とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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エニエス・ロビー編3・妖精と仲間

 

 

 

 

 

 

 

「………メリー号がもう……」

 

「……直せない……!?」

 

あの後チョッパーと二人で街を駆けずり回りロビンを探したが結局見つからず、一旦メリー号へ戻ってきた。その道すがら食料をたくさん抱えたサンジと合流し、船へ戻ってきた俺達は、甲板で寝ていたゾロから衝撃の事実を聞かされた。

 

俺達が出払っている間にこの船に鼻が四角くて長い船大工の男が来たらしい。恐らく、黄金を換金したルフィ達が依頼した船大工だろう。その男はメリー号を隅から隅まで調べ、ゾロに向かってこう言ったそうだ。

 

「はっきり言うがお前達の船はもう直せん。」

 

なんでも、船の心臓部である竜骨__船首から船尾まで船底を通って貫く太い木材__を深く損傷していて、いくら腕のいいウォーターセブンの船大工といえどもどうすることもできないらしい。

 

「……そんな……」

 

俺はふよふよと浮きながらメリー号の船首部分を見る。いつも無茶ばかりする俺達を運んでくれた頼もしいその羊の後ろ姿は何故かとっても弱々しくて、そして寂しそうに見えた。

 

「そ、そんなこと急に言われても……!」

 

「そうだぜ!見ろ!船はいつもと変わらねぇし、東の海(イーストブルー)からこんなとこまで一緒に海を渡ってきたじゃねぇか!」

 

サンジの言う通り、メリー号はいつもと全く変わらない。ウソップと俺とで一生懸命ツギハギして真っ直ぐを保っているマストも、いつだか羽目を外しすぎたルフィが破いてしまい、俺が夜なべをして縫い合わせた帆も、マストのてっぺんでたなびく麦わら帽子を被ったドクロマークが描かれた海賊旗も、何もかもがいつものまま。だけど専門の船大工はこの船の寿命は尽きたと言う。俺達にはそれが受け入れられない。

 

「俺!メリー号が好きだぞ!!」

 

「全員そうさ。だが、現状打つ手はなさそうだ。」

 

ロビンはいなくなり、メリー号は修理不能。次々湧き出る問題に俺達は顔をしかめた。

 

「みんなーー!!」

 

そんな時だった。船の修理の依頼に出掛けていたナミが帰って来た。だが、そこにルフィとウソップの姿はなく、ナミ一人だけが黒いアタッシュケースを抱えてこちらに走ってくる。

 

「ナミさーん!何かあったんですかーー!?」

 

「ウソップが……!!ウソップが大変なの!!」

 

「「「何!?」」」

 

問題はまだ尽きそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船の修理依頼を担当していたルフィ達だが、トラブルに見舞われたらしい。空島で手に入れた黄金を3億ベリーに換金できた所までは良かった。だが、その後、2億ベリーを持って造船所を少しルフィ達と離れて歩いていたウソップが"フランキー一家"とかいう連中に襲われ、ウソップは重傷を負い、2億ベリーはまんまと奪われてしまったらしい。

 

それを聞いた俺達は船にナミを残し、ウソップが倒れているという街の大通りへ向かった。途中ルフィも合流し、五人でウソップを探すも見つからず、代わりにウソップのものと思われる血痕が見つかった。その血痕はポタポタとある場所を目指して移動している。間違いなくウソップのものだ。彼は2億ベリーを奪われたことに責任を感じて一人で取り返しに行ってしまったらしい。

 

「………息はあるか、チョッパー。」

 

「大丈夫、気絶してるだけだ。」

 

血痕を追った俺達はウォーターセブンの北東の方まで来た。"FRANKYHOUSE"とデカデカと掲げられた不思議な形の家が建つ海岸に傷だらけのウソップが倒れていた。その顔は涙と血と鼻水でぐしゃぐしゃだ。

 

「……霊槍シャスティフォル第八形態"花粒園(パレン・ガーデン)"。」

 

俺はウソップの上半身を抱き上げ、頭を膝の上に乗せてシャスティフォルを第八形態に変形させた。シャスティフォルは緑色の粒子の膜となって俺とウソップを包み込み、ゆっくりとウソップの傷を癒していく。

 

「……ゆっくり休んでろ、ウソップ。あのふざけた家ぶっ飛ばしてくるからよ……!!」

 

そう言ってルフィ達はフランキーハウスへ歩いていった。静かに、怒りを感じさせる歩みでゆっくりと近づいていく。フランキーハウスからは絶えず大勢の笑い声が聞こえる。中で酒盛りをしているようだ。

 

ちょうどルフィ達が玄関先に辿り着いた時、扉を開けてルフィ達の軽く倍はあるであろう高身長の男が出てきた。

 

ドカアァンッ!!

