南家に到着して、ひと息吐いてから、一人で思索に耽る。はて……材木座に何があった。ていうか、あのメイドさんは奴の夢をどう叶えると言うのだろうか……もしや……まさかな……。
そこでガチャッとドアが開いたので、材木座に関する思考を全て遮断する……はて、材木座って誰だっけ?
顔を見せたのは、勿論ことりだ。
いつものサイドポニーは解かれ、ほこほこと湯気を立て、顔は火照っている。その淡い色香が立ちこめる姿のまま、彼女は微笑んだ。
「八幡君、お風呂どうぞ」
「あ、ああ……」
「…………」
「…………」
体が動かず、真っ直ぐに見つめ合う。今さらながら、どうしてこんなに自然な流れで女子の家に泊まることを受け入れたのかとか、自然と手を繋いで帰ったとか、そんなあれこれが思い浮かぶ。それは、中学時代とは違い、この状況をあっさり喜べるほどの安直さがないからかもしれない。
ことりはそんな俺を見透かしているかのように微笑み、距離を詰めてきた。
「ねぇ、八幡君……屋根裏部屋、行かない?」
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「おお……」
「ふふっ、気に入ってくれた?」
南家の屋根裏部屋は程良く狭いスペースで、低い天井に拵えられた天窓からは星空が見え、月明かりが射し込む、少年心をくすぐる秘密基地めいた造りになっていた。
ことりは二人がけのソファーの隣をポンポン叩き、座るよう促してくる。
それに従い、隣に座ると肩と肩が触れ合い、甘い香りが鼻腔を突き、胸の鼓動を加速させた。
「どうかしたの?」
「……いや、今日は、その……ありがとな……楽しかった」
「ふふっ、どういたしまして。私も楽しかったよ」
そのまま二人して、天窓から見える星空を見上げる。彼女と出会ってから、こんな風に夜空を見る回数が増えた気がする。理由はわからないが、千葉にいる時もついそうしてしまうのだ。
考えている内に、一筋の光が夜空をすぅーっと撫でていき、まばゆい星の光に彩られながら、どこかへ行った。
「流れ星……」
ことりが小さく囀るように呟き、目を細め、見えなくなった流れ星の行方を目で追う。その横顔は抑えきれない憧憬を滲ませていた。
「私ね……さっきマユミちゃんと話した時……少し羨ましく思えたの……」
「…………」
「あんな真っ直ぐな瞳が……私はいつも迷子になるから……」
彼女の心の奥までは見通せない。
肩と肩が触れ合っているのに、そこへは届かない。
もどかしい気持ちを誤魔化すように、俺は初めて自分から彼女の小さな手を握り締めた。