それでは今回もよろしくお願いします。
「ふぅ……」
リビングのソファーに仰向けに倒れ込み、真っ白な天井を眺める。今の自分の落ち着かない気分を何と表現すればいいのかわからない。正直、夢の中じゃないかとさえ思う。
ことりは風呂に入っている。『八幡君、先にどうぞ』と言われたが、見たいテレビを口実に先に入ってもらった。しかし、今になって考えてみれば、後から入る俺は、ことりが浸かった湯舟に入るわけで……。
「…………」
連鎖反応で、変なことしか考えられなくなりそうなので、思考を断ち切った。テレビの画面に目をやり、大して興味もない旅番組を眺めた。静岡の沼津か……。
「は、八幡君……」
ことりが躊躇いがちにリビングに入ってきた。普段の特殊なサイドポニーを解いた茶色い髪と、俺のTシャツとジャージを着用してその姿に、自然と胸が高鳴る。
「お風呂……いただきました」
「おう……」
隣に腰掛けてきたことりは、俺の目をじぃっと見ながら、小さく笑った。それと同時に、シャンプーの香りがふわりと漂ってくる。何だか同じシャンプーとは思えない甘さが……。
「不思議だね」
「ああ、妹と全然違う香りが……」
「な、何の話かなっ!」
「え?何の話だ?」
いかん。非現実的な状況のせいか、頭がぼんやりとしているのだろうか。
「えっとね……男の子の家にお泊まりするのなんか初めてなのに、不思議とリラックスしてられるなって……」
「……そうか」
そこまで安心されても困るのだが……。
こいつは自分の魅力を過小評価しすぎている。
「八幡君って旅番組が好きなの?」
「まあ、そこそこな」
「…………な」
「?」
「その……また……八幡君と一緒に、旅行に行きたいな」
「あれは偶然出会っただけだろ?」
「あはは、確かにそうだね。でも……」
ことりは少しだけ言葉を溜め、濡れた髪をしっとりとかき上げた。
「八幡君と並んで歩きたいな」
「……そ、それは……」
さすがにどうリアクションしていいのかわからない。この言葉を額面どおりに受け取ってしまうと……いや、でも俺は多分、ことりが……。
彼女も自分の言葉にはっとして、わたわたと手を振る。
「あ、そ、その!そういう意味じゃなくて!あ、でも……八幡君のことはす……あわわ!」
「…………」
耳まで真っ赤になったことりから逃げるように、俺は風呂へと向かった。
「あ、八幡君……さ、さっきはごめんね」
風呂から上がると、ことりは平常心を……
「なあ、ことり……」
「な、何かな?」
「雑誌逆さまだぞ」
「あっ……」
「…………」
「……あはは」
「……ははっ」
「ふふっ、な、何かおかしいね」
「確かにな」
しばらく二人して笑いが止まらなかった。
その温かさは心の何かをゆっくり溶かしていた。
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