◇
「うわ~、高いなぁ~。」
遺跡に入った俺は、とりあえず遺跡中を探索してみた。が、黄金らしき物はこれっぽっちも見つからなかった。きっとこの遺跡は、遺跡全体のほんの一角に過ぎないのだろう。あと怪しいのは遺跡の中心にのびる巨大な豆の木だけだ。このつるを見ると『ジャックと豆の木』のおとぎ話を思い出す。
木を見上げると中腹に雲の地面があるのが見える。見た感じあそこが臭いな。
俺はふわふわ飛んでそこを目指す。こういう時、妖精族に転生して良かったとしみじみ思う。
「よいしょっ。ここも遺跡ですか。」
ズボッと雲を突き抜けて雲の地面に降り立つと、そこは少し歪んでいて、下と似たような遺跡があった。でも、残骸しかなかった下の遺跡に比べれば、ここは町のような形がそのまま残っている。黄金はここかな?
俺は遺跡をふよふよ探索し始めた。道端にはシャンディアの戦士や神兵がバタバタ倒れている。ここでも一戦あったみたいだ。
「ん?」
しばらく遺跡を見て回っていた俺はあるものを見つけた。それは小さなぬいぐるみのようだった。パッと見タヌキのようで頭には二本の角、×印のついた青いリュックを背負って……って!!
「チョッパーさん!!」
チョッパーだった。チョッパーがお腹辺りに大きな切り傷をつくって血まみれで倒れていた。俺は急いでチョッパーに駆け寄る。チョッパーの胸に手を当てるとトクントクンと心臓の鼓動が聞こえる。良かった、まだ生きてる。俺はチョッパーの傷口にこれでもかと傷薬を塗りたくり、包帯をぐるぐる巻いていく。
「そいつはお前の仲間か?」
声のしたほうを向くと、二枚遺跡の壁を隔てた向こう側に二足歩行の変な犬に乗った男がいた。サングラスをかけ、口の周りに髭を生やした筋肉質な男だ。肩には白い刃の刀を担いでいる。
「………チョッパーさんはあなたが?」
「半分は俺が仕留めた。後は勝手に"試練"の餌食になったんだ。」
「試練?」
「そうだ。ここは生存率0%、"鉄の試練"!」
そうか…、この男は神官か。チョッパーはあいつに一人で立ち向かって……。
俺は自分のリュックを降ろしてチョッパーの頭をリュックに乗せ、地面に寝かせた。そしてクッション状態のシャスティフォルを槍に変え、男目掛けて飛ばした。男はシャスティフォルをジャンプしてかわした。
「やる気か?」
「えぇ、覚悟しなさい。妖精の怒りは自然の怒りです。」
神官は恐ろしいが、仲間がやられて黙っているわけにはいかない。
俺はシャスティフォルを再び男へと飛ばす。かわされても何度も何度も飛ばした。男は飛んでくるシャスティフォルを基本はジャンプしたり身をかがめたりしてかわし、避けきれない場合は白い刀で弾いていた。
「霊槍シャスティフォル第二形態"守護獣(ガーディアン)"!」
男に弾かれたことでシャスティフォルは男の後ろへと飛ばされた。俺はそれを利用し、シャスティフォルを第二形態に変化させた。第二形態となったシャスティフォルは男に殴りかかる。
「"鉄の堤防(アイゼンバック)"!!」
「なっ!?」
シャスティフォルの拳が男に届く瞬間、男は刀をシャスティフォルへ向けた。すると刀の刀身がむくむくと変化し、白い壁と化した。シャスティフォルの拳はその白い壁に阻まれ、男には届かない。
「これだから青海人は…。こいつの刀身は"鉄雲"、重量は雲、硬度は鉄だ。雲に決まった形があると思うか?あぁ、あとそこ、気をつけろ。」
ズッ!!
