とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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エニエス・ロビー編5・妖精と仲間

 

 

 

 

 

 

 

 

ロビンを見失ってしまった俺達は別行動をとることにした。チョッパーはルフィ達と合流して今あった事をすべて伝える。そして俺とサンジは、ロビンはこの島を海列車で脱出する可能性が高いとふみ、海列車の駅であるブルーステーションで待ち伏せしていた。

 

「……ビンゴ。」

 

そしてその予測は見事的中したらしい。駅には政府の役人や海兵がぞろぞろと集まっており、その中にはローブに身を包まれたロビンの姿も確認できる。

 

『午後11時発、エニエス・ロビー行き最終便、間もなく発車致します。』

 

時刻は午後11時、風が高くなり、波も高く荒くなり、水位も駅の一階が浸かり、海列車には二階から乗車しなければならない程上がっている。

 

「……サンジさん、どう出ましょう?」

 

「どう見ても連行されてるようにしか見えねぇが、あれくらいの相手なら軽く捻っちまえるはず……。何か狙いがあるのか、逃げられねぇ理由があるのか……俺に助けてほしくてわざと?ぶぅっふふ!♪」

 

妄想の世界に入ってニヤニヤと笑い始めたサンジを俺は苦笑いで見つめる。そんなことをしていると役人の誰かから"CP9"が到着したとの声が聞こえた。

 

「放せ!チキショー!!放せ!!」

 

「俺をどこへ連れてく気だ!!」

 

目を向けると四人の人物が簀巻きされたウソップとフランキーを担いできていた。先頭を歩くのは黒いシルクハットを被った男で、眼鏡をかけた金髪の女性と鼻がウソップのように長く、かくかくした男がその後ろを歩く。一番後ろを歩くのは牛の角のような髪型のかなり大柄な俺でウソップとフランキーはその男が担いでいる。四人とも共通して黒い服装に身を包み、役人や海兵達から揃って敬礼を向けられることから、四人は政府関係者であり、それもかなり高い地位にいる者だということが窺える。

 

「……ウソップさん……。」

 

「あの野郎……一味抜けても迷惑かける気か……。」

 

CP9……確かエニエス・ロビー編においての最大の敵であることは分かるのだが、彼らが何者なのかは詳しくは知らない。俺の原作知識は大事な所でモヤがかかる。確か……、政府の諜報機関の内の一つだとかなんとか夏美が言っていたような気がしないでもない。

 

ま、いいか。事情は知らんが彼らがロビンを拐う俺達の敵であることに間違いはない。全力で戦ってロビンを奪い返すのみだ。

 

『アクア・ラグナ接近中につき、予定を繰り上げ間もなく出航致します。』

 

ルフィ達が誰か来ないか待っていた俺達だが、駅にもう列車が出発するというアナウンスが鳴り響く。

 

「チッ、もう出ちまうのか。」

 

「思えば一般のお客さんはいないわけですから、さっさと出発してしまうのは当然かもしれませんね。」

 

ルフィ達が来る気配はなく、ポッポーと汽車の汽笛が鳴り、煙を吹いてゆっくりと機関車が動き出す。これ以上は待てないので、俺達はルフィ達への手紙と町で手に入れた"子電伝虫"を駅に残し、発車する汽車の最後の車両に飛び乗った。

 

荒れ狂う海を機関車は波を越え、風を越え力強く走る。荒波で線路がぐわんぐわんと揺れるので、俺達が乗る汽車もめちゃくちゃ揺れる。というか、こんなに線路が揺れたら汽車も横転したりしそうなものなのだが……。そこはワンピース世界の謎技術でなんとかなっているのか。

 

「わっ!」

 

「あぶねぇっ!」

 

揺れでバランスを崩し、危うく放り出されそうになった俺をサンジが手を掴んで助けてくれた。今度は放り出されないように空を飛ぶのをやめて車両の柵にがしっとしがみつく。

 

「いやぁ、外は凄い嵐…「"首肉(コリエ)シュート"!!」ぶへぇ!?」

 

気分転換でもしようと思ったのか、役人の一人が扉を開けて外へ出てきた。その男をサンジが有無も言わさず蹴りつける。男は車両の中へ蹴り飛ばされ、ガッシャーンと勢い良く座席に激突した。

 

「誰だ貴様らぁ!!」

 

「あぁ……せっかくの潜入が…。」

 

「……まぁ、しょうがない。」

 

潜入のつもりが早くも見つかってしまった俺達。まぁ、見つかってしまったものはしょうがないと割り切り、とりあえずその車両にいた役人はパパっと全滅させた。

 

「こ、こいつらっ!!」

 

そして次の車両でも役人達との戦闘が待っていた。先程と同じように、サンジと二手に分かれて片っ端から倒していく。

 

「このぉ!!」

 

「……霊槍シャスティフォル第二形態"守護獣(ガーディアン)"。」

 

剣を片手に斬りかかってきた役人の攻撃を槍状態のシャスティフォルでギィンと受け止める。剣を大きく振り上げてかかってきた彼の攻撃は、日頃からゾロの訓練に付き合っている俺からすればかなりスキが大きく、太刀筋も読み易かった。そして剣を受け止めた状態でシャスティフォルを第二形態に変化させて彼の顎にアッパーを決める。役人はベコッと頭から車両の屋根を突き抜けてしまった。

 

「サンジ!エレイン!お前ら何でここにいるんだ!?」

 

そして、この車両にはウソップとフランキーが捕まっていた。簀巻きにされた彼らは他の荷物と同じように床に転がされていた。ここにロビンはいないようだ。

 

「あ、サンジさん、ありましたよ電伝虫。何匹かいるみたいです。」

 

「あぁ、よかった。これでナミさん達と連絡がとれる。」

 

「………お前ら、海賊仲間か?」

 

俺とサンジが車両の荷物からこの世界の電話である電伝虫を物色しているとフランキーが話しかけてきた。フランキーの問いにサンジとウソップは揃って「"元"な。」と答えた。

 

「誰だてめぇは。」

 

「…俺はウォーターセブンの裏の顔、解体屋フランキーだ。」

 

ドゴォ!

 

「てめぇがフランキーかクソ野郎!!よくもあん時はウチの長っ鼻をえらい目に!!何枚にオロされてぇんだコラァ!!」

 

「ちょ、ちょっとサンジさん!落ち着いて下さい!!」

 

「待てサンジ!あれから色々あったんだ!!」

 

「……てんめぇ~!縄解けたら覚えてろぉ……!!」

 

フランキーが名乗った瞬間、サンジは彼の顔面の真ん中を思いきり蹴った。さらに追撃を仕掛けようとするサンジを俺とウソップで慌てて宥める。ウソップの様子を見るに、フランキーとはもう打ち解けているようだ。きっと俺は忘れてしまった原作イベントがあったんだろう。うん。

 

そんなゴタゴタがあって、二人の縄を解き、俺達は車両の上にて手に入れた電伝虫でナミと連絡をとった。車両の上なのは役人や海兵に見つかるのを避けるためだ。

 

そして、ナミから事の詳細を聞いた。ロビンが古代兵器を呼び起こす可能性を持っていることも、ロビンが俺達のために政府の言いなりになっていることも。それらは俺にとっては知っている情報だったが、改めて聞くと何かじーんとくるものを感じる。サンジもそれは同じなようで、電伝虫の受話器を握り潰し、やる気がみなぎっている。

 

「よし!このフランキー一家棟梁フランキー!手を貸すぜ!俺もニコ・ロビンが政府に捕まっちゃ困る立場だ!何よりそんな人情話聞かされちゃあ……アウッ!!」

 

フランキーもこの通り協力してくれるようだ。ロビンの話を聞いて涙を流す彼を見て、そういえばフランキーは情にもろいって設定があったなぁ…なんてことをぼんやりと思い出す。

 

「………ウソップさん。」

 

「……俺は……いい。もう俺には関係ねぇし、あれだけの醜態をさらして、どの面下げてお前らと一緒にいられるんだ!ロビンには悪いが、俺は一味をやめたんだ。じゃあな。」

 

俺が座り込んでいたウソップに声をかけると、彼はそう言って後方車両の方に歩いていってしまった。

 

「あ!!見つけた!!」

 

「!しまった!!」

 

俺達がこれからどうするか話し合っていると海兵の一人が車両の上に顔を出し、俺達を見つけた。感づかれたらしい。

 

「"メタリックスター"!!」

 

俺がすかさずシャスティフォルで攻撃しようとすると、後方から飛んできた何かに当たり、海兵はドボンと荒れ狂う海へ落ちてしまった。

 

「……話はすべて彼から聞いたよ。お嬢さんを一人助けたいそうだね。私が力を貸そう!私の名は……"そげキング"!!」

 

「「「………………………」」」

 

俺が振り向くとそこにはトーテムポールのてっぺんのようなキテレツな仮面と赤いマントを装着したウソップが待っていた。

 

「……よし、ロビンちゃん奪回作戦を決行する!」

 

サンジはそんなウソップを華麗にスルーして改めて作戦会議に移る。確かあの姿はウソップの最初の手配書に載る姿だ。とにかく、一味をやめた身であってもウソップは協力してくれるので、俺はその気持ちをくんで今後彼をそげキングと呼ぶことにする。

 

話を戻してサンジが提案したロビン奪回作戦だが、まず全7車両ある内最後尾の車両にて俺達が役人達を挑発し、後方に2車両にできるだけ役人や海兵を集め、その後、その2車両を切り離してしまうというものだった。切り離した2車両は暴走海列車に乗ってエニエス・ロビーに向かうルフィ達の邪魔になるが、そこはあっちで何とかするだろう。

 

「「「ぎゃー!!やられたー!!」」」

 

「それでは皆さん!良い旅を♪」

 

作戦は無事成功し、海兵や役人を大分減らすことに成功した。残りはあと5車両である。

 

「"揚げ物盛り合わせ(フリットアソルティ)"!!」

 

「"ガンパウダースター"!!」

 

「"ストロング右(ライト)"!!」

 

「霊槍シャスティフォル第一形態"霊槍(シャスティフォル)"!」

 

残り5車両の1車両目には役人がわんさかいた。俺達四人は協力して手際よく彼らを倒していく。サンジとそげキングは素手の敵や近くの敵を、フランキーと俺は遠くから銃で狙ってくる敵を倒した。サイボーグであり、正面からの銃弾が効かないフランキーが銃弾を防御し、俺が槍状態のシャスティフォルを飛ばして役人達を倒す。意外にも俺とフランキーはいいコンビになれそうだった。

 

間もなく俺達はその車両の役人達を全滅させた。さて、2車両目に入るわけだが、俺達の目的は一刻も速くロビンを救出すること。わざわざバカ正直に1車両ずつクリアしていく義理もない。と、いうわけで2車両目にいた面白い顔のワンゼとかいうCP7の男はサンジに任せ、俺とそげキングとフランキーは先へ進むことに。

 

そして、同じ理由から3車両目に控えていたネロというCP9の新入りの男はそげキングとフランキーが引き受けた。空を飛ぶことができ、四人の中で最も機動力がある俺は残った2車両の中を窓から覗いてロビンを探した。4車両目には駅で見たCP9の面々がいた。さすがの彼らもこの嵐の中を高速で駆け抜ける海列車の中を外から覗かれているとは夢にも思わなかったようでこちらには気づいていない様子だった。

 

ということで残った5車両目、つまり一番前の車両にロビンは乗っていた。俺はロビンがいることを確認して窓をコンコンと叩く。

 

「エレインっ!?」

 

窓の外の俺の姿を見たロビンは大層驚いた様子だった。彼女は慌てて窓を開け、俺を中に入れてくれた。

 

「なぜあなたがここに!?どうやって乗り込んだの!?」

 

「あはは、大変でしたよ。サンジさんとこっそり最後尾に乗り込んだつもりがいきなり見つかっちゃいまして………わぷっ、えへへ、ありがとうございます。」

 

ロビンは俺に事情を聞きながら、紅茶の台車にかけてあった布でびしょびしょになった俺の髪や顔を拭いてくれた。

 

「さて!ロビンさん!助けに来ましたよ!船長達も、もう一隻の海列車で追いかけて来てるんです!さ、一緒に逃げましょう!妖精族の私にかかればこの列車から逃げ出すことは朝飯前です!四人も抱えて飛ぶのは少し大変そうですが……まぁ、なんとかします!さぁ、はやく準備を……「待って!!」……はい。」

