「じゃあ、あまり遅くならないようにね」
「うん。じゃあ、行ってくるね」
お母さんに手を振り、目的地へと歩き出す。
今、私がいるのは、日本最大級の観光都市・京都。修学旅行の行き先の定番にもなっていて、私も中学の時に修学旅行で来た場所。ただ中学の時は穂乃果ちゃんと何か食べてばかりで、海未ちゃんに怒られたような……。
それはさておき、今日ここにやってきたのは、他でもないμ'sのこれまでに無い衣装作りのインスピレーションを得る為です。いつか、思いっきり和のテイストを取り入れた衣装を作りたいと思っています。皆が気に入ってくれるような素敵な和の衣装を……ね。
そんなわけで、無理を言って、お母さんの仕事についてきました。お母さんが昼間に仕事をしている間も、私は京都の観光名所をひたすら見て回った。そして、さっき仕事を終えたお母さんと合流して、一緒に食事をして、私は夜の京都へ、お母さんは京都に住んでるお友達に会いに行くところです。
夜の京都は昼間の太陽の光とは違って、人工の光が彩りを添えています。その優雅な佇まいに思わず溜息を漏らしてしまいました。
「素敵……」
紅葉がライトアップされ、夢の中にいるような幻想をちらつかせ、本来の目的を忘れ、すっかり魅せられてしまいました。
写真を撮っておこうと、スマートフォンを起動させると、ふと近くのカップルがキスしているのが目に入る。
昼間には修学旅行生らしき制服姿のカップルを見かけたけど……私、浮いてないよね。
一人で勝手に気まずい思いをしながら、その場を駆け足で離れた。
*******
「ふう……」
溜息を吐き、淡い光を降らしている夜空を見上げ気を取り直す。
不意に、彼の顔が浮かんできました。
目つきの悪い、捻くれた男の子。
あれから1回も会ってない。
もう会うこともないのかも。
……別に好きとかじゃないんだけど。
何かが胸に引っかかる。
「見てる方が緊張するな」
「静かにしろって」
「…………」
話し声のする方に顔を向けると、男の子3人が物陰に隠れて道を見ている。そして、その近くには……
「あ……」
小さく声が漏れる。
そこには比企谷八幡君がいた。嘘……こんな偶然があるなんて……自分で言うのもあれだけど……ドラマの世界みたい……。
私は近くの竹やぶに隠れ、彼等を見てみる事にした。
ただの好奇心でしかない。
でも、その好奇心は比企谷八幡君ただ一人に向けられていた。
彼等が見ているのは、道の中間辺りで落ち着き無く立っている茶髪の男の子だ。少し不良っぽいけど、その落ち着かない仕草が小動物みたいで微笑ましい。
多分だけど、今から告白するのかな。
すると、比企谷君が彼の下へ駆け寄り、何か言っている。
体をかがめ、ギリギリまで近寄り、耳を澄ませる。
「…………」
元気づけてる……のかな?
考えていると、赤縁の眼鏡をかけた女の子がすぐそこに来ていた。
「…………」
漂う緊張感。
わあ、こんな場面初めて~。
女の子の冷めた表情から、おそらく成功はしないけど、やっぱりドキドキする。覗き見はいけないことだけど……ごめんなさい……。
しかし、待っていたのは予想外の結末だった。
「……ずっと好きでした。俺と付き合ってください」
え?何で?どうして?
何であなたが告白するの?
彼の突拍子もない行動に私の頭が混乱している内に、女の子が告白を断り、その場を去って行った。どうやら今は、誰とも付き合う気はないらしい。
続いて、男の子達がぞろぞろと出てくる。
二人の男の子は労いの言葉をかけているけど、一人は比企谷君と何か話している。よく見れば、屋上で比企谷君と揉めてた人だ……謝ってる?
やがて、男の子達は去って、比企谷君も帰ろうとしていた。
けれど、一緒にいた女の子二人の内、黒髪の綺麗な子から、はっきりと否定されていた。そして、その子はすたすたと早歩きで去って行った。
もう一人の茶髪の可愛い女の子は泣いていた。
もしかしたら……比企谷君の事が好きなのかも。
その子も去って、彼は一人佇んでいた。
竹林をライトアップする灯りは、彼をぼんやりと照らしている。彼は、哀しそうな、困ったような、諦めたような表情していて……何だろう、この感じ……。
私は自然と一歩踏み出していた。