とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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エニエス・ロビー編2・妖精と謎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「賑やかだなー!」

 

「ふふっ、そうね。」

 

「産業都市だけあって活気に満ちてますね。」

 

俺は現在、ロビンとチョッパーと共にウォーターセブンの街を歩いている。水の都と呼ばれるだけあって街中に水路が張り巡らされており、人々は"ヤガラブル"と呼ばれる馬のような魚に乗ってスイスイと水上を移動している。また、小舟で屋台や八百屋をやっている人もいる。確か前世にもこんな街があったような気がする。確かイタリアだっけかな。

 

ちなみに俺は今いつものようにふわふわ浮いているわけではなく、クッション状態のシャスティフォルを前に抱いてロビンとチョッパーと一緒に歩いている。先ほどから黒い帽子とスーツに身を包んだいかにもな服装の政府の人間を何回か見かけている。そんな中をふわふわ飛んだら一発で妖精だとバレてしまう。

 

「いらっしゃいませー!」

 

しばらく街を歩いた俺達は商店が立ち並ぶ中、花屋と楽器専門店に挟まれた小さな服屋を見つけ、入った。店の中は綺麗に掃除が行き届いていて、服も子供用のものから、中世の貴族が社交パーティで着るようなド派手なドレスまで多種多様なものが取り揃えてあった。俺達が店に入ると、髪をポニーテールにまとめた、綺麗と言うよりは可愛い系の女性店員が出迎えてくれた。

 

「この子の服を選びに来たの。わけあってこの白いドレスを駄目にしちゃって。出来ればこれと同じものを仕立ててくれるかしら?」

 

女性店員が出てくるとロビンが俺が必死の努力で血染みを落としたエレインの純白のドレスを取り出しそう言った。

 

「はい!分かりました!簡単な作りの服なので明日までには完成しますよ。では、お決まりになりましたらお声掛け下さい。」

 

女性店員は元気良く返事をするとドレスを持って店の奥に消えていった。そして俺はロビンに試着室に連行され、色々な服を着せられる。俺くらいの小さな活発な女の子が良く着るようなTシャツとミニスカートのセット、ロングスカートとエプロンそして頭に頭巾といった村娘風の衣装、何故かあったへそ出しルックウェイトレスの豚の帽子亭でのエリザベスの衣装など本当に色々着せられた。最後のはさすがに恥ずかしすぎたのと、貧相なエレインボディじゃあまりにも悲しすぎたので早々に脱いだ。

 

「ど、どうでしょうか……?」

 

散々着せ替え人形にされた挙げ句、俺が選んだのは緑のドールシューズに、緑のロングスカートを主体としたフリル付きのメイド服だ。七つの大罪原作において、エレインが着ていた傲慢の罪(ライオン・シン)のエスカノールが経営する麗しき暴食亭の制服である。さっきのエリザベスの衣装といい、何で七つの大罪の衣装があるのだろう。この際どうでもいいけど。

 

「ふふふっ、素敵よエレイン。」

 

「ああ!よく似合ってるぞ!」

 

試着室から出た俺をロビンとチョッパーがそう褒めてくれた。鏡を見て我ながら悶絶する程似合っているのは分かっていたが、人から褒められると何か照れくさくて頬が赤くなってしまう。

 

そんなこんなで俺の服選びを終え、服屋を後にした俺達は再び街を歩く。心なしか、先ほどナミのパーカーを着て歩いていた時よりも視線を感じる。ほら、今も正面から歩いてきた青年がその場に立ち止まって俺の方を凝視している。

 

ふふふ、見たか!これがメイド服によって引き出されたエレイン本来の魅力だ!……なんてね。青年よ、人の趣味にとやかく言うつもりはないが、ロリコンは今のご時世生き辛いぞ。

 

と、冗談はこのくらいにして、先ほどから考えていることがある。今着ているメイド服を見つけた時にふと思ったことだ。何の証拠もなく、あくまで俺の推測でしかないが、この世界に魔神族、延いては"十戒"が存在する可能性だ。

 

そもそも"七つの大罪"がどういう物語なのかおさらいしておこう。簡単に言えば、リオネス王国という国に仕える七人の騎士団の話だ。メンバーは獣の印(シンボル)を刺青として体に刻んでおり、それぞれが"憤怒"、"嫉妬"、"強欲"、"怠惰"、"色欲"、"暴食"、"傲慢"の大罪を背負っており、それぞれが背負う過去、使命、野望、そして強力な能力を持っている。リオネス王国の伝説の騎士団として知られる彼らだが、実は魔神族の精鋭部隊である"十戒"を討つために結成されたものであり、物語は"七つの大罪"と"十戒"の戦いへ入っていく。

