「……ん」
目が覚めると、やっぱりまだ自分の体が自分じゃないような感覚がする。具合が悪いとかじゃないのに……。
あの日から早くも一ヶ月が経ちました。
彼とは……八幡君とは、年末年始に挨拶のメールを交わしただけで、電話はかけていません。
……まだ早いよね。
自分によくわからない言い訳をしながら、私は彼の温もりを思い出す。
唇を指で撫でると、そこにはまだ確かな感触が残っていた。最後に見た彼の小さな笑みも頭の中に焼き付いて、心をひりひりさせる。
「……もう、終わっちゃったんだよね」
私は振り返らなかった。
それは彼も同じ。
涙を流さなかった。
それもきっと同じ。
だから……彼と同じように私も前を向かなくちゃ。
そこで、コンコンとドアがノックされる。
返事をすると、お母さんがひょこっと顔を出した。
「おはよ、今起きたのね。お客さんが来てるわよ」
「え?」
お母さんの言葉のすぐ後に、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが現れる。
「おっはよ~!ことりちゃん!」
「おはようございます。珍しいですね。こんな時間まで寝ているなんて。そろそろ卒業だからといって、あまりだらだらしていはいけませんよ」
「ふ、二人共、どうしたの?今日は勉強してるんじゃ……」
私の言葉に、二人は顔を見合わせ、微笑みを向けてきた。
「ここのところ、勉強してばかりでしたかりね。たまには休憩を挟まないと、捗るものも捗りません」
「うんうん。さすが海未ちゃん、良いこと言うね!」
「穂乃果は明日からさらに勉強してもらいますけど」
「え~!?」
「当たり前です!いくら成績が上がったからといって、油断していると泣きをみますよ!」
「は~い……鬼軍曹」
「何か言いましたか?」
「あはは……海未ちゃん、もうそのくらいで……ほら、穂乃果ちゃんも毎日頑張ってるし……」
「まったく、ことりは穂乃果に甘いんですから……」
「じゃあ、ことりちゃん。早く着替えて。久しぶりに三人で出かけよ?」
「え?出かけるって、何処に?」
私がポカンとしながら聞き返すと、海未ちゃんは優しく笑いながら、私の肩にそっと手を置いた。
「目的地は特にありませんよ。三人で出かけるのが目的なんですから」
「うん、たまにはぱーっと息抜きをしないとね♪」
「え?でも……」
「ことり」
「え?」
「私にはことりのような経験はないので、気の利いたことは言えませんが、それでも……あなたを元気づけたいのですよ」
「……海未、ちゃん」
「ことりちゃん……もう、素直になっていいんじゃないかな?」
海未ちゃんと穂乃果ちゃんの言葉が、じんわりと胸の中に染みこんでくる。
そして、頬に何か温もりを感じた。
それが涙だと気づくのに時間はかからなかった。
「ことりちゃん……」
「ことり……」
「ごめんね。少しだけ……」
「少しだけじゃダメだよ。思いっきり泣いていいから」
「ええ。今日は一日中傍にいますから、遠慮しないでください」
「うん……うん……うっ……うっ……うわあああああん!!!」
私は、涙の向こう側に見える愛しい背中を見つめながら、久しぶりに声を上げて泣いた。
一ヶ月ずっと溜め込んだ分だけ泣いた。
ごめんね、二人共。
ごめんね、八幡君。
これで、泣くのは最後だから……。