捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

41 / 71
GUITAR KIDS RHAPSODY

「じゃあ、お母さん。行ってきます」

「あら、デート?」

「……うん、そうだよ♪」

「そう、楽しんできなさい。八幡君にもよろしくね」

「は~い」

 

 あの約束の日から早くも一ヶ月が経ちました。

 あれから私達は、毎日のように電話やメールでやりとりをして、それぞれの時間を共有し、お互いの過去を少しずつ分かち合い、それまで以上に深く繋がるようになりました。

 私達は不器用ながらも、恋をしています。

 そして、ゴールデンウィーク中盤の今日、彼と一ヶ月ぶりに会えます。

 ……ちょっと緊張するなぁ。

 でも、空は快晴だし、幸先はいいはずだよね!

 手鏡を出し、髪の確認をする。うん、大丈夫!

 すると、どこかから歌が聞こえてきた。

 そのよく通る、それでいて切なさの滲む歌声は、不思議と私の心を引きつけた。

 

「まだ、時間あるよね」

 

 私はその歌声に導かれるように歩き出した。

 

 *******

 

 普段はひっそりとしているその場所は、既に人だかりができていて、かなり見づらくなっている。

 ちょっとだけでも……とジャンプしてみると、赤みがかった髪が印象的な、小柄な女の子がギターで弾き語りをしていた。

 姿が見えたのはその一瞬だけだけど、彼女が乾いたギターの音に乗せて紡ぐ歌は、人だかりをかき分け、私の耳まで届いていた。

 いい歌だなぁ……。

 季節が巡って、出会いや別れの波を流れて、忙しすぎる時が流れて……その中にμ'sとしての大事な時間が……彼との出会いから今に至るまでのことが鮮明に浮かんできて、切なく胸をつついた。

 曲を聴き終えると、私は待ち合わせ場所に移動した。

 

 *******

 

 私が歌を聴いている間に、彼は先に到着してたみたい。

 いつも通りの猫背も、携帯を弄る姿も、気怠げな横顔も、一ヶ月ぶりなのにはっきりと覚えていて、でもやっぱり久しぶりで……。

 私はさっき感じた切なさや、真っ直ぐな気持ちと共に、こっちに気づいた彼の胸に思いきり飛び込んだ。

 

「っと……どした?」

「こうしたかっただけ、だよ?」

「……そ、そっか」

 

 彼の鼓動を全身で感じていると、その腕が背中に回され、何もかもを忘れてしまいそうな感覚になる。周りに人がいるのに、世界中に二人だけみたいな不思議な感覚。

 

「な、なあ、ことり。そろそろ……」

「ダメだよ~。ふふっ、八幡君も、どう?」

「どう……って?」

「私のこと……ギュッとしたくなった?」

「…………」

 

 至近距離から見上げる瞳は、いつもの憂いを帯びた優しい瞳で、つい踏み込みたくなる。その先にある未知の何かを見てみたい。

 ……なんて、実は私もすごく緊張してるんだけどなぁ。

 彼がそっと腕を移動させるのを、高鳴る鼓動と共に待っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ことり、ちゃん?」

「こ、こ、ことり?」

「ハラ……ショー……」

 

 振り向くと、穂乃果ちゃんと海未ちゃん。あと近くの大学に進学した絵里ちゃんが目を見開き、口をぱくぱくさせていた。絵里ちゃんに至っては、何故か顔がやけに紅い。どうしたのかなぁ?……言うまでもないよね。

 

「ことり、そちらの方は……」

 

 海未ちゃんが動揺しながら八幡君の方を向いた瞬間、私は自然と身体が動いた。

 

 

「ヒミツ、だよ?」

 

 私は彼の手を取り、呆気にとられている3人にウインクをして、いつもより速く駆けだした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。