とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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エニエス・ロビー編7・妖精達の強襲

 

 

 

 

 

 

エレイン達の奮闘も虚しく、ロビンをCP9から取り戻すことはできなかった。さらに、あの戦いの後フランキーも捕まり、ロビンとフランキーは手錠を嵌められ、二人とも第一車両に乗せられている。

 

そんな中、列車はもう間もなく目的地に到着しようとしていた。列車の目の前に見える島は現在時刻が夜であるにも関わらず、その島周辺だけ太陽の光が差し込んでいた。あれが列車の目的である"不夜島"エニエス・ロビーである。

 

ルッチ達CP9はその列車の第二車両に乗っていた。ルッチは車両の中で自身の右腕を撫で、苛立ちの表情をする。ルッチが撫でる部位は先ほどのエレインの攻撃によってスーツが切り裂かれ、その下の肌に軽い切り傷ができていた。

 

「しかし、驚かせてくれたのう、あの娘。」

 

「ええ、まさか"鉄塊"を使用したルッチの防御を貫いて、軽傷とはいえ彼に傷を負わせるなんて。やはり妖精族は油断ならない相手のようね。ブルーノも最後に重いのを一発もらったようだし。」

 

最後にエレインのシャスティフォルによる攻撃をくらったブルーノはやられた顔面を押さえ、座席にもたれかかっている。あれだけ強力な攻撃をくらってもその程度で済むのは流石と言った所か。

 

第二車両ではカクとカリファがエレインについて雑談をしていた。そんな中、ルッチは尚も自身の右腕の切り傷を睨み付け、苛立ちの表情を崩さない。

 

「(……何故だ?何故奴はこれ程の力を発揮できる?今まで出会った妖精族とは根本的に何かが違う……。奴は……何者なんだ?)」

 

ルッチはエレインの異常に高い戦闘能力について考えていた。ルッチはこれまで何回か妖精族を抹殺する任務を受けた経験がある。確かに長寿命による深い経験と、異質な魔力を使いこなす彼らとの戦闘は一筋縄ではいかなかったことは事実だが、自身の実力と"六式"という超人的体術で問題なく勝利し、抹殺できる程度だった。

 

だが、あの妖精の少女は違った。まだまだ戦闘に慣れてなく、戦い方にムラがあるものの、それでも他の妖精族の少なくとも倍以上の戦闘力を持っていた。どう考えても異常だった。

 

「………もう一度、政府の資料をチェックする必要があるな。」

 

もしかしたら自分の見落とした情報があるのかも知れない。そう考え、ルッチは前方を見据えるとグッと拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、俺達は遅れて来たルフィ達の海列車ロケットマンに拾われた。そこにはルフィ達だけではなく、フランキー一家の面々や、パウリーという男を初めとする、島の船会社ガレーラカンパニーの職人達の姿もあった。彼らにも事情があり、今回のロビン救出に協力してくれるらしい。

 

そのパウリーが提案した作戦はこうだ。そもそもエニエス・ロビーはほぼ一直線状の構造をしていて、ロビンとフランキーは島の最奥にある"正義の門"へ連れていかれる。正義の門の先は大型の海王類の巣になっており、そこを安全に通過できる手段は海軍しか持っていない。つまり、フランキーとロビンが正義の門を通過するまでがタイムリミットというわけだ。

 

そこでまずガレーラカンパニーとフランキー一家が先行して島へ乗り込み、海兵や役人をできるだけ減らしておき、その後でCP9に勝つ可能性がある俺達麦わらの一味が侵入し、できるだけ対CP9戦のために俺達の余力を残しておくというものだ。

 

即席で立てた作戦としてはなかなか良さげなのでそれを採用することにした。

 

『さぁ、おめぇら島の正面らよ!エニエス・ロビーの後ろの空をよくごらん!!』

 

車内に運転手のココロばーさんのアナウンスが流れた。彼女もまた、今回の作戦に協力してくれるらしい。窓から外を見てみると目の前に大きな塔がある島が見え、さらにその奥にとんでもなく大きな、てっぺんが霞んで見えないほどの巨大な門があった。

 

あれが正義の門……。前世で何回か見たことはあったが、それは紙の上か画面上の話であり、実際にこの世界に立って実物を見ると迫力やら存在感が違う。

 

「おい、エレイン。」

 

「はい?」

 

俺が正義の門に圧倒されていると不意にルフィに声を掛けられた。俺が振り向くとルフィは窓をガラッと開けていた。そして、窓枠に片足をかけて、にししっと笑いながら「行くだろ?」と俺に言った。俺は一度苦笑気味にハァとため息をつき、でもすぐに笑って「はい♪」と返事をした。