 

今までそんなことは考えもしなかったが、そもそも俺という異物が混じっているこの世界、よく考えれば他の異物がなく、俺一人だけポツンといる方が不自然である。俺はただ一人の異例な存在だと思い込んで漠然と生きてきたが、この前青雉に会った時にその考えは変わった。青雉は400年前、政府は妖精王の森と和平を結んでいたと言っていた。それは人間の王国と不可侵の条約を結んでいた七つの大罪原作と同じである。そして"妖精王"の森。この世界に妖精王であり、エレインの兄であるキングが存在していても不思議ではない。キングがいるということは"七つの大罪"も………"十戒"も存在していても不思議ではないのだ。

 

……とは言ったものの、いくら考えたところで仕方ないかと俺は思う。確かにこれらが事実である可能性はあるが、それはどこまでいっても俺の推測であり、可能性の域を越えない。それに例えそれが事実であっても俺に出来ることなど何もないだろう。

 

結局、俺に出来ることは十戒が存在しないことを祈り、ルフィ達の冒険がなるべく原作通りにいくためにサポートをすることだけなのだ。

 

「船医さん、あそこ。本屋があるわ。」

 

「え?あ、本当だ!!」

 

ロビンが本屋を指差すとチョッパーは目を輝かせて本屋に直行した。目にも止まらぬ速さで走っていたチョッパーに苦笑しながら俺とロビンは本屋へ歩く。

 

そうだ、本屋だ。前にロビンから借りた歴史書には魔神族とかの情報はなかったが、もしかしたら本屋にそれに関する情報が載っている本があるかもしれない。

 

そう思った俺は少し小走りになって本屋の中に駆け込んだ。チョッパーは医学関連のコーナーに行ったが、俺はその反対側の歴史関連のコーナーへ行く。そこには「世界政府について」、「モンキー・D・ガープの軌跡」などのそこそこ分厚い本が立ち並ぶ。俺は本棚の本の背表紙に指を当て、目当ての本を探していく。

 

魔神族……七つの大罪……妖精族……どれでもいい。何か手掛かりになる本はないか。

 

歴史関連コーナーのすべての本の背表紙を確認したが、それらしい題名の本は見つからなかった。「七英雄物語」なんていう本は一応見つかったが、辞書のような厚さの本でとてもじゃないが読む気にならなかった。それに題名からして神話的な何かを感じる。多分、読んでも無駄だろう。

 

まあ、冷静に考えて大罪人を国の騎士団にするなんて話は七つの大罪の世界観だからこそ成り立つのであって、海賊は即縛り首、妖精族は即座に処刑するこの世界では正直考えられない。ましてや、世界を我が物にせんとする魔神族の対抗勢力にするなどありえないだろう。政府の顔が立たなくなる。

 

「んー……無駄足ですかね…。」

 

元々あったらラッキーくらいの気持ちだったので別にいいが、結局俺の中の疑問が募るだけに終わった。俺はトテトテと歩き、ロビンとチョッパーと合流しようとする。

 

「ん?」

 

本棚の角を曲がり、チョッパーのいる医学関連コーナーに行こうとした時、本屋の入り口近くの絵本コーナーに置いてある一冊の絵本に目が止まった。本の題名は「七英雄物語」。先ほど見つけたクソ分厚い本の絵本版が出ていたらしい。恐らくあっちが原作で、子供でも読みやすいように編集させたのがこれだ。何となく興味を引かれた俺は絵本を手に取ってみる。表紙から見るに、まぁ、題名からして薄々予想していたが、小さい子供が憧れるヒーローもの、もっと言えば戦隊もののようだ。表紙には題名通り七人の勇者らしきキャラクターが描かれている。

 

センターで堂々と剣を振りかざしているのは黒髪で、青と黄色を基調とした服を着た少年だ。その姿はドラクエの勇者を彷彿とさせる。

 

その勇者君の右肩から顔を除かせているのは赤髪で眼鏡をかけた如何にもなモヤシ少年だ。一見するととても戦えそうには見えないがこういう奴程バカげた強力な能力を持っているのはお約束である。

 

眼鏡モヤシ君の反対側でムキッとしたポーズを決めているのが、褐色の肌を持ち、全身の黒光りする筋肉とは相対的な白い髪を持った青年である。こいつは絶対根性論が大好きな熱血タイプだ。

 

この三人の真後ろで両手を広げ、如何にも神聖な雰囲気をこれでもかと醸し出しているのは赤みがかかった茶髪の、俺程ではないがあどけなさを残した幼い顔立ちの女性だ。彼女の背中からはまるで女神族のような白い翼が生えていた。

