とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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空島編10・妖精の帰還

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナ、ナミさん……その……」

 

「ん?何?」

 

「恥ずかしいですよぅ……これ……」

 

俺は俯いて赤面しながら服の袖を上げた。俺が今着ているのはチョッパーに巻いてもらった包帯の上にナミの青いパーカー一枚だけだ。俺が着ていたドレスはボロボロの血だらけだったので、ナミが着せてくれたのだが、サイズが大きすぎて袖から手が出てないし、全体的にぶかぶか、おまけに俺に合うズボンがなかったので下は穿いてない。素にぶかぶかのパーカー一枚というとんでもない状態だ。

 

「仕方ないじゃない、我慢なさい。それに結構似合ってるわよ。」

「うぅ………」

 

確かに胸が丸出しのドレスを着ているわけにはいかない。くっ、裸パーカー。見るぶんには眼福だが、いざ自分がやるとこんなに恥ずかしいものなのか。こんなことならジャヤで俺の服も買っておくべきだった。

 

「お~い!エレイ~ン!ナミ~!何やってんだ!こっちこいよ!!」

 

「は~い!今行きますよー!」

 

ルフィにお呼びされたので、急いで向かう。その際に、近くにあった肉料理を皿に盛ってルフィに持っていくのも忘れない。俺のその行動にナミは後ろで呆れたように溜め息をついていた。

 

「宴だぁ~~~!!!」

 

俺が持っていった肉料理を頬張り、ルフィは飛び上がってそう叫んだ。それと同時にゾロとサンジが用意していた巨大キャンプファイヤーに火をつける。戦いのあとは皆で宴会。ワンピースの鉄則である。遺跡の中で負傷者の手当てにあたっていたシャンディアの者や天使達も集まってきて皆で火を囲んで歌い、踊り始めた。

 

「わっとと!」

 

「よいしょっ!もう、無理なさらないでください。」

 

まだエネルとの戦いで受けたダメージが残っていて、うまく宙に浮いていられない俺をコニスがポフッと受け止めてくれた。俺は体勢を立て直して改めてふわりと浮き、「ありがとうございます」と彼女にペコリと頭を下げる。

 

これは俺が後で知ったことだが、コニス達が住むエンジェル島はエネルの雷で跡形もなく消し飛ばされてしまったらしい。しかし、それだけの大規模な攻撃の死者はゼロだ。コニスがエネルの目的を知るや否や、島の天使達に声をかけ、マッキンリー隊長の指示の元、いち早く避難していたからだ。これは紛れもなく彼女の大手柄だ。俺なんてエネル相手にどう生き残るかしか考えていなかったというのに。

 

「ふふっ。」

 

「?エレインさん?どうかしましたか?」

 

「いえ、コニスさんってすごい方なんだなぁと考えていただけです。」

 

「へ!?わ、私なんてそんな!!」

 

「ふふふっ。」

 

俺が褒めた途端に顔を真っ赤にして慌てて否定するコニス。そんな彼女が可愛くて可笑しくて、ついまた笑ってしまう。

彼女のおかげで助かった天使達はエンジェル島がなくなってしまったので、この神の島(アッパーヤード)でシャンディアと共に暮らしていくのだそうだ。400年間戦いを続けてきた彼らの間の歪みは、そう簡単に埋まるものではないけれど、ルフィ達が開くこの宴会がその一歩となることを願う。

 

「エレインさん。」

 

「はい?」

 

俺が炎を囲んで踊る皆をボーッと眺めていると、コニスから声をかけられた。彼女のほうを向くと、彼女はアルコール度数が比較的低めのエールが入った樽のジョッキを片手に笑っていた。俺は彼女の意図を読み取り、リンゴジュースが入った自分のジョッキを持つ。

 

「「乾杯♪」」

 

コツンと互いのジョッキを突き合わせ、俺とコニスはグイッとジョッキの中身を飲んだ。空を見上げれば大きな満月が俺達の宴を見守ってくれている。今夜は長い夜になりそうだ。

 

「わっ!」

 

「エレイ~ン、何やってんだい。こっち来なよぉ~。」

 

コニスと和やかに飲んでいると不意に後ろから脇に手を通されて抱き上げられた。俺を抱き上げられたのはラキだった。見れば顔が赤い。さっきゾロと飲み比べをしていたせいで相当酔っぱらっているらしい。俺を抱っこしたラキはそのまま火の近くのシャンディアの女性達が集まっている所へ行く。

