とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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文体は結局前のものに戻しました。こっちの方が書きやすいので。


スリラーバーク編2・妖精の影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島へ入った俺達は薄暗い森を抜け、やがて広い墓地に出た。道中、例のゴーストが俺達を監視するかのようにちょくちょく姿を現したが、今まで敵らしい敵は出てきていない。

 それで今俺達がいる墓地はまるで海外のホラー映画に出てきそうな程かなりいい雰囲気を醸し出している。こんな場所でもルフィは平常運転でここで弁当を食べようなんて言ってサンジに「飯が不味くなるわ!」と突っ込まれていた。

 

「あ~………」

 

 そんなことをしていると急に男の呻き声が聞こえてきた。声の出所を探ってみるとどうやらそれは墓の一つから発せられているようだった。俺達がその墓を見ると地面からズボッと手が生えた。そのまま見ていると地面から生やした手を支えにして、頭頂部が寂しい男が地面から這い出てきた。その男は全身に包帯を巻き、体の所々に縫い傷がある。

 そんな男を見てルフィは一言。

 

「大怪我した年寄り…!?」

 

「「「ゾンビだろ! どう見ても!!」」」

 

 少しズレたルフィのコメントにゾロ達と一緒に俺も突っ込んでしまった。そうこうしている内に墓場ではたくさんのゾンビが墓から這い出て…いや、飛び出してきた。一人一人思い思いのポーズを決め、「アチョー!」だの「ヒャッハー!」だの叫ぶその姿にサンジは「こんなに生き生きしてんのか? ゾンビって」と苦笑していた。

 

 そうして墓から飛び出したゾンビ達は一斉に俺達に襲い掛かってきた。四方から迫る敵にロビンは能力を発動させるために両腕を組み、サンジは吸っていたタバコの煙をフーッと吐き、俺はシャスティフォルを第五形態に変化させ、ルフィとフランキーは拳をボキボキと鳴らし、ゾロはチャキッと刀を抜いた。

 

「「「7憶B・JACKPOT!!」」」

 

 そして迫り来るゾンビ達をそれぞれの自慢の攻撃で吹き飛ばした。

 

 その後、吹き飛ばされたゾンビ達はその場に正座させられ、ルフィによって尋問を受けた。一応このゾンビ達もモリアの兵士の端くれなので、ナミ達の行方を聞いても知らないと言ってはぐらかそうとする。しかし、ひとたびルフィがボキボキ拳を鳴らせばゾンビ達は人が変わったようにペラペラとしゃべりだす。彼らによるとナミ達はこの墓場の近くにそびえ立つドでかいお屋敷に向かったようだ。

 

 それを聞いた俺達はゾンビ達をもう一度地面に埋め直し、さっさとそのお屋敷に向かう。その途中で俺達は一人の老人に呼び止められた。その老人はブルックと同じように影がなく、俺達の前で土下座して影を奪った男を倒してほしいと頼んできた。ここでルフィ達はモリアの名を始めて聞くことになる。

 

 ロビンによるとモリアは元の懸賞金が3憶2000万ベリーで、一時期は現在の四皇、”百獣”のカイドウとも渡り合った謎が多い男だという。

 

 今から戦う身としては何とも恐ろしい話だが、そんな話を聞いてもルフィは少しも臆することなく、モリアは俺達がぶっ飛ばすから任せておけと老人に豪語し、意気揚々と屋敷に向かい、俺達もその後を追う。

 

 墓場は屋敷のほとんど隣にあったので、少し歩けば屋敷に到着した。改めて見てみると西洋風の装飾が施された見事な屋敷だ。多分、海外のホラー映画ならこんな屋敷にボスのドラキュラ伯爵がいたりするんだろう。

 

「ん?」

 

「どうしたのエレイン?」

 

「いえ、屋敷の上に何かが見えまして……」

 

