とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

21 / 44
エニエス・ロビー編1・妖精と産業都市

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青雉によって物の見事な冷凍マグロならぬ冷凍ゴムにされたルフィと、ルフィ程ではないが全身を氷付けにされたロビンの安静のため、メリー号は4日間ロングリングロングランドに停泊した。そして今日は出航して3日目、天気は晴れで風も良好、航海は順調に進行中である。強いて言えばメリー号のダメージが所々目立ち始めて水漏れしたり、床が抜けたりしているが、それも次の島で修繕するまでの辛抱だと、その度に俺とウソップがカナヅチを振る。

 

やあ、皆さんこんにちは。先日、眠れなくて夜更かしをしていたら突然ロビン嬢から人生相談を受け、内心驚き過ぎてビクビクしながらも、前世で夏美から受けた励ましや、七つの大罪の名言のオマージュ、そしていつ役に立つか分からない類いまれなる天性の人の愚痴の聞き役の上手さで彼女を元気付けることに成功したエレインだ。

 

あの時はロビンがいきなり自分の過去について暴露し始めるから本当にびっくりした。原作において、結局ロビンがルフィ達に自分の過去を話したのか定かではないが、少なくともあの時点では誰にも話していないのは確かだ。どうやら俺に対するロビンの好感度はルフィ達をも上回ってるらしい。前々から高い高いと思っていたが、とうとうそのレベルまできたか。

 

えぇ……いや、決して嬉しくないわけじゃないけど……。俺、別に特別な事したわけじゃないんだけどな。本当に何がそうさせたんだろう。

 

「かー…。かー…。」

 

「ゾロさんは呑気なものですね……。」

 

「?どうしたんだエレイン?どこか具合悪いのか?」

 

今、俺はメリー号の船首側の甲板の柵に背中を預け、ちょこんと正座から両足を左方向に崩した女の子座りをしている。エレインボディの弊害か、この体になってから胡座などよりもこの方がリラックスできたりする。そんな俺の横には頭を枕代わりのクッション状態のシャスティフォルに置き、頭の上で両手を組んでイビキをかいて寝ているゾロがいる。彼はスゴイ。何がスゴイのかと言えば暇さえあればぐーすか寝ているのだ。もしかしたら一日の半分以上を睡眠に費やしているのではないだろうか。まぁ、その分夜に剣やアレイを振っているのだが。何度か規則正しい生活をしないと体に毒だと説教しているのだが、まるで直す気がない。彼なりの信条なのだろうか。

 

余談ではあるが、ゾロは昼寝をする時、刀を腰から外して柵に立て掛けておく。恐らく、昼寝中に敵に襲われても瞬時に刀を抜けるようにしているのだろうが、一度メリー号から刀を落としかけたことがある。その時は間一髪、俺が空中でキャッチして事なきを得たが、それ以来、人に刀を絶対に触らせないゾロだが、昼寝する時は俺に預けるようになった。そのため、今俺はお腹の辺りにゾロの三本の刀を持って座っている。もちろん、刀の持ち手はゾロの方に向けたままだ。

 

俺が隣で気持ち良さそうに鼻提灯を作って寝るゾロを見て溜め息をつくと、チョッパー先生がトテトテと駆け寄ってきて心配そうに声をかけてきた。溜め息を見られてしまったらしい。

 

「大丈夫ですよ、チョッパーさん。ありがとうございます。」

 

「そうか?気分悪くなったらすぐに言えよ!」

 

そう言ってチョッパー先生は船室の方へ駆けていった。話を戻すようだが、そういえばロビンと同じようにチョッパーからの好感度も何故か高かった。何故だ?マジで分からん。二人共、こんなへっぽこ妖精の何が気に入ったんだ?