 

「私はあなた達にはっきりとお別れを言ったはずよ!私はもう一味には戻らない!!」

 

「……そうですか。」

 

ロビンは一味には戻らないことを再び俺に告げた。それを聞いた俺は車両の端にある紅茶セットの方にふわふわと移動した。

 

「ロビンさん、紅茶入れましょうか?」

 

「!………お願いするわ。」

 

それはメリー号でいつも俺とロビンがしていたやり取りだった。ロビンが船で本を読み始めると、俺は決まってロビンにそう質問し、ロビンは俺の入れた、美味いか不味いかで言ったらサンジの入れたものの方が断然美味いと言える紅茶を飲む。

 

いつものように紅茶を二人分入れた俺は一杯をロビンに渡し、もう一杯を自分で持ってロビンの正面の座席に座った。いつものように紅茶を二人で飲んでほっと息をつく。

 

「………どういうつもり?」

 

「何がですか?」

 

「私はもう戻らないのよ。あなたは早くここから逃げるべきだわ。妖精族のあなたは見つかれば確実に殺される。」

 

「ふふっ、もう見つかってますよ。」

 

「ならなおさらよ。」

 

俺は紅茶をもう一口こくりと飲み、ロビンの顔をじっと見た。彼女の顔は悲観やら、焦りやら、怒りやら、色んな感情が入り乱れていた。俺はそんな彼女の顔を見てふっと笑って見せた。

 

「ロビンさんがまだ冒険したりないようですので、待ってるんです。」

 

「なっ……!」

 

「どこまで冒険するんですか?エニエス・ロビーですか?ナミさんのお話では、裁判所や正義の門があるみたいですね。」

 

「ふざけないでっ!!私は帰りたいなんて欠片も思ってない!!」

 

「そうですか、困りましたね。」

 

「っ!ここから去りなさい!!私はもうあなた達の仲間じゃないの!!」

 

ロビンのその言葉に、俺はもう一度紅茶を飲んでカップを台車に置き、ふわふわと浮かんでロビンの隣に座る。

 

「私とロビンさんは一緒に本を読みました。」

 

「?何を……」

 

「一緒にご飯を食べました。一緒におやつを食べました。一緒に紅茶を飲みました。一緒に服を買いました。一緒に航海をしました。一緒に冒険をしました。一緒に戦いました。」

 

そう言って俺はロビンの方を向き、もう一度ニコッと笑って見せ、こう言った。

 

「これ以上、何をすればロビンさんと仲間になれるのでしょう?」

 

「っ!!」

 

そんなことを話していると、後ろの車両からドタンバタンと騒がしい物音が聞こえてきた。耳を澄ますとCP9の男と思われる話し声とサンジの怒鳴り声が聞こえてくる。どうやら戦闘を終えたサンジ達がCP9の面々と衝突したようだ。

 

すると、ロビンはすっと立ち上がってスタスタと後ろの車両に向かっていった。

 

「ロビンさん、そっちには行かない方が……」

 

「まだあなたのように、私を救おうとする勝手な人達がいるみたいだから、しょうがないでしょ。」

 

俺が声を掛けると、そう言ってロビンは後ろの車両に行ってしまった。

 

「…………もぅ。」

 

俺はため息をついてロビンの後を追った。ここに来たのがもしルフィ達だったら、もっと上手くやって、無理矢理にでもロビンを連れ帰ったのだろうが、やはり俺では役不足だったようだ。ロビンを説得することはできなかった。

 

「ニコ・ロビン!!貴様何を…!!」

 

「はっ!」

 

「ぶはぁ!?」

 

後ろの車両に向かう途中、まだ一人いたらしい役人を槍状態のシャスティフォルで八つ当たり気味に殴り飛ばし、俺達は後ろの車両に着いた。

 

こうなったらもう、原作通りルフィ達と合流して、エニエス・ロビーで一味全員で戦ってロビンを奪い返すしかないのかな。

 

俺がそんな原作頼りの情けないことを考えているとロビンは後ろの車両の扉を開け、CP9の面々とサンジ達と対面した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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