 

「これからシャンディアの女が総出で舞いを披露するんだ。あんたも入んな!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっとそんな!無理ですよ!!」

 

「大丈夫さ!自由に舞ってくれりゃいい。お~い!エレインも入れてやっておくれぇー!!」

「ラキさんそんな勝手に__!!」

 

「あら、かわいい子ね。いいわよ。」

 

「おぉっ!ちっこいがなかなかのべっぴんだな!!」

 

「いいぞ!やれやれ!舞いは人数が多いほうが盛り上がる!!」

 

ラキが踊り子のリーダーらしき女性に声をかけるとその人は了承し、まわりのシャンディア達ははやし立てる。俺は踊り子達に「小っちゃくてかわいい~♪」とか「ほっぺたぷにぷに~♪」とか弄ばれながら踊り子の衣装に着替えさせられた。遠くを見れば踊り子の中に俺を見つけたらしいゾロとウソップが「やれやれ!」と拳をあげている。

 

あえてもう一度言おう。今夜は長い夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、エレイン。起きろ。」

 

国を上げた喜びの宴は連日続いた。前世では三徹くらいはお手の物だった俺も、馴れない踊りをしたせいですぐに眠気に襲われ、結局コニスと少し飲んだだけですぐに寝てしまった。いつものようにシャスティフォルで寝たはずだが、いつの間にかロビンの膝枕でぐっすり寝ていた俺をルフィが起こす。ちなみに俺は踊りの後着替えて再びナミの青パーカーに戻っている。俺はまぶたが重い目をくしくしとこすりながらむくっと起き上がる。

 

「ふみゅ……なんですかせんちょー…。」

 

「しっ!静かにしろ。黄金奪って逃げるぞ。」

 

「黄金っ!!」

 

「いっ!?バカナミ!お前声がでけぇよ!!」

 

「うるせぇな!!眠れやしねぇ!!」

 

「ぐへぇ!!」

 

ルフィが人差し指を口の前で立て、いわゆるし~っのポーズで俺に笑いながら黄金を奪うと言うと、俺の隣で寝ていたナミが「黄金」という単語に反応して跳ね起きる。そのナミの大声でウソップが起きて寝ぼけてチョッパーを殴ってしまい、サンジ、ゾロ、ロビンが立て続けに起きて、大騒ぎになり、結局天使達やシャンディアの者達も起こしてしまう。

 

「お~い!大変だ~!!」

 

シャンディアの一人が森のほうから走ってきてそう言うと、俺達が騒いで起こしてしまった天使やシャンディア達はそっちのほうへ行った。誰もいなくなった所でルフィが本題に移る。ルフィの話では、なぜか宴会で踊っていたあの大蛇のお腹の中にはたくさんの黄金があったらしい。それをごっそり頂いてそのまま空島からおさらばしようという訳だ。

いくらそこに黄金があるからと言っても、大蛇のお腹の中に入る気になれない俺はパスし、ウソップと一緒に貝(ダイアル)を貰うことにした。ロビンは「ちょっと行ってくるわね」と言ってどこかへ行ってしまった。ちなみに言うまでもないが、ナミは大蛇の中に黄金があると分かると迷いなく、誰よりも早く入っていった。

 

「これは……!ワゴームというのか!!」

 

俺とウソップはまだ残って寝ている天使を起こし、貝(ダイアル)との物々交換を頼む。貝(ダイアル)と何を交換するかと言われ、ウソップはすかさずポケットから輪ゴムを取り出した。ゴムを見たことがない天使のおじさんは輪ゴムをみょんみょんともの珍しそうに触る。

 

「この前あのバカでけぇ豆の木を倒したのは九割がその"ウソップ輪ゴーム"の力だ!世界中で俺しか持ってねぇ!」

 

「おぉーー!!」

 

「でも待て、今はそれじゃなくてこの鉄板!"鉄"欲しいんだろ?わざわざ船から取ってきたんだ。これと貝(ダイアル)を交換して……」

 

「いや!ワゴームがいい!これとなら交換してもいいぞ!!」

 

「がっはっはっは!エレイン君!用意してあげなさい!」

 

「あ、あはは。はい、こちらです。」

 

俺はウソップの交渉術に苦笑し、箱いっぱいに入った輪ゴムをおじさんに差し出す。おじさんはその輪ゴムを受け取り、ウソップにありったけの貝(ダイアル)を出してくれた。ウソップはたくさんの貝(ダイアル)を風呂敷にくるんで嬉しそうに笑う。まあ、空にはゴムなんて存在しないし、ある意味鉄より珍しい物だ。この交渉は互いに利益のあるwin-winの交渉だと言えるだろう。

 

俺とウソップがルフィ達の元に戻ると、ルフィ達もちょうど蛇の口から出てくるところだった。皆背中にパンパンの風呂敷を背負っている所を見ると、あっちも大漁のようだ。ナミがいないのでどこなのか聞くと、船でコニスと出航準備をしてくれているようだ。

 

「おっ!皆さん!ロビンさんが帰ってきましたよ!」

 

しばらくその場で待っているとロビンが帰ってくるのが見えた。後ろに何やら布に包まれた巨大な物を担いだシャンディア達がいる。

 

「お~い!ロビ~ン!!急げ!逃げるぞー!!黄金奪ってきた!!」

 

「アホ!言うな!!後ろ見ろよ皆一緒に帰ってきてるぞ!!」

 

「やべー!!巨大大砲だ!!」

 

「ぎゃーー!!大勢いるぞ!!」

 

いや、恐らくあれは巨大大砲なんかではないだろう。俺もそれが分からない程鈍感ではない。あれはさしずめルフィ達にお礼がしたいシャンディア達が持ってきてくれた巨大な黄金といったところだ。

 

「船長、多分あれは……」

 

「エレイン!何やってんだ!早く逃げるぞ!!」

 

「ふぇ?」

 

俺がその旨を伝えようとすると、あろうことかルフィは走りながら俺に腕を伸ばし、ぐるぐる巻きにした。

 

「わあぁぁぁぁぁ!!!」

 

ゴムのルフィの腕は勢い良く戻った。その反動で俺は空の彼方へ吹っ飛んでしまい、キラーンとお星さまになった。しばらく飛んだ挙げ句、俺は神の島(アッパーヤード)の端、ちょうどメリー号が停泊している辺りにドォーン!という音と共に不時着した。

 

「エ、エレインさんっ!?」

 

「ちょっとエレイン!!あんたどこから飛んできたのよ!!」

 

「はらほれひれはら………」

 

妖精族であることが幸いしたのか、はたまたギャグ補正がかかったのか、神の島(アッパーヤード)のほぼ中心の遺跡から島の端まで飛ばされたというのに俺は目立った怪我はなく、目を回すだけで済んだ。

半分地面に埋まっていた俺はコニスとナミに救出された。そしてしばらくメリー号で待っているとルフィが何食わぬ顔でやってきた。

 

「いっ!?な、何だ?エレイン、顔怖いぞ?」

 

「ふふふ……あら、そうですか?ふふふ……。」

 

「わっ!おいっ!危ねぇよ!!」

 

「ふふふふふ……」

 

俺は約30分程、第五形態のシャスティフォルでルフィを追い回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メリー号は現在、空島に初めて来た時の白い雲の海を航行中だ。ここは白海というスカイピアの下層の海雲で、ここの"雲の果て(クラウド・エンド)"という所から青海に帰れるらしい。

 

「黄金!黄金!」

 

「やったぜ!ついに俺達は黄金を手に入れた!!」

 

俺が壊れた見張り台の修理を終え、甲板に降りると皆が大量の黄金を囲んで騒いでいた。出航してからずっとこの調子だ。

 

「大金持ちだぞ!ここは一つでっけぇ銅像買わねぇか!?」

 

「バカ言え!何すんだそれで!ここは大砲を増やすべきだ!」

 

「ナミさ~ん!俺鍵付き冷蔵庫が欲しい~!!」

 

「俺はなぁ!本買って欲しいんだ!他の国の医学の本が読みてぇ!」

 

「酒。」

 

皆、思い思い欲しいものがあるみたいだ。ウキウキした様子で麦わらの一味の金庫番ナミに欲しいものをねだる。

 

「ロビンさんは何か欲しいもの、ないんですか?」

 

「ふふっ、私はいいわ。あなたこそないの?」

 

