数分前……
ベッドに寝転がり、瞑目し、今日あった出来事に思いを馳せると、それだけで心の奥から温かい何かが湧き起こる。
手に残る彼女の手のひんやりした感触も、まだはっきり残っていた。多分、こういう気分を夢見心地というのだろう。
気がつけば、自分から彼女の手に触れていた。
きっと俺は恐れていたのだ。
あと約一年後に来る彼女との別れを。
その背中に手が届かないことを。
俺はことりの事が……
「…………」
起き上がり、深呼吸して、ぐちゃぐちゃになった気持ちを落ち着ける。
しかし、気休め程度にしかならない。
これまでずっと逃げてきたから。
ないものだと思おうとしてきたから。
誰かの気持ちをぶつけられることや、自分の本当の気持ち……誰かを本当に欲しいと思う心……色んな事に対して斜に構え、目を逸らしてきた。
しかし、このままではいられなかった。
例えずっと隣にいられなくても、俺が変われば……
意を決して立ち上がり、扉を開ける。
するとそこには……同じように扉を開けたことりがいた。彼女は驚きに満ちた表情を浮かべた後、やわらかく微笑んだ。
そして今に至る……
「へ~、この子がことりちゃんの彼氏!?」
「う~ん、どうかしら?お婿さん候補、かしらね……私の♪」
「そんなこと言って……彼も困ってますよ?でも、よく見ると可愛い顔をしてますね」
「私にも見せるにゃ~」
「あらあら、酔っ払っちゃうとすぐに語尾が戻るんだから……私も見たいわ」
「あ、あの……」
「うちの娘も恋人いないのよね……」
「ほら、にっこにっこに~してごらん?」
はい。ほろ酔い美淑女に囲まれて抜け出せません。
何がやばいって、とにかくやばい。体の密着具合がハンパない。酔っ払っているからか、遠慮なく身体をくっつけてくるせいで、豊かな膨らみが肘や後頭部やらにぐいぐいむにゅむにゅと押しつけられている。
さらに甘い香りが、理性を溶かすような勢いで、鼻腔を刺激する。香りの性質が、同年代から香る甘く爽やかなものではなく、甘さの中に濃厚な色香が混ざった甘さだ。マッ缶の数倍はあるだろう。
ちなみに、ことりは近くのソファーに座り、ニッコリと笑顔を向けてくる。というか、アイコンタクトで何が言いたいか、わかってしまった。目~と~目~で~通じ合う~というやつだ。
(嬉しそうだね、八幡君♪)
(いや、助けて欲しいんだが……)
(そんなに鼻の下が伸びてるのに~?)
(断じて違う。やましいことは……っ!)
(そっかぁ、花陽ちゃんのお母さんが好きなんだね~お胸おっきいもんね~)
(ち、違……っ!)
(そっかぁ、凛ちゃんのお母さんが好きなんだね~脚綺麗だもんね~)
(待ってくれ……)
(真姫ちゃんのお母さんも美人だよね~)
(うぐぅ……)
ことりはさらに笑みを深め、それでも目は笑わないまま、アイコンタクトを飛ばしてきた。
(いいんだよ~八幡君のこと、信じてるから~……とりあえず、後でお説教かな♪)