 俺の言葉にルフィ達も屋敷の上を見上げる。濃い霧で見えにくかったそれは霧が少し晴れてきたことでだんだん見えてくる。

 

「あれは……帆……!?」

 

 それは蝙蝠のように羽を広げるドクロのマークだった。屋敷の裏にさらに大きな塔のような建物があり、それが船のメインマストの役割を果たして、呆れ返る程巨大な黒い帆がかけられていた。そうだ、あまりに大きくて島のように感じていたが、ここはスリラーバーク。世界一大きな海賊船なのだ。それを確認するとそのスケールの大きさを改めて実感する。

 

「さあ! 行くぞお化け屋敷!」

 

 スリラーバークの凄さを再確認して、俺達はルフィの掛け声と共に屋敷に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「屋敷を囲めぇ! レッツフェスタナイッ!♪ 海賊達は一人たりとも逃がさなーい!♪」」」

 

 丁度ルフィ達が屋敷に入った直後、さっきルフィ達に倒されたはずのゾンビ達はノリノリのダンスと共にルフィ達が入った屋敷を取り囲んでいた。ゾンビである彼らは痛みを感じることがないため、やられてもケロッとして起き上がるのだ。彼らはモリアの海賊団の幹部であるアブサロムの指示のもと、ルフィ達が逃げられないように包囲網を張っている。

 

カツン……カツン……

 

 そんなノリノリのゾンビ達の間を一人の男が足音を立てて通る。青いズボンと白のシャツの上に黒のロングコートを羽織ったその男は最大の特徴として顔の下半分がライオンの顎になっている。この男がモリアの海賊団の幹部の一人、”墓場”のアブサロムである。

 アブサロムは先ほどエレインのシャスティフォルによる攻撃を受けたというのにピンピンしている。それは彼の身体には様々な動物の皮膚や筋肉が移殖されているからである。同じく幹部の一人である天才外科医ドクトル・ホグバックによってゾウの皮膚、クマ・ゴリラの300㎏の筋力、ライオンの顎を移殖した彼の身体は驚異の強さを持ち、シャスティフォルの一撃でもそうそうダメージを与えることはできない。

 

ギイィ……

 

 アブサロムは屋敷の裏まで来るとそこにある一際大きい扉を開いた。そして部屋の奥に十字架が建てられ、扉から十字架まで無数の棺桶が並べられた部屋に叫ぶ。

 

「さぁ! 得物共はおいら達の敷地に入り込んだ! 目を覚ませ! 将軍(ジェネラル)ゾンビ共っ!」

 

 アブサロムのその声に棺桶がガタガタと揺れる。そして様々な容貌のゾンビ達が棺桶から出てきた。ある者は大柄な鎧を纏った男、ある者は腕が何本もある男…。そのゾンビ達は墓場でルフィ達を襲ったゾンビ達とはどこか纏う雰囲気が違う。それもそのはず、このゾンビ達はその誰もが過去に名をはせた著名な戦士達。ルフィ達を襲った兵士(ソルジャー)ゾンビとは強さも格もまるで違う。

 

 将軍(ジェネラル)ゾンビ達はアブサロムの指示のもと、ぞろぞろと隊列を組んで部屋から出ていく。目的はルフィ達の捕縛である。

 彼らを見送ったアブサロムが部屋に戻るとまだ5体、部屋に残ったゾンビ達がいた。背中に弓を背負った男、大柄で刃の丸い斧を二つ持った男、刀身の先が波打つ曲剣を持った女、背丈よりはるかに長い剣を持つ少年、そして刃がギザギザの両刃の大剣を持った長身の男のゾンビだ。

 

「おいっ! お前達! 何をぐずぐずしているっ! ガルルルルッ!」

 

「まぁ少し待ってくれよ、ウチの船……じゃなかった、団長は寝起きに弱いんだ。」

 

 アブサロムがそのゾンビ達に怒鳴ると、長剣の少年ゾンビがそう返した。少年が団長と呼ぶ長身の男は棺桶のふちに座り俯いている。

 