 

視点をずらしてみれば、先ほどの眼鏡モヤシ君のさらに後ろ、女神族もどきさんの右手首辺りには、小さめにではあるが、タバコを加えた金髪のアフロヘアーのファンキーな男が弓を構えて不敵な笑みを浮かべていた。

 

そして小さすぎて今まで気づかなかったが、表紙の上部にある「七英雄物語」の「七」の字の上に鼻がピノキオのように伸びた小人が座っている。丸い尻尾が生えたその小人は小さなトンカチを担いでニコニコと笑っている。

 

そして何より俺の注意を引いたのは女神族もどきさんの左手首の辺りに描かれる金髪のロングストレートヘアーの少女の後ろ姿だ。他の六人はヒーローにふさわしいキラキラと明るい背景に描かれているが、彼女だけ背景がまるで魔神族の漆黒の魔力のように暗く、黒く塗りつぶされている。

 

表紙と題名からふわっと何となくこの七英雄物語を想像してみた。俺が求める情報とまるっきり無関係というわけではなさそうだ。ただ、近いというわけでもなさそうである。俺はとりあえずパラッと絵本を開いてみる。

 

…って厚っ!絵本のくせして結構ボリューム高めだな。こんなの子供に読み聞かせたら半分も読まずに寝るぞ。

 

なんてことを思いながらパラパラと本を読み進めていく。ざっくりとした内容は概ね俺が予想していたものとほぼ同じだった。

 

平和な世界に突如現れた悪い魔物達を倒そうと集まった七人の戦士が笑いあり、涙ありの試練を乗り越えながら見事魔物を封印し、再び世界に平和が訪れました。めでたしめでたし。

 

ざっくりと言えばこんな感じだ。普通に聞けば何てことのない王道のおとぎ話。だが、七つの大罪の情報を求めて物語を読んだ俺にはいくつか引っ掛かる所がある。

 

まずは主人公達。"七英雄"なんていうもんだから彼らが七つの大罪であることを少しばかり期待したのだが、何となく違うのが分かった。表紙に描かれていた彼らが七つの大罪のメンバーと全く違うので当然と言えば当然なのだが、それでもこの七英雄という名は七つの大罪に近い組織である。やはり何かしら関係がある。

 

次に敵役の魔物達。絵本で出てきたそれらは俺がよく知る魔神族によく似た風貌をしていた。赤い体のデブな魔物が出てきた時は「あれ?これ魔神族じゃね?」と驚いた。容姿がほとんど一緒だったのである。だが、絵本のどこを探しても魔神族という言葉は見当たらない。あくまで魔物と記されている。

 

………ダメだ。謎が謎を呼んでわけが分からなくなっている。

 

俺はハァと溜め息をついて絵本を棚に戻す。今回の情報収集は前に進んだのか後ろへ下がったのか分からない結果となった。

 

「おーい!エレイン!」

 

その時、チョッパーが俺の方へ慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「あれ?お前何を読んでたんだ?」

 

「あぁ、これですよ。少し気になりまして。」

 

俺は本棚の「七英雄物語」を指差す。するとチョッパーは「あー!」と納得したような声を上げた。

 

「久しぶりに見たなー!この絵本!」

 

「チョッパーさん、知ってるんですか?」

 

「あぁ!すごい有名な絵本なんだ!親が子供を育てる時に誰でも必ずこれを読み聞かせるって話だぞ!」

 

チョッパー先生によれば、この絵本はこんなナリをして有名で尚且つそこそこ人気もあるらしい。前世で例えるなら桃太郎的立ち位置の絵本と言った所か。誰でも知っているが、人気かと言われればそうでもないみたいな。

 

「…ってそんなことより大変なんだ!ロビンがいなくなっちゃったんだ!」

 

「へ?ロビンさん?私達と一緒にここに入ったはずじゃあ……。」

 

「俺もそう思ったんだけど、でもどこにもいねぇんだ!」

 

「分かりました。ではとりあえず近くを探しましょう。落ち着いて、リラックスです。こういう時こそ慌てず騒がず、ですよ。チョッパーさん。」

 

そう言いながら俺がチョッパーの額をチョンッと人差し指で押すとチョッパーは「そ、そうだな。」と言ってその場でスーハースーハーと深呼吸をした。その後、俺は落ち着いたチョッパーと一緒に本屋から出てロビンを探し始めた。ロビンを探しながらも、俺の頭の中では先ほどの絵本の内容がぐるぐると回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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