っちゃった。下手じゃないと思うんだけど。合宿の時には、にこちゃんに手際が悪いって言われたからなぁ。

「じゃあ、俺も手伝おう」

 こちらの表情から察したのか、嬉しい申し出がきた。

 台所に並んで料理……今日は色々ありすぎて許容量オーバー気味だけど、すごく楽しそう。

「うん。お願いします♪」

 私はイメージした姿に頬を緩めながら、ゆっくりと頷いた。

 

「こ、ことり……」

「どうかした?」

「野菜の皮剥き、俺がやろうか?」

「だ、大丈夫だよ!うん、あと少し!」

 やっぱり、見栄を張るのはよくないですね。だって、あれ以来、料理してないもんね。

「あと一つ!」

「やっぱり俺も……」

 二人同時にジャガイモに手を伸ばしたせいで、手が重なる。八幡君の大きな手が、私の手を優しく包み込んでいた。

「…………」

「…………」

 私達はしばらく何も言えずに、黙々と作業をした。

 決して気まずい空気ではなかった。むしろ居心地よく感じられた。

 そして、途中で何度も失敗しかけた。

 でも、四苦八苦しながら作ったカレーの味は、何だか忘れられそうもなかった。





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