 

ルフィは車両からエニエス・ロビーを囲む高い鉄柵まで手を伸ばし、ゴムの収縮力でバヒュンッとエニエス・ロビーへぶっ飛んで行く。

 

「ちょっと待ちなさいよルフィ!エレイン!作戦立てたでしょ!!」

 

「えへへ、ごめんなさいナミさん、もう待てません!」

 

俺はナミにペロッと可愛く舌を出して笑い、すぐさまルフィを追って、皆が後ろでギャーギャー言っているのを聞きながらエニエス・ロビーへ侵入した。皆には申し訳ないが、俺自身、目の前のロビンを救えなかった手前、いても立ってもいられなかったのだ。

 

「おお!すんげー穴ボコ!島が浮いてるみてぇ!」

 

「お待たせしました!行きましょう!」

 

一足先に侵入していたルフィは島に入ってすぐの正門に立っている政府の旗にしがみつき、エニエス・ロビーの内部を見下ろしていた。巨大な司法の塔があるエニエス・ロビーの本島の周りは滝になっており、底が見えない程深い穴が空いている。

 

「侵入者だ!撃ち落とせー!!」

 

「ほっ!」

 

「わっ!……っと!」

 

俺がルフィに合流すると同時に海兵の誰かが俺達を発見し、四方から銃弾が飛んでくる。俺達はそれを軽くかわし、門の向こう側へ降り立つ。そして本島への一本道を爆走し、今度は本島の門へ突き進む。正門もそうだったが、本島の門も大勢の海兵によってかたく守られていた。その海兵達は皆大きなマントを装着しており、質が高いことが窺える。

 

「よっ。」

 

ズドォォンッ!!

 

「「「うげぁ~~~~っ!!!」」」

 

だが、それがどうしたという話だ。確かに脅威ではあるのだろうが、その程度では今の俺達は止められない。俺は軽い掛け声と共に槍状態のシャスティフォルを投降し、第一陣として槍を構えて突進してきた連中を吹き飛ばす。

 

「おりゃーっ!!」

 

「「「ぎゃあぁ!!!」」」

 

俺の攻撃に呆気に取られていた第二陣を今度はルフィが拳と脚で粉砕する。そして第三陣はほぼ相手にせずにかわし、俺は飛行能力で、ルフィは能力を用いてタタンッとあっという間に門の上に登る。

 

「じゃあな!俺達先急ぐからよ。」

 

「後でまた人が来ますので、よろしくお願いしますね。」

 

そう門番の海兵達に一声かけ、俺達は本島へと侵入した。

 

さあ、侵入したはいいものの、言うなればここからが本番である。侵入して真っ先に目に映るのは目の前の巨大な司法の塔。そしてその前のこれまた大きな建物である。ナミから聞いた話からしてあれは裁判所だろう。

 

まあ、そんなことはどうでもいい。それより本島へ侵入した俺達は今、おびただしい数の海兵や役人に囲まれている。俺達がたった二人なのに対し、あっちは一万いるらしい。周りを見渡せば屈強な男達が斧やら銃やら武器を構え、こちらを睨んでいる。

 

「おい、エレイン。ヘマすんなよ。」

 

「もちろん。」

 

敵に怯むことなく俺達は短い会話をし、戦い始める。ルフィはいつも通り拳で、俺は風の魔力を使って、敵に攻撃をさせる暇も与えず、次々に倒していく。

 

「後ろがガラ空きだ!!」

 

「子供にも容赦ないんですねぇ。」

 

ズバンッ!!

 

「がふっ!?」

 

後ろから刀を振り上げる海兵に対し、俺は風を竜巻状に彼の足下にまとめ、そこからまるで刃物を振り上げるかのように勢いよく下から風を巻き起こした。海兵は胸元をバッサリ切り裂かれ、その場に倒れる。この間約一秒だ。魔力の扱いもそこそこ様になってきたなぁと思わず自画自賛してしまう。

 

とはいえ、敵に囲まれている現状では一人倒した所でまたすぐに新しい敵がわいてくる。現にさっきの海兵を倒したと思ったら今度は前方から役人二人がそれぞれ斧と槍を構えて襲ってきた。俺は二人に"そよ風の逆鱗"を撃ち、その勢いを利用して急上昇した。そして空中で槍状態のシャスティフォルを構え、発射するべく右手を後方に引く構えをとる。

 

「よっ…………と!!」

 

そこへルフィの腕が伸びてきた。ルフィはシャスティフォルを掴むと、ピョーンとシャスティフォルに飛び乗り、ガシッと足を絡ませて体を固定した。

 

