それでは今回もよろしくお願いします。
ことりに連れられて中に入ると、いきなりことりの母親、雛乃さんに遭遇した。
「あら、あなたは……」
「お邪魔してます」
「この前はありがとう。いきなり泊まる事になって大変だったでしょう?」
「いえ、そんな事は……」
「この子、こう見えて家事とかあまりできないから」
「お、お母さん!私だって少しはできるよ!お菓子作りとか……」
「ふふっ、そうね。じゃあ私は出かけてくるから、比企谷君。ゆっくりしていってね」
「あ、はい……」
「あれ、お母さん出かけるの?」
「夕方には戻ってくるわ。帰ったら皆で食事に行きましょう」
雛乃さんはそのままスタスタと玄関へ歩いていった。スーツを着ているので、これから仕事なのかもしれない。
玄関の扉が閉まる音がすると静寂が訪れ、二人きりになったのだと気づく。
ことりもそれに気づいたのか、少しだけキョロキョロしてから動き出した。
「じゃあ、私……飲み物持ってくるね!コーヒーでいい?」
「ああ」
「砂糖とミルクも、だよね?」
「そっちは……いや、いい」
「あれ、ブラックに変えたの?」
「たまにはいいかな、なんて……」
とりあえず苦いのを飲んで頭をすっきりさせておかないと、女子の家で二人きりという事実に耐えられそうもない。お互いがお互いを意識しているとわかっている以上、なおさらだ。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
「ああ……」
苦いコーヒーを胃に流し込んでからは、自然と頭が冴えたのか、無駄な緊張は解けていった。
小さなテーブルを挟んで向かい合うように座り、お互いが最近の出来事を話すだけの時間。ことりはコーヒーカップを両手で包み込むように持ち、やわらかな微笑みを浮かべた。白く細い、しなやかな指先を見ていると、ひんやりとした感触が思い出され、胸が甘く締めつけられた。
「どうかした?」
「いや……指細いな」
普段なら何でもないと済ませる所だが、あえて口に出す。
「あー、確かによく言われるかも。穂乃果ちゃんとかに」
彼女はじっと自分の指を見つめた後、こちらに向け、掌を突き出した。
「……生命線長いな」
「違うよ!そうじゃなくて……」
「?」
「手、八幡君も……」
ことりの意図がわかり、ゆっくりと掌を合わせる。
そこには、先程イメージしたひんやりとした感触があった。
ことりは不思議そうな笑みを浮かべ、必死に自分の指を伸ばそうとしている。彼女の手は思ったよりかなり小さく思えた。
「意外と大きいね」
「そうか?」
「…………」
「…………」
お互いにどのタイミングで手を離せばいいかわからず、しばらく見つめ合いながら、掌から伝わる温もりを交換していた。
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