とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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今話より、パソコンからの投稿となります。何かと至らぬ点がございますが、何卒ご了承ください。


エニエス・ロビー編10・妖精の脱出

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…………と…………」

 

 司法の塔の内部、狼の間。ここは現在、激しい戦場の真っ只中である。現に海楼石の錠から解放されたゾロは、キリンの能力者のCP9と激しく斬りあって戦っている。そんな中、俺はというと、安堵の笑顔でナミに抱きつかれて困惑の表情を浮かべていた。

 

「これは一体……?」

 

「!アンタまさか覚えてないの!?」

 

「あ、いえ、一応記憶はあるのですが……」

 

 あの謎の花畑でエレインが去っていくのを見送った後、俺は意識をフッと失うことになった。そして次に気が付いた時にはあの謎の力でクマドリ達CP9を圧倒していた。だが、あの状態は力が凄まじい分制御がとんでもなく難しく、例えるなら、不発弾を抱えて戦っているような感覚で、いつ暴発するかわからない力を抑え込むのに必死で、記憶はあるものの、その時の理性はないという半ば暴走に近い状態だ。しかも、戦っているとき、何故だか力がどんどん増していく不思議仕様だ。強力ではあるが、現時点ではあまり実用的な力ではない。

 

「っつ!!」

 

「あ、ごめん!大丈夫?」

 

 ナミが俺を降ろし、俺の足が地面についた瞬間、全身に10万ボルトくらいの電流が流れたかのような痛みが走った。忘れていたが俺はクマドリに全身を痛めつけられ、かなりの重傷を負っていた。さっきまで元気に戦えたのは謎の力の影響か、はたまたアドレナリンが大量分泌でもされていたのか。幸い魔力は真・霊槍発動直後のまま、ていうかむしろ少し回復さえしていたので、ふわりと浮くことで痛みを避ける。

 

「エレイン、アンタまだ動ける?」

 

「へ?あ、はい。全身ボロボロですが、移動と少しの戦闘くらいは……」

 

「今フランキーが3番と4番の鍵を持ってロビンの下に向かってるからアンタも行って!その方がロビンも安心するでしょ!」

 

「はいっ!分かりまし……」  

 

ビュンッ!!ビュンッ!!

 

「……ってうわっ!!」

 

「キャッ!!」  

 

「はっ!行かすかよっ!!」

 

「お前は想像以上に危険なんでのぉ。」

 

 俺がロビンの下へ行こうとした時、カクとジャブラが俺とナミの間に嵐脚を飛ばして妨害̪してきた。二人は俺を仕留めんとこっちに飛びかかってきた。俺は風の魔力で迎撃しようと右手を前に突き出す。

 

「”三十六煩悩鳳”!!」

 

「”火薬星(ガンパウダースター)”!!」

 

 その時、ゾロの斬撃がカクを、そげキングの射撃がジャブラを襲い、それぞれ直撃を受けた二人は足を止めた。

 

「エレイン君!ここは我々に任せたまえ!!」

 

「こいつらを倒した後も戦いが待ち受けてるはずだ!できるだけ魔力は温存しておけ!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 俺は二人に礼を言って部屋を飛び出した。正義の門への道を探すためあちこちがむしゃらに飛んでいると、同じく正義の門への道を探しているフランキーと会った。彼は2本の鍵とクッション状態のシャスティフォルを抱えて通路を走ってきた。

 

「フランキーさん!」

 

「小娘!お前大丈夫なのか?」

 

「はい!ナミさんのおかげでもう大丈夫です!」

 

「そうか!良かった!これお前の武器だ!お前も正義の門に向かってんのか!?」

 

フランキーがシャスティフォルを投げ渡しながらそう聞いてきたので俺は「はい!」と答えた。

 

「さっきチムニー達から道を聞いた!この先のドでかい地下通路から行けるらしい!行くぞっ!」

 

 フランキーの案内で階段をひたすら降りていくと確かに大きな地下通路の入り口が見えてきた。その入り口の大きな鉄の扉はまるで大砲でも撃ち込まれたかのように破られていた。聞けばもうすでにルフィがここを通って行ったらしい。

 

入口を通り、長い長い地下通路を全力で飛んでいるとやがて何か部屋が見えてきた。部屋に入った途端、ルフィが吹き飛ばされてきたのでクッション状態のシャスティフォルで受け止める。

 

「船長!」

 

「エレイン!来たか!」

 

「麦わら!ルッチの野郎に苦戦してんのか!」

 

 ルフィの前には正義の門への扉の前で肩にハトを乗せて仁王立ちしたルッチの姿があった。

 

「よしお前ら!ロビンを追ってくれ!あのハトの奴の後ろの扉から正義の門へ行けるんだ!俺があいつを抑えるからよ!!」

 

「了解です!」

 

「スーパー任せろっ!」

 

 まずルフィが雄叫びを上げながらルッチに襲い掛かり、右ストレートを放った。ルッチはそれを素早い動きでかわし、ルフィの懐に潜り込んで指銃を一瞬で何発も打ち込んでルフィを吹き飛ばした。そのスキに俺とフランキーは扉へ向かうが、ヒュッとルッチが移動して俺達の行く手を阻む。

 

「”ストロングハンマー”!!」

 

 フランキーが右手のカバーを外し、鉄部分をむき出しにしてルッチに殴り掛かるも、ルッチは剃でヒュッと消えて攻撃をかわした。消えたルッチは俺の目前に現れ、右足で蹴りを放ってきた。俺は咄嗟にクッション状態のシャスティフォルを盾にして防御するが、シャスティフォルがメリメリと嫌な音を立てる。

 

「お前は危険だ。死ね。」

 

 ルッチは空中で素早く体勢を整え、今度は左手の人差し指を立て、指銃の構えをとった。それを見た俺はニコッと笑って飛行に使っていた魔力を解いた。

 

「何っ!?」

 

 魔力を解いたことで俺の身体はフッと自由落下し、ルッチの指銃は空を切った。

 

「"JET銃(ピストル)”!!」

 

ドンッ!!

 

 自由落下した俺の影からギア2となったルフィが超速の拳を繰り出した。俺の身体が影になってルフィの姿が見えていなかったルッチはその拳をモロに喰らい、吹き飛ばされて壁に激突する。

 

「フランキーさん行きましょう!」

 

「ああ!」

 

「二人とも!ロビンを頼んだぞ!!」

 

 そのスキに扉を通り、ルフィの声を背に俺達はロビンの下へ急いだ。また長い長い螺旋階段を全力で駆け上がっていく。

 

ドガァァァァンッ!!

 

「キャッ!」

 

「ぐあっ!!」

 

 階段を上るとそこは正義の門まで続く大きな橋だった。階段を上りきった時、フランキーの足元が爆発を起こした。フランキーはその爆発でドボォンと海に落ち、俺は空に吹き飛ばされる。ロビンを追う俺達の対策として敵さんが地雷を仕掛けていったらしい。しかし、方や鉄の身体を持つサイボーグ、方や空を飛べる妖精族、フランキーはすぐに橋をよじ登って復帰し、俺は即座に空中で体勢を立て直した。

 

「急げ!急げ!」

 

 体勢を立て直した俺は橋をよじ登るフランキーを待つことなく飛行を再開した。正面に見える正義の門はもう開いている。それも全開に。ということはもうすぐロビンが連れていかれてしまう。間に合わなかったら意味がない。速く、速く!

 

 全力で飛ばしているとやがて橋の終わりが見えてきた。手錠をはめ、傷だらけでこちらに逃げてくるロビンに海兵たちが銃を向けている。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 俺がロビンの前に体をねじ込んだ瞬間、その銃から弾丸が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  

 

 

ドガァァァァンッ!!!

 

「!」

 

「地雷が!まさか誰か来たのか!?」

 

CP9の長官スパンダムに連れられ、正義の門へ向かうロビンは現在渡っているためらいの橋の先が爆発した音を聞いた。その音は自分を助けに来た誰かがスパンダムの仕掛けた罠にやられたことを意味していた。そのことにロビンは急ぐスパンダムに引きずられながら涙を流した。あんまりな状況に悔しくて涙が止まらなかった。

 

「よく見ておけ!これが歴史に名の刻まれる英雄の……」

 

 そしてスパンダムが正義の門へ踏み入ろうとする……

 

ボカァァン!!

 

「ポカバッ!?」

 

 その時だった。突如飛来した弾丸がスパンダムに命中し、爆発して彼を門の向こう側へ吹き飛ばした。彼の正義の門への第一歩はひどく情けないものとなった。その後も次々に弾丸が飛来し、門の周りで整列しスパンダムを出迎えていた海兵達を吹き飛ばしていく。それがどこからの攻撃か分からず、動揺する海兵達だが、その中でロビンだけはそれが誰によるものか分かっており、一点を見つめて流す涙を嬉し涙に変えていた。

 

「ちょ、長官あれを!!」

 

 やがて双眼鏡を覗いていた海兵が司法の塔の頂上を指さした。そこには巨大パチンコを構えたそげキングが立っており、風が吹く中寸分狂わず海兵達を狙っていた。海兵達はそげキングを狙って銃を撃つが、そもそも距離が遠すぎて銃弾が届かない。

 

「っ!!」

 

「長官!ニコ・ロビンが逃げます!!」

 

 海兵達がそげキングを狙うことに夢中になっているスキをついてロビンは正義の門から逆方向に走り出した。それを見たスパンダムは海兵達に発砲を指示した。歴史の本文(ポーネグリフ)を解読することができるロビンは政府が是非とも捕らえておきたい存在。殺すわけにはいかないので海兵達は急所を外してロビンを撃つ。

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

「っ!!」

 

キキキンッ!!  

 

「「「なっ!?」」」

 

 思わず目をつむるロビン。しかし彼女に銃弾が届くことはなかった。突如介入した何者かによってすべて防がれたからだ。海兵達がどよめきの声を上げる。

 ロビンは恐る恐る目を開いた。

 

「………………」

 

「エレ……イン……」

 

 するとロビンの前には槍形態のシャスティフォルを背に、エレインが宙に存在していた。右手を肩の位置で真っすぐ横に突き出し、少し俯いて直立の状態で宙に浮くエレインの姿は傷だらけで、でもこの場を支配する確かな存在感を醸し出していた。

 

「……ロビンさん、遅くなりました。」

 

 エレインはロビンの方へ振り向き、そっとロビンに笑いかけた。その笑顔を見た瞬間、ロビンは心が何か温かいもので満たされていくのを感じた。エレインの傷を見ればどれだけの激戦をくぐり抜けてきたのか分かる。それでも自分をちゃんと宣言通りに迎えに来てくれた。そのことが何よりも嬉しくて。

 

「エレイン……、ありがとう……。」

 

「あはは、ロビンさんそれはまだ早いですよ。もうじき皆さんが来られますから、お礼はその時にお願いします。」

 

 ニコッと再びロビンに微笑んだエレインは表情を一変させ、目の前のスパンダム、ひいては周りの海兵達をキッと睨みつけた。ただの海賊、それも雑用係のはずなのに威厳のある眼差しに海兵達はたじろぐ。

 

「ひ、怯むな!撃……」

 

ズアァッ!!

 

 スパンダムが指示を出す前に、エレインはシャスティフォルを第五形態に変化させた。無数のクナイとなったシャスティフォルが辺りを飛び交い、海兵達がバタバタと倒されていく。スパンダムもドサッと尻もちをついた。

 

「ひっ!!」

 

「ずいぶんとロビンさんがお世話になったようですねぇ……」

 

 すぐに立ち上がろうとしたスパンダムだが、その時にはもうすでに槍形態のシャスティフォルの切っ先が彼の首に突き付けられ、腕を組んだエレインが空中から絶対零度の視線で彼を睨みつけていた。霊槍を操り、血だらけのメイド服をたなびかせるその姿はまさに妖精の王そのものだった。かつて誰しもが恐れた妖精王の存在を、スパンダムはしかとその肌で感じ取った。

 

「待てよ小娘。そいつは俺の獲物だ。」  

 

 その時、フランキーが遅れてやって来てエレインに赤い袋を投げ渡した。 

 

「おっと、これは?」

 

「さっき長っ鼻から送られてきたニコ・ロビンの手錠の鍵全部だ。それでニコ・ロビンを解放してやれ。俺はそいつに用がある。」

 

 そう言い、フランキーはゴキゴキと拳を鳴らしながらスパンダムに歩み寄る。そのフランキーとすれ違ったエレインは袋の中の鍵を次々に試し、5番の鍵でようやく外すことができた。その間、フランキーはスパンダムに何か個人的な感情があるようで、彼を容赦なく鉄の拳で殴り飛ばしていた。

 

ボガァァァンッ!!

 

 ロビン解放の喜びに浸る間もなく開かれた正義の門から突如砲弾が撃ち込まれた。砲弾は島を囲む鉄の柵を吹き飛ばした。よく遠くを見ると門の向こう、霧の彼方から海軍の軍艦の艦隊がやってくるのが見えた。

 

「っ!」

 

 やがてその艦隊が橋を囲むように配置につくと、ロビンが恐怖から自分の身体を抱きしめ、その場に座り込んでしまった。

 

「ロビンさん……、!そうか、これがバスターコール……」

 

 その様子を見て原作知識があるエレインはこれがバスターコールであることを思い出す。ぼんやりとした知識を探ると、確かに今見てる光景は自分の知っているエニエス・ロビー編のラストの場面と重なる。

 

「フランキーさん!少しヤバめの雰囲気です!早いとこ脱出の準備をしましょう!」

 

「おう!だったらあの護送船を奪うより他ねぇな!どけ海兵共ぉ!!」

 

 エレインがそう声をかけるとフランキーは左腕から砲弾を発射しながら、政府がロビンを運ぶために用意した船を奪うため突撃していった。

 

「ロビ……」

 

 エレインがロビンに声をかけようと振り向くと、ロビンはまだ恐怖から抜け出せておらず、地面に座り込んで震えていた。今彼女の脳内では幼い頃のバスターコールの経験がフラッシュバックしている。

 

「……………………」

 

「……エレイン?」

 

 そんなロビンの前にエレインはふよふよと移動し、彼女の前にトッと降り立った。そして…………

 

「にー!」

 

 飛び切りの笑顔を浮かべ、ロビンの口角を持ち上げて無理やり笑顔を作った。それは数日前、ロビンが闇に飲まれそうになった夜にエレインが彼女に行ったことと全く同じだった。

 

「もぅ、駄目じゃないですかそんな顔をしたら。言ったはずですよ、あなたには仲間がいるって。仲間ならあなたの背負う重荷を軽くすることができるって。」

 

 あの日のようにロビンの額をピンッと人差し指で弾き、頬を膨らましてロビンを励ます。その様子は彼女の可愛らしい姿も相まってプンプンという擬音が聞こえてきそうだった。

 

「……ありがとう。」

 

「元気出ましたか?」

 

「えぇ、おかげでもう大丈夫。」

 

 その可愛らしい励ましは確かに効果があったようだ。さっきまで止まらなかった震えが治まり、ロビンはスッと立ち上がり、フランキーが戦う護送船の方へエレインと共に向かう。

 

「おうニコ・ロビン!お前もう大丈夫なのか!?」

 

「えぇ、オハラの時とは違う。私はもう一人じゃないから。」

 

 そこからエレイン達は三人で護送船を奪うため乗っていた海兵達と戦った。海兵達も必死に抵抗したものの、力の差は歴然で次々と蹴散らされていく。

 

「うはははは!!悪いな海兵諸君!この船は俺達の脱出用に使わせてもらう!!」

 

 そしてわずか数分後、船に乗っていた海兵達は全員海へ落とされ、三人は見事船を奪うことに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ 

 

 

 フランキーとロビンと共に護送船を奪った後、しばらくしてナミ達がココロさんに連れられて海中からやってきた。ルッチの策略で地下通路に水を流されたそうだ。その頃にはもう艦隊による一斉砲撃が始まっており、島は爆炎に包まれている。結果的にそのおかげでナミ達は助かったというわけだ。

 

「んがががが!よかったれぇ!!」

 

 ちなみになぜココロさんが海中を渡れたかというと、なんと彼女は人魚族だったのだ。人魚のわりに二足歩行で陸にいるが、人魚というのは30歳を超えるとヒレが二股にわかれて陸上生活が可能になるらしい。空を飛び、心を読める妖精族の俺が言うのもなんだが、人魚族、万能すぎやしないだろうか。

 

 まあ、とにかくこれでルフィ以外は護送船に到着し、あとはルフィがルッチを倒すのを待つのみだ。だがその間護送船及び俺達のいる橋が艦隊に囲まれてしまった。橋はロビンがいるおかげで砲撃を免れているが、その代わり軍艦に乗っている海兵達がロビンを奪おうと白兵戦を仕掛けてきた。

 

「くそっ!なんだこいつら!当たってくれねぇ!!」

 

「気をつけろ!能力者も混じってるぞ!」

 

 この海兵達というのがさすがバスターコールに参加するだけあって一人一人のレベルが高い。そげキングの射撃がかわされたり、ゾロの刀が錆びさせられたりした。

 

カキンッ!

 

「くっ!」

 

 俺も必死に戦っているが、海兵の一人に飛ばした槍形態のシャスティフォルを剣で容易く防御され、力でグググッと押されてしまう。そこからボンッ!とシャスティフォルを第二形態に変形させ、その海兵は海へ吹き飛ばしたが、また次の海兵が来る。やはり苦しい。敵の強さも然ることながら魔力も残り少ないので長いこと持ちそうにない。

 

 そんな中、壁が砕けた塔でルフィがルッチの強烈な一撃をもらって倒れたのが見えた。それを見たそげキングが仮面を外し、ウソップとしてルフィを鼓舞する。それによってルフィはもう一度立ち上がり、ルッチと対峙する。

 

「”ゴムゴムのJET銃乱打(ガトリング)”!!」

 

ドドドドドドドドドドッ!!!

 

 そして激闘の末、ついにルフィが勝利を収めた。超速の拳の嵐でルッチを吹き飛ばし、ルフィはドサッとその場に仰向けに倒れる。

 

「一緒に帰るぞ!!ロビーーーン!!!」

 

 勝利に叫ぶルフィ。しかし、まだピンチは終わってない。依然として周りは軍艦だらけでルフィは力を使い果たして体が動かない状態だ。おまけに頼みの綱の護送船が先程砲撃されてしまった。状況は悪くなる一方で脱出はもはや絶望的だ。

 

『……………………』

 

「え?誰ですか?」

 

 そう思った時だった。ふと誰かの声が俺の耳に届いた。この声は少し聞き覚えがある。ウォーターセブンに着いた時にメリー号で見かけたあの少年の声だ。その不思議な声は他の皆にも聞こえるみたいだ。その声は俺達に下を見ろと言っている。

 

「全員、海へ飛べーーーー!!」

 

 その声の通りに下を見たウソップがそう叫んだ。俺も下を見てみるとそこにはもう一人の俺達の仲間がいた。動けないルフィをロビンが能力で落とし、俺達は海へと飛び込む。

 

「メリー号に乗り込めーー!!」

 

『迎えに来たよ。』

 

 もう一人の仲間___メリー号へ乗り込むために。メリー号は不思議なことに誰も乗っていなかった。まるで船が自分の意志でここに来たかのようだ。聞こえた不思議な声といい、あながち間違いではないのかもしれない。

 

ドォンッ!ドォンッ!

 

 安心も束の間、もう相手方はなりふり構っていられなくなったらしい。ロビンの存在関係なしに軍艦がメリー号目掛けてバンバン砲弾を撃ち込んでくる。

 

「さぁ逃げるわよ!皆!」

 

「「「おぉーー!!」」」

 

 だがしかし、ロビン、メリー号と仲間が全員揃った俺達にもう怖いものなんてない。正義の門を閉め、海流を乱しておいたサンジの策略もあり、俺達はスイスイと軍艦の間をくぐり抜けていく。

 

「畜生っ!!あんなちっぽけな海賊団から!たった一人の女を何故奪えねぇ!?」

 

 もう間もなく軍艦の群れを抜けるという頃、一隻の軍艦の上であの長官スパンダがフランキーにやられてぷっくり腫れた顔で地団駄を踏んでいた。俺は彼を睨み、左手を彼の方へ向け、第五形態となったシャスティフォルを彼の頭上に滞空させる。

 

ズドドドドドッ!!!

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

「「「ちょ、長官殿!!!」」」

 

 俺が左手をクイッと扇ぐと無数のクナイがスパンダに降り注ぎ、彼は軍艦の甲板を貫いて海に落ちることになった。俺はその光景を眺めながらパンパンと両手を叩く。もうすでにメリー号は軍艦の群れを抜け出ている。

 

「わわっ!ロビンさん?」

 

 その時、不意にロビンが俺の脇に手を入れて後ろから抱き上げてきた。彼女は困惑する俺を見てフフッと笑みを浮かべると皆を見渡してこう言った。

 

「皆、ありがとう!」

 

「しししっ!気にすんな!」

 

 政府との戦いに勝利し、メリー号は歓声と笑い声に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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