「にししっ!よしっ!やってくれ!!」

 

「しっかり掴まってくださいね!」

 

ルフィが拳をガッと合わせ、準備万端なことを確認して、俺はシャスティフォルをルフィごと、前方の敵が多数固まっている場所へ発射した。シャスティフォルはドリルのように縦回転しながら突き進んでいるため、それに乗っているルフィも高速回転している。その中でルフィは"ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)"を放つ。ルフィを乗せたシャスティフォルは前方の広い範囲の敵を蹴散らしながら突き進んでいく。

 

「「合技"ゴムと槍の暴風雨(ラバースピアストーム)"!!」」

 

「「「ぎいやああああ!!!」」」

 

シャスティフォルはおよそ200人程敵を吹き飛ばした辺りで速度を緩め、そのタイミングでルフィはシャスティフォルから後ろへ飛んで降りた。そして次の瞬間シャスティフォルは爆発するかのように第五形態へ変化し、高速で飛び交う無数のクナイ状のシャスティフォルによって最後の全体攻撃が仕掛けられ、敵はさらにざっと100人近く減ることとなった。

 

「今だ!!あの妖精を狙えっ!!」

 

ドォンッ!ドォンッ!ドォンッ!!

 

「!しまっ……!!」

 

シャスティフォルが俺から離れた瞬間を狙い、相手は四方八方から大砲を撃ってきた。ドガァァンッ!!と無防備な俺の体を無慈悲にも凄まじい爆風が包み込む。

 

「へへへ………。っ!?」

 

得意気に空中の爆風を見つめる海兵だが、その笑みはすぐに消え、困惑の表情が浮かび上がる。ボンッ!と爆風が吹き飛び、中から周囲をジャララララと高速回転する無数のクナイによって守られた俺が現れたからだ。俺は空中で足を組み、頬杖をついてまるで女王様のような姿勢で彼らを見下ろし、「なんちゃって♪」と笑う。

 

「バ、バカな……、あの槍と奴はかなり離れていたはず……!」

 

「あの距離の槍を一瞬で引き戻したってのか!?」

 

確かにかなり遠くへ飛ばしてしまったシャスティフォルだが、あの程度ならまだ俺の魔力操作範囲内なのだ。一瞬で自分の手元に戻すことくらい造作もない。というか、こんな敵地のど真ん中で大事な得物を手放す程俺はバカじゃない。

 

「ここは我々法番隊の出番っ!!」

 

そんな中、敵の中から何人か犬に跨がった男達が飛び出した。彼らは犬の脚力を利用した軽く素早い身のこなしで建物の壁を蹴り、俺のいる空中に飛び出すと両腕に装着した長い爪のような刃物を振り、高速回転する第五形態のシャスティフォルの壁を破ってみせた。彼らの刃物で弾かれた無数のクナイが宙を舞う。

 

「!まさか……!!」

 

「はっはーっ!!」

 

壁を破った彼らは得意気に笑い、勢いそのままに俺に突進しながらもう一度刃物を振り上げた。このまま俺を斬りつけるつもりらしい。

 

そんな彼らの後方で先程弾かれたクナイ、そして今まで俺を守っていたクナイが瞬時にカチリカチリと集まり、元の槍状に戻る。

 

「なんちゃって♪」

 

バコォンッ!!

 

「「「ぐあっ!?」」」

 

槍に戻ったシャスティフォルが一振りされると一瞬にして彼らは地面へたたきつけられる。犬に乗った彼らは地面に激突してダメージを受けるも、その身のこなしで体勢を立て直し、こちらを睨む。同じく海兵や役人も空中の俺を睨み、各自銃やら大砲やらを構えている。

 

「ほっ!」

 

チュドドドドドドッ!!

 

「「「があぁぁあああっ!!!」」」

 

それらが発射される前に俺はシャスティフォルを再び第五形態へ変形させた。そして俺がパチンッと指を鳴らすと無数のクナイが地上の彼らに雨のように降り注ぐ。辺りの敵を一掃できたことを確認して、俺は一度地上近くまで降りる。そしてその場でふわふわ浮きながらん~っ!と伸びをした。

 

「さて!準備運動も済みましたし、そろそろ……」

 

そう言いながら俺はまだまだ残っている敵の集団に目を向けた。ルフィはいまだ戦い続けているものの、エニエス・ロビーの兵力も並大抵ではなく、まだまだ数は多い。とはいえ、彼らは可愛いエレインの顔を向けられたというのに、すっかりひるんでしまっているようだ。俺が目を向けると彼らは額に汗をかき、ザッと一歩後ずさる。

 

「……ペース上げていきますか。」

 

そう言う俺の後ろには、突如巨大な植物が生える。メキメキと音を立てて育つ植物の先端についた蕾はキュゥゥンと光を吸収し、やがてブワッと敵に向かってその蕾を開く。

 

「霊槍シャスティフォル第四形態"光華(サンフラワー)"!」

 

ズドドドドッ!!