 

「んナミすわぁぁぁん!じゃがいものパイユ、作ってみたのですマドモアゼル。よろしければ。」

 

「ん、おいしい。」

 

「幸せーーー!!!」

 

「うるせぇなてめぇ!!眠れねぇだろ!!」

 

サンジの大声でゾロが鼻提灯をパチンッと割って起きた。二人はそこからお互いを"サボテン君"、"ダーツ"と罵り合い、いつものケンカに発展した。こうなった二人を止めるのはとても面倒だ。俺はその場にゾロの刀を置き、ふよふよと足早にその場から退散した。

 

「「ルフィ♪ルフィ♪」」

 

「いくぞ!凍った俺のマネ!!」

 

「「あっひゃっひゃっひゃ!!」」

 

ふよふよとマストのある中央の甲板に移動すれば、ルフィが全身小麦粉まみれになって氷付けになった自分のマネという自虐ネタを披露し、ウソップとチョッパーが笑い転げていた。こっちもこっちで変なことをやっていた。

 

「ふふっ………。」

 

あっちもこっちもがやがやと、本当に賑やかで心地よい船だ。ここは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カ、カエルだ!!カエルがクロールしてるぞ!!」

 

しばらく船を走らせているとルフィが海をクロールで泳ぐ、傷だらけのバカでかいカエルを見つけた。ルフィ達はオールを全力で漕いでカエルを追跡する。

 

「コラ!あんた達!何勝手に進路変えてんのよ!!」

 

「聞いてくれナミ!身体中ケガしたカエルが海を泳いでんだ!!俺達は是非あいつを丸焼きで食いてぇんだよ!!」

 

「「「食うのかよ!!」」」

 

「エレイン!槍であいつを捕まえてくれ!!」

 

「嫌ですっ!!私カエル苦手なんですっ!!」

 

しばらくカエルを追跡していると、海の真ん中に立つ灯台が見えてきた。カエルはその灯台を目指しているようなのでメリー号も灯台の方へ進む。

 

灯台の近くまで船を進め、カエルもその近くで止まった時、カンカンカンと海上に似合わない音が聞こえてきた。

 

「(あれ?この音どこかで聞いたような……)」

 

カエルに夢中で音のことは気にしないルフィ達がメリー号をカエルの真横に寄せようとした時、メリー号がガコンと何かに乗り上げた。何やら遠くの方からシュッシュッポッポッという音も近づいてくる。

 

この音はもしかして………

 

「!霊槍シャスティフォル第二形態"守護獣(ガーディアン)"!!」

 

「「「うわあぁぁぁぁ!!」」」

 

俺が音のする方を向いた時、もうそれはすぐそこまで迫っていた。黒い鋼鉄のボディを持ち、大きな車輪を回転させ、煙突から煙を吐きながら大地を走る乗り物__蒸気機関車は何故か大海原を颯爽と走り、メリー号に迫っていた。よく見れば海にはこの機関車のためのもの思われる線路が敷かれており、メリー号はそれに乗り上げてしまっている。俺は即座にシャスティフォルを第二形態に変化させ、機関車とメリー号の間に滑り込ませてクッションにすることでメリー号を線路上から弾き出した。

 

「!おいカエル逃げろ!!何してんだ!!!」

 

無事機関車から回避に成功した俺達。だが、カエルは機関車の真正面に立って逃げようとしない。それどころかさながら力士のように四股を踏み、両手を前に突き出して機関車を受け止める構えをとった。

 

「うわー!!ひかれたー!!」

 

当然カエルが機関車に勝てるわけもなく、カエルは機関車にはね飛ばされて遥か遠くの海にポチャンと落ちた。

 

「「「………………」」」

 

俺達はその様子を呆然と見つめていた。危なかった。カンカンカンという変な音は踏切の音だった。あの音が聞こえた時に転生者である俺が一番に気づかなければならなかった。あと一歩シャスティフォルで防御するのが遅れていたら今ごろメリー号は木っ端微塵だ。

 

機関車を見たルフィ達は「何だあれ……」とか「船が煙吐いてたぞ……」とか呟いて未だポカーンとしている。ワンピースの世界に蒸気機関車は存在しないらしい。それかルフィ達の故郷にないのか。