「え!?」
攻撃を阻まれたシャスティフォルは後ろへよろめいてしまう。シャスティフォルの足が地面の何かのスイッチをカチッと押した。その瞬間、遺跡の壁から白い有刺鉄線が勢いよく飛び出し、シャスティフォルを貫いた。あれも鉄雲のようだ。腹部分を貫かれたシャスティフォルは身動きがとれない。
「"鉄の扇(アイゼンファン)"!!」
男は鉄雲の刀を巨大な扇の形に変形させた。その扇を振り、シャスティフォルを真っ二つに切断する。
「"鉄の鞭(アイゼンウィップ)"!!」
「あうっ!!」
鉄雲の扇を振った勢いそのままに男は刀身を鞭に変えて俺を狙ってきた。鉄雲の鞭の切っ先の速さに俺は反応できずに打たれ遺跡の壁に打ち落とされてしまった。痛みに耐えながら俺はよろよろと立ち上がる。男は刀を肩に担ぎ、余裕の表情で俺に近づいてくる。俺は男に、正確には男の後ろのシャスティフォルに右手を向ける。
「ん?」
俺が魔力を流したことで、シャスティフォルは再び槍状となり、男の首元に刃を向けて浮遊した。神樹から創られた霊槍は真っ二つにされたくらいじゃすぐに再生する。
「……悪いな。どうやらお前をナメていたようだ。詫びに名乗ろう、俺は神官オームだ。冥土の土産に覚えておくといい。」
「…ご丁寧にどうも。私はエレイン、しがない妖精族です。」
俺が名乗ると同時にオームは俺を蹴り飛ばした。オームの力は強く、蹴り飛ばされた俺は壁を2、3枚貫いていく。やられてばかりではいられない。俺は飛ばされながらシャスティフォルを円のように回転させ、盾のように自分の前に持ってくる。その間に俺は自分の体勢を立て直した。
「むんっ!!」
「っ!!」
予定では、シャスティフォルの盾に男が立ち往生している間に風の魔力で押しきる作戦だったのだが、オームは高速回転するシャスティフォルを素手で掴んで止めてしまった。オームは掴んだシャスティフォルで俺を遠くへ殴り飛ばす。
「ハァ……ハァ……」
「何だ?もう息切れか?」
オームはシャスティフォルをポイッと捨て、鉄雲の刀を構えながら俺に歩みよってくる。だが、シャスティフォルを捨てたのが運の尽きだ。
「っ!?はっ!!」
「うっ!!」
俺はオームの背後のシャスティフォルに魔力を送った。シャスティフォルは空に浮き、ドリルのように高速で縦回転すると無数のクナイへと姿を変え、オーム目掛けて飛んできた。オームは心網(マントラ)でその動きを読み、俺に刀を振り下ろした。オームにクナイが刺さるのと俺が刀で斬られるのはほぼ同時だった。
「ぐっ……!!ちっ!どこにそんな力が……!!」
「ハァ……ハァ……」
オームは肩に刺さったクナイを抜き、憎々しげに俺を見据える。俺は自分の胸を見下ろしてみる。左肩から斜めに斬られ、白いドレスも切れて赤く染まり、エレインのぺったんこな胸が血と共に晒されていた。はは、こんなんじゃお嫁にいけないな。いく気はないけど。
「喰らえぇーー!!!」
オームは額に青筋を浮かべて俺に斬りかかってきた。よし、奴は俺への怒りで冷静さを欠いている。確か心網(マントラ)、即ち見聞色の覇気は精神が乱れると使えなくなったはず。今が絶好のチャンスだ。
俺はシャスティフォルを元の槍の状態に戻し、オームの後ろ斜め上から振り下ろした。オームは全く気づいてない。いける。
「"飛び回る蜂(バンブルビー)"!!」
「があぁぁぁぁぁ!!!」
オームは不規則に振り下ろされるシャスティフォルの刃に身体中を斬りつけられ、断末魔の叫びをあげてやがて力なくドサッと倒れた。最後に地面に転がった鉄雲の刀をシャスティフォルで上空からドスッと突き刺してフィニッシュだ。
「ハァ……ハァ……勝った……。」
何とか勝てた。やはりエネルの側近的存在の神官。妖精の力を持ってしてもかなり手こずった。オームが最後に突っ込んでこなかったら負けていたのは俺だった。
もうクタクタだ。俺はふらふらとチョッパーの元へ飛び、包帯を巻いた彼の体を抱き締めた。
「なんと……オームを倒しおったか。」
「ん?あっ!ガン・フォールさん!駄目ですよまだ動いちゃ!!」
「ガン・フォール!!てめぇ!なぜここに!!」
俺がチョッパーを抱き締めていると上から声がした。見ると鎧に身を包んだガン・フォールが俺を見下ろしていた。そしてもう一つ反対側から声がした。そちらを振り向くとゲンボウと似たり寄ったりのバズーカ砲を担ぎ、左肩と顔に刺青を入れた男がいた。いつも役に立たない原作知識が珍しく働き、その男の名前を引っ張り出す。ワイパーだ。シャンディアの戦士最強の男だ。ラキが言っていたのはこの人のことだ。
俺が一人で納得していると、空からなぜかゾロが降ってきた。俺はシャスティフォルの第二形態でゾロの体を受け止める。まあ、ゾロだし、受け止めなくても何の問題もないだろうけど一応だ。
「悪ぃな、助かった。」
「何で空から落ちてきたんですか?」
「あぁ、それはあのアホ鳥と……」
「ジュラララッ!!」
ゾロが遥か上空を飛ぶ大きなサウスバードを指さしたところで朝襲ってきた大蛇が雲の地面を突き抜けて遺跡へとやってきた。あの蛇、とうとうこんなところまで……。
「……あの蛇のせいだ。」
「……なるほど。」
正直ゾロに何があったのかまったく分からないが聞かないことにした。何か、話すのも嫌そうだ。相当苦労したのだろう。今はとりあえず方向音痴で有名なゾロがここに辿り着けたことを喜ぶべきだ。
「まぁ、どうでもいいことだ。とっとと黄金を頂いていこう。」
「てめぇら全員、邪魔をするなら排除してやる!」
「エネルの居所、神隊の居所を教えて貰おうか!」
「え!?ちょ!もしかして戦うんですか!?」
「ジュララララ!!」
ゾロ、ガン・フォール、ワイパーが戦い始め、他にも下から神兵、シャンディアの戦士が続々と現れ、俺はその戦いに巻き込まれていった。
俺、もうクタクタなんですけど……。
▼
不本意ながら始まった遺跡での戦い。オームとの戦いで疲れきった俺は襲いかかってくる神兵やシャンディアの戦士を最小限の力で退けながらチョッパーを庇っていた。戦いはこのままゾロに任せようと思っていたが、なぜか小さな女の子を連れたナミがウェイバーで乱入し、大蛇に食べられてしまった。
ゾロはワイパーや神兵、シャンディアの戦士との戦いで手一杯みたいなので、俺がナミ達救出を試みる。が、この大蛇が予想以上に硬く、シャスティフォルの刃が通らない。まいったな、ぐずぐずしてたらナミ達が胃液で消化されてしまうが、俺の魔力もあまり残っていない。残り少ない魔力はエネルと戦う羽目になった時のために残しておきたいし。
「"稲妻(サンゴ)"!!」
「えっ!?」
俺が大蛇に四苦八苦していると、突如遺跡が青白く光った。そして次の瞬間には遺跡の地面が綺麗さっぱりなくなっていた。飛べる俺はともかく、ゾロ達は重力に従って下へと落ちていく。大勢いた神兵やシャンディアの戦士はゾロ達の戦いでやられたようで、今生き残っているのはガン・フォール、ゾロ、ワイパー、俺、あとは大蛇の中のナミ達のみだ。
今の光は間違いなくエネルの仕業。ゾロ達を追って下へ行けば間違いなくエネルがいる。命が大事ならこの安全地帯から傍観するのがベストだろう。だが、仲間が強敵に立ち向かっているのに自分一人だけ高みの見物なんて薄情な真似は俺にはできない。
俺は怖さを消すためにギュッとチョッパーの体を強く抱き締め、ゾロ達を追って下へと向かった。
落ちた先にはまたしても遺跡があった。だが、この遺跡こそ本物だろう。上の遺跡とは比べ物にならない程の巨大さだ。上の遺跡はまさに氷山の一角にしか過ぎなかった。
「あっ!エレイン!!」
「ナミさん!良かった!ご無事でしたか!」
俺が遺跡に降り立つとそこにはナミがいた。見たところ目立った傷もなさそうだ。聞けばガン・フォールが落下中に蛇の口の中へ入り、助けてくれたらしい。
「あれ?あの女の子はどこですか?」
「アイサね。一緒に脱出するはずだったんだけど、ルフィが……」
「え?ちょっと待ってください!あの蛇の中に船長がいるんですか!?」
「うん。」
呆れてものも言えない。どうりで見かけないと思ったらあんなとこにいるのか、我らが船長は。果たしていつからいたのやら。とにかく、ルフィはナミと一緒にいたアイサとガン・フォールの相棒の鳥ピエールと共に大蛇の中にいるらしい。……まあ、ルフィだ。何とかして脱出するだろう。今心配すべきことは……
「"神の裁き(エル・トール)"!!」
今しがた、大蛇に高電圧の光線を放ったエネルだ。俺はチョッパーをナミに渡し、ゾロの隣にふわふわと浮かぶ。
「"燃焼砲(バーンバズーカ)"!!」
「おっと!ヤハハハ!そう熱くなるな戦士ワイパー。まだゲームは終わっていない。」
ワイパーがエネルにバズーカ砲をぶっ放し、青白い炎の光線でエネルを攻撃する。バズーカからはほんのりとガスの匂いが漂ってくる。多分、風貝(ブレスダイアル)か何かにガスを溜めて放出し、そのガスに火を乗せることであの光線をつくっているのだろう。そんなワイパーの光線をエネルはヒラリとかわして雲貝(ミルキーダイアル)で作った丸い玉雲にあぐらで座って俺達を見下ろす。
「ゲームだと?」
「そうさ…なに、ほんの戯れだ。私を含め3時間後、82人の内どれだけの人数が立っていられるかという"生き残りゲーム"。私の予想は生き残り6人…、あと3分で3時間が経つ。つまり今、この場に7人もいてもらっては困るのだよ。神が予言を外すわけにはいくまい。」
この場にいる者を数えると、ワイパー、ガン・フォール、ゾロ、俺、ナミ、あとは遺跡の古代文字を解読して一足先にこの場に辿り着いていたロビン、そしてエネル…、なるほど、7人だ。
「さて、誰が消えてくれる?そっちで消し合うか、それとも私が手を下そうか?」
「……お前ら、どうだ?」
「私はイヤよ。」
「わ、私も嫌です!」
「俺もだよ。」
「俺もごめんだな。」
「我輩も断固拒否する!」
ゾロがロビンと俺に聞いたのを皮切りに、その場にいる全員が遺憾の意を唱えた。エネルを前に、少し声が震えてしまった俺を許してほしい。遺跡の壁にチョッパーを抱えて隠れるナミは例外だ。
だとすればあと残っているのは____
ガン・フォールは槍の先を向け、ワイパーはバズーカ砲を構え、俺はシャスティフォルの刃を向け、ゾロは刀の先を向け、ロビンはいつでも能力を発動できるように右手を構える。そして俺達はエネルに声を揃えて言った。
『お前が消えろ!!』
「………不届き。」
エネルはニヤニヤ笑っていた。