「…………」
「…………」
部屋に入るなり、何故か二人して正座をして向かい合う私達。端から見れば、重い話でも始めるみたいだなぁ。
静寂に包まれた部屋には、心地良いリズムでカチカチと時計の音が刻まれて、いつまでも聞いていられそうだった。
「「あの……」」
……重なっちゃった。部屋には二人しかいないのに恥ずかしいです。
「……俺からいいか」
「あ、うん」
珍しく自分から話し始める彼に、もう一度居住まいを正すと、彼は頬をかきながら、小さな声で話し始めた。
「あぁ、さっきのは、あんまり気にしないでくれ……その……」
「八幡君」
「?」
「もう一回、頭を撫でて欲しいなぁ」
何故か私は自然と自分のして欲しいことを、わがままを言っていた。
彼は一瞬ポカンとしていたけど、すぐに私の頭に手を置き、ゆっくりと労るように頭を撫でてきた。
「ふふっ、何だか落ち着くなぁ♪」
「……こっちは緊張するんだが」
「じゃあ……はい!」
私は彼の頭に手を置き、彼の動きをなぞるように、その頭を撫でた。
少しクセのある彼の髪は、不思議な触り心地で、何だかワシャワシャしたくなってくる。
「な、何故?」
「ふふっ、これで落ち着いた?」
「……ああ、そういうことにしとく」
彼は曖昧な返事をして、小さな笑みを見せた。
しばらくの間、お互いに頭を撫で合う不思議な時間が過ぎる。
どちらも目を離さず、言葉を交わさずにいた。
いえ、目を離せず、言葉を交わせずにいた。
でも、そんな時間はやがて途切れた。
「っ!」
「あ……」
私は八幡君に抱きしめられていた。
さっきとは違う感覚に、胸が熱く高鳴り、彼のことしか考えられなくなる。その目も、匂いも、感触も、まるで自分のもののようにじわじわ馴染んでいく。その背中に腕を回すと、一つになるということの意味を僅かに理解した気がした。
「えっと……八幡、君……」
彼は耳元で、搾り出すように呟いた。
「……わ、悪い。自分で自分が止められなかった」
「いいの。八幡君……」
「?」
「は、八幡君がしたいなら、私は……い、いつでも……いいんだよ?だから……」
私は少し離れ、彼の目をしっかりと見つめた。
その瞳はいつもより優しく思えた。
「忘れないでね」
「……ああ」
「何を喋ったとか、何を食べたとか些細なことでもいいの。ただ、二人でいたことを覚えていて欲しいの。そのために素敵な瞬間を、沢山重ねたい、かな」
「忘れるわけない。初めてだから……」
「初めて?」
「こんなに長く誰かと過ごしたのが、だよ。何せボッチ生活が長くてな」
「私、八幡君の初めてになれてたんだね」
「ああ」
「じゃあ、また……抱きしめて……あ」
「どした?」
私はふと思い出したことを口にした。
「……お母さんに、今日泊まっていくって伝えなきゃ」