「まったくしょうがねぇ奴らだな…。早く行けよ。」

 

 そんな男ゾンビの様子にアブサロムはハァとため息をついて部屋を後にした。アブサロムの言葉に少年ゾンビは「分かったよ。」と返事をする。アブサロムが部屋を去った後、少年ゾンビは改めて長身の男を見た。

 

「さて、アブサロム様の命令だし、そろそろ僕たちも行こうか。」

 

 少年ゾンビの言葉に長身の男は棺桶から鉄製の仮面を取り出し、それを顔に装着した。

 

「……メイクアップ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ行ったんだあいつらは?」

 

「船長、その鎧はどこで拾ってきたんですか?」

 

 屋敷に潜入した俺達をまず待ち構えていたのは大量のゾンビ達だった。強さはそこまで脅威ではなかったものの、壁に飾ってある絵画から飛び出して来たり、動物の剥製がゾンビだったり、クマの絨毯がゾンビだったりとその種類は多種多様だった。そんなゾンビ達を撃退した俺達だったが、いつの間にかサンジが消えていることに気がついた。どうやら夢中でゾンビ退治をしている最中、敵の策にはまってしまったようだ。ナミ達に加えてサンジも捜索対象になり、俺達は屋敷探検を続けていたが、今度はゾロまでもが消えてしまった。

 

 そんなわけで今俺達はルフィ、俺、ロビン、フランキーという4人パーティに、ナミ達の居場所を吐かせようと連れてきた小さな盾にブタの顔がついたゾンビを加えて屋敷を探索している。ルフィはどこで見つけてきたのか黄金の鎧を着てガシャガシャと足音を立てて歩いている。彼曰く、鎧があったら着るのが男のロマンなのだそうだ。

 

「広間に出たわよ。」

 

 そんなこんなで歩いているとまるで闘技場のような広間に出た。床には武舞台が敷かれ、あちらこちらにサーカスのようなテントが建っている。

 

ガキィンッ!

 

「うおっ!?」

 

「フランキーさん!」

 

 その広間へフランキーが足を踏み入れた瞬間、天井からフランキー目掛けて鎧のゾンビが剣を構えて降ってきた。フランキーはそのゾンビの剣を既の所でかわして距離を取る。しかし、そのゾンビはすぐさまフランキーと距離を詰め、剣を振るう。フランキーは盾のように変形させた左腕でその剣を防ぎ、ゾンビの腹に強烈な右ストレートをお見舞いした。

 

グッ……

 

「あ?」

 

ズバァンッ!!

 

「フランキー!!」

 

 だが、ゾンビはフランキーの一撃に耐え、踏みとどまるとフランキーに向かって突進。すれ違いざまフランキーを斬りつけた。

 

「やられやしねぇよこんな死人なんぞに!!」

 

 しかしフランキーはサイボーグ。鉄の身体で剣を防御したフランキーはゾンビの頭をむんずと掴み、そのまま遠くへ投げ飛ばした。投げ飛ばされ、武舞台を破壊しながら飛んでいったゾンビだが、ボロボロの状態にも関わらず平然と立ち上がる。その様子は明らかに今までのゾンビと違う。

 

「ブヒヒヒヒヒ! それがゾンビの本当の恐ろしさだ!」

 

 その時、後ろから俺達をあざ笑う笑い声が聞こえた。振り返るとそこにはいつの間にそこまで逃げたのか、さっきまで俺達が歩いていた通路に俺達が連れてきたブタゾンビがいた。

 

「将軍(ジェネラル)ゾンビ達は一人一人がかつて戦場で名を上げた強硬な戦士達なんだ! 一国の騎士団! 凶悪な犯罪者! 一流の海賊! そんな奴らが不死身になったと思え!」

 

