一人ぼっちの部屋で、深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
何度も自分に問いかけた。
後悔しないか。
彼女を諦めきれなくなるんじゃないか。
これまでに何度もしてきた自問自答が倍速で頭の中を駆け巡った。それくらいに、この一線を越えることは、二人にとって大きな意味を持つ。
俺は……
そこで思考を断ち切るようにドアがゆっくりと開く。
「お待たせ……」
「あ、ああ……」
パジャマ姿のことりが、おそるおそる顔を出し、強がるような笑みを向けてきた。
そして、確かめるように一歩一歩足を踏み入れ、やがて隣に腰を下ろす。ベッドの軋む音がいつもより大きく二人きりの部屋に響いた。
「えと……あの……」
「…………」
「わ、私……今日初めてキスして……それで……こういうことも初めてで……だから……」
「…………」
「優しく、してね?」
「……ああ」
短く頷き、ことりの肩に触れる。
少しビクッと震えたのに気づいたが、そのままキスをした。
回数を重ねる毎に、彼女の唇がどんどん馴染んでいく。
そこで俺は、他の部分の感触を確かめたくなり、口づける場所を頬やおでこに変えた。
「な、なんか恥ずかしいよ」
「普段はそっちの方が大胆なんだが……」
「むぅ……あれは結構頑張ってたんだよ?八幡君、私に興味ないと思ってたし」
「……いや、そんなことはない。まあ、あれだ……少しシャイなだけだろ」
「少し……かなあ?……っ」
首筋にキスをすると、ことりの鼓動が伝わってくる気がした。
「少し……だよ。それに、お前に興味ないわけない」
「ふふっ、ありがと……ん」
今度はことりの唇が首筋に押しつけられる。柔らかな感触に意識を集中させていると、今度は湿ったざらついたものが首筋をのろのろ這い始めた。
「……びっくりした?」
「ああ……最高すぎて」
右手でことりの頭を撫で回し、やがて空いた左手で、上着のファスナーを下ろす。
心臓がバクバク高鳴るのを必死に宥めながら、丁寧に下ろし、淡い緑色の下着に目を奪われる。
「……エッチ」
「え?この状況でそれ言う?」
「し、仕方ないよぅ……初めてなんだし……そろそろ、電気消して欲しいな」
「ああ……」
こういう時のスマートな立ち振る舞いなど初めから無理だとわかっていたので、せめて気持ちだけは落ち着け、彼女を優しく受け止めるべく、深呼吸して明かりを落とした。
「……じゃあ……ことり」
「ニャ~」
「いや、ニャ~って……」
「私じゃないよ?」
「…………」
もしやと思い、再び明かりをつける。
「ニャ~!」
「ニャ~」
「……カマクラと……何だ、もう一匹は……」
「カマクラちゃんの恋人、かな?」
「……お前らはいつからいたんだよ」
カマクラと何処から来たかもわからない猫の頭を順番に撫で、ことりに目をやる。
最初はポカンとしていた彼女も、やがて笑い始めた。
「ふふっ、何だかなぁ……」
「……まったくだ……ことり」
「なぁに?」
「……その……リビングで、コーヒーでも飲むか?」
「うん、この子達の邪魔しちゃ悪いもんね」
ことりは立ち上がりながら、上着のファスナーを上げた。それと同時に、何かが断ち切られた気がした。
俺はそれを誤魔化すように何とか口を開いた。
「……ソファーで並んで眠るのも、たまにはいいだろ」
ことりは振り返って、やわらかな微笑みを見せてくれた。