光に生きる闇人 作:ギグC
振り返ってみれば、嫌な事しかなかった。
親の愛情も知らないし、そもそも愛情てもんが自分の理解から逸脱しているかもしれない。
しかしだ。そんな俺でも親と呼べたかもしれない人物がいたのだ。昔の事であり、今となっては薄らと覚えてしかいない。
よく昔の事を周りの大人達に聞くが、皆はそれを無視し続けている。
何かを言おうとすると、「次の修行」がセットで飛んで返ってくる。
同じ道場にも同年代の奴がいたが、これがまたべらぼうに強い。本当に同い年かと疑問に思う程だ。
今は幸せに暮らしてはいるが、時折昔の事を思い出す。誰かは知らないがある人物の名前と、シルエットだけが浮かぶが、それが誰なのか、名前は何であったのか、は全く分からない。
けれど、その男のお陰で俺は生き延びる事が出来た。
いつか、俺はその男を知ることが出来る日も来るのであろう。その時まで、俺は努力を決して怠らない――
「準備は整ったか」と、漆黒を彷彿とさせるサングラスを掛け、上物の一張羅を羽織りながら、男は着々と荷物をどデカイカバンの中へと押し込んでいた。
荷造りなんて早々に出来ない自分は、彼の言葉に焦りを感じ、慣れない手つきで準備を進める。
「うん、出来たよ、征太郎!」
「こら、その名で呼ぶのはよせ」
「え~でも征太郎は征太郎じゃん!」
困った、という表情を浮かべながら、男は全ての荷物を持ち上げると、徐にに立ち上がる。
八煌断罪刃が一人、來濠征太郎。
かなりの実力者でありながら、常識を持ち合わせており、闇に属している半面、表の理屈にも理解を持ち合わせている小太刀使い。
上からの信頼も厚く、寡黙な仕事人。不用意な殺人など一切行わずに、任務を着々と遂行する。
だがこの時点で、彼はまだ八煌断罪刃に就任してはいなかった。
寧ろ、彼は危機的状況に瀕していた。
彼はとある任務でヘマを仕出かしてしまった。
それは多かれ少なかれ闇の命に背く事となってしまう。
だが、彼はその事を承知で命令に背いた。
しかし子供ながらそんな事を一切何も知らない自分からすれば、征太郎は征太郎であった。
幼い頃から自然が豊かな場所で育ててもらい、何不自由なく暮らす事が出来ていた。
遊んで貰うこと自体はなかったが、チャンバラゴッコだけは何故か付き合ってくれていた。
今思えば恐ろしいが、全て真剣で行っていた事が懐かしい。
「はい、征太郎!」と言われ、呆れ気味に征太郎は荷物を受け取った。
大きな荷物を背負い、小さな荷物を肩に掛けると、征太郎は子供を抱き抱え、その場を後にした。
次の瞬間、何の仕掛けもなかった筈の住処が、跡形となく吹き飛んでしまう。
その爆発の威力はかなりの凄まじさで、百m程吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫か!?」
一張羅の中で、プルプルと震えながら、子供は首を縦に振る。こんな事に巻き込まれ、大丈夫な筈がある訳がない。征太郎に心配を掛けないようにする為の、精一杯の我慢であった。
征太郎は辺りを見渡し、懐にしまってあった小太刀を右手に持ち、左で子供を抱き抱える。
子供乍にわかる、嫌な気が辺りから嫌という程に放たれいる事を感じ取った。
征太郎ともなれば、この様な包み隠さない、殺気を感じ取らない筈がない。
鋭い目付きで、ある一点を集中して彼は睨み続けていた。
「おい、早く出てきたらどうなんだ。殺気が全てを物語っているぞ――ミハイ・ローレンツ……!」
数百メートル離れた茂みが、少しだけ揺れたかと思うと、征太郎の前には既に独特な形状の鎌を構えている、死神とも形容がつく様な人物が現出する。
征太郎が闇の中で光のような存在であれば、ローレンツは対極である存在――。八煌断罪刃の中でも古株であり、発言力にはかなりの影響力があり、同時に征太郎が最も嫌っている人物のひとりである。
「フッフッフ……貴様は一体何をしておるのだ?」
「ふん、聞く必要もあるまい」
「若造が何をぬかすか。闇の命に背きおって……断罪刃にも入ることをゆるされず、ここでそのガキ諸共地獄へ落としてやろうか――」
ローレンツは、鎌を気怠そうに左手から右手に持ち替え、戦闘態勢に入る。
八煌断罪刃の中で屈指の実力を誇るローレンツに、鎌の穂先を向けられ、十二月であるというのに征太郎の背中から汗が滲み出る。
「さて、楽しい楽しい地獄めぐりの始まりだぁぁぁああ!!」
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「征太郎!!」
「うグッ……」と、声を上げ、その場で少し頭を垂れる。先程の戦闘で、辛うじてだが姿を暗ます事には成功したが、見つかってしまうのも時間の問題だ。
「早く逃げようよ!」
「私は――いい。だから、お前は生きろ――」
「征太たろ――……有無を言わさぬ早さで、征太郎は手刀を首元に一発。気絶した子供を抱え、征太郎は逃げ延びた先のとある道場へと向かった。
「よし、ここなら心配あるまい――」
木製の門の真ん前で気絶した子供に背を向けると、征太郎は一歩一歩踏み締め、その場を立ち去った。
さり際に一言、彼はぽつりと呟く。
「さらばだ、祐佐久よ。不甲斐ない親代わりですまなかった――」