捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

61 / 71
今夜月の見える丘に

 外に出ると、雨はすっかり上がっていて、少し冷たく感じるくらいの風が吹いていました。

 彼は前を向いたまま、少しだけ顔を顰めている。

 

「……結構冷えるな」

「そうだね」

「さっきまで、ずぶ濡れになって走ってたのが嘘みたいなんだが。我ながら無理したな……」

「ふふっ、そうだね。無理しすぎだよ」

 

 並んで歩きながら、二人して雨雲の通り過ぎた夜空を見上げる。

 そこには、いつか見たような星空と、まんまるいお月様が輝いていて、私達の……いつか歩くそれぞれの道を照らしてくれている気がしました。

 

 *******

 

 しばらく人通りもまばらな夜道を歩き、最後に長い階段を昇ると、目的地に到着しました。

 

「着いたよ」

「ここは……」

 

 彼は目の前にそびえ立つ、古い建物を不思議そうに見ていた。

 その建物の名前は、音ノ木坂学院。

 私にとって大事な場所の一つ。

 多分、ここに通っていなかったら、彼とも出会っていなかったと思う。

 だからこそ、彼をここに連れてきたかった。

 

「どう、かな?」

 

 私の問いかけに、彼は眉一つ動かさずに答える。

 

「……なんか出てきそうだな」

「もう、そういうこと言わないの!」

 

 イジワルなんだから……。

 確かに、この時間に一人じゃ絶対に来ないけど……。

 

「さ、早く行こ!」

「は?大丈夫か?」

「うん!誰もいないし、鍵は持ってるから♪」

「お、おう……」

 

 お母さん、ごめんなさい。今度、美味しいケーキ買って帰るからね。

 私は苦笑している八幡君の手を引き、校舎へと忍び込んだ。

 

 *******

 

 夜の校舎は、当たり前だけど真っ暗で、のっぺりとした暗闇が、どこまでも続いてる気がした。これは、絵里ちゃんじゃなくても恐いよね……。

 八幡君も気が進まないのか、キョロキョロと辺りを見回すだけで、その場から動こうとしなかった。

 

「どこ行く?そろそろ帰る?」

「さり気なく帰ろうとしてない?」

「…………」

 

 あっ、図星だ。

 こういうところは出会って1年以上経った今も、全然変わらない。

 ここはエスコートする場面じゃないかなあ?

 まあ、こっちの方が八幡君らしいんだけど。

 

「もう……ダメだよ?」

 

 私は彼の腕に自分の腕を絡ませる。

 

「……ここで私を一人にするの?」

「ぐっ……」

 

 ここで、彼の瞳をじっと見つめ、気持ちを込める。

 

「……八幡くぅん……」

「わ、わかった。わかったから……」

 

 観念してくれた♪

 ここまで来て引き返す心配もあまりないと思うけど。

 

「ふふっ、こっちだよ」

「腕は組んだままなのかよ……」

「もちろん♪」

 

 彼はそう言いながらも、決して振りほどこうとはしなかった。

 むしろ、夜風に冷やされた私の体を温めてくれている気がした。

 

 *******

 

「はいっ、ここがアイドル研究部の練習場だよ♪」

「……結構広いな」

「うん。だから、それぞれに別れて練習できるんだよ」

「そっか」

 

 彼と一緒に、音ノ木坂の屋上を踏みしめる。男の人がここに来たのは初めてかも。

 そんな事を考えながら、私は塔屋の梯子を登り、八幡君を手招きした。

 

「八幡君、はやくはやく!!」

「ちょっ、お前、大声出すなっての……」

 

 意外なくらい慌てた彼は、急いで梯子を登り、私の隣に座る。

 

「「…………」」

 

 二人で眺める景色は、濡れた宝石のように、光があちこちに滲んで、いつもとは違う彩りを見せていた。

 彼の肩にもたれかかると、彼も同じように、自分の頬を当ててくる。

 それだけで、体温以上に心が温かくなる。

 この夜風の冷たさも、二つの体が寄り添う口実になるのなら、とても素敵なものに思えた。

 

「なあ、ことり……」

「なぁに?」

「……いや、何でもない」

「ふふっ、どうしたの?ん……」

 

 彼から不意打ちのキスをされる。

 最初は驚いたけど、次は私から唇を重ねてみた。

 今夜はしばらくこうしていると思う。

 唇も、影も、心も、全て一つにしていたいから。

 そう、今夜だけ……今夜だけでいいから……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。