機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ外伝 『青き星の願い』 作:ふぇるむ
勿論、一話を読んでいない方はそちらの方を先に読むことをお勧めします。
「起動できるはずないだろ...あんな奴が...」
今まで誰も動かしたことのない、ただ格納庫の隅で埃を被っていたMSを見あげつつ、整備班であるバルトはそう呟いた。
ありふれたスラム生まれのバルトは誰よりもMSの事をよく知っているつもりだった。
元々、MSというものが好きだったのも影響したのか、幼い時は大きな戦闘が起きそうな所に出かけていっては、何度も何度も様々なMSをボロボロの手帳にスケッチしてきた。
そうして描いていくうちに、段々とMSの機構について興味を持ち始め、とうとう、ギャラルホルンの開発部に志願しようと決めたのだ。
それからただひたすらに勉強を重ねた。MSに必要な事言うまでもなく、そうでない事も後々必要になると考え、必死に勉強した。
とても高価な本や紙を大量に買わなくてはならなかったが、バルトは生活費を削ってまでそれを買い、勉強を続行させた。
幸い採用試験を受ける為に満たさないといけない条件は、年齢はギリギリで、それ以外は余裕で突破していた。
そして、ついに時は来た。これだけやったのだから、自分が落ちるはずが無い。そんな確固たる自信を持って、ギャラルホルンの開発部採用試験へと挑んだ。
出来は完璧と言っていいほどで、実技、筆記、面接のどれも一つのミスなくこなせた自信があった。
しかし彼に届いたのは不採用の文字。ただそれだけだった。
最初は訳がわからなかった。印刷のミスかとも思い、一度、ギャラルホルンに問い合わせてみたりもした。
それでも結果は変わることはなく、バルトにはもう一度採用試験を受ける気力さえなかった。
そうしてバルトは街をフラフラとうろつくようになった。
両親は既に他界しており、ろくな親族がいないにも関わらず、仕事にさえ行かなくなった彼は、ただただ餓死していくのを待つのみだった。
そんな死にかけのバルトに声をかけたのが、現在の『ヴァルカン』団長、ガレア=シューベルその人だった。
初めは、なんだこのオッサン、としか思っていなかったが、ある日なんの気まぐれか、ガレア団長に無理やり格納庫に連れて行かれたことがあった。
そうして、連れて行かれた先に、彼の求めるものはあった。
大量のMWと、若干姿は違うももの、ちゃんと整備のされている数機のグレイズ。 そして、装甲が付いていない、今まで見たことがないフレームのMSが一機、隅に置かれていた。
憧れだったMSを目の前にして、一人感動しているバルトをチラリと見たガレア団長はその後、バルトに一つの話を持ちかけた。
『どうだ?俺の仲間達と一緒に、ここで働いてみないか?』
答えは即答だった。その時の彼はまだ、ヴァルカンという組織が反ギャラルホルン団体である事を知らなかったが、正直なところ、彼にはそんな事はどうでもよかった。
ただ単に、MSと一緒に毎日を過ごしていける。
それだけが、彼の目標であって、それが生きがいとなったのだから。
***
入団してからは様々な事を覚える必要があった。
流石に、MSの精密な内部機構までは市販の本には書かれてはおらず、整備班見習いとなった彼は、MWの整備をしながらMS整備班の人達から話を聞きに行った。
しかしそれが苦痛になる事はなく、記憶をする事が得意だった彼は、入団から一年ちょっとでMS整備班となった。
謎のMSに触る機会も増え、いつかあのMSを直してやろう、動かしてやろうと密かに決心していた。
それは結局、今の今まで叶ってはいない。
何故だかはわからない。
MSにはなんの問題もないくせに、とても重要な部品が欠けているかのごとく、フレームのみのMSが動く事はなかった。
今まで何十人もが乗ったり、整備したりを繰り返したが、起動音が聞こえる気配もなかった。
「今回もどうせ動かないんだろう」
シルヴィがMSに乗った際も、心の中ではそう思っていた。
ガコン
今まで埃を被っていたMSから発せられる、鈍重な起動音。
エイハブ・リアクターの出力が上がる音と共に、スラスターから気体を排気する音が聞こえてくる。
「マジかよ...」
バルトは驚きを隠しきれず、暫くの間、作業用クレーンがMSの前から退かせることも忘れていたが、ある程度してやっとそれに気づいたらしく、クレーンがMSの動きに干渉しない様に、安全な場所まで避難させた。
やがて、関節が軋む音が聞こえ、ゆっくりと、だが確実にそMSが一歩を踏み出す。
それは、青年が過去誓った光景と、少年の仲間を助けたいという気持ちが重なった、忘れる事のない始まりの瞬間であった。
***
「歩くのは大体こんな感じで大丈夫か...。それにしても、丸腰で戦場に行くわけにはいかないな。かと言って、装甲がないから近接戦闘はできないし...」
シルヴィは液晶を通して見える格納庫内をくまなく探す。
「お、これが使えるじゃん。ちょっと借りよっと」
シルヴィの乗るMSは、格納庫内に予備としてあったグレイズ用のライフルを右手に、大きな鉄製のライオットシールドの様な物を左手に装備する。
「援護射撃でも少しぐらい役には立つだろ」
そう言ってシルヴィは、戦場にて待つ味方を助ける為、ペダルを先程より強く押し込んだ。
「うぉっ!?」
スラスター自身から発せられる音は何もなく、代わりにドスン、ドスンと大きな音を立てているのがわかる。
「整備班はメインスラスターを付けなかったのかよ...仕方ねぇ、走って行くしかないな」
どうせなら格好良く戦場に参加したい、と考えていたシルヴィだが、どうもそれが叶う事はないようだった。