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「危ねぇな!ゴール寸前だったじゃねぇか!!何しに前線に行ったんだバカマユゲ!!」
「てめぇこそ何やってんだ三流剣士!!何もできずに地べた転がりやがって!!」
「ちょっと、お二人ともそのへんで……」
俺がふよふよとゾロとサンジの元へ戻ると二人はギャーギャーとケンカをしていた。俺は二人の間に無理矢理入り、小さな手でぐいっと二人の距離を離してケンカを止める。試合はまだ続行中なのだ。いつまでもケンカをしてもらっては困る。
ドズゥンッ!!
「わっ!?」
「うぉっ!!」
「ぐっ!!」
その時、俺たちの不意を突き巨大な足が降ってきた。それを俺たちは何とかかわす。魚巨人(ウォータン)であるビッグパンが強襲してきたようだ。だが何か様子がおかしい。ビッグパンが踏み荒らしたグラウンドはまるでサッカースパイクでえぐったような、または畑を耕した後のようになっている。普通の靴ではこんなことにはならないだろう。まさか……
「おい!お前ら!何逃げてんだ!チャンスだぞ!そいつがボールだ!!」
「そりゃわかってる!!コイツの靴の裏に刃物がついてて……!!」
ウソップの野次にゾロが反応する。今もなお続くビッグパンの足踏み攻撃。彼が足を上げた瞬間に靴の裏に何本もついた刃物がギラリと光る。
「ちょっと審判!!武器は反則なんじゃないんですかっ!?」
俺が審判にそう抗議するも、審判はそっぽを向いてピ~ピ~と下手くそな口笛を吹くばかり。
こ、このやろう……!
なんという白々しさだ。もはや一周回って清々しい。
「ふざけんなぁ!!!」
「ぶべっ!?」
突然横から黒い靴が飛んで来てスコーンと審判にクリーンヒットした。振り替えるとサンジが右足を振り抜いている。
「てめぇ見たろ!!何だその滝のような汗は!!」
「ちょ、ちょっとサンジさん落ち着いて下さい!!」
今にも審判に蹴りかかりそうなサンジを俺は必死に押さえる。あいつは曲がりなりにも審判だ。こんなことしたら……
「麦わらチームサンジにイエローカード!!」
おでこに立派なたんこぶをつくった審判はピーッと笛を吹きながらサンジに黄色いカードを叩きつけた。それにもサンジは「なんだとてめぇ!!」と怒るのでまた俺は必死に押さえる。
また、この後フィールド上でビッグパンが斧を振り回しているのを見つけ、また抗議して同じようなやり取りが行われたことを追記しておく。
「熱くなったら相手の思うツボです!落ち着いて下さい!」
必死にサンジを押さえるも、敵の理不尽な手にサンジは怒りが収まらない様子。どうしたものかと悩んでいると……
「サンジ君!とにかく勝って!!」
「勝ちマス!!」
ナミがサンジを一言激励。するとさっきまで怒りで煮えたぎってたサンジは目をハートにして両手でハートを作った謎のポーズをナミに向かって決め、冷静さを取り戻したというか、とにかく怒りは収まった。なるほど、サンジを落ち着かせるにはこうすれば良いのか。今度やって……いやいや、つるぺったんなエレインボディでやっても効果はないか。
そんなこんなでゲームに復帰した俺達、とにかくビッグパンのぬるぬるな巨体を攻略しないことには始まらない。ゾロとサンジは逃げるのをやめ、正面からビッグパンとぶつかりにいく。
「"ドジョウすくいスライディング"!!」
するとビッグパンはぬるぬるな肌を生かし、二人目掛けてスライディングをかました。思わずジャンプしてかわした二人はビッグパンの背中に乗ることになる。
「ぶしし♪」
「ああああぁ~~!!」
「目が回る~~!!」
その体勢のままビッグパンが自分の足を掴めばあら不思議。ゾロとサンジはビッグパンの背中を永遠にぬるぬる滑り続ける。
「もう、何をやってるんですか。"そよ風の逆鱗"!」
俺はビッグパンの側面に回り、風の魔力で二人をビッグパンから脱出させる。二人はころころと地面を転がる。
「すまねぇエレイン。助かった……。」
「ぐ、目が回った。」
二人は地面に座り込みぐらぐらする頭を抱えていた。俺はそんな二人を見てふぅ~と溜め息をつき、気を緩めてしまった。
「スキありーー!!」
「へ?」
「"スピニングタックル"!!」
俺のスキをついてトゲつきの肩当てをしたピクルスが回転攻撃を仕掛けてきた。ピクルスのタックルは俺にクリティカルヒットし、俺は天高く弾き飛ばされる。
「「エレイン!!」」
地上で俺を呼ぶ声が聞こえるが、俺は吹き飛ばされてる真っ最中のため答えることができない。
