とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

28 / 44
エニエス・ロビー編8・妖精の気持ち

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィがあの大男を倒した後、すぐにナミ、チョッパー、ゾロ、サンジ、そげキングが俺達に追いついた。全員集合した俺達麦わらの一味は裁判所の端に立ち、司法の塔のベランダに立つCP9、そして、フランキーのおかげで拘束から逃れこの場にいるロビンを見上げる。

 

「私には海をどこまで進んでも振り払えない巨大な敵がいる!私の敵は『世界』とその闇だから!青雉の時も!今回の事も!もう二度もあなた達を巻き込んだ!これが永遠に続けばどんなに気のいいあなた達だっていつか重荷に思う!いつか私を裏切って捨てるに決まってる!それが一番恐いの!!」

 

遠所遥々ロビンを助けに来た俺達。が、ここでロビンの過去が邪魔をする。幼い頃経験したバスターコールの地獄、そして20年間の逃亡生活からの恐怖が彼女にこびりついており、俺達が伸ばす手を彼女は取ることができない。

 

「いつか落とす命なら!私は今ここで死にたいッ!!」

 

悲痛な叫びを上げるロビンに、俺は顔をしかめた。これ以上、彼女が苦しむ姿を見ていたくなかった。同時に彼女の叫びを笑う、顔に変なものをつけた誰か___フランキーはスパンダと呼んでいたから多分そうなんだろう___の声も聞こえてきて、体が震える。早く彼らを倒したい、そして早くロビンを救いたい。そういった戦闘欲が湧いてくるのを肌で感じた。

 

「……ロビンの敵はよーく分かった。そげキング、あの旗撃ち抜け。」

 

「了解。」

 

ルフィが指示を飛ばすと、そげキングは肩に担いでいた巨大なパチンコを構え、炎の鳥の形をした弾を発射した。炎の鳥は司法の塔のてっぺんにある政府の旗へ真っ直ぐ飛び、旗のど真ん中を撃ち抜いた。中央に大きな穴が空いた旗は勢いよく燃え上がる。

 

「正気か貴様ら!!全世界を敵にまわして生きられると思うなよ!!」

 

「望むところだぁーーーーーー!!!」

 

ルフィがそう雄叫びを上げた。もちろん、俺達全員同じ思いだ。その覚悟はとうの昔に出来ている。

 

「ロビン!まだお前の口から聞いてねぇ!!生きたいと言えぇ!!」

 

「………っっっっっ!!生ぎたいっ!!私も一緒に海へ連れてって!!!」

 

やっと聞けたその言葉に俺達はニッと笑う。その時、ガコンッと音を立てて裁判所から司法の塔へ続く跳ね橋が下り始めた。フランキー一家、そしてパウリー達がうまくやってくれたらしい。

 

ズドォン!!

 

が、しかし、跳ね橋は半分まで下りた所で、大砲か何かを撃たれて止まってしまった。また、その間司法の塔でも揉め事が起き、フランキーがスパンダに突き落とされ、空中へ放り出された。そのフランキーは俺がシャスティフォルを飛ばして迅速に救出する。

 

「た、助かったぜ小娘。」

 

「どういたしまして。さて、皆さん。こうなったら私がシャスティフォルであちらまで直通便で飛ばしますので、掴まって下さい。」

 

「待ってエレイン!ココロさんから連絡が……!」

 

俺がシャスティフォルを槍形態に変え、司法の塔へ狙いを定めているとナミの持つ電伝虫が鳴った。そのココロばーさん曰く、滝に向かって飛べとのことだ。

 

ポッポーッ!!

 

「!この音は海列車の……ってわっ!?」

 

「行くぞっ!!」

 

ルフィは腕を伸ばしてその場の全員を連れ、言われた通りに滝へと飛び込んだ。すると裁判所からなんとロケットマンが走ってきて、半分までかかった橋を発射台のように飛び、ちょうど落下中の俺達を連れてドゴォンッ!と司法の塔へ突っ込んだ。ちなみに、空を飛べる俺は空中で列車をするりとかわし、ふわふわと安全に侵入した。

 

「エレイン!ズルいぞ!俺達はこんな突入させられたってのに!!」

 

「あはは、すみません。そんなことより早くロビンさんを……」

 

「待て。」

 

何はともあれ無事司法の塔へ侵入した俺達がロビンの下へ向かおうとすると、誰かから声を掛けられた。声がした方を向くとそこにはCP9の一人である丸っこい体の男が壁に張り付いていた。

 

