光に生きる闇人   作:ギグC

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第2撃 梁山泊一同

 朝、目が覚めると同時に木製の天井が目に写った。

 首元がジンジンとし、まだ意識が朦朧とする。あたりを見渡したが、何か、仕切りの様なもので覆われていた。ここは病院なのか、という疑念が浮かんだが、それにしても何かが違う気がする。

 病院であるならば、もう少し清潔感があるというか、独特な匂いがあるからである。

 しかしここは全体的に使い古された感があるというか、寧ろそれさえも超えて、幼いながら侘寂を感じ取ってしまいしそうだ。

 少しばかり頭をもたげながら、祐佐久は上半身をゆっくりと起こし、布団を首元まで掛けながら背後の壁にもたれかかる。

 

 

「一体ここは何処だろう……」

 

 

 病院でもなければ、一体何処であろう。

 布団も、壁も、辺りを囲んでいるカーテンも、床の板と板の間にもホコリ一つ存在していない。これではそこらの病院よりもよっぽど清潔に違いない。

 

 

「うーん……。此処は一体……――あ、そうだ!征太郎を探さなくちゃ!!」

 

 

 祐佐久はベットから首元を押さえながら起き上がり、ベッドの真横にあったスリッパを履くと、ベットの周りを囲んでいたカーテンを、ザッ!っと開けた。

 十二月の割には、かなりの晴天であり、まだ光に目が慣れていない祐佐久の目に、陽の光が襲い掛かる。

 

 

「ウッ、眩しッ――」

 

 

 しかし次の瞬間、祐佐久の目の前に突如日陰が現れた。突然何かに光を遮られ、若干焦ってしまったが、それよりも目がまだ痛む。徐々に目が慣れていき、ようやくだが、ボンヤリと目の前の〝何か〟のシルエットが確認出来る様になってきた。

 鳶職の人達が普段履いている様な靴(足袋)を履いており、ズボンは履いておらず、真っ黒なスカートを履いている(袴)。

 

(あれ、女の人かな?)

 

 上の服は――これは分かる、柔道着だ。これは知っていた。よく、征太郎とチャンバラをする際によく着させられたものだ。

 口元にちょび髭を生やし、ハッキリとした顔立ちをしている。独特な雰囲気を醸し出してはいるが、敵対する様な〝気〟ではなく、かなり心地が良く感じてしまう程だ。

 暫くの間、祐佐久は口をパクパクさせながら眼前の男性の顔を覗いていた。

 次の瞬間、祐佐久は驚きの余り叫んび、気絶してしまう。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁあああああ!!勝手に寝ててごめんなさぁぁぁぁぁあああいい!!」

 

 

 自分の方向へと倒れ込む祐佐久を軽々と受け止めると、その男は一つ、ため息を付く。

 祐佐久の悲鳴を聞きつけた男の仲間が、朝から騒がしいな、と診療所の玄関をガラガラと音を立てながらゆっくりと中を伺った。

 

 

「秋雨どん、一体何があったね?」

 

「ああ、剣星か。それが困った事に気絶してしまってねぇ。いやぁ、困ったものだよ」

 

「何か脅かしたりでもしたのかね?」

 

「いやいや、ただ、私はこの少年の前に立ちはだかっただけだよ」

 

「充分脅かしてるね……」

 

 

 祐佐久を脅かした人物、基秋雨は再び祐佐久を元いたベットに戻すと、剣星と共に朝食を取るために居間へと向かった。

 

 

「それにしても剣星、あのアパちゃい君はどうだい?」

 

「彼なら大丈夫ね。逆鬼どんと仲良くやってるに違いないね」

 

「彼が梁山泊へ来て二ヶ月が経つのか……時の流れは早いものだ」

 

「ほんとにそうね。あ、そういえば秋月どん――……

 

 

