◆
「ロビンちゃん!良かった!無事なのか!」
ロビンが扉を開け、後ろの車両に向かうとそこではもう戦闘が始まっていた。サンジとCP9のシルクハットの男__かすかな原作知識では確かロブ・ルッチとかいう名前だったはずだ__が火花を散らしている。そこにロビンが登場するとサンジは一先ずロビンの無事を喜ぶ。
だが、そんなサンジを見てもロビンは表情を変えない。サンジやそげキングが一緒に帰ろうと言っても無反応のままだ。きっとこれ以上話しても無駄だと俺は思い、ふわふわとそげキングの下へ行き、小声で話しかける。
「そげキングさん、私とウソップさんが一緒に作った煙玉は持ってますか?」
「え?おぉ、あるぞ。」
「私が彼らの気を引きます。その間にそげキングさんはロビンさんを確保してください。後は後ろの車両を外して逃亡しましょう。」
そうそげキングに言って俺はCP9の面々の方に向き直る。政府関係者だけあって彼らは妖精族である俺に興味津々のようだ。
「………お前、妖精族だな?」
案の定、ルッチがそう話しかけてきた。
「へぇ、わかるんですか?」
俺はとてつもない眼光を向けてくるルッチに内心ビクビクしながらも平常を装ってそう答えた。
「その一見子供のような幼い姿、政府の役人や海兵を容易く倒す戦闘能力、何よりお前から感じる得体の知れない力……すべて政府の資料に載っていた情報に当てはまる。」
さすがの洞察力である。俺がルッチの前でやったことなどロビンの側からそげキングの方へ移動しただけ。たったそれだけでそこまで見抜けるとは、今までの相手とは比べ物にならない。
「本来ならば政府の命により、お前は即刻殺さねばならないが、今回の任務はニコ・ロビンとフランキーをエニエス・ロビーに連行すること。力も未知数のお前と戦い
、任務に支障をきたすわけにはいかない。運が良かったな。」
「それはそれはどうも。ついでにロビンさんを返していただくわけにはいかないですか?」
俺はあざとく、エレインボディを最大限に利用して上目遣いでそう交渉してみる。
「分かりきったことを聞くな。お前に手を出さないこと自体最大限の譲歩だということを忘れるな。」
だというのに、この男はまったく気にも留めず、そう俺に吐き捨てた。こいつ、人の血が通ってるのか?チラリと後ろを見ればサンジとフランキーはいつでも車両の連結を外せる位置にスタンバイしているが、肝心の煙玉役のそげキングはまだタイミングを見てる段階だった。作戦実行にはもう少し大きな隙が必要なようだ。
仕方ない……。
「霊槍シャスティフォル第二形態"守護獣(ガーディアン)"!!」
大きな隙を作るため、俺はルッチに先制攻撃を仕掛けた。第二形態となったシャスティフォルは拳を大きく振り上げ、ルッチに猛突進していく。
ガキィンッ!!
シャスティフォルが放った渾身の右ストレートはルッチの左腕によって容易く防がれた。俺は間髪入れずに左でもパンチを繰り出し、次は右、次は左とインファイトしていく。そのすべてをルッチは的確に防いでいた。
やがてルッチはシャスティフォルの拳をガシッと左手で掴んだ。そして右手の人差し指を立て、右腕を後ろへ引いていく。何かしてくる構えだ。
「霊槍シャスティフォル第五形態"増殖(インクリース)"!」
「!!」
ルッチが右手の人差し指を勢いよくシャスティフォルに向かって突き出した瞬間、俺は素早くシャスティフォルを第五形態に変形させた。無数のクナイとなったシャスティフォルは一瞬にしてザッとルッチの前方周囲に散らばり、ルッチの放った一撃は空を切ることになる。そして俺がパチンッと指を鳴らすとシャスティフォルはズドドドドドと爆音を立ててルッチに向かって一斉に突撃した。無数のクナイに襲われたルッチは座席に勢いよくぶつかる。
「……………"鉄塊"。」
パラパラと破壊された座席の破片や埃が舞う中、ルッチはほぼ無傷の状態で立ち上がった。彼はスーツの一部が破けたり、軽い切り傷ができたりしたものの、シャスティフォルの攻撃を防ぎきったようだ。現に第五形態のシャスティフォルが彼の肩や足に何本か立っているが、すべて刺さりきっておらず、表面上で止まっている。
その防御力は先ほど彼が使った"鉄塊"という技によるものだろう。"六式"という超人的な戦闘技術の一つであり、肉体の強度を鉄レベルにまで高められる技だ。霊槍シャスティフォルの強度は鋼をも上回る。肉体の強度を鉄レベルに高めたところでシャスティフォルは問題なく貫けるはずだが、そこはエニエス・ロビー編におけるラスボスであるCP9。これまで培ってきた技術で防御したのだろう。
「"指銃"!!」
「っ!!」
ズドンッ!!