 そのブタゾンビの言葉に前を見るとそこにはもうおびただしい数のゾンビ達がいた。その一体一体が強者の雰囲気を纏っており、今までのゾンビ達のように簡単に勝たせてくれそうにない。

 

「あれだけ打ち込んでもまるで応えねぇ奴がこんなにいるんじゃ、まともに相手してたらこっちが消耗しちまう!」

 

「そうか! これが最終戦じゃねぇんだもんな!」

 

「この広間の奥……どうやら中庭に出られそうですよ。」

 

「なら私達4人、そこで落ち合いましょう。」

 

「「「かかれっ!!」」」

 

 丁度俺達の作戦会議が終わる頃、将軍(ジェネラル)ゾンビ達は一斉に襲い掛かってきた。俺達はその攻撃をかわしながら4手に分かれる。

 

ブンッ!ブンッ!

 

「よっ! はっ!」  

 

 強靭な肉体から振り回される剣や斧を俺は空を飛んですいすいと避けていく。この後起こる戦闘も考えてなるべく魔力は温存しなければならない。

 

「コォー……コォー……」

 

「グフフフフ……」

 

「ボォー……」

 

 難なく敵をかわしていた俺は突如三つの大きな影に覆われた。前方を見ると三体の巨体の鎧ゾンビが俺の行く先を遮っていた。不気味な呼吸音と笑い声を出す三体はそれぞれ剣と斧と槍を構え、俺に向かって振り下ろす。

 

「……霊槍シャスティフォル第三形態”化石化(フォシライゼーション)”。」

 

 俺は素早く三体の懐にクッション状態のシャスティフォルを滑り込ませ、魔力を流した。するとシャスティフォルは刃が二股に分かれた矛のような形状に変化した。そして俺が右手を横に振るとシャスティフォルも横薙ぎに振るわれ、三体の腹部に矛の刃が当たる。

 

「な、何じゃこりゃあ!?」

 

 すると矛の刃が当たった箇所から三体のゾンビの身体が徐々に石化し始めた。いくら不死身のゾンビといえど石になってはどうしようもない。パキパキと石になっていく身体にパニックになっている三体を尻目に、俺はその横を悠々と通り過ぎた。

 

「一刀流”三十六煩悩砲”!!」

 

「えっ!? 何だ!? ゾロ!?」

 

 その時、ふと左サイドからルフィの声がした。そっちを見てみると剣を三本構えたおっさんのゾンビにルフィが襲われていた。そのゾンビはゾロの三刀流の剣術を使ってルフィを追い詰めている。ゾンビの性格と戦闘能力はそのゾンビの影の持ち主に由来する。あれは間違いなくゾロの影が入ったゾンビのようだ。

 

ズッ!!

 

「うわっ!?」

 

 ゾロゾンビに追い込まれてルフィはいつの間にか他の将軍(ジェネラル)ゾンビ達に囲まれていた。このままではルフィが捕まってしまうかもしれないと思い、俺が救出に向かおうとしたその時、突如死角から強い光を纏った矢が飛来した。俺はそれを咄嗟に上へ飛び上がることで回避したが、チッという音がして右腕にかすってしまった。矢はそのまま壁に向かって飛び、刺さるのではなくボゴォンッと破壊して大穴を開けた。

 

 俺は矢がかすった右腕を見る。着ていたエレインの肩出し白ドレスのフリル付きの袖が黒く焼け焦げ、ブスブスと黒い煙を上げている。しかし、俺はそんなことよりもある事に驚いていた。

 

「これは………魔力……?」

 

 そう、あの矢が纏っていた光、そしてそれを受けた自分の右腕から確かに魔力の存在を感じ取ったのだ。転生して何度かこの世界で戦闘をしてきたが、自分以外の魔力の使い手に出会ったことがなかった俺は、初めて感じる他者の魔力に驚いていた。

 

「あ~あ、外れちゃった。」

 

 俺が驚いていると何とも軽い調子の男の声が聞こえてきた。その方を向くとそこには5人の将軍(ジェネラル)ゾンビがいた。

 

