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結局俺はルフィに半ば無理やり麦わらの一味に入れられた。まあ、俺としてはワンピースの世界で右も左も分からない手前、ありがたい申し出でもあった。ちなみに何で俺を仲間に入れたのか聞いてみれば「面白いから」という答えが笑顔付きで返ってきた。なるほど、俺は手品師枠というわけか。
麦わらの一味での俺の役目は雑用係となった。現代日本で平凡に育ってきた俺は海で役に立つ知識など持ってないし、特技もない。強いて言えば昔から人の愚痴を聞くことだけは得意だったが、あまり役に立たないだろう。
そんなわけで俺は雑用係に落ち着いたのだ。ウソップと一緒に船の修繕をしたり、ルフィの相手をしたり、シャスティフォルでゾロの訓練に付き合ったり、ルフィと釣りをしたり、ナミの海図書きの手伝いをしたり、ルフィのつまみ食いを止めたり、サンジと一緒に料理をしたり等々…忙しい日々を送っている。半分くらいルフィの相手をしているが気にしてはいけない。
そして今、俺はチョッパーのお手伝いをしている。チョッパー先生は大きめの木製のお椀に緑色の葉っぱと茶色の葉っぱを1:3くらいの割合で入れて、木製の棒で胡麻すりのようにグリグリやっている。俺も隣で同じ作業をしていた。俺にはよく分からないが、これが良い傷薬になるらしい。
「なあ、エレイン。」
「はい?何ですか?」
ふと、チョッパーが思いだしたように聞いてきたので、俺は手を休めずに返事をする。
「ずっと気になってたんだけど、お前何で空飛べるんだ?」
「え?う~ん…何でと聞かれましても……その質問はチョッパーさんに何故角があるのと聞いているようなもので……とにかく飛べてしまったんです。」
「能力者じゃないのか?」
「悪魔の実のですか?はい、違います。私は人間とは違う"妖精族"という種族なので、飛べるのは種族的な能力かと。」
「人間じゃない……のか。」
俺が人間ではないことを告げるとチョッパーは何だか悪いことを聞いてしまったように俯いてしまった。チョッパー自身ヒトヒトの実を食べてしまいトナカイ、人間双方の種族からつまはじきにされた経験があるので、俺に対して思うことがあるのだろう。
俺は作業を一旦やめ、チョッパーの頭を帽子ごしに軽く撫でる。
「そんな顔なさらないでください。私は一人じゃありませんから。チョッパーさんを含め、私にはたくさんの仲間がいます。寂しくなんてありません。」
「……そっか。へへっ、ごめんな、しんみりしちゃって。」
チョッパーに笑顔が戻った。俺はそんなチョッパーに「いえいえ」と返しておく。
再び作業を再開した俺達。心なしか、チョッパーの俺に対する好感度が上がったような気がする。しばらく作業を続けていると外からパラパラと物音が聞こえてきた。
「雨か…?」
「あられ……でしょうか?」
時間が経つにつれ、その物音は徐々に大きくなってくる。流石におかしいと思い、俺とチョッパーは甲板へ出た。
「……え?」
「うぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
甲板で空を見上げると俺は呆然とし、チョッパーは飛び上がって驚いた。
何と空から巨大なガレオン船が降ってきていた。パックマンを凶悪化したような生き物を船首に持つメリー号の10倍はあるであろう巨大船だ。
ドンッ!!
