とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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転生編1・妖精の目覚め

 

 

 

 

 

スッと目が覚める。睡眠によって疲労感は解消され、身体中に感じるのは行動への意欲。気持ちのいい朝だ。少なくともここ数年の間では最高の目覚めではないだろうか。

 

しかし、起きようと思って上半身を起こした直後、俺は違和感を感じた。

 

まず目覚めた場所。見渡す限り木、木、木。そして地面には一面の草花。草原。上を見上げればサンサンと照りつける太陽。

 

「どこ?ここ。」

 

思わず疑問を口にした。ここでも違和感。声が高い。俺は自分で言うのも何だが「平凡」という言葉が世界で一番似合うであろう一男子高校生だ。こんな女子のような高い声は出せない。

 

そして今さらだが服装にも違和感。俺が来ていたのは肩から上がない真っ白なドレス。両腕には某腋巫女のような同じく真っ白な袖。その袖の袖先とドレスのスカート部分はフリルのように広がっている。

 

「…いやいやいやいや!」

 

色んなことが起こりすぎて取り乱した俺はその場からばっと立ち上がった。するとまた違和感。

 

背が低い。

 

背は周りのクラスメイトに比べて割と小さいほうだった俺だが、今感じる程低くはなかった。この背丈、さながら5、6歳の子供のようだ。

 

「どーなってんの……?」

 

半ば放心状態の俺は額に冷や汗をかいて呟いた。周りは人っ子一人いない森なのでその疑問に返答は返ってこない。

 

《…目が覚めましたか?》

 

突然後ろから声が聞こえた。突然のことでビクッと反応してしまった俺はばっと後ろを振り返る。するとそこには他の木とは比べ物にならない程巨大な大樹。どうやら俺はこの大樹の根の又で寝ていたらしい。もちろんそんなことをした記憶はないが。

 

キョロキョロと辺りを見回してみても俺に話しかけたような人影は見当たらない。なんだ気のせいか。

 

《気のせいではありませんよ。》

 

「へ!?」

 

今度は確実に聞こえた。どうやら声は目の前の大樹から発せられているようだ。何をバカなと思うがそうとしか考えられない。

 

《ふふ、無事目が覚めたようで何よりです。これで私の役目も終わりました。私の体は残します。良きようにお使いください。"エレイン"様。》

 

「え!?ちょっと待って!話がさっぱり……!!」

 

何かやり遂げたように満足そうに話す大樹。何か一方的に話が進んでいたので弁解しようとすると大樹がパッと光った。あまりの眩しさに俺は細い両腕で顔を覆う。みるみる大樹は姿を変え、やがて俺よりも小さくなった。光が治まったので恐る恐る見てみるとそこに巨大な大樹の姿はなく、代わりに緑色でいくつもの黒い丸の模様がある大きめのクッションがふよふよと浮いていた。

 

「…………は?」

 

俺が間抜けた声を出すとクッションはふわふわとゆっくり俺に近づき、ポフッと俺の手の中に収まった。

 

「……え~っと…。」

 

俺が恐る恐る手を放すとクッションは落ちることなくその場で浮遊する。頭の中で俺の後ろへ移動しろと念じればクッションはその通りに俺を右回りに回って移動した。俺はそのクッションにポフッと腰を降ろして考える。

 

まずこのクッションはどう見ても「七つの大罪」の登場人物、怠惰の罪(グリズリー・シン)のキングが扱う神器"霊槍シャスティフォル"だ。そして先ほど大樹が言っていた"エレイン"という恐らくは俺の名前……。察しの悪い俺は今さら気がついた。

 

「これが…憑依転生ってやつ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はクッション状態のシャスティフォルに抱きついた状態でふわふわと森の中を移動する。本当に見事に木が生い茂る森だ。もはやジャングル手前である。

 

俺が憑依したのは間違いなく、同じく七つの大罪の登場人物であり、キングの妹で強欲の罪(フォックス・シン)バンの恋人"エレイン"だろう。実際に顔を見たわけではないが、服装や子供のような背丈もドンピシャなのでほぼ確定事項だ。

 

エレインに、"妖精族"へと転生したのなら空を飛べるのではないか?

 

そう思って実際にやってみたらできた。なんというか説明できないが、とにかくできたのだ。腕をどうやって動かすのか説明できないのと同じで当たり前のように空を飛べた。逆にこの体は前世と比べ身体能力はかなり落ちていた。たった数メートル走っただけでバテるという軟弱ぶり。まぁ、妖精は空を飛べるので体を鍛える必要がないのだろう。

 

空を飛べることが分かったので、とりあえず空へ上がれるだけ上がってみた。俺がいるのは小さな島だった。恐らく地図に載ることもないであろう本当にちっぽけな島。周りには青い海が広がっているのみ。絵に描いたような無人島だ。

 

空を飛べる俺はこの島を脱出しようと思えばいつでもできる。が、その前に水が飲みたいと思い、こうやって島を探索し、川を探している。

 

「お、あったあった。」

 

しばらく飛んでいると急に森が開けた。そして目の前には綺麗な河と湖、そして湖に流れ落ちる小さめの滝が広がった。大自然の美しさとは素晴らしい。この一言に尽きる限りだ。

 

「……やっぱり。」

 

湖に映る自分の姿を確認した俺は思わず溜め息をつく。予想通り俺はエレインに憑依していたようだ。この見事なまでの幼女顔と太陽の光をキラキラと反射する美しい金髪。間違いなくエレインだ。

 

「さて、俺……私は何ができるのか。」

 

小さな両手で湖の水をすくい、コクコクと一杯飲み干した俺は立ち上がって呟く。一人称は"俺"のままでいこうとしたが、湖に映るエレインが俺と言う姿が嫌になって急遽"私"に変えた。

 

そして俺は腕を組み、目をつむって考える。今の俺は妖精族の聖女エレインだ。だが、心は自然を愛する妖精族ではなく、その真逆の自然破壊の王者たる人間の俺。果たしてエレインの力を使えるのかどうか。

 

「まぁ、物は試しか。」

 

俺はそう呟き、右腕の肘から先を曲げ、くいっと上げた。するとゴウッという音をたて、俺の前方に暴風が吹き荒れ、湖の向こう側の木を揺らした。

 

"そよ風の逆鱗"。吹き荒れる暴風で相手を吹き飛ばすエレインの代表的な技の一つだ。

 

「ふぅ、何とかエレインの力は使えるみたいだ。じゃあお次は……。」

 

俺は俺の横にふよふよと浮くクッション状態のシャスティフォルに目線を移す。そして槍になれという念を送った。すると、パッとシャスティフォルが姿を変え、クッションから神々しい一本の槍へと変化した。

 

槍になったシャスティフォルは、俺が念じれば念じた通りに動いてくれる。素早い動きは俺がまだ慣れてないせいか手を動かして指示を出さなければいけないが、それでもシャスティフォルはまるで手足のように自在に動く。

 

俺は右手の人差し指と中指を合わせて立てる。すると縦横無尽に動き回っていたシャスティフォルはビタッとその動きを止める。そして立てた二本の指をくいっと下に向ければシャスティフォルはひゅんっと俺の後ろへ移動し、キッと止まる。そしてポンッという音を立てて元のクッションへと戻った。

 

「はぁ~~、これからどうしよう……。」

 

俺はシャスティフォルへ顔を埋め、そう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 


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