「「「エレインッ!!」」」
「小娘っ!!」
ルッチが突如俺に向かって突進し、右手の人差し指を俺の胸辺りに突き出してきた。その指を俺がモロに受けたと思ったサンジ達、そしてフランキーが俺の名前を叫ぶ。だが、安心して欲しい。ルッチの一撃は、防御用に忍ばせておいたクナイ状態のシャスティフォルの一つで間一髪受け止めることができた。
「………なぜお前はニコ・ロビンを庇う?」
「……仲間を救いたいと思うのは当然じゃないですか。」
ギリギリと指銃とクナイ状態のシャスティフォルが拮抗する中、不意にルッチが話しかけてきたので俺はそう返した。
「……人間でもか?」
「ええ、もちろんです。あなた方政府こそなぜ執拗にロビンさんを追うのです?」
「すべては正義のためだ。」
「………"正義"………か。……ふっ!」
俺はルッチに"そよ風の逆鱗"を撃ち込んだ。至近距離で突風に襲われたルッチは吹き飛ばされて一瞬体勢が崩れるも、すぐに立て直してザザザーッと床に踏ん張って耐える。
「では、あなた方の掲げる"正義"とは具体的にどういったものでしょう?」
「何?」
「敵を滅ぼせば正義ですか?人々の為に戦えば正義ですか?弱きを助け、強きをくじけば正義ですか?そもそも正義とは何ですか?本当に正しいものなのですか?」
ルッチの言った"正義"という言葉にエレインの身体が、何より俺の心も反応したのか、いつにも増して口が動く。話している内に俺の脳裏にある男の顔が浮かんできた。正義というものに振り回された憐れで浅はかな男の顔、そして甦る幼き日の苦しい記憶。だが、それは今は関係ないと無理矢理その記憶を消し去る。
「人間は、誰しもが"正義"という言葉の正確な定義を知らない。けれども、人間はそれを簡単に掲げ、その名の下に力を振るい、時として命すら奪ってしまう。そんな正義を私は、ただの体のいい免罪符程度にしか考えておりません。あなた方はどうお考えですか?」
「………言ってくれる。」
ルッチに喋りかけながらも、俺は彼の背後でシャスティフォルを操っていた。無数のクナイ状態になっていたシャスティフォルはカチリカチリと集まり、再び一本の神々しい槍となる。
「ルッチ!」
「!」
鼻がウソップのように長く、四角い男がルッチの名前を叫ぶのと、ルッチが振り返るのと同時に俺は槍状態のシャスティフォルをルッチに向かって降り下ろした。ルッチは腕を交差させ、ガキィンとシャスティフォルを受け止める。
「"金風の逆鱗"!!」
「ぐわっ!」
「くっ!」
ルッチの動きを止める俺を危険と判断したのか、CP9の面々が俺に襲いかかってきたので、風の魔力で一面に突風を巻き起こして彼らに圧力をかける。
「そげキーング!"煙星(スモークスター)"!!」
そのスキにそげキングが煙玉を床に叩きつける。ボォンと割れた玉から勢いよく煙が吹き出し、車両全体が煙で覆われる。CP9の視界を封じ、そげキングは煙の中ロビンを確保した。そして、そげキングとロビンが一つ後ろの車両に乗り移ったのを確認すると、サンジとフランキーは車両と車両の連結を切断する。連結が外れたことでCP9の乗る車両とサンジ達が乗る車両はどんどん離れていく。空を飛べる俺は悠々とサンジ達の車両へ乗り移った。
「やったぁ!ロビンを取り戻したぞぉ!!」
「ああ、だが気を抜くな!その辺のザコとは違うんだ。」
作戦成功に浮き足立つそげキング、そんな彼をサンジがたしなめる。相手は政府のエリート組織だ。そう簡単にいくわけがない。俺はロビンを守るように前に立つ。
「なっ!?何だ!?」
その時、ガガガッと俺達の車両に何かが引っ掛かり、ガコンッと前の車両に引っ張られる。見ればCP9の金髪の女性がトゲトゲのムチを何本も俺達の車両に引っ掛け、車両と車両を繋いでいた。そして今度は牛の角のような髪型の大男がそのムチを力一杯引っ張ると俺達の車両は引き戻され、再び車両と車両は連結する。
冗談みたいなパワーだ。本物の牛だってあんな力は出せないぞ。どんな鍛え方したんだあの木偶の坊!
「その手を離してもらうぞ!"粗砕(コンカッセ)"!!」
車両と車両を体一つで連結している大男に対してサンジが脇腹から強烈なかかと蹴りをくらわす。それを大男は"鉄塊"を使って防御する。大男は一瞬ぐらついたが、その手を離すことはない。
よし、ここは………
「霊槍シャスティフォル第三形態____!!」
「"八輪咲き(オーチョフルール)"!!」
「わっ!?」
サンジの加勢をしようとした矢先、俺は突如身体のあちこちから咲いたロビンの手にシャスティフォルごと絡めとられてしまった。
「ちょ…!何で!ロビンちゃん!?」
「何度言わせるの!私のことは放っておいて!!」
俺がロビンにやられたことにサンジは一瞬気を取られてしまった。そのスキをついて長鼻のCP9の男がサンジの顔面を蹴り飛ばす。
「ったくお前らは何やってんだ!!せっかく逃げられるチャンスだろうがぁ!!」
そう言ってフランキーは車両の壁に体当たりし、そのまま壁をバキバキと剥がしてなんと壁ごと押しきって前の車両に突っ込んでいった。彼も結構大概である。でもそのおかげで大男の手が外れ、再び車両と車両は離れ離れになる。
「待って!私は逃げたりしないわ!!」
「待てよロビンちゃん!俺達は全て事情も知って助けに来たんだぞ!!政府の"バスターコール"って攻撃さえ何とかすりゃロビンちゃんがあいつらに従う事はねぇはずだろ!!」
「その"バスターコール"が問題なんだ。」
サンジがロビンを必死に説得していると不意にサンジの背後の空間がまるで丸いドアのようにガチャッと開いた。そして中から牛の大男が現れる。
「"嵐脚"!」
「ぐぁっ!!」
予期せぬ登場にまったく反応できなかったサンジは大男の放った足からの斬撃をまともにくらってしまう。不意を突かれたのはサンジだけでなく俺達も同じであり、そのスキを逃すCP9ではない。俺とそげキングもあっという間にやられてしまい、ロビンは彼に奪われてしまう。
「やめて!私は逃げる気はないわ!それでいいはずよ!!」
「向こうからかかって来るんだ。仕方ない。」
「……じゃあ早くここを離れましょう。」
ロビンはきびすを返し、大男の作った空間のドア入ろうとする。
「……待ってください。」
そんな彼女を俺は呼び止めた。先ほど大男の"指銃"で体を撃ち抜かれたため、俺の呼吸はハァハァと乱れる。そんか中でも俺は彼女を呼び止めた。
「ロビンさん……バスターコールだがウスターソースだか……そんなものは大丈夫……なんて…無責任なことは言いません。……その壮絶さは……あなたが一番よく知ってますもんね……。でもね、ロビンさん……海賊は船長の許可なく…船を降りることは出来ないんです……だから……船長を信じてください……!!」
「!」
「……ふんっ!」
「エレイン!!」
大男が俺を目障りだと言わんばかりの顔で蹴りかかってきた。そげキングが庇ってくれたおかげで俺は蹴られずに済み、代わりにそげキングが脇腹を蹴られて飛ばされ、壁に激突した。
ロビンは大男の空間のドアの彼方へ歩いていった。結局俺はロビンを連れ戻すことができず、原作通りルフィに丸投げするしか出来なかった。そのことが悔しくて俺は下を向いて唇を噛み締める。
「ロビンちゃん!!」
「ムダだ。ニコ・ロビンは協定を破らない。」
「っ!!何でそう言える!!」
一人残った大男はいけしゃあしゃあとロビンの過去について語り始めた。バスターコールによって島をまるごと破壊され、ロビンだけが生き残ったこと。それはあの夜、ロビンが俺に話してくれたことと同じだった。バスターコールはロビンにとってこれ以上ない恐怖。今回その恐怖を俺達に向けることでロビンをつり上げたということをどこか自慢気に話す大男に俺は殺意に近い黒い感情を覚え、彼をキッと睨む。
「……言いたいことはそれだけか。」
「何?」
「胸糞悪いことをベラベラ話しやがって……!!所詮はトラウマを引っ張り出さなきゃ人一人捕まえられない脆弱な人間がハエのように集って何がCP9だ……!!」
最初の頃彼らに感じていた強敵の恐怖など忘れ、俺は彼に怒りをぶつける。それほど俺はロビンを過去をほじくり返し、あまつさえ利用すらした彼らに深い怒りを感じていた。
「待ってろよ……!!間もなく俺達の仲間と船長がお越しになる……!!麦わらの一味が全員揃ったらお前らの正義も大義も何もかも全部ぶっ壊してロビンを取り戻す!!」
「!?」
俺はそう言いながら素早くシャスティフォルを第二形態に変形させて大男に突撃させた。怒りによって俺の魔力が上がっていたのか先ほどよりも速度が上がっており、大男はその予想外の速度に反応が遅れる。
「覚えとけ!!この単細胞木偶の坊!!」
バゴォンッ!!
「があぁっ!!?」
シャスティフォルは大男の顔面を全力でぶん殴り、空間のドアの中に叩き込む。空間のドアはガチャリと閉まり、それと同時にフッと消えた。
「………畜生……。」
一応大男に怒りはぶつけたものの、ロビンを救えなかった事実は変わるわけでもなく、そこに残るのは悔しさと空しさだけだった。