「そうよ!エレイン!あんたは何かないの?」

 

俺が階段に座ってルフィ達を眺めていたロビンに声をかけると、彼女はそう返し、俺達の会話にナミが入ってきた。見ると他の皆も俺に視線を向けている。

欲しいもの……欲しいものか……う~ん…と……あ。

 

「雑巾が古くなったので新しいものと、バケツが壊れてしまったのでそれも。」

 

「「「はぁ~…」」」

 

頑張って今欲しいものを引っ張り出すと全員に溜め息をつかれた。ナミがのしのしと俺に歩みより、がしっと俺の肩を掴む。

 

「そうじゃなくて!あんた自身が欲しいものよ!何かないの!?お菓子とか本とか!」

 

「えー…と、お菓子はサンジさんが作ってくれるものが大好きですし、本はロビンさんとチョッパーさんに借りて読めるので特に……」

 

サンジの作るお菓子は絶品も絶品。あれを一度食べてしまったら市販のお菓子などもう食べられなくなる。ロビンやチョッパーにたまに借りて読む歴史書や医学本は、前世にはなかった歴史や病気、治療法などが載っていて面白い。

 

「まったくもう…、あんたは遠慮しすぎなのよ!子供なんだからもっとねだってもいいのよ?」

 

「ありがとうございます♪でも大丈夫ですから。」

 

俺がそう言うとナミは「そう」と呆れたように行ってしまった。どうしてだろう。そうロビンに聞くと彼女は「さあ、何でかしらね」と笑った。俺は何がなんだか分からなくて首を傾げた。

 

「皆さん!見えました!雲の果て(クラウド・エンド)です!」

 

メリー号の隣を二人乗りバイク型ウェーバーに父親と乗っていたコニスがそう叫んだ。前を見ると丸い建物とシャチホコのようなものを構えた門が見えてきた。門の看板にはしっかり「CLOUD END」と書かれている。

 

「はぁ~、降りちまうのか俺達…。」

 

「確かにいざ降りるとなると名残惜しいな。」

 

「空島楽しかったなぁ~。恐かったけど。」

 

空島から降りることに皆寂しさを感じているようだ。俺もそうだ。まあ、大蛇に追いかけられたり鉄球撃ち込まれたり刀で斬られたり雷に打たれたりろくな思い出がないが、いざお別れとなると寂しい。

 

「あの門を通ったら、雲の道(ミルキーロード)で青海へ……という具合でしょうか?」

 

「多分ね。ほら皆!いつまでもしんみりしてないで!青海へ降りるのよ!!」

 

門にウェーバーを止め、メリー号の進行に合わせて走るコニス達に俺達は分かれを告げた。お別れが済むとコニスの父親は俺達にすぐに帆をたたんで船体にしがみつくように言ってきた。俺は言われた通りに帆をスルスルとたたむ。

う~ん…空島編のラストで何か大事なことを忘れているような……

 

「よし!野郎共!!青海へ帰るぞぉ!!」

 

「「「おお!!!」」」

 

ルフィと掛け声と同時にメリー号は門を通り抜けた。さあ、青海への雲の道(ミルキーロード)の坂道だ。

 

「皆さん!落下中お気をつけて!!」

 

スポーン……

 

「「「………落下中?」」」

 

メリー号が門を抜けるとそこには雲の道(ミルキーロード)の坂道なんてものはなく、俺達はスポーンと大空へ放り出された。

そして間が悪い俺はこの瞬間に思い出した。あぁ、空島から降りる時ってこんな感じだったなぁ、と。

 

「「「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

空に放り出されたメリー号は重力に従ってひゅ~と自由落下していく。このまま青海まで真っ逆さまかと思われたが、雲から突然風船のようなタコが飛び出し、メリー号をがしっと掴んだ。その瞬間、ガクッとメリー号の落下速度が落ちた。風船のようなタコがパラシュートの役割をしてメリー号はふわふわとのんびり空を飛ぶ。

 

カラァー……ン……カラァー……ン……

 

「!ロビンさん、これ!」

 

「えぇ。」

 

ふわふわと空の旅を楽しんでいると、空島からあの黄金の鐘の音が聞こえてきた。ラキ達シャンディアが俺達のために鳴らしてくれているようだ。

俺達は黄金の鐘の歌声に見送られ、空島から青海へ帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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