 

「大変だ!ばーちゃん!ばーちゃん!海賊だ!!」

 

海を走る機関車の衝撃はまだ抜けきれないルフィ達。そんな中、灯台の横に隣接する建物__さっきの機関車と建物の形状から考えて駅__から三つ編みをバイキンマンのツノみたいにした小さな俺くらいの女の子とニャーと鳴くウサギ、そして車掌の帽子を被ったおばさんが出てきた。女の子はチムニー、ウサギはゴンべ、おばさんはココロというらしい。俺達はココロさん達にサンジ作のじゃがいものパイユをお裾分けしてさっきの機関車の話を聞く。聞けばあれは"パッフィング・トム"という海列車で蒸気機関車と同じ仕組みでパドルを回して海の線路を進むらしい。

 

そしてちなみにあの巨大カエルはヨコヅナという名前で、力比べが大好きらしく、いつも海列車に戦いを挑んでいるんだとか。それを聞いてルフィは「頑張り屋は俺は食わねぇ!」と言っていた。カエル捕獲作戦が取り止めになって俺はフゥと安堵の息をついた。

 

「そんで?おめぇらどこに行きてぇんだい?海列車に乗るかい?」

 

「あ、いえ、私達は記録(ログ)を辿るだけですから。」

「へー、どこ指してんの?」

 

「えーと、確か北の方を。」

 

「そうか、そりゃおめぇ"ウォーターセブン"だね。水の都っつーくらいでいい場所だわ。何より造船業でのし上がった都市だ。その技術は世界一ら!」

 

「へー!じゃあ、すげぇ船大工もいるな!」

 

「んがががが!いるなんてもんじゃないよ!世界最高の船大工の溜まり場だ!」

 

「そんなにか!よーし!決めた!必ずそこで船大工を仲間にするぞ!!野郎共!早速出航だ!!」

 

俺達はココロばーさんに簡単なウォーターセブンの地図とアイスバーグという船大工の紹介状を書いてもらった。そしてココロばーさん達に別れを告げ、再び船を進める。

 

「あんた。」

 

「?はい、なんですか?」

 

「もしかしておめぇ妖精族かい?」

 

「はい、そうですけど。」

 

出航準備をしている時、不意にココロばーさんに声を掛けられた。チムニーとゴンべがクッション状態のシャスティフォルをモフモフして遊んでいる傍ら、ココロばーさんは少しだけ難しそうな顔をして、すぐに顔を上げた。

 

「んがががが!やっぱりそうかい。政府の人間に注意すんらぞ!」

 

「はい、ご忠告ありがとうございます。」

 

こんなやり取りもあって、メリー号は再び出発した。そうだ、聞けばウォーターセブンは海賊だけではなく政府御用達の島でもあるらしい。青雉は"海兵は妖精族を見つけ次第殺すように命じられている"と言っていた。俺は島ではルフィ達以上に気を張らなければならないだろう。

 

「はぁ~……」

 

「?どうかしたんですかウソップさん?」

 

ウォーターセブンへ向かう途中、ウソップがツギハギだらけのマストにしがみついてすりすりと頬擦りをしていた。俺はその行為に疑問を持って声をかける。

 

「このブリキのツギハギでもよ……長い冒険の思い出じゃねぇか。これから綺麗に直っちまうのかと思うと感慨深くてよ……。」

 

「ははは、確かにそうですね。」

 

「だが、偉大なる航路(グランドライン)に入ってからのメリー号への負担は相当なもんだ。このままじゃ船も俺達も危険だぜ。」

 

「でも、空島でたくさん黄金を手に入れましたし、ピッカピカの新品同様に直してあげられますよ。」

 

「ん?おい、あれじゃねぇのか?」

 

俺がウソップとサンジと話していると、ゾロが前方に島を見つけた。まだ遠くて小さくしか見えないが、遠方からでもロングリングロングランドのような草原の島ではなく、都市化が進んだ島であることが見てとれる。

 