「"ハンバーガーハンマー"!!」
「がっ!!」
今度は空中高く跳んできたハンバーグが鉄のサックを装着した拳で俺を叩き落とした。地面に叩きつけられた俺は相当なダメージを負い、体が動かない。
「"パンクアタッーク"!!」
そこへ追撃の一撃が来た。ハンバーグの鉄のサポーターをつけた肘でのエルボーは仰向けになっていた俺の腹に見事に直撃。華奢なエレインボディは当然耐えれるわけがなく、あばら骨がメキメキ、ボキボキと嫌な音を立てる。
「っ…………!!!」
俺は悲鳴を上げなかった。否、上げられなかった。もはやそんな余裕も残っていなかったのだ。俺にできたのは地面に寝転んだ状態で体をくの字に曲げ、少しでも衝撃を逃がすことのみ。感じたのはまさに身を裂くような激痛だった。
そこで俺の意識は一瞬途切れる。度重なる激痛に身体が俺を守ろうとそうしたんだろう。だが、俺はこんなところで気絶してられるかと根性で目を覚ました。すると俺の隣にはいつの間にか血だらけのゾロとサンジが寝転んでいた。二人も手酷くやられたようだ。
「おい、お前ら……」
寝転んだ状態でゾロが話しかけてきた。相手方の歓声の中だが、ゾロの声は、はっきりと聞こえる。
「10秒手ぇかせ…。」
「…了解。」
「…妥当な時間だな。」
ゾロとサンジはすっと、ダメージを感じさせない動きで立ち上がった。俺はもう満足に体が動かないので魔力で浮くだけだ。まぁ、普段からそうだし別にどうってことない。
『立った!!立ち上がったよ麦わらチーム!!』
実況のイトミミズがそう叫ぶと同時に大歓声が上がる。もう会場は相手方の勝ちで決定ムードだったので大いに盛り上がる。ルフィ達も喜んでくれてるようだ。
「おい!お前ら!ワン"モンスターバーガー"プリーズ!!」
ここでフォクシーがハンバーグ達にそう叫んだ。すると彼らはでかい金棒や剣などあからさまに凶器を取り出す。完全にルール無視だ。
「ミンチにしてハンバーグ♪」
「スライスしてピークールス♪」
「「「ゲストは!?」」」
「緑のレタスに♪黄色いチーズ♪黄色いパプリカのおまけつき♪」
見ればビッグパンが鉄でできたシンバルのような武器をガシャンガシャンとやっている。なるほど、"モンスターバーガー"とはハンバーグとピクルスの武器で散々敵を痛め付けた後、ビッグパンがあれでプレスする技らしい。
だが、もうそんなことは俺達にとってどうでもいい。俺達は今、ビッグパンをゴールに叩き込むこと、これしか考えていない。
「"三級挽き肉(トロワジエムアッシ)"!!」
ズドドドンッ!!
「ぶぶっ!!」
「"木犀型斬シュート(ブクティエールシュート)"!!」
ドンッ!!
まず、サンジがハンバーグの顔面に両足での連続蹴りをかました後、彼を天高く蹴りあげる。飛ばされたハンバーグはビッグパンの元へ向かい、彼の鉄シンバルにガシャァンと挟まれてしまった。
「おめぇよくも!!」
サンジに向かって得意の回転攻撃で斬りかかってきたピクルス。だが、サンジの前にゾロが走り込み、ピクルスの攻撃を受け止める。
「"無刀流 龍巻き"!!」
そしてピクルスの回転の勢いそのままに今度は彼を上空に飛ばす。回転しながら飛ばされたピクルスはビッグパンの腹部に命中し、そのままビッグパンを斬り刻んだ。
「さてさてさーて、お覚悟を!」
「え?」
「"そよ風の逆鱗"!!」
俺はすかさず空中で身動きのとれないピクルスを風の魔力で狙い撃ちした。空中は妖精族のホームグラウンドだ。ピクルスは抵抗できずに吹き飛んでいき、"偶然"審判に命中した。偶然ですよ偶然。
「"反行儀キックコース(アンチマナーキックコース)"!!」
ピクルスに斬り刻まれて倒れこむビッグパンの体をサンジが背中側から押し返し、ビッグパンは立ったまま気絶することになった。
「来い!コック!!」
「分かってる!!」
ビッグパンの前でゾロとサンジが互いに向かって走り込んでいく。そしてゾロはサンジの右足に乗り……
「"空軍パワーシュート(アルメ・ド・レールパワーシュート)"!!」
サンジはゾロをビッグパンに向けて蹴り飛ばした。ゾロはビッグパンの上顎を掴み、ゾロのパワーとサンジの蹴りの勢いでビッグパンの巨体がフワッと浮く。
ズドォォンッ!!
ゾロはそのままビッグパンの頭をゴールに叩き込んだ。
『ゴーーーーール!!!』
「「「わあぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」
デービーバックファイト、第二回戦グロッキーリングは俺達の勝利に終わった。