捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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ひとしずくのアナタ

 喫茶店を出た私達は、次に行く場所を歩きながら考えることにした。

 さっきみたいにμ'sのメンバーや、他のお友達に会う可能性も決して低くはないけれど、今はこの並んで歩く時間も、かけがえのない大事な時間だった。

 

「あら?あなたは……」

「え?ツ、ツバサさん?」

 

 またいきなり声をかけられ、振り向くと、今度はA-RISEのリーダー・綺羅ツバサさんがいた。にこちゃんと同じくらいに小柄な身体からは、圧倒的なオーラが出ていて、その表情は自信に満ちて……

 

「え?あ、そ、その……そちらの男性は……」

 

 いなかった。

 ツバサさんは何故か足を震わせ、私と八幡君を交互に見ている。言葉もどこか覚束ない。

 

「あっ、そうよね!たしか南さん、兄弟いたもんね!やだ、私ったら……」

「ち、違いますよ!」

 

 一体誰からの情報なのかなぁ?

 

「う゛ぇえ!?じゃ、じゃあ、まさか……」

 

 どこかで見たことあるようなリアクションだなぁ。

 私は八幡君の方を見て、手を繋ぎ、合図を送った。

 

「ヒミツです♪」

「え?あ、ちょっ……あ、で、でも、そうよね!ヒミツってことは恋人とかじゃないわよね!だって高校生で恋愛とか早すぎるし!」

 

 ……ツバサさんの意外な一面を見てしまった気がする。この事は私の心の中に、そっと仕舞っておこう。

 

 *******

 

 結局私達は、秋葉原を少し離れることにしました。

 今は電車の中で……

 

「……なあ、ことり」

「なぁに?は、八幡君」

「東京に住んでる奴らは……いつも、このラッシュに耐えているのか……」

「あ、朝は、もっと、ひどいらしいよ……」

 

 やはりゴールデンウィークで、そこかしこでイベントが行われていることもあり、電車内は満員で、彼は身じろぎをするのも難しいくらいだった。

 私は彼が端っこで庇ってくれたから、そこまできつくはないけれど……

 

(近い……)

 

 向かい合っているから、お互いの鼻先に吐息がかかり、どうにも落ち着かない。身体も胸の辺りや、足が絡まるように密着して、かなり恥ずかしい。彼が頑張っていなければ、もっと気まずいことになっていただろうなぁ……。

 八幡君は顔を背けながら、話を続ける。

 

「あ、あれだ……俺はとてもじゃないが、家から徒歩か自転車で通える範囲じゃないと、東京じゃ働けそうもない」

「あはは……」

 

 彼の言葉に私は苦笑いしかできなかった。この辺りは全然変わらないね。

 私が潰されないように、必死になっている彼を見て、何かできることはないかと考えてみたけど……何も思いつかない。降りた後で何か……

 そこで変化が訪れた。

 突然電車がガタンと揺れ、後ろから押された彼の身体が、私の方へ傾いてきた。

 

「「っ!」」

 

 今、確かに唇に熱を感じた。

 お互いに顔を離し、一瞬だけ目を合わせ、すぐに俯く。

 周りの音が遠くなり、顔がだんだん熱くなっていく。

 高鳴る鼓動は止められそうもない。

 私の唇は、彼の頬の、彼の唇に近い部分に一瞬だけ触れた。

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