 

「「「ぎゃあああああっ!!!」」」

 

そして植物状のシャスティフォルの花弁から無数の光弾が彼らに降り注ぎ、その強力な火力によって辺りは地獄と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ。ふー…。」

 

あの後もしばらく戦い続け、減らしても減らしてもキリがない敵にウンザリしてきた頃、ゾロ達が突撃してきたようで、戦力がそちらの方へも流れ始め、こちらの戦力が減った。それによって俺達はだいぶ楽に進むことができ、ようやく裁判所の上にたどり着くことができた。後は目の前に見える司法の塔へ侵入してロビンを取り返すだけだ。

 

「"空気開扉(エアドア)"。」

 

いざ司法の塔へ乗り込むべく、クッション状態のシャスティフォルにルフィを乗せ、離陸準備を進めていた所に、あの大男が現れた。奴は例の空間移動技術で俺達の前に現れ、俺達が今している行為は世界的な大犯罪だということを親切に教えてくれた。また、六式の達人であるCP9と戦っても無駄だということも理詰めの説明で丁寧に教えてくれた。

 

だけど、そんなことはもう分かりきったことだ。ナミから話を聞いて、ロビンを助けようと決めた時から覚悟していたことだし、俺は拙いながらも原作知識を持ち合わせているため、その辺の事情もある程度理解できる。でもそれだけだ。理解はできるけど納得はできない。ロビンを助けたいからここに来たんだ。俺達は。

 

だいたいそんな骨格が歪んだ顔でペラペラしゃべられても説得力がない。どうしたのその顔?誰にやられたの?

 

「……………(スッ」

 

「エレイン、俺がやる。手ぇ出すなよ。」

 

「……はーい、船長。」

 

俺がシャスティフォルを槍状態にし、大男に向けて戦闘体勢をとると、ルフィは俺を右手で制し、そう言った。俺はその指示に従い、シャスティフォルをクッション状態に戻してポフッと腰かけ、下がった。

 

その直後、二人の戦いは始まった。開始直後、強力なパンチ攻撃を仕掛けるルフィ。それを大男は"鉄塊"で防御しようとするが、ルフィの攻撃の威力を防ぎきれず、ダメージを受けて後ずさる。その顔には困惑の表情が浮かんでいた。

 

「世界がどうとか、政府が何だとか。勝手にやってろ!俺達はロビンを取り返しに来ただけだ!!」

 

「………ヒュー♪」

 

我らが船長の熱いセリフに俺は思わず口笛を吹いた。その後、二人は壮絶な戦いを繰り広げた。両者一歩も引かず、互いに技を連発していく。互いに出し惜しみをしないので、俺は大男の使う六式をよく観察することができた。"指銃"、"鉄塊"、"月歩"、"嵐脚"、"紙絵"、"剃"。そのすべてを大男は適材適所でルフィに繰り出していた。

 

その六式を観察していく中で、俺は"鉄塊"という技に注目した。その理由は特になく、強いて言えば何か引っかかるものを感じたというべきか。ぶっちゃけ他の技はどういうメカニズムで成り立っているのかさっぱり分からなかった。一応原作知識から"剃"という技は発動の際に地面を10回以上蹴ることで爆発的な速度で移動できる技ということは知っているが、その時点でおかしい。物理法則を完全に無視している。発動の瞬間を捉えようにも、速すぎて見えない。

 

だが、"鉄塊"という技は海列車から何度も見ていることもあって、何となく分かりそうな気がする。何かこう、あと一つピースがあれば俺も習得できそうな……。

 

「"ギア2"。」

 

そんなことを考えていると、二人の戦いは第2ラウンドに入った。ルフィが足をポンプのように動かすとルフィの体に赤みが増し、体全体から蒸気が吹き出す。血流の流れを加速させて身体能力を高める"ギア2"という技だ。

 

「"ゴムゴムのJET銃(ピストル)"!!」

 

ズドォッ!!