 

ルフィはヒュッと軽く跳躍し、男の顔辺りの高さに達すると男の顔面を思いきり殴り飛ばした。殴り飛ばされた男はフランキーハウスに盛大に突っ込む。そこから先は外にいる俺には見えなかったが、フランキーハウスから度々ガラクタが飛び出してくるので、中の状況は想像に難くない。四人は大いに暴れているようだ。

 

「……うぅ……ごめんな……メリー……皆……。」

 

シャスティフォルが傷を癒したことで俺の膝の上のウソップが涙混じりに話し始める。といってもまだ意識が戻ったわけではないので寝言のようなものだろう。余程金を奪われたことに責任を感じているらしい。俺は無言でウソップを抱きしめる力をギュッと強めた。

 

ワンピースに関しては本当に無知な俺だが、さすがにフランキーを知らない程ではない。フランキー一家の親玉で、体の前半分をサイボーグに改造した彼は航海不能となったメリー号の代わりとなる船を造りエニエス・ロビー編終了後に麦わらの一味に船大工として加わることになる。出会いはこのように敵同士であるが、後にウソップとも打ち解け、共に新たな武器の開発をしたりする。

 

メリー号が航海不能であることは、俺は知っていた。でも、だからといって短い間とはいえ俺達の家であるメリー号をそう簡単に諦められるものでもない。もしかしたら俺がいることで何か変わるかもしれない、そんな薄い希望を抱いていた。だが残念ながら運命は変えられなかったらしい。結局メリー号はここで寿命を迎えてしまった。

 

「エレイン、終わったぞ。」

 

長く考え込んでしまったようだ。いつの間にか戦闘が終わり、チョッパーが膜の外に立っていた。俺はシャスティフォルを元のクッション状態に戻した。チョッパー先生はウソップの側に寄るとリュックから医療道具を取りだし、テキパキとウソップの応急処置を始める。俺も手伝いたい所だが、ウソップのケガがあまりにも酷すぎるのと、チョッパー先生の手際に着いていけない力不足もあって、今回は手伝わずにその場を離れる。

 

俺はシャスティフォルに抱きついてふよふよとルフィの元へ向かった。無惨な姿となったフランキーハウスのガレキの山のてっぺんにルフィはいた。腕を組み、仁王立ちしたルフィは遠くの海を見つめただじっとしている。

 

「船よぉ……決めたよ……。」

 

俺がルフィの真横に来た時、ルフィはその重い口を開いた。言いたいことは分かっているが俺はルフィに「何をですか?」と聞く。

 

「ゴーイング・メリー号とはここで別れよう。」

 

「………そうですか。」

 

その言葉が来ることは分かっていたがどういう顔をしたらいいのか分からない。俺は胸に渦巻く悲しみと虚しさを押し殺し、なるべくいつもの笑顔をルフィに向けた。メリー号が大好きなのは皆いっしょで、ウソップだけじゃない。ルフィもウソップと同じくらいメリー号が大好きだ。それ故、船長という立場からメリー号を切り捨てなければならないルフィが誰よりも辛いはず。それなのに、俺まで浮かない顔をしていてはダメだ。せめて俺くらいはいつも通り笑ってルフィ達を支えなければ。俺の足りない頭はそう結論を出した。

 

「おーい!エレイン!ウソップを船まで運ぶからお前のクッションに乗せてくれ!」

 

「はーい!」

 

応急処置を終えたチョッパーが俺を呼んだ。俺はルフィに「さ、行きましょう船長。」といつも通り笑いかけてチョッパーの元へ急ぐ。ルフィは麦わら帽子を深く被り、「あぁ。」と短く返事をしてガレキから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランキー一家を撃退し、ウソップを連れてメリー号に帰還してから数時間後、太陽は西へ傾き、空はオレンジ色に染まっている。ロビンはまだ戻ってきていないが、チョッパーの治療の甲斐あってウソップの意識が戻った。

 

