「だ、大丈夫?」
「ああ……大丈夫、だ……」
何だ、あの急転直下の恐ろしいアトラクション……想像以上すぎてダメージでかすぎだわ……どのくらいかと言うと、材木座の小説を夜通し読んだ時くらいのダメージ。
ことりの方はずっとはしゃぎっぱなしで、コースターを降りてからも平然とした足取りで、「もう一回乗ろっ♪」とか言いかねないくらい元気だった。まあ、言ってこなかったけど。
「あっちのベンチで休む?」
「いや、ちょっと歩けばそのうち回復するだろ」
「ダ~メ!」
ことりは有無を言わさず俺の腕を引っ張り、ベンチに座らせる。
そして、わざと怒ったような表情を作ってみせた。
「今日はとにかく楽しむんだから、休む時は休まないと……ねっ♪」
「……ああ」
「じゃあ、その……はいっ」
「?」
ことりは急に赤くなり、自分の膝を指さす。
「……脚、細いな」
「あ、ありがと……じゃなくて!」
「いや、さすがにそれは……」
ことりの言わんとすることは何となくわかるのだが、こんな人で溢れかえった場所でそれをするのは、俺のポリシーに反すると言いますか、ほら、海外じゃ色々オープンらしいけど、あまりにグローバリゼーションを意識するあまり、パブリックな場でオープンになりすぎるのは、奥ゆかしい日本人のマインドを損なうと言いますか……あーあ、うっかり玉縄君出て来ちゃったよ。
「……嫌だった?」
「…………」
そこで上目遣いがきますか……いや、いいんだけど。
観念した俺は、ベンチに寝転がり、その太ももに頭をゆっくりと乗せる。
「ふふっ、素直でよろしい♪」
「…………」
甘やかな温もりと柔らかさが脳髄を刺激し、ぶっちゃけ意識がガンガンに覚醒して、休むどころじゃない。
「……うらやましい」
「わぁ……きれいな子」
「BEAUTIFUL!」
「ぼっちのくせに……ぼっちのくせに!」
……こりゃリラックスするのは絶対に無理ですね。あと誰だボッチとか言ったの。
しばらくの間、俺は背中にナイフの切っ先を向けられるような緊張感を味わいながら、ぎゅっと目を瞑った。
ただ、胸の片隅には、この場所にこうしていられる言い様のない幸福が溢れ出していた。
*******
調子を戻してからは、あちこち動き回り、めぼしいアトラクションに乗り尽くしてから、最後は観覧車で締めることにした。
まだ夕方と呼ぶには早い時刻で、列もさほど無く、すぐに乗ることができた。
「わぁ……音ノ木坂はあの辺だよね」
「多分、な」
さっきまで走り回った街を見下ろしていると、何だか不思議な心持ちになる。
こいつといると、本当にこんな出来事ばっかりだ。
ことりに目を向けると、彼女の外を見つめる横顔は、いつもより無邪気に見え、その無防備さから目を逸らすように、俺も再び街を見下ろした。
あの街のどこかで彼女と再会して、同じ時間を過ごすようになって……
そこで、頬に柔らかな衝撃がきた。
「っ!?」
慌てて正面を向くと、ことりが急いで腰を下ろしていた。
ことりが何をしたかは明白で、体中の神経が頬に集中し、鼓動が高鳴る。
彼女はそのまま俯いて、ぼそぼそと喋りだした。
「こ、これは……お礼、だよ?」
「……な、何の?」
「さっき……電車で守ってくれたから」
「いや、礼とか……」
「私が、そうしたいだけだから……」
「……そうか……」
観覧車が、胸の高鳴りと反比例してのろのろと一周回り終えるまで、俺達は無言のまま、外を眺め続けた。