光に生きる闇人   作:ギグC

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第11撃 超人と邪神

 飛行機に乗るること5時間。そして長老に担がれること3時間。到着した時には、既に陽は傾きかけていた。

 日本の季節は春であり、若干肌寒さがあるが、到着したここはかなり暖かい。

 東南アジア諸国と言っていたが、ここまでの暑さとは想像もしなかったと同時に、本で書いていた通りであるなと少々ばかり感動する。

 

 

「ほっほっほ、着いたぞい、祐ちゃんや」

 

「ふう。疲れた……」

 

「すまないのう。でもこれでも割と急いだつもりだったんじゃが。ま、とりあえず行こうかのう」

 

「えっと……ちょっと待ってくださいね」

 

「ええぞい。日付が変わるまで待つぞい」

 

「い、いや!別にそこまでは……。とりあえず質問があります。今からどこにい向かうのですか?そもそもここに来た理由は僕に稽古を付けるため……なんですよね、多分。別に稽古をするだけなら日本で良くないですか?」

 

 

 祐佐久が疑問に思うのも仕方が無い。

 そもそも何故、このような熱帯の島国に来たのかが分からなかった。隼人曰く『世直しのついでじゃ』である。

 毎回思うことだが、達人の行動には理解し難いものがある。それは梁山泊の一同と寝食を共にしていれば分かるのだが、無敵超人である風林寺隼人に関しては本当に訳が分からない時があった。

 今がまさにその時である。

 思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。

 

 

「まあまあ、そんなに難色を示さぬ事じゃて。大丈夫じゃ。のーぷろぶれむ!」

 

「一体何が大丈夫なんだが……。大体急過ぎるんですよ!」 

 

「そんなカッカせんと。たまには年寄りの言うことを聴くのもいいぞい」

 

「仕方が無いなぁ。今回だけですよ。まぁ、別に教えてくれるならチャラにしますけど」

 

「ホッホッホ。流石祐ちゃんじゃ。優しいのう」

 

 

 長老のニンマリとした笑を横目にし、祐佐久は地平線へと誘われる夕日に視線を注ぐ。

 浜辺の砂はかなり綺麗で、拳で突くたびにキュッキュッと音を立てるほどだ。それに、ここにつく途中に海をじーっと眺めていたが、透き通った水が空を映し出し、さながら空を優雅に飛んでいる様であった。

 しかしどこかに違和感を感じてしまう。

 余りにも人の気配が無さすぎる。

 此処に到着し、凡そ30分以上が経過したが浜辺を歩く人すらいない。

 恐らくだが誰かの私有地に違いない、と考える以外他になかった。

 

 

「……やっと来たか。にしても遅かったのう」

 

「へ?」

 

「ああ、やっと祐ちゃんに動の気の扱いを教えてくれる彼奴が来たんじゃよ」

 

「えーっと……来たって、何処に?」

 

 

 辺りをぐるりと見渡すが、誰一人として見受けられなかった。一瞬長老が自分をカラかっているのかと考えたが、流石に無いだろうと思い、再度辺りを見渡した。

(遂にぼけたな……)

 と心の中で呟いた刹那、背後から凄まじく、得体の知れない〝何か〟を感じ取る。

 戦慄せざるを得なかった。ただただ背後にあるは恐怖そのもの。ドス黒く、梁山泊のそれとは一線を画す物。言うなれば――殺気。決して己に向けられる筈のない刃。だが背後のそれは刃なんて生易しいものではない。死神にさえも畏怖の念を与えてしまうだろう。

 たった数秒。しかしその数秒は今まで生きてきた中で最も酷く、そして長く感じられたことは言うまでもない。

 

 

「カカッ。久しいのう、風林寺の爺っさまや」

 

「ホッホッホ。そちも何も変わらぬな。相変わらず変てこな仮面を付けおってからに」

 

「ぬかせ」

 

「にしても随分と遅かったのう。随分と待ち草臥れたものじゃて」

 

「貴様が我の元へ出向く筈であろう?歳は取りたくないものじゃのう」

 

 

 背後をゆっくりと、慎重に振り返ると、そこにはアジア独特の民族衣装を身に纏い、仮面を付けた男が一人。先ほど感じた禍々しさはどこかへ吹き飛んでしまった。

 夕日を背にし、体躯をオレンジ色が包み込むその様は正に神秘そのものであり、神々しい。まるで神話の中からひょっこりと現実の世界へと飛び込んできた神そのものだ。

 