「うお!」

 

「素敵ね…。」

 

「綺麗です。」

 

「こりゃすげぇな。」

 

やがて船が島に近づき、島の全貌が見えるようになった。島の中央には巨大な噴水がそびえ立ち、周りには造船所と思われる施設がいくつかあり、それぞれに大きなクレーンが建っている。造船施設だけでなく、街並みもかなり綺麗で見る者を魅了する。ウォーターセブンはまさに産業都市だった。

 

島の正面には海列車の駅があった。俺達がメリー号をどこに停めようか困っているとボートで釣りをしていたおじさんが裏へ回るように言ってくれた。その先でも親切なおじさんがいて、街から少し離れた岬へ停めるように言ってくれた。造船業が売りの島だけあって海賊も客であるらしく、島の人はまったく海賊を恐れている様子がない。不思議な島だ。ありがたいけど。

 

「よし!帆を畳めー!!」

 

船を岬に着け、ルフィの指示を受けた俺は魔力でロープを操ってシュルシュルと帆を畳んでいく。このくらいはもう慣れたものだ。反対側のロープはゾロが引く。

 

ボキッ!

 

「わー!!何やってんだてめぇ!!」

 

「違っ……!俺はただロープを引いただけで!!」

 

するとメリー号のマストが真ん中からポッキリ折れてしまった。想像以上に傷が深いメリー号に俺達は改めて驚く。むしろここまでダメージが溜まっていてよく俺達を運んできてくれたものだ。

 

そんなこともあり、俺達はついにウォーターセブンへ上陸することになった。黄金を換金してメリー号の修理に当たるのがルフィとウソップ、そしてお金のことならお任せあれ、麦わらの一味の鬼の金庫番ナミ。

 

一方、チョッパーとロビンと俺は島の探索と俺の服選びだ。さすがにいい加減ナミの服を借りるのにも限界を感じている。今日までナミにはパーカーやらワイシャツやら色んな服を着せられて辱しめを受けてきた。しかも恥ずかしがる俺を見て奴はニッコリ笑っているのだ。間違いなく生粋のドSである。このままではいずれ裸エプロンとかやらされても不思議ではない。

 

そして船番として船に残るのがゾロとサンジだ。ケンカしないか非常に心配だが、サンジは少ししたら島へ買い出しに出掛けると言っていた。それは本来俺の仕事なのだが、今回は服選びを優先させてもらえるよう頼み込んだ。それを笑顔で、俺の頭をポンポンと撫でながら承諾してくれたサンジはめちゃくちゃいい奴だ。

 

「おーい!エレイン!早くしろよ!」

 

「はーい!今行きます!」

 

チョッパーの催促する声に、俺は船室にてせっせと着替えを始める。さすがに服屋までの道を露出の多いワイシャツやらで行くわけにはいかない。俺は比較的マシなパーカーに身を包んだ。

 

『フフフ……』

 

「ん?」

 

俺が着替えを済ませた時、ふと後ろから笑い声が聞こえた。後ろを振り返るとテーブルの上にレインコートを着た小さな少年が座っていた。少年は足をプラプラさせて、フードを深く被っているため顔はよく見えないがニッコリと笑っている。

 

「あなたは誰ですか?」

 

もしかして知らない間に船に迷い込んでしまったのか。そう思い、ふわふわ近づいて声をかけても少年は楽しそうに笑うだけで何も答えない。

 

『………ありがとう。』

 

「え?何ですか?」

 

突然少年が小さな声でポツリと呟いたようだが、声が小さすぎてよく聞こえなかった。

 

「エレイーン!まだかー?」

 

「はいはーい!あ、そうだ君も一緒に………ってあれ?」

 

外からチョッパーの声が聞こえたので俺は外の方を向いて返事をする。そして再び少年の方を向くが少年は跡形もなく消えていた。きょろきょろと辺りを見渡してもどこにもいない。

 

「?誰だったんでしょう。」

 

俺は首を傾げながらメリー号の船室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。