「チャパパパパ!侵入されてしまったー。さっきの部屋に行っても、もうニコ・ロビンはいないぞ!ルッチが正義の門へ連れてったからな。」

 

その男は何故かチャックの付いた口を動かし、ペラペラと状況と、CP9側の作戦を説明する。司法の塔内部には彼を含めてCP9が五人いて、それぞれがロビンの手にかけられた海楼石の手錠の鍵を一つずつ握っている。しかも、その鍵の中で本物は一つだけ。つまり、俺達はCP9の面々を倒して鍵を奪い、その鍵をロビンの手錠で試して本物を見つけなければならない。こうしている間にもロビンは正義の門へと連行されているので、チンタラやってる暇はない。周到な時間稼ぎだ。

 

「しかし、ロビンさんの方が事を急ぐのでしょう?ならば、鍵はロビンさん自身を迅速に回収した後で良くありませんか?」

 

「チャパパパパ、お前頭いいな。でもそんな事したら鍵なんか海に捨てちゃうぞ!」

 

そう言い捨て、その男は"剃"を使ってその場から消えた。何がなんでも相手方は俺達と戦いたいらしい。時間的にも一人のCP9相手に大人数で畳み掛ける戦法もNGだ。個人個人がCP9と対峙し、手分けして鍵を集める他ない。

 

「このっ!待てぇ!!」

 

「おい待て!お前が待て!!」

 

男を追って走り出すルフィをゾロが頬っぺたを掴むことで止める。戦いの前にそれぞれの動きを確認する必要がある。じたばたと暴れるルフィを俺がシャスティフォルの第ニ形態で押さえつけ、俺達はその場で作戦会議を開く。

 

会議とは言ってもすでにやれることは限られているので、全体の動きの確認だけだ。ルフィがルッチと戦うのは当然として、残る俺達は五人のCP9から鍵を五本手に入れてルフィを追う。ゾロとサンジと俺とフランキーは単独で行動し、近距離での戦闘を得意とするチョッパーは遠距離型であり近距離における火力が足りないナミとそげキングのどちらかと組んで戦う。そんな流れになった。

 

俺の力を評価してくれているのか、俺は単独組に分けられてしまったが、実を言うと俺はCP9と一人で戦うことに不安を感じていた。もちろんロビンのために命をかけて戦う覚悟は自分なりにがっちり固めてきた。とは言っても俺は所詮本物の戦いを知らない青二才。いくらエレインとキングの魔力を手にしたとしても、戦いのプロであるCP9を相手に中身が俺ではいささか力不足ではなかろうか。そんなことを考えていた。

 

エニエス・ロビーに侵入する前、ロケットマンの車両の中で俺はその旨をゾロに打ち明け、相談していた。すると「一つ島を越える度、俺達は全員知らず知らず力を上げてる。お前も行く島々で毎度死線を越えて来てんだ。自信を持て。」と熱い激励を頂いた。

 

「全員死んでも勝て!!」

 

「「「おう!!!」」」

 

俺達は司法の塔内部へ突入し、各自CP9を探して散る。クッション状態のシャスティフォルを脇に抱き、塔の内部を高速で飛行しながら俺は自分の胸に手を当てる。

 

大丈夫。力なら充分備わっている。後は実戦でそれを俺自身がどれだけ効果的に使えるかだ。大丈夫。俺ならできる。

 

そう自分に言い聞かせ、緊張を和らげながら俺は塔内部を飛び回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降りたり昇ったり、俺はあちこち飛び回ってCP9を探した。が、相当巡り合わせが悪いのか一向に誰とも出会わない。すでにあちこちでドゴォンだのドズゥンだの爆音が鳴っていて、他の皆はそれぞれ誰かと戦っているようだ。

 

「まずい…。私も早く戦わないとロビンさんが……。ん?あれは?」

 

少々焦りながら一階を飛行していると、遠くにナミらしき人物を見つけた。何かから逃げるように壁に身を寄せる彼女だが、その背後にはガタイのいい、赤みがかった長髪を持つ怪しげな男がいて、次の瞬間その男はしゅるしゅると髪を自在に操ってナミの手足を拘束した。ヤバイ!

 

「霊槍シャスティフォル第一形態"霊槍(シャスティフォル)"!!」

 

ドズゥン!!

 

「びょ!?」

 

俺が放った槍形態のシャスティフォルは見事彼の腹部ど真ん中に命中した。手応えから咄嗟に"鉄塊"を発動したようだが、シャスティフォルの強度は鋼をも上回っている。そのため防御しきれず、シャスティフォルの刃はそこそこ深く彼に刺さり込んだ。俺の一撃を受け、男は後ろの壁まで思い切り吹っ飛ばされる。そのおかげでナミは髪の拘束から抜け出すことができた。

 

「ガハ!ケホッ!ケホッ!……ハァ……ハァ……」

 

「ナミさん!ご無事ですか!!」

 

「ハァ……ありがとうエレイン。助かったわ。今の内にここを離れましょう!」

 

「え?でも鍵は……」

 

「これでしょ!」

 

ナミは俺にあの丸っこい男が持っていたものと同じ鍵を出した。

 

「鍵だけは気づかれないようにスッたの!皆の状況分かる?」

 

「いえ、見かけたのはナミさんだけですけど。」

 

「おーい!ナミ!エレイーン!」

 

俺とナミが逃げながら話しているとそこにチョッパーが合流した。チョッパーから状況を聞くとゾロとそげキングが大変なことになっているらしい。少し手違いがあってなんと二人の手首が海楼石の手錠で繋がってしまったらしい。そしてその手錠を外すにはCP9の誰かが持っている2番の鍵が必要なのだそうだ。ナミがあの男からスッた鍵は3番。必要なのはこれじゃない。

 

ドカァンッ!

 

「ひゃっ!?」

 

「何!?」

 

「人形!?」

 

俺達三人が並んで走っていると上から何かが落下してきて、それは丁度俺達の目の前に着弾した。その物体は人の形をしているものの、全身がピカピカのツヤツヤで不自然に体の凹凸がない。まるでガラスの工芸品のようだった。

 

「サンジ!?」

 

「どうしたんですかこの体!?」

 

よく見るとそれはサンジだった。CP9の誰かに敗北し、こんな姿にされてしまったようだ。サンジが落ちてきた方を見上げると、階上からメガネをかけた金髪の女性のCP9がこちらを見下ろしていた。

 

「……サンジ君、まともに戦った?」

 

その女性を見上げたナミはサンジにそう問いかけた。日頃から女性に甘いサンジは果たしてあのCP9とまともに戦って負けたのか。ナミはそう疑問に思ったのだ。

 

「俺は死んでも女は蹴らん!!」

 

それに返ってきた答えがこれだ。その堅固な騎士道に俺とチョッパーは「おお」と思わず詠嘆の声を漏らす。

 

とにもかくにも、あの女性の能力で戦闘不能になったサンジは一時休戦だ。サンジの代わりにあの女性の相手はナミが務めることになった。

 

「よよい!逃がしてぇ~なるものぉ~か~!!」

 

「よし!あの男の相手は私がします!チョッパーさんはフランキーさんの所へ行ってみて下さい!鍵を手に入れているかもしれません!」

 

「分かった!」

 

追いかけてきたあの長髪の男の前に俺が立ち塞がる。チョッパーはフランキーを探して、より機動力のあるトナカイ型の獣型となり、塔の内部へ消えていった。

 

「生命帰還"髪縛り"!」

 

「っ!!」

 

ついに始まったCP9との戦闘。先手必勝とばかりに長髪の男__戦いが始まる前にクマドリと名乗っていた__は俺に向かってしゅるしゅると髪を伸ばしてきた。俺はそれを空中に飛び上がることで回避する。俺はクマドリの髪をかわしながら彼の後ろへ回り込み、シャスティフォルを槍形態に変形させる。

 

「はっ!」

 

「よよいっ!」

 

俺が後方から放った槍の一撃をクマドリは俺よりも高く跳躍することで回避した。空中へ飛び出したクマドリは"月歩"を使って俺の真上に移動し、持っている長い杖の先を、親指と人差し指で作った輪っかに通した。

 

「"指銃Q"!!」

 

ボッ!!

 

「わっ!?」

 

クマドリはその体勢から杖をモリ突き漁のモリのように発射した。俺は何とかその攻撃をかわし、杖は床に激突する。床は杖によって真ん丸の穴が開いており、その穴の周りには一切の無駄な破壊がない。パワーが一点に凝縮されている証拠だ。

 

「"Q"!"Q"!"Q"!」

 

その杖の一撃をクマドリは連発してきた。俺は空中を飛び回ってそれらを何とかかわしていく。

 

「くっ!第ニ形態"守護獣(ガーディアン)"!!」

 

「"Q"!」

 

ズボッ!!

 

第ニ形態に変化したシャスティフォルはクマドリに殴りかかる。が、巨体の熊のぬいぐるみとなったシャスティフォルはクマドリにとってはいい的であり、彼の杖の一撃はシャスティフォルの胸の部分に命中し、杖は背中側に突き抜ける。

 

「はっ!」

 

ガンッ!!

 

「ごっ!?」

 

が、シャスティフォルはそんなことは気にもとめずクマドリに突進し、杖に貫かれたまま渾身の右ストレートをクマドリに決めた。さすがにこの行動は予想外だったのか、クマドリは"鉄塊"も張らずにまともに受け、背後の壁にぶち当たる。

 

よしっ!いける!

 

そう意気込み、俺はシャスティフォルを第五形態に変化させて追撃を決めようとする。

 

しゅるしゅるっ!

 

「なっ!?しまった!」

 

しかし、立ち込める煙と埃の中からクマドリの髪が素早く伸びてきて、たちまち俺を拘束してしまった。

 

「よよいっ!生命帰還"獅子指銃"!!」

 

ドンッ!ドンッ!

 

「っ!?」

 

煙から姿を現したクマドリは髪をざわざわと操った。すると髪の毛でできた手がたくさん出来上がる。その手は人差し指を立てた形をしており、次の瞬間それらが一斉に俺に襲いかかってきた。俺は咄嗟に第五形態となっていたシャスティフォルで防御を試みる。が、実際受け止められたのは半分ぐらいで、残りの半分は俺の体に突き刺さった。

 

「しっ!!」

 

強烈な痛みが走るが、ここで退くわけにはいかない。俺は無数のクナイ形態のシャスティフォルを用いて素早く髪の拘束を切り、一旦距離をとる。

 

「"剃"!」

 

「"そよ風の逆鱗"!!」

 

すぐさまクマドリは距離を詰めてきた。それを止めるべく、俺はクマドリに向かって突風を放つ。

 

「ぃよいっ!!」

 

ゴンッ!!

 

「がっ!?」

 

しかし、"剃"の驚異的な加速によって風は切り裂かれてしまい、俺はクマドリのパンチをもろに喰らって、今度は俺が壁に叩きつけられた。俺はゲホゲホと血を吐きながらも痛みをこらえて立ち上がる。

 

「ハァ……ハァ……」

 

強い……。分かってはいたけど今までの相手とはレベルが段違いに違う。その強さの何よりの原因はやはり"六式"。あれのせいで生半可な攻撃は通じないし、一発一発の攻撃が重く、速く、鋭い。おかげでこっちは上手く追撃が決まらなくてイライラしているのに、あっちの攻撃は一撃受けただけでも大ダメージなんていう状況ができている。クマドリには風の魔力はほとんど通じない。シャスティフォルの攻撃なら充分通用するものの、上手く連続して攻撃を当てないとダメージは見込めない。現にもう何発か攻撃を喰らっているクマドリだが、あまり苦しそうではなく、ダメージを感じさせない。海列車ではルッチに対して上手く連撃を決めることができたが、あれは恐らくシャスティフォルの攻撃が初見だったからだ。ルッチによって俺の情報はCP9に渡っているだろう。だからクマドリに上手く連続攻撃ができないのだ。

 

「ハァ……ハァ……ぺっ!」

 

なんて、考えていたって始まらない。とにかく、自分ができることをするだけだ。そう自分に言い聞かせ、口に溜まった血を吐き出すとシャスティフォルを槍形態に変え、クマドリに飛ばした。クマドリはそれを後ろへ弾き返し、楽々防御する。

 

よしっ!今だ!

 

シャスティフォルを弾いたことで胸を開いたクマドリには一瞬スキが生まれる。そこを狙って俺は風の魔力を放った。"そよ風の逆鱗"のように風で圧力をかける技は通用しない。だから俺が放った魔力は鋭利な風となってクマドリに襲いかかる。

 

「"鉄塊"!!」

 

キンッ!

 

「っ!」

 

ちっ!これでもダメか。これじゃあ本格的に風の魔力は通じないな。シャスティフォル一本でこの場を乗り切るしかない。

 

「霊槍シャスティフォル第五形態"増殖(インクリース)"!」

 

クマドリの背後に落ちたシャスティフォルが浮き上がり、すぐさま無数のクナイ形態に変形する。そしてそのままクマドリの背中目掛けて突撃した。

 

「むんっ!」

 

しゅるしゅるっ!

 

「なっ!?」

 

だが、なんとクマドリは髪の毛を繊細に尚且つすばやく操作して無数のクナイ達をすべてキャッチしてしまった。

 

「よよいっ!お前ぇさんの力っ!とくと見させてもらったぁ~!!この槍さえ封じてしまえぇ~ばぁ~!恐るるに能わぁ~ず!!」

 

「っ!」

 

ヤバイ、かなりヤバイ。風の魔力が通じない今、唯一の対抗手段であるシャスティフォルさえもクマドリは対応してきた。戦いの流れを完全に握られている。

 

「どっせぇ~い!!」

 

ドコッ!!

 

「ぐっ!!」

 

シャスティフォルを失い、無防備となった俺の腹にクマドリの蹴りが命中する。俺は蹴り飛ばされて床をゴロゴロと転がった。

 

「っ!」

 

倒れ込んだ俺はすかさず手をシャスティフォルへ向ける。クマドリの髪に捕まった無数のクナイ達一つ一つが高速回転し、拘束から抜け出た。そのクナイ達が集まり、クマドリの頭上で、組んだ両手を振り上げた第ニ形態に変形する。

 

「よいっ!はっ!」

 

「わっ!?」

 

降り下ろしたシャスティフォルの拳をクマドリはがっしりと掴み、そのまま俺に向かって投げた。シャスティフォルは俺に当たる直前で停止し、ザッと再び第五形態に変化する。

 

「"嵐脚『蓮華』"!!」

 

「あぐっ!!」

 

が、俺の目の前に張ったクナイの壁はクマドリが足から放った斬撃によってパァンと弾き飛ばされる。斬撃はシャスティフォルを弾いただけではなく、俺の肩もズパァンと切り裂いた。着ていたメイド服が血に染まっていく。幸い、当たったのが胴に近い所だったので腕はまだ繋がっている。

 

「"指銃Q"!」

 

「うっ!」

 

倒れている俺に追撃が飛んできた。俺は傷だらけの体にムチを打って飛んでかわした。

 

そこからの戦いは、飛んで必死に逃げる俺をクマドリが追うという一方的なものになった。なんたって俺には彼に対する有効打がない。風の魔力は通用せず、シャスティフォルも対応され、もう彼には通じない。今も逃げながらシャスティフォルで攻撃しているが、どれもあの自在に動く髪で防がれてしまう。

 

「生命帰還"髪縛り"!!」

 

「"風壁(ウィンドカーテン)"!!」

 

伸びてきたクマドリの髪を風の防御で受け流す。

 

そろそろ逃げ回るのも限界に近い。俺自身の消耗もそうだが、それ以上に俺の移動パターンさえもクマドリは把握してきた。シャスティフォルへの対応スピードといい、やはり戦い慣れしていない俺の動きは単純で、CP9にとっては読みやすいものなのだろうか。

 

「"剃"!!」

 

ゴッ!!

 

「あぐっ!!」

 

逃げる俺の背中にクマドリは加速をつけて膝蹴りをかました。俺は床に墜落し、ゴロゴロと床を転がって壁に激突した。

 

「……ガフッ……!」

 

満身創痍で倒れる俺をクマドリは一切の容赦なく髪で縛り上げる。俺の体は空中に持ち上げられ、十字架のように拘束された。首にも髪が巻き付いているので息も苦しい。

 

「あっ………!がっ………!」

 

「木枯らし吹くこの今生でぇ~!春の芽吹きを待つも叶わず大往生!せめて一度真っ赤にいとしい花弁咲かせぇ、散らずがおいらの義理人情!あの世に行ったらぁ、おいらの死んだぁおっかさんに伝えてやっておくんなせぇ!おいらぁ元気で殺ってるぜっ!!」

 

クマドリは歌舞伎のように、涙まで流して大袈裟に身振りをして、杖の先を俺の心臓に向けて狙いを定めた。とどめを刺すつもりだ。

 

ダメだ…。このままじゃ殺されてしまう。

 

打つ手がなくなり、拘束され、死が目前に迫って俺は完全に追い詰められた。仕方なく俺は奥の手を発動させることにした。クッション状態で床に落ちていたシャスティフォルが槍形態に変化してフワリと俺の背後に浮かび上がる。

 

正直この手はできることなら使いたくなかった。原作キングが使っていた技なので俺にもできるとは思うが、成功する保証がない。それに成功したとしても俺の体にとんでもない負担がかかる。でもこのままだと確実に殺されてしまうし、何よりロビンのためならばそれくらい安い負担だ。

 

「…ふふっ……」

 

転生したての頃、ルフィ達と出会って仲間になった時は主人公組と行動していれば間違いない、なんて気持ちだったのに気づけばずいぶん俺も変わったものだ。この戦いだってもとよりロビンのために参加するつもりだったが、こんなに熱い気持ちは持っていなかった。

 

自分の気持ちの変化に軽く笑みをこぼしながら、俺はとっておきの奥の手を発動させた。

 

「神器解放っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。