ガレオン船はメリー号のすぐ隣、30メートル先辺りの海に落ちた。そのせいで近辺に巨大な波が発生し、海に叩きつけられたことでガレオン船が木っ端微塵となり、破片がメリー号にまで飛んで来る。
「何なんだこりゃー!!?」
「エレイン!何ぼさっとしてんの!!舵きって舵!!」
「は、はい!!」
「ってきくかよこの波で!!」
「何もしないよりマシでしょ!!」
「まだ何か降ってくるぞ!気をつけろ!!」
「そうさ!これは夢だ!落ち着いて瞼を閉じて……目を開ければほーら、そこには静かな朝が………ってぎゃあぁぁぁぁぁ!!!ガイコツーー!!!」
メリー号は大パニックだ。とにかく皆船が沈まないようにするのに必死だった。人が空想できるすべての出来事はすべて起こりうる現実だと言い残した物理学者がいたはずだが、今ならその学者を神と崇められるような気がした。
しばらく落ちてくる瓦礫やら波やらをさばいていれば何とか無事に切り抜けることができた。俺達の目の前では現在進行形でガレオン船が海へ沈んでいく。
「「た、助かった~~………。」」
俺とチョッパーは安堵の溜め息をついてシャスティフォルにもたれ掛かる。すると安息もつかの間、今度はナミが悲鳴をあげた。
「"記録指針(ログポース)"が壊れちゃった!」
"記録指針(ログポース)"とは、天候、波がめちゃくちゃな偉大なる航路(グランドライン)で唯一航海の手がかりとなるコンパスで、島に発生する磁場を記録し、次の島を指し示してくれる物だ。
ナミの左腕についている記録指針(ログポース)の針はビーンと真上を指しており、動く様子もない。それを見て俺はふと呟いた。
「空島………。」
「!?エレイン!お前今"空島"って言ったか!?」
「へ!?あ、いえ!その………!!」
「空に島があんのか!!すっげ~~~!!」
普段はちゃらんぽらんな癖に地獄耳なルフィは俺が呟いた一言をしっかり聞いていたらしい。チョッパーやウソップと一緒に肩を組んで「空島♪空島♪」と嬉しそうに踊っている。
"空島編"。ワンピースでも一、二を争う名作ストーリーであり、前世でも友達がやたら漫画やらDVDを勧めてきた。と言うのも、俺はあまりワンピースに詳しくない。東の海(イーストブルー)からルフィがこういう冒険をして…といった漠然とした知識しかないのだ。せっかく転生したというのに、まったく役に立たない奴だ。俺は。
「エレイン。あの船から何か持ってきてくれないかしら。」
「はい、分かりました。」
「あ!俺も行くぞエレイン!」
「俺も俺も!」
ロビン嬢に頼まれ、俺はガレオン船に調査に行くこととなった。好奇心MAXなルフィとウソップも一緒だ。ウソップをシャスティフォルに乗せ、ルフィの脇を持ってふよふよと沈みゆくガレオン船へ向かう。……ルフィ、結構重い。妖精となり、貧弱化した俺には辛い。
余談だが、ロビンは麦わらの一味の中で唯一俺のことだけ名前で呼んでくれる。まだ本当の意味で麦わらの一味になっていないロビンは皆をルフィのことは「船長さん」、ナミのことは「航海士さん」など役柄で呼ぶ。俺がそうでないのは恐らく俺が雑用係だからだろう。「雑用係さん」なんてゴロの悪い呼び方はロビンもしたくないのではないだろうか。それとも他に理由が?そういえばロビンはよく俺を膝の上に乗せて頭を撫でてくれるがそれは何故だろう?まあいい。
「え~…と、とりあえずこの仏様が入った棺桶でいいか………。船長!私は先に戻りますよ!」
「おう!俺達はもうちょっと探検していく!!」
俺はルフィに一声かけ、白骨化した死体が入った棺桶を持ち上げようと試みる。
「う~ん!う~ん!………ダメか。」
薄々予想していたが、ダメだった。俺の2倍はある大きな棺桶は俺には持ち上げられないようだ。そこまでか弱いのか妖精ボディ。泣けてくる。
仕方なく俺はシャスティフォルを第二形態の熊にして棺桶を持ち帰った。
「ロビンさん、これでどうでしょう。」
「ええ、十分よ。ありがとう。」
俺が棺桶を甲板に置くとロビンは笑って俺の頭をなでりこなでりこと撫でてくれた。エレインボディの弊害か、その時猫のように目を細めてしまった。
ロビンの死体解剖によると、あのガレオン船は南の海(サウスブルー)の王国ブリスから208年前に出航した探検隊の船だそうだ。白骨化して頭蓋骨までバラバラになった死体からそんなことを割り出すとは…。つくづくロビンが凄腕の考古学者なのだと理解させられる。そのことを素直にロビンに話すと「ありがとう♪」とまた頭を撫でられた。
「おい!皆!やったぞすげぇもん見つけた!!」
ルフィがウソップを小脇に抱え、ゴムゴムの実の能力でメリー号へ帰って来た。ゴムの伸縮性を活かしてすごい勢いで帰って来たため、着地の際ウソップが吹っ飛んでいってしまう。それを第二形態のシャスティフォルで受け止めることを忘れない。
「ほら!!これ見ろよ!!」
そしてルフィが自信満々に胸を張って俺達に見せてきたのは空島の地図だった。海というより雲に周りを覆われた島が記されていた。地図にはしっかりと「SKYPIEA(スカイピア)」と書かれている。
「やったぁー!!空島は本当にあるんだ!!」
「夢の島だ!!夢の島へ行けるぞ!!」
いよいよ空島存在の信憑性が上がり、ルフィ達は大騒ぎしている。今は女だが、一男として俺も何か胸の中にこみあげるものがあった。これが"ロマン"というやつだろうか。
「とりあえず空島はあると仮定して、どうやって行けばいいのでしょう?」
「まず情報が必要ね。それがないと何も始まらないわ。」
「よし!沈んだあの船をサルベージよ!!」
「「おぉーーー!!」」
「できるかぁ!!」
俺達の空島編は原作通り、騒がしい始まりとなった。