 祐佐久は再び気絶してしまう。

 ああ、なんて情けない。征太郎がこの様な有様を見れば、最早笑ってしまうだろう。

 征太郎と過ごし、早四年近くも経った。幼い頃に征太郎に引き取られた事はハッキリ覚えてはいるが、その反面、全くと言っていい程親の顔を覚えていなかった。

 本当の両親がどんな人達だったかは気になるが、それよりも征太郎と過ごした日々は本当に楽しかった。

 けれど、彼は何処かに行ってしまった。

 本当は自分でも認めたくはないが、征太郎は自分の元から去ってしまったに違いない。

 

 

 征太郎――何処にいるの……

 

 征太郎――

 

 

「せい、たろ――……」

 

 祐佐久が寝言を言っている様を、真横でジーッと見つめている少女がいた。

 その少女は時折人差し指で頬や鼻をツンツンと啄き、その反応を見ては「おお!」と声を上げている。

 流石に何度も何度もちょっかいを掛けられたは、寝ていても気が付いてしまい、祐佐久は目をショボショボさせながら急に起き上がった。

 どうやら寝惚けている様で、彼女の事を征太郎と勘違いしたらしい。

 

 

「あ、す、すすいません――……ゆ、祐佐久、起きておりまふぅ――……」

 

「フフフッ、変な人」

 

 

 そこで少女は再びベットの上で横になっている祐佐久を見、ある事を思いつく。

 声を一オクターブ以上低くし、自分なりにドスの効いた声を祐佐久に向かい、話しかけた。

 

 

「えーっと……オッホンですわ。これ、早く支度を済ませないかですわ!」

 

「すすす、すいません!いまふぐ、服を着替えて――」

 

「――!キャー!!エッチ!!!」

 

 

 女の子の悲鳴が――と、祐佐久がハットなった刹那、身体が宙に浮き、瞬間的ではあるが無重力というものを体験した様な気分になった。

 しかし数秒後、祐佐久は後頭部から地面へと落ち、頭を抱えながら辺りをジタバタとのたうち回る。

 漸く痛みが治まり、徐に立ち上がると、そこには今まで出会った事の無いような目鼻立ちがクッキリとし、金髪の美少女が祐佐久の目の前に姿を現した。

 しかし、よく見れば自分よりも背丈が小さく、恐らく年齢もかなり離れているのだろと感じ取る。

 

 

「ああ、ごめんなさいですわ」

 

「イテテ……――今のは一体何が起こったんだ!?」

 

「私が間違って蹴り飛ばしてしまいましたの」と、かなりションボリとした表情を、彼女は浮べていた。

 しかし、目の前にいるこんな小さくて可愛いらしい少女が自分を蹴り上げれる訳が無いと思い、祐佐久は笑いながら返事を返した。

 

 

「それがホントならすごいや!」

 

「頭、痛くないですか?ですわ」

 

「んー、ちょっとだけ痛いけど――大丈夫だよ」

 

「それより――」と、祐佐久が話を振ろうとした瞬間、腹の虫をがグウグウと大きな音を立てて鳴ってしまった。

 昨日から何も食べていのでかなり腹が減っていたのであろう。

 それを聞いた少女は、クスリと笑を浮べ、祐佐久の手を引っ張り居間へと案内する。

 

 

「随分とお腹が減ってらっしゃいますのね」

 

「実は昨日から何も食べていないんだ」

 

「まあ!それは大変ですわ!」

 

 

 手を引っ張られ、祐佐久は診療所から出るとそこには純日本家屋が存在した。一見しただけでもかなりの大きさであり、此処は一体どんな場所であるか更に検討がつかなくなってしまう。

 

(この子は一体――それよりも……僕は一体どうなるんだ!?)

 

「あの~……ここは一体……」

 

「ここは武術を極めし達人が集う場所――梁山泊ですわ!」

 

「りょ、梁山泊?」

 

 

 梁山泊――全くと言っていい程分からない。

 頭の中で何度も何度も〝梁山泊〟と繰り返しながら、祐佐久は顔を顰めながら、色々と考え込む。

 しかしこの言葉を何処かで聞いた覚えがあり、余計に祐佐久を悩ませる事となったが、それよりも腹が減っているので、そんな事はスグにどうでよくなった。

 様々な事に思いを巡せながら、外に面している廊下を歩いていると、何か地面に突き刺さっている棒のようなものが目に止まった。そして咄嗟に巻藁か、と呟いてしまう。

 

 

「あら、知ってらっしゃいますですの?」

 

「え?いや、たまたまだよ」

 

「貴方も武術、やってらっしゃいますですの?」

 

 

 〝武術〟――その単語を聞くと、征太郎を思い浮かべてしまう。祐佐久が幼い頃に、一度だけ征太郎に「武術をやらないか」と問われたことがあり、勿論祐佐久は「やりたくない」とキッパリ断った事がある。

 余りにもハッキリと応えるので、その時の征太郎は腹を抱えて笑っていた事をハッキリと覚えている。

 しかしだ。祐佐久は武術という単語さえは聞いたことはあるが、その内容を全くと言っていい程知らない。

 どのような武術があり、それはまたどの様に役に立つ等、再び疑問に思う祐佐久であった。

 

 

「あ、申し遅れました。私は風林寺美羽と申しますですの」

 

「僕は――……ゆ、祐佐久です」

 

「よろしくですわ、祐佐久さん!ささ、ここが居間ですのよ。皆さんおいでになさっていますが、基本的にはいい人達ですの」

 

 年季の入った障子を、美羽が開けるとそこには先程いた秋雨含め六人が居間で茶を啜っていた。

 一人は自分と同じか、それよりも少しだけ大きい背丈であり、黒色の帽子を被り、髭を生やしている如何にも中国人っぽい男。一人は明らかに日本人ではないな、と思う様な風貌をしており、今は十二月であるにも関わらず半袖半ズボンという如何にも健康そうな男。一人は自分よりももうちょっとだけ歳上そうであろう女の子。もう一人は上物っぽい一張羅を羽織り、怪訝な目付きでこちらをジーッと眺めている鬼の様に怖い男。

 

(この鬼の様に怖い人は征太郎っぽいや――そんな事より……こ、この金髪のお爺さんは一体何者なんだ!?金髪にお爺さんってなんて組み合わせだよ!聞いたことも見た事もないよ!)

 

 

「おじい様!見てくださいまし、友達が出来ましたの!」

 

「ホッホッホ、そりゃあよかったのう」そういう老人は祐佐久の方へと目を向けると、挨拶を交える。

 

 

「これはこれは、お目覚めかね」

 

「お、おおおはようございます!」

 

「ホッホ、威勢のいい挨拶じゃ。ワシはここの道場の長老である、風林寺隼人。宜しく頼むのう」

 

「じ、じじ自分は!――……祐佐久と申します!」

 

 挨拶を済ませると、美羽は祐佐久の分の朝食を運ぶ。ご飯に味噌汁に漬物、オカズは魚の煮付けにほうれん草のお浸しと 〝the 日本の朝食〟と言った所であろう。

 かなり腹が減っていたので祐佐久は物の見事数分程度でスグに平らげてしまう。

 余りにも必死の形相で飯に食らいつくので、そこに居合わせた全員の笑いを誘う事となったが、祐佐久は気にも留めなかった。

 

 

「――ごちそうさまでした!!」

 

 

 大きな声を上げると、祐佐久は瞬間横になろうとしたが、横になりたい衝動に駆られながら、胡座をかき緑茶を啜る。これも征太郎にいつも言われていた事であり、胡座をかきながら茶を啜るのも征太郎がいつも祐佐久の目の前で行っていた事であった。

 

 

「さて、祐佐久君。アンタは一体何故家の門の前で倒れておったんじゃ?」

 

「えーっと……確か征太郎に連れてこられて……」

 

「征太郎とは親御さんかのう?」

 

「あ、え、いや、僕の親は元々いませんから!だから――征太郎に引き取ってもらって……その……――」

 

 

 ここで祐佐久はとある言葉を思い出す。

 夢であって欲しい、本当にそう思った。

 しかし、途切れゆく意識の中でハッキリと征太郎が自分にその様な言葉を掛けた事を思い出す。

 

 

「さ、ら、ば――……ウソだ!ウソにきまってる!そんな事征太郎がするもんか!」そう言い、祐佐久は急に立ち上がると、居間を飛び出し、門へと駆け出した。突然の行動に全員が呆気に取られてしまう。

 

 

「お、おいおい、アイツどっかに行っちまったぜ!?」

 

「アッパー!驚き桃の木サンゴの木よ!」

 

「早く、追わない……と」

 

「なかなか不思議な子ね。秋雨どん、早く追った方がいいんじゃないかね?」

 

「フッ、私が追うまでもないさ。既に長老の残像がそこにあるだろ?」

 

 

 門の前に到着した祐佐久であったが、彼がその門を開ける事は到底不可能である。そんな事は何よりも自分が一番理解している。だが、そんな事はどうでもよく、只只門を一人で開こうと涙を堪え必死になっていた。

 しかしこの門は余りにも重すぎた。祐佐久は力尽き、その場に蹲る。泣きそうになったが、征太郎に男は泣くな、と教えられていたので、必死に涙を堪え、空を仰ぐ。

 

 

「祐佐久君」

 

「いきなり、ごめんなさい。でも、僕は――僕は捨てられたんじゃない……征太郎がそんな事をする筈が無いんだ……」

 

「まあ、別にあれじゃよ。此処にわざわざ祐佐久君を預けるとなると余程の事情があったんじゃろう。普通の人ならばこんな所にはまず預けないじゃろう。

 恐らく、その征太郎という人物は祐佐久君の身を案じたに違いない」

 

 

 隼人は祐佐久の横に胡座をかいて座り込む。

 祐佐久は未だに空を仰いでいる。涙を一滴も零さない様に。

 隼人はそれを横目でジーッと眺めていた。

 祐佐久の目の周りには涙が貯まっており、少しでも下を向けば全て流れ落ちてしまう。横から見ていてもかなりシュールな光景であり、隼人は心が和むそんな様な気がした。

 ここは地上であるが、祐佐久からすれば今は海だ。涙の海から覗く太陽がまた眩しい。

 

 

「祐佐久君や。泣きたい時は泣いてもいいんじゃよ。君のような子供が泣くことを我慢する必要はないのじゃよ」

 

「――征太郎との約束が……約束が……」

 

(この子は面白い子じゃのう。素直というか愚直というか……。ここまで他人の言いつけを守る子も珍しい。よっぽどその人物の事が好きであったのじゃろうな――)

 

「泣きたい時は泣きなさい。そうしなければ辛いぞい」と隼人は、優しさを含ませた笑みを祐佐久へと向ける。

 その笑みに祐佐久の涙のダムは決壊してしまい、遂には声を荒らげて隼人に泣き付いた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「よしよし、ええ子じゃええ子じゃ」

 

 

 隼人にあやされながら、祐佐久は数十分間抱き着きながら泣いていた。

 今まで他人の目の前で泣いたことなど一度もなかった祐佐久であったが、泣いてもいいと初めて言われ、それが心に響いたのであろう。

 二人の光景を物陰から眺めていた残りのメンバー一同は物陰から姿を潜め、隼人と祐佐久を見つめていた。

 

 

「フッ、なかなか面白そうな子じゃないか」

 

「本当にそうね」

 

「ホントに泣きたい時は泣かなくちゃヨ。アパちゃいもたまには泣きたくなるヨ!」

 

「僕……も」

 

「オメーらが泣くなんざ想像つきやしねぇよ!」

 

「もう、逆鬼さん!声が大きいですわ!これではお爺様にバレてしまいますですの!」

 

 

 祐佐久は涙が収まったころには既に泣き疲れ、隼人の膝の上で寝てしまった。

 泣き疲れて寝てしまう、という経験は一度も無く、祐佐久は不思議な気持ちで眠りについた。

 隼人は祐佐久のその様を眺め、再び笑みを浮かべるのであった。

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