捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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ONE ON ONE

 

 目が覚めると、南ことりの顔が目の前にあった。

 ……まだ寝起きで頭がぼんやりとしているのだろうか、もしくはまだ夢の中なのだろうか。思考が上手く働かない。

「…………」

「あ」

 目の前の顔から小さく声が漏れてきた。

 その音で意識が徐々に覚醒していく。

 ぱっちりと大きな目。すらりと整った鼻。小さく可愛らしい唇。額や首筋には、やや乱れた長い髪がかかり、普段の彼女らしからね無防備さがあった。

 一つ一つのものを認識していくと共に、鼓動が高鳴っていく。既にことりの顔は真っ赤になっていた。

「「…………」」

 しばらく見つめ合った後、俺達は無言で寝返りをうった。

 

「ごめんなさい……」

「いや、こっちも、なんか……すまん」

 互いに身支度を整え、朝食を済ませ、片づけを終えると、何となくお互いに謝った。ちなみに、食事中はどちらも一言も口を開かなかった。代わりに、互いを恐る恐る窺い、目が合うとすぐに逸らすという気まずいことこの上ない時間を過ごした。

「私……寝ぼけてた……かな?」

「ま、まあ、自分の家じゃねーんだから、仕方ない、だろ」

「あはは……」

「はは……」

「「…………」」

 再び沈黙が訪れる。

 鼻先と口元にかかった甘い吐息が思い出され、病気なんじゃないかと思えるくらいに、心臓がどくんどくんと脈打つ。

 耐えきれなくなり、勢いよく立ち上がった。

「ど、どうしたの?」

 驚くことりに、俺はなんとか言葉を搾り出した。

「そろそろ……外に出よう」

 

「わあ……」

「かなり積もってんな」

 外は火照った体を冷ましてしまうくらいに、ひたすら真っ白だった。雪は止んでいるものの、空はまだどんよりとしていて、真っ白な世界に閉じ込められた気分だ。

少しの間眺めてから、 家の鍵を閉め、俺達はどちらからともなく、ゆっくりと歩き出した。

 白銀の絨毯に、不揃いのリズムで不揃いの足音が次々に刻まれていくのが、妙に心地良かった。

 ことりも小さく微笑み、先程の気恥ずかしさなどなかったように話しかけてくる。

「八幡君」

「?」

「その……ありがとう!」

「……礼を言われる事なんてしたか?」

「わかんない」

「わからないのかよ……」

「でも……楽しかった。ううん、すごく楽しい。八幡君といると……」

「……そっか」

「あの……もう少しだけ、一緒にいてくれる?」

 その問いかけにまた心から言葉が零れた。

「……少し、遠回りしていくか」

 時間が経つ事を忘れて、今はこの感情だけを頼りにしていたかった。

 足跡はあてのない目的地まで長く続いていた。





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