 

「まさか……この餓鬼に教えを授けるのではあるまいな?」

 

「そのまさかじゃ」

 

「カカカカッ!流石風林寺家は螺子一本ぶっ飛んでるのう!己が弟子に邪神相手に教えを請うとは狂っておる!面白い、実に面白いのう!久方振りに怠けきっていた我の拳が疼いてきたいのぅ……。しかし相手は餓鬼か。

 ……まあよい。我相手にどこまで耐えれるのか見物じゃわい。そこらの達人片っ端から殺していくよりかは退屈しのぎになりそうで楽しみじゃわいのう」

 

「意外とやる気があるのじゃな、感心感心。それじゃあワシはここらでお暇するとしようかの」

 

 

 一体整理するとこうだ。

 今から自分は自らを『邪神』と名乗る仮面男から動の気の手解きを受ける様である。

 この時点でも大問題だが、更に長老は自分を置いて何処かに行ってしまうらしい。

 これだけは非常にヤバイ。どのくらいやばいかというと、地球の自転が一時停止するレベルでやばい。

 

 

「じゃあ、ある程度経ったら戻るから宜しくたのむぞい!」

 

「承知した。が、命の保証はないぞ。その事を肝に銘じておくのだな」

 

「ホッホッホ。りょうかいした。さらばじゃ――……」

 

 

 気が付くと、目の前に居たはずの長老は残像を残し、既に去っていた。

 さて、いよいよだ。前方には仮面を被った男が1人。仮面越しであるにも関わらず絶え間なく注がれる視線が身体を貫通し、身体が否応なしに竦む。

 祐佐久が言葉を放とうとした刹那、先程まで佇んでいた仮面が、眼前まで迫っていた。

 突然の事に声にならない悲鳴を上げそうになったが、唇を噛み締め、何とか堪える。

 

 

「ほほう……一応は梁山泊の弟子といったところか。風林寺の爺っさまはもう去ったし、ここからは全て主導権は我が握ってるおるのか……面白い」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべたのであろうか、仮面が少し横にズレる。

 すると、突然ムクリと立ち上がり、祐佐久に『着いてこい』と一言。

 悪い夢であって欲しいと切実に願う。到着した場所が梁山泊であり、ドッキリでした〜、なんてオチであれば最高だ。寧ろそうであると願いたい。が、やはりこれは現実だ。ほっぺたを幾ら抓ろうが、自分に平手打ちをしようが、一向に夢から覚める気配はない。

 こうなってしまったのも、全ては自分の責任だが、これは余りにも酷すぎる。プロが初心者に手解きを行う事は良い事だ。

 しかしだ。相手はプロであるとはいえ、言葉の端々に身の危険以外を感じない様な相手だ。先程から自分の中の警鐘が鳴りっぱなしである。

 だがここまでくればもう、仕方が無い。

 

 

「貴様は爺っさまとどういう関係じゃ?粗方予想は付くが、一応聴いておくとしようかのう」

 

「えっと、梁山泊の弟子というか、拾われた身です」

 

 

 拾われた身です、という言葉をなん度もなん度もジュナザードは反芻し、何食わぬ顔で歩き続ける。

 そして質問は続き、

 

 

「何故梁山泊に」

 

「気が付いたら梁山泊の門の前で倒れていたらしいです。何故かは忘れましたけど……。今はそれしか思い出せません」

 

 

 仮面の男はコクコクと頷き、黙り、懐を探り出す。取り出したものは梨であった。しかもかなり大ぶりの梨だ。

 仮面を横にズラし、梨を食らいつく。豪快に食べるその姿に、若干羨ましさを感じてしまった。ここに来るでの間、祐佐久は一切食事を取らなかった。故にお腹はペコペコである。

 そして思わず「美味そう……」と言葉を漏らしてしまった。口を塞いでも、もう遅い。

 仮面の男は立ち止まり、祐佐久の方をぐるりと身体を向る。

 

 

「あ、えっと……ごめんなさ――――」

 

「ほれ、梨じゃ。くれてやる」

 

 

 祐佐久は新品の梨を男から直接受け取った。

 その余りにも意外な行動に驚くと共に、案外この人は優しいのではないかと、思った祐佐久である。

 そのときの梨はとても甘く、美味しかった。

 

 

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