 

「ぐあっ!?」

 

ルフィがギア2状態になったことで流れは完全にルフィのものとなった。ルフィは"剃"を使って移動し、大男を翻弄しながら強烈な攻撃を繰り出していく。大男はルフィを必死に捉えようとするもまったくついていけないようだ。

 

やがて大男はこのままでは不利と判断したのか、例の空間移動技術で姿を消した。辺りには静寂が訪れる。その間、俺は自分の右手をじっと見つめ、"鉄塊"について考えていた。

 

俺の目に狂いがなければ、"鉄塊"をしようするとき、彼らは基本その場に立ち止まり全身に力を込める。その行動から読むに、恐らく"鉄塊"は全身の筋肉に力を込め、そこにさらに何らかの力を加えることで完成すると思われる。その何らかの力が分からない。単なる気合いなのかそれとも技術なのか。その辺を長い訓練で学んでいくのだろう。

 

ここである仮説を立てる。もし"鉄塊"をこのエレインボディで使おうとした場合、彼らのような超人的な筋力は持ち合わせていないが、膨大な魔力ならある。その魔力を身に纏えば、皆無な筋力や謎の技術やらを補って完成させることができるのではないか?

 

………かなり暴論で理屈も何も合っていないことは分かっている。だが、この先ルフィ達と海を渡っていくにあたって、エレインとキングの力だけでは物足りない気がする。そもそもその二人の力だってまだまだ引き出せてないわけだし。だから、手に入れられそうな力は極力手に入れておきたいのだ。

 

それに根拠も一応ある。七つの大罪原作において、グリアモールという聖騎士がいる。彼の魔力"障壁(ウォール)"は"鉄塊"に勝るとも劣らない防御力を持っていた。また、魔神族は闇の魔力を体の表面上に纏うことで強固な防御力を得ることができていた。

 

つまり、程度に差があれど、魔力で防御力を得ることは十分に可能なのだ。それならば試してみない理由はない。善は急げと俺は魔力を右手に集めてみた。すると、膨大な量の魔力が集まったことで右手は薄く輝きだす。

 

「あとはこれで体の表面を………」

 

次は集めた魔力で手始めに右手全体を覆うように魔力を操作する。ゆっくり、ゆっくり………

 

ボッ!

 

「へ?あっ、えっ!?」

 

順調に魔力を操作できてると思ったら、突然魔力が右手から溢れ出し、俺の体の周囲を小さな竜巻のように回りだした。薄く緑がかった純白の魔力の光は俺の周囲でぐるぐると渦をまいており、その様はまるで七つの大罪原作のメラスキュラの体の周囲の闇の魔力のようだ。

 

「"ドアドア"!」

 

「エレイン!後ろだ!」

 

「っ!」

 

予期せぬ魔力の動きに戸惑っていると、俺の背後から消えていた大男が現れ、俺に襲いかかってきた。ルフィには敵わないと見て、せめて俺だけでも始末する心づもりらしい。考え事に耽っていた俺は完全に不意を突かれた。

 

フッ!

 

「なっ!?」

 

「へ?」

 

だが、俺に突進してきた大男は俺の周囲の魔力に遮られ、竜巻を巻いていた魔力はその流れで大男を受け流した。

 

「"JETスタンプ"!!」

 

「ぐっ!?」

 

魔力に受け流され、地面に不時着した大男をすぐさまルフィが強襲。が、大男はルフィの攻撃を何とかかわし、二人は距離をとって再び対峙する。

 

これは……思っていた感じではないが、思いがけずなかなかいい防御技ができた。体の周囲に風の魔力を纏うことで、"鉄塊"のように攻撃を受け止めるのではなく、相手の力を利用して受け流す。"風壁(ウィンドカーテン)"と言ったところか。これはどうやら発動中は絶えず魔力を消費し続けるようなので、出しっぱなしにはできない。

 

「"ゴムゴムのJETバズーカ"!!」

 

「"鉄塊・剛"!!」

 

ズドンッ!!!

 

俺が"風壁(ウィンドカーテン)"を解除すると、丁度決着がついたようだった。ルフィの攻撃は大男のどてっ腹に命中し、大男は"鉄塊"で受け止めたが、威力を殺しきれずにダメージを負い、その場にドサッと倒れた。

 

しかし、危なかった。新しい技が成功したからいいようなものの、一歩間違えばあの大男に確実にやられていた。ここにきて俺の戦闘経験の浅さが出始めている。今後気をつけていかねば。

 

「船長、体は大丈夫ですか?」

 

「あぁ、けどすげぇ疲れた。まだ体がついていかねぇみてぇだ。」

 

左手をグッ、グッと握ったり開いたりしながらルフィはスタスタと司法の塔の方へ歩く。この裁判所と司法の塔の間には滝壺があり、橋も何もかかっていない。

 

「でも、今はいいや。体なんか。」

 

ルフィは裁判所の端に立つと、すぅっと深く息を吸い、叫んだ。

 

「ロビ~~~~~~ン!!迎えに来たぞぉ~~~!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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