捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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おでかけしましょ

 

 うぅ……いきなり大胆な事しちゃったなぁ……。

 ちょっと、このまま二人きりで家にいるのはまずいかもなぁ……何がまずいのかもわからないけど……。

「ねえ、八幡君」

「……どした?」

「ちょっと、お外に行かない?」

「……ああ、いってらっしゃい。俺はしっかり家を守っといてやる」

 彼はそっぽを向いたままにべもない返事をする。でも、顔が赤いのは横顔からもわかるから、多分彼も気にしているみたい。ううん、それよりも……

「そ、それって……」

「?」

「お婿さん、的な?」

「っ!」

 彼はソファーから滑り落ちそうになった。

「あぁ、ごめん!ごめんね?今のは聞かなかった事にして!」

 ちょっとした悪戯心が、余計に気まずい空気を生み出しそうになる。私は少し浮かれているのかもしれない。

 彼は態勢を立て直し、深呼吸をして気分を落ち着けた。

「ごめんね?」

「大丈夫だ。よし、行こう」

「……うん!」

 

 行き先は歩きながら考える事にしました。お母さんが帰ってくるまで結構時間はあるので、行こうと思えば色々と行けるんだけど……。

「どうする?街に出るか?」

「そうだね……一旦、周りに人がいる所で落ち着かないと……」

「うん?」

「あ、何でもない何でもないのよ。あはは……」

「……そういうことにしとく」

 誤魔化せなかったけれど、何故だか二人共考えている事は同じな気がした。

 街に着くまでの少しの間、私達は静かでふわふわした空気を感じながら、並んで歩いた。

 

 春の秋葉原の街は、いつも通りの賑やかさで私達を迎えてくれた。これだけ人が溢れていればさっきの気まずさも……

「あ、歩きづらいね……」

「なんかイベントがあるらしい……」

 何かのイベント中の街はお祭り騒ぎ状態で、ライブ会場並の人口密度に達していた。うっかりしてたらはぐれてしまいそうなくらい……

「八幡君、大丈夫?」

「あ、ああ……むしろ、お前の方が……」

「うん、私は……きゃっ!」

 うっかり誰かと肩がぶつかり、こけそうになる……けど。

「大丈夫か?」

「あ、ありがとう……」

 こちらに気づいた彼、がしっかりと受け止めてくれていた。

 密着する体温と、意外な体の大きさに、とくんと胸が高鳴った。一瞬だけ至近距離で合わせられた目は、すぐに逸らされる。

「……行くか」

「うん……あ」

 八幡君の手が自分の手を握っている。

 歩きながら、その事を正しく理解するのにちょっと時間がかかった。

 私の手を優しく包み込んでくれる、少しだけ大きな手は、さっき掌を合わせた時よりも温かかった。

 それと、少し緊張が伝わってきて、思わず頬が緩んでしまう。

 私は手を握る力をほんの少しだけ強くした。

「八幡君……ありがと♪」

「…………」

「ふふっ、ありがと♪」

「…………」

 私は聞こえないふりをしている彼に振り向いて欲しくて、しばらくからかってみた。もしかしたら、自分は結構いじわるなのかもしれない……彼にだけ。

 そんないじわるな私は、心の中で『ごめんね』と謝り、『ありがとう』とお礼を言った。

 

 





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