とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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長い間更新できなくて申し訳ありませんでした。ようやく更新再開です。活動報告の返信を見たら私を心配してくれる声が届いていて心にぐっときました。

皆様の応援をエネルギーに、これからも頑張ります!


スリラーバーク編3・妖精と妖精王

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんどん運べー! まだ足りねぇぞ!」

 

「どんだけ食うんだスペシャルゾンビって!」

 

 オーズの冷凍室は現在大騒ぎになっていた。復活したオーズにはルフィの性格が反映されており、ルフィばりの食欲で復活早々、オーズはモリアに食事を要求した。大勢のゾンビ達が肉や野菜といった大量の食糧を次から次へと持ってくる。それをオーズは巨大な口に放り込み、むしゃむしゃと食べる。

 

「ほら船長、お口が汚れてますよ。」

 

「おっ、悪ぃなチビ。ん? 船長って俺のことか?」

 

 ルフィのように口元を汚しながら食べるオーズに、もう一体のスペシャルゾンビが魔力で浮かせた大きな布でオーズの口元を拭く。エレインの影が入れられた妖精王ハーレクイン、”キング”のゾンビだ。

 

「キシシシ! ハーレクイン、おめぇはオーズと違って従順なようだな。」

 

「はい、ご主人様。」

 

 嬉しそうに笑うモリアの言葉に、キングはペコリとお辞儀をする。ゾンビとして復活したオーズだが、ルフィとオーズの体格差が大きすぎるため、ルフィの意思がまだ強く残っている状態だ。オーズがモリアの従順な部下となるにはもう少し時間がかかる。その点キングはエレインとの体格差はほとんどないため、従順な部下に仕上がった。

 

「さて、てめぇには過去消去の契約を結ばなかったわけだが、いくつか質問がある。政府は”闇の聖女(ダーク・セイント)”エレインを今代の妖精王だと睨んでいる。それは事実なのか?」

 

「……さぁどうでしょう? 私としては元ご主人がそれほどの器とは到底思えませんが。」

 

「そうか、なら次の質問だ。この海のどこかに妖精族の生き残り共が隠れている島があるはずだ。その場所を知っているか?」

 

「いえ、存じ上げません。申し訳ございません。」

 

「なんだ知らねぇのか。」

 

 キングがペコリと頭を下げるとモリアはがっかりしてその場に座り込んだ。モリアはあわよくば他の妖精族もゾンビにするつもりだったようだ。

 

「あぁ~食った食った。ちょっと外に出てくる。世界一周でもしてくるか。」

 

「「「いや大航海かっ!」」」

 

 キングとモリアが話している間に食事を終えたオーズはルフィのようなことを言った。それに突っ込む他のゾンビ達を尻目に、オーズは鋼鉄で密封された冷凍室の壁をいとも簡単に拳で破壊し、意気揚々と外に出て行った。

 

「海賊王に俺はなるっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影を取られた俺、そしてルフィ、ゾロ、サンジはサニー号へ戻された。気絶していた俺達は船に戻ってきたウソップ達に起こされ、今の現状を知る。まず俺達の影が取られ、ゾンビにされていること、ナミがアブサロムという透明人間に攫われたこと、そしてブルックがルフィ達が前にあったクジラのラブーンの仲間であることが分かった。ラブーンのことですっかりブルックが気にいったルフィ達はナミと影の他に、ブルックの影も取り戻して仲間にすることを決める。

 

「ところでチョッパーさん、私のゾンビは見ませんでしたか?」

 

「ごめんなエレイン、俺達ルフィのゾンビが怖くってお前の影の行方は見てねぇんだ。」

 

「まぁでも、ブルックの話だとゾンビってのは影の戦闘力と死体の筋力が一致した時に強力な個体になるんだろ? エレインの力の本分は魔力なわけだし、エレインの高い魔力を最大限活かせる死体なんてそうそうあるもんじゃねぇだろ。」

 

 心配すんなと笑うