機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ外伝 『青き星の願い』   作:ふぇるむ

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本編
序章 《ガンダム=シトリー》


 「本当にこの機体を私に下さるのですか? ランズファー曹長」

 

 少女は自分にあてがわれた、黒一色の機体を見つめつつ、驚きの表情を隠せないままランズファーと呼んだ男の顔を方を向く。

 

 「ああ。 何故そんなものがお前にあてがわれたかは知らんが、お偉いさんからは『あのMSは君達の好きにすると良い』と言っていた。 勿論、例の『アレ』も搭載済みらしい」

 

 余程、『アレ』と呼んだものが嫌いなのか、苦虫を噛み潰したかのような顔で、ランズファーは答えた。

 

 早速、少女は無重力状態のドック内を滑る様に、そのMSのコクピットハッチに向かって移動する。

 

 すると、まるで少女が自分の主人であるかの様に、漆黒のMSはハッチを開けた。

 

 だんだんと見えてくるコクピット内の光景に、少女は安心感を感じた。

 

 内部には、MSの操縦に必要な様々な器具や装置、そして一際異質の存在感を放つ、あるものがあった。

 

 それは、何かに接続するのを目的としているのであろう、パイロットシートから伸びている二本の大きなケーブル。

 

 本来ならば一般のMSには無いそのケーブルを、少女は愛おしそうに見つめた後、入口の方に向かってパイロットシートに座る。

 

 そして、少女は背中に手を伸ばし、彼女専用に作られた軍服の背中のファスナーを開けた。

 

 すると、露わになったのは少女の柔らかな背中だけでは無く、金属製の、縦に半分に割ったかの様な物体だった。

 

 どうやらそれは、少女の背中に直接取り付けられているらしく、パイロットシートにあるケーブルと同じ数の接続穴が、彼女の事をただならぬ存在である事を示している。

 

 少女は何の躊躇いもなく、器用に二つのケーブルを背中の接続穴に差し込んだ。

 

 突然、痛みを堪える様に強く目を瞑り、小さな身体を仰け反らせる少女。

 

 その鼻からは血が吹き出しており、コクピット内に、少量とは言えない血液が、多くの球体を形作る。

 

 「本当に大丈夫か? 無理をしなくて良いんだぞ? その機体の為だけにお前が死んでしまったら、俺は天国の家族に顔向けができねぇぞ」

 

 いつの間にかランズファーはコクピットハッチの前に移動しており、苦しんでいる少女を心配そうな目で見ている。

 

 しばらく、少女はその状態のまま硬直していたが、ある時、少女の体から力が抜けた。

 

 「死んでねぇよな...?」

 

 慌ててランズファーは少女のケーブルとの接続を解除し、医務室に運び込もうとする。

 

 しかし、少女の手がそれを制し、やがて強く瞑った目をゆっくりと開け、嬉しそうな笑顔でランズファーの顔を見た。

 

 ほっと胸を撫で下ろすランズファー。

 

 少女のその嬉しそうな表情のまま、ランズファーに話しかける。

 

 「このMSと繋がってみて、いろんな事が分かりましたよ。 例えばこのMSの兵装とか、本来の装甲とか、名前とか...。とにかく沢山ありますから、早く自分の部屋で報告書を書きたいです!...ランズファー曹長...?」

 

 ランズファーはいつの間にか、少女の事を強く抱きしめてしまっていた。

 

 ランズファー自身も何故そうしたのかは分からないが、何となく、その少女がこうしていないと何処か遠い所へ行ってしまいそうだったのだ。

 

 「すまない、お前の様な少女に俺たちの様な汚い仕事の手伝いをさせちまって。 俺たちが自分の手でやらなきゃいけないのにな...。お前ばかりに頼ってしまって、本当にすまない」

 

 「何だ、そんな事ですか」

 

 少女はランズファーを抱きしめ返す。

 

 「今の私は、好きでこういう事をやってるんです。 別に、一年より前の記憶がないからって、自分の事情を他人に押し付ける気はありません。 こんな私を受け入れてくださったランズファー曹長達にも、感謝しています。私、あなたが付けてくれた『セシル』って名前、とっても大好きですよ。 私が人間らしく生きて良い事を教えてくれたのも、『ExNo.06(エクスナンバーゼロロク)』っていう名前が気に入らないって言った曹長達にも、とっても感謝してるんですよ? だから、曹長は私の事で、自分自身を責めないで下さい。曹長には、何の責任も無いんですから」

 

 ランズファーは少女を自分の胸から離すと、涙ぐみながらもこう言った。

 

 「...こんな少女に慰められるなんて、みっともないな、俺は」

 

 「もう、私は『少女』じゃありませんよ? 」

 

 「...そうだな、そうだよな」

 

 ランズファーは密かに、この少女は命に代えても守る、という事を再確認した。

 

 その少女の笑顔は、いつまでも彼の心の中に残り続けることとなったのだったのだ。

 

***

 

 「ところでセシル。そのMSのいろいろな事が分かったって言ってたよな?」

 

 思い出した様に、ランズファーはセシルに問いかける。

 

 セシルは一度大きく首肯し、真面目な顔で、それに答えた。

 

 「はい。このMSと繋がった際に、様々な情報が頭の中に入り込んできました」

 

 「例えば?」

 

 「そうですねぇ...本来の装甲は、現在の装甲を見る限り、余り失われていないみたいですね」

 

 すると、ランズファーは手を顎の方へとやりつつ、ぼそりと小さく口にした。

 

 「なるほど、この外見は厄祭戦(やくさいせん)当時からこのままなのか...」

 

 「? 何か言いましたか?」

 

 「いいや、何でも無い続けてくれ」

 

 セシルは少し不思議な顔をしたが、気のせいだと思ったのか小さく首を横に振り、話を続ける。

 

 「そして、本来の兵装の方ですが、これは何故か多くのデータが欠損してましたね。 今わかっているのは、頭部にバルカンが二門ある事ぐらいですね」

 

 それを聞いて、ランズファーはある事を思い出した。

 

 「それは開発部からそのMSと一緒に送られてきた、あそこにある兵装を使えばいいだろう。正直、どれほど威力があるのかは分からんがな」

 

 「それはとりあえず、一回実戦で使ってみなきゃ分からないですね。試させてくれるならそれに越した事はないですが」

 

 「うちのMSは俺のとお前の前乗ってたやつとこれしかないからなぁ。これ以上整備班に迷惑をかけるのは御免被りたい」

 

 「ですよねぇ...」

 

 セシルは少しため息をついたが、すぐに気持ちを切り替え、報告を続ける。

 

 「あと分かったのは、このMSの機体名ですね」

 

 「お、そんなことまでわかるのか。阿頼耶識(あらやしき)って奴はどこまで万能なんだ?」

 

皮肉の様なイントネーションで、ランズファーは言う。

 

 「万能説はとりあえず置いときましょう。 じゃあ言いますよ、このMSの機体名はーー」

 

 その後にセシルの言ったそのMSの機体名は、後に別名『ギャラルホルンの死神』とも呼ばれる様になり、あるMSと共に歴史に名を刻むこととなる。

 

 その名は、ガンダム=シトリー。

 

 後に『ヴァルカン』のガンダム=アンドラスと激戦を繰り広げるのだが、それはまた別の機会である。

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