捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

30 / 71
 感想・評価・お気に入り登録・誤字脱字報告ありがとうございます!

 それでは今回もよろしくお願いします。


Black Coffee

 ことりに連れられて中に入ると、いきなりことりの母親、雛乃さんに遭遇した。

「あら、あなたは……」

「お邪魔してます」

「この前はありがとう。いきなり泊まる事になって大変だったでしょう?」

「いえ、そんな事は……」

「この子、こう見えて家事とかあまりできないから」

「お、お母さん!私だって少しはできるよ!お菓子作りとか……」

「ふふっ、そうね。じゃあ私は出かけてくるから、比企谷君。ゆっくりしていってね」

「あ、はい……」

「あれ、お母さん出かけるの?」

「夕方には戻ってくるわ。帰ったら皆で食事に行きましょう」

 雛乃さんはそのままスタスタと玄関へ歩いていった。スーツを着ているので、これから仕事なのかもしれない。

 玄関の扉が閉まる音がすると静寂が訪れ、二人きりになったのだと気づく。

 ことりもそれに気づいたのか、少しだけキョロキョロしてから動き出した。

「じゃあ、私……飲み物持ってくるね!コーヒーでいい?」

「ああ」

「砂糖とミルクも、だよね?」

「そっちは……いや、いい」

「あれ、ブラックに変えたの?」

「たまにはいいかな、なんて……」

 とりあえず苦いのを飲んで頭をすっきりさせておかないと、女子の家で二人きりという事実に耐えられそうもない。お互いがお互いを意識しているとわかっている以上、なおさらだ。

「じゃあ、ちょっと待っててね」

「ああ……」

 

 苦いコーヒーを胃に流し込んでからは、自然と頭が冴えたのか、無駄な緊張は解けていった。

 小さなテーブルを挟んで向かい合うように座り、お互いが最近の出来事を話すだけの時間。ことりはコーヒーカップを両手で包み込むように持ち、やわらかな微笑みを浮かべた。白く細い、しなやかな指先を見ていると、ひんやりとした感触が思い出され、胸が甘く締めつけられた。

「どうかした?」

「いや……指細いな」

 普段なら何でもないと済ませる所だが、あえて口に出す。

「あー、確かによく言われるかも。穂乃果ちゃんとかに」

 彼女はじっと自分の指を見つめた後、こちらに向け、掌を突き出した。

「……生命線長いな」

「違うよ!そうじゃなくて……」

「?」

「手、八幡君も……」

 ことりの意図がわかり、ゆっくりと掌を合わせる。

 そこには、先程イメージしたひんやりとした感触があった。

 ことりは不思議そうな笑みを浮かべ、必死に自分の指を伸ばそうとしている。彼女の手は思ったよりかなり小さく思えた。

「意外と大きいね」

「そうか?」

「…………」

「…………」

 お互いにどのタイミングで手を離せばいいかわからず、しばらく見つめ合いながら、掌から伝わる温もりを交換していた。

 




 読んでくれた方々、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。