「っ!!」

 

 俺はその5人を見て息を呑んだ。何故なら俺はその5人を知っていたからだ。輪のような刃の斧を二つ持った全身鎧の大柄の男はヒューゴ、俺にあの光の矢を放った軽い調子の声の持ち主の男はワインハイト、刃の先端が波打つ曲剣を構える女性はジリアン、背をはるかに超えた長い剣を持つ少年はサイモン、そして顔に不気味な鉄の仮面をつけ、巨大な大剣を肩に担いだ長身の男はスレイダー。

 

「……”暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)”……!?」

 

「ほぅ……俺達の名を知っているとは……」

 

 俺の驚愕の声にスレイダーがそう返答した。

 ゾンビとなっているが、彼らのその姿は見間違いようがなかった。彼らの名は暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)。七つの大罪原作においてリオネス国王に直属する騎士団が彼らである。本来主人公メリオダスが団長を務める”七つの大罪”がリオネス国王に仕える直属の騎士団だった。だが、”七つの大罪”は聖騎士長惨殺の濡れ衣を着せられ、国を追放されてしまう。その後に生まれたのが今俺の目の前にいる暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)だ。

 

 彼らの登場にますますこの世界の謎が深まった。400年前の妖精族滅亡、七英雄、ガープさんが持っていた常闇の棺の欠片、暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)……。一体どれ程の七つの大罪要素が紛れ込んでいるのか。

 

「まあいい。悪いが貴様を拘束させてもらう。」

 

 そのスレイダーの言葉が合図となって暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)が一斉に襲い掛かってきた。弓の使い手であるワインハイトが一瞬で距離を取って身を隠し、他の4人がそれぞれの得物を構えて突進してくる。大好きな漫画のキャラクターと戦えることに感動を覚える反面、その強さも重々承知しているため、いつも以上に気を引き締める。

 

「むんっ!」

 

 最初に攻撃してきたのはヒューゴだった。二つの斧を合わせて振りかぶり、ハンマーのように振り下ろした攻撃を落ち着いて見極めて回避する。そしてカウンターをくらわせようとシャスティフォルを槍形態にする。

 

「っ!」

 

ガイィンッ!!

 

「へぇ、よく気づいたね。」

 

 その時、背後から強い殺気を感じた俺はカウンター用に構えていたシャスティフォルを咄嗟に後ろへ移動させた。背後にはサイモンが迫っており、俺を両断するように振るわれた横薙ぎの長剣をシャスティフォルの柄の部分が防御した。

 

 ヒューゴとサイモンの二人に囲まれた状態はマズいと判断した俺は二人の間を抜け出して距離を取り、シャスティフォルを手元に引き戻す。そしてシャスティフォルを第五形態に変化させてパチンッと指を鳴らした。無数のクナイとなったシャスティフォルは二人に一直線に襲い掛かる。

 

ビッ!!

 

「っ! ”風壁(ウィンドカーテン)”!!」

 

 シャスティフォルを二人に飛ばした直後、俺の背後にヒュッと突然ジリアンが現れ、曲剣から俺に光線を飛ばしてきた。またも不意を突かれた俺は咄嗟に身体の周りに風を纏い、その光を受け流す。

 あの光はジリアン得意の拘束魔法だ。当たれば光が身体にまとわりつき、動くことができなくなる。

 

「中々しぶといな。」

 

「くっ!」

 

 何とかジリアンの魔法を凌いだのも束の間、ジリアンの影からスレイダーがヌッと現れ、大剣を振るって俺に襲い掛かる。ブンブンと大剣を振り回すその剣技は大剣の重量を全く感じさせない程速い。俺がそれをかわせているのはゾロと日々行っているトレーニングのおかげだろう。ありがとうゾロ。

 

 さて、この暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)のゾンビだが、やはりゾンビだけあって原作の彼らと違う所がちょくちょく見受けられる。例えばスレイダーは鉄の仮面をつけている時はオカマ口調になるはずだがそれがないし、使う剣技も漫画やアニメで見た荒々しい彼のものとは大分違っている。それは性格や戦闘力が影の持ち主のものに由来するモリアのゾンビの特性によるものだろう。

 

 しかし、さっきのジリアンの光、そして最初に受けたワインハイトの矢の光は間違いなく魔力だった。ワンピースの世界の住民が魔力を持っているとは考えにくい。よってそれは生前の暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)の面々が持っていたものということになる。だが、確か魔力は持ち主の死と同時に失われるものだったはず。メラスキュラの力で一時的に蘇った原作エレインや聖騎士長ザラトラスは再び魔力を使えていた。だが、目の前の暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)はどう見てもザラトラス達のように生き返ったようには見えない。でも魔力が使えている以上、モリアの能力でも生き返った扱いになるのだろうか。

 

「俺の剣をかわすとはな……、だがこれならどうだ?」

 

 ん?待てよ。ゾンビでも魔力が使えるってことは………ヤバイっ!!

 

「”威圧(オーバーパワー)”!!」

 

ズッ!!!

 

「っ! しまっ………!!」

 

 スレイダーが大剣を置き、腕を開いて身体を大きくみせるポーズをとると次の瞬間彼の身体が何倍もの大きさに見え、その威圧感に俺の身体は硬直し、まったく身動きが取れなくなった。

 しまった。完全に頭から抜けていた。スレイダーの魔力”威圧(オーバーパワー)”。相手を威圧することで一定時間その相手の動きを封じることができる。

 目先の剣技や暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)の連携の対策に精一杯でこの魔力の対策ができなかった。これは完全に俺のミスだ。

 

「終わりだ。仕留めろワインハイト、生け捕りだ。」

 

「了解、団長。」

 

 いくら後悔したところでもはやどうすることもできず、俺はワインハイトが放った矢の光を見たのを最後に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、本当に大丈夫なの? こんな所に隠れて。(ボソッ」

 

「なんかヤバそうな奴らが集まってるぞ。(ボソッ」

 

「他に隠れ場所がなかったんだからしょうがねぇだろ。(ボソッ」

 

 ミニメリーに乗っていたナミ、ウソップ、チョッパーの三人はエレインの推測通りスリラーバークに乗り上げてしまっていた。その後、島の恐ろしいゾンビ達に散々脅かされ、誘導されたかのように屋敷にたどり着いた三人はまたもゾンビ達に追い回され、色々あって現在はモリアの幹部の一人、ペローナに仕えるぬいぐるみゾンビの中に隠れていた。ぬいぐるみゾンビがその事を何度かペローナに伝えようとしているが、ペローナはぬいぐるみゾンビの声が気にいらないようでその度に「しゃべんなクマシー!」と怒られていた。

 

 モリア達は現在集会を開いているようでモリア、アブサロム、ホグバック、ペローナが一堂に会していた。幹部達が集まったことに満足気に笑うモリアは「早く俺を海賊王にならせろ!」と言った。

 

「何が海賊王だ! 海賊王になるのは俺だ!!」

 

 そのモリアの言葉に反応したのは縛られた状態で檻に入れられたルフィだ。ルフィのすぐ隣には先ほど運ばれてきたエレインがクッション状態のシャスティフォルごと縛られて気絶していた。二人とも将軍(ジェネラル)ゾンビ達に捕まってここへ連れてこられたのだ。

 

「キシシシ! お前らを集めたのは他でもねぇ! 記念すべき二つの大戦力の誕生を共に祝おうってんだ!」

 

 檻の中で暴れるルフィを尻目にモリア達の話は進んでいく。話によると今夜彼らが待ち望んだ最強のゾンビが二体完成するらしい。

 

「あっ! 海賊が檻を食い破って逃げます!!」

 

 そんな話がされる中、ルフィが鉄の檻を食い破って逃走した。と言っても縛られたままであるため、口でシャスティフォルをくわえ、器用に尺取虫のように逃げる。

 

「”ネガティブホロウ”!」

 

 しかし、そんな動きで逃げ切れるはずもなく、ペローナがあの触れるとネガティブになるゴーストを放出し、そのゴーストをくらったルフィは即撃沈してしまった。

 

「光を当てろ!」

 

「何すんだこのヤロー!!」

 

 その後、ルフィとエレインは縛られた状態で天井から吊るされ、背中から照明を当てられた。照明の強い光によって二人の足元に影がくっきりと映る。

 

「キシシシ!」

 

「何だあれ!? 俺とエレインの影!?」

 

 床に映った二人の影をモリアはベリべリとはがした。そして大きなハサミを取り出して二人の影をジョキンと切り離す。影を取られたルフィはガクンと気を失ってしまう。

 

「キシシシ! ついに手に入れたぞ! 3憶の戦闘力と1憶の妖精の力!! これで最強のスペシャルゾンビが一気に二体完成する!!」

 

 二人の影を手にしたモリアはご機嫌に高笑いする。一方影を抜かれたルフィとエレインはゾンビ達によって船へと連れていかれてしまう。それを見たナミが思わずぬいぐるみゾンビから出ようとするが、それをウソップが止めた。影を抜かれてすぐ死ぬわけではないことはブルックが証明済みなので、ウソップは敵がルフィとエレインの影をどうするか見届けるべきだと判断した。

 

 ルフィとエレインの影を手にしたモリア達は、その二人の影を入れるスペシャルゾンビの身体が保管されているという特別冷凍室へ移動した。そこにあった死体を見てナミ達は驚愕した。そこにあったのは500年前に国引き伝説を残した大悪党、”魔人”オーズの死体だった。オーズは特別冷凍室の中で巨大な鎖で拘束されていた。鬼のような角が頭に生えたオーズの身体は巨人族を軽く超えるほど大きく、その姿にナミ達は震えが止まらなかった。

 

 モリアはルフィの影に過去の人間関係の一切を消す過去消去の契約を施すと、ルフィの影をオーズの身体に押し込んだ。するとオーズはパキパキと凍り付いた鎖を揺らしながらゆっくりと動き出す。そしてその恐ろしい目をギロリと開いた。

 

「「「ぎゃあぁぁぁぁあ!!!」」」

 

 そのあまりの恐ろしさにナミ達はたまらずぬいぐるみゾンビから飛び出してしまった。ナミ達はモリア達に捕まらないように、あるいは恐ろしいオーズから逃げるように特別冷凍室を飛び出して逃げる。逃げるナミ達をアブサロムが追いかけていった。

 

「まったくドタバタしやがって。スペシャルゾンビの誕生はまだ終わってねぇぞ。」

 

 その様子に呆れたようにため息をついたモリアはホグバックにある物を持ってくるように指示する。指示を受けたホグバックは特別冷凍室のさらに奥の一室に保管されていた棺桶を持ってきた。将軍(ジェネラル)ゾンビ達のものよりかなり綺麗に着飾られているその棺桶をモリアは笑いながら開けた。そこにはオーズのような恐ろしい化け物ではなく、一人の少年が入っていた。髪は少し寝癖がある茶髪で顔は童顔、青と黄色のパーカーを着たその少年は随分と細身だ。棺桶に入っていた以上死体であるのだが、その少年はオーズや他のゾンビ達に比べて傷や腐敗がほとんどなかった。

 その少年の姿を見てモリアは一層ご機嫌に高笑いする。

 

「キシシシ! さぁ長い眠りから目覚めろっ!! かつて政府にも恐れられる絶大な魔力を誇った妖精王”ハーレクイン”よっ!!」

 

 そう言ってモリアはエレインの影をその少年__ハーレクインの身体に押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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