本当にどうしちゃったんだろう、私……。
自分の行動に自分が一番驚いている。
穂乃果ちゃんや海未ちゃんが見たらなんて言うだろう……。
今まで男の子にこんな風に自分から接した事はない。中学生の時に、隣のクラスの男子に告白をされた時には、穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒に断りに行ったくらいだ。
でも、今は違う。
自分から、この不思議な出会いの重なりの意味を……その先にあるものを確かめようとしている。特別な感情……なのかははっきりしない。
隣を歩く比企谷君はぼんやりとした目で、前を見つめている。猫背気味の姿勢がこの前見た時よりも疲れて見えるのは気のせいじゃないはず。
何となく空を見上げると、満月が星に囲まれて、夜の京都を見下ろしていた。こんなにきれいな満月は久しぶりのように思える。
「綺麗……」
素直な感想が口から零れてきた。満月だけじゃなく、周りの星も、照らされて紅く輝く木の葉も、古き良き日本の歴史を刻み続ける街並みも、全てが私の日常からかけ離れていた。
彼も私の言葉に反応して、夜空にぼんやりとした瞳を向けていた。でも、その瞳が本当に夜空を見ていたかどうかはわからない。
考えている内に近づきすぎていたのか、手の甲同士が微かに触れ合う。
「あ、ごめん!」
「いや、こっちも……」
「…………」
「…………」
互いに沈黙を抱えながら、緩やかに冷たい風を切る。
僅かに擦れた体温は確かに熱かった。
*******
電車に乗り、流れていく景色を一瞬ごとに目に焼き付ける。これも偶然だろうか、二人きりの車内は耳が疼くくらいに静かで、ガタンゴトンと規則的な音が外から響いてくるだけだった。それだけの事に、何故か胸が高鳴る。
そうしていると、比企谷君がこっちを見ていた。
「どうしたの?」
「いや、何かあんまり現実味がなくてな……」
「?」
彼は癖のある髪を左手でわしゃわしゃしながら視線を窓の外に向ける。
「偶然がこんなに続く事もあるもんなんだな」
「ふふっ、お店に来た時は驚いちゃった。あ、そういえば、あれからどうして来ないの?」
「あの時は材木座の付き添いで行っただけだからな」
「むぅ……」
「いや、それにそっちは秋葉原だし、俺は千葉にいるし……」
彼は困ったような顔をして、頬をかく。その仕草や表情に優しさが滲み出ているような気がして微笑ましい。
ふと、上着のポケットから携帯電話が見えた。
「えいっ」
自分に出せる最高のスピードで、ポケットからそれを奪う。
「お、おい」
戸惑う彼を無視して、自分の連絡先を入力する。
到着のアナウンスが聞こえるより速く、登録を終えた。これでよし!
「はい♪」
「あ、ああ……」
その照れたような表情を見ていると、自分の慣れない行動も悪くないように思えた。