俺達が船室に向かうとウソップが土下座する勢いで謝罪をした。まずウソップを落ち着かせてから船についての話し合いに入る。

 

「船は…メリー号は残りの1億で直せそうなのか?せっかくこんな一流の造船所で修理できるんだ。この先の海も渡っていけるように今以上に強い船に……!!」

 

不安そうな顔色でメリー号についてルフィに尋ねるウソップ。そんなウソップを見て俺は皆にバレないようにそっと顔を逸らした。現実を知っている身として、メリー号に誰よりも愛情を注いできたウソップに現実を告げるのはとても辛い。

 

「それがよ、ウソップ。船は乗り換えることにしたんだ。」

 

ルフィはウソップに自然に決断を話した。ウソップは一瞬何を言われたのか分からない顔を浮かべ、すぐに理由を聞いた。自分が金を奪われてしまったからかと。

 

残念だけどウソップ、そうじゃないんだ。もしそうだったらどれだけ良かっただろう。だけど、現実はもっと非情だ。

 

「メリー号はもう直せねぇんだよ!!」

 

メリー号のことで興奮し、散々怒鳴りあった後にルフィがウソップにそう叫んだ。ウソップは放心状態になった。あまりに辛い現実を受け止めきれないのだろう。そんなウソップを見るのも辛くて、俺はクッション状態のシャスティフォルをギュッと抱きしめる。

 

ルフィはウソップに詳しく事情を話す。造船所であった船大工に査定してもらったところ、この船はもう修復不可能であると告げられたと。だがウソップはこの話を聞いてもまだ受け入れられないようだ。いや、現実は受け入れたものの、メリー号を手放すことができないのかもしれない。

 

ウソップは絶対メリー号を見捨てないと宣言し、今まで通り自分が直すと言って資材を買いに傷ついた体を引きずって造船所へ向かおうとする。

 

「お前は船大工じゃねぇだろうウソップ!!」

 

そんなウソップをルフィが怒鳴ることで制止する。ウソップは狙撃手であって船大工ではない。本職の船大工が匙を投げる程傷ついたこの船をウソップが修繕できるわけがない。

 

ルフィが言っていることは船長としては正しい。海賊団存続のため、寿命を迎えた船から新しい、より強固な船に乗り換えることは間違っていない。だが、ウソップはそれに納得できない。正論と分かっていても、大事な仲間を見捨ててこの先へなど進めない。そうルフィに掴みかかる。

 

「いい加減にしろお前ぇ!!」

 

怒鳴り合いの末、ルフィがウソップを押し倒した。

 

「お前だけが辛いなんて思うなよ!!全員気持ちは同じなんだ!!」

 

「だったら乗り換えるなんて答えが出るはずねぇ!!」

 

「………!!じゃあいいさ!そんなに俺のやり方が気に入らねぇなら今すぐこの船から………!!!」

 

バカッ!!!

 

言ってはならない言葉を言いかけたルフィを俺は無表情で、シャスティフォルの第二形態で殴り飛ばした。思いきり殴り飛ばされたルフィはテーブルに突っ込んで壁に激突する。殴り飛ばした時に落ちた麦わら帽子を床に降りて優しく拾う。

 

「ちょっとエレイン!?」

 

「………船長、少し頭を冷やしましょう。ね?」

 

咎めるナミを無視した俺は壁に背中をつけて座るルフィの頭にポンと麦わら帽子を乗せてそう笑いかけた。いつも通りの笑みになるよう努めたが、恐らく目は笑っていなかったと思う。仲間をそう突き放すのは一番やってはいけないことだ。ルフィは「悪い……今のはつい……」と言いながら立ち上がる。

 

「いやいいんだルフィ……それがお前の本心だろ……」

 

その時、ウソップがポツポツと話し始めた。前々から自分は一味の皆の強さにはついて行けないと感じていたと。自分とルフィ達との仲は、自分が海へ出ようとした時に船に誘ってくれただけのものだと。

 

自分の心のうちを言い終わるとウソップはメリー号を降りてスタスタとどこかへ歩いていってしまう。

 

「俺はこの一味をやめる。」

 

ウソップはそう言ってメリー号の__ルフィの方へ振り返る。チョッパーやナミが必死にウソップを止めようとする中、ウソップは決意の籠った目でルフィのことを見据える。そして大声でこう宣言した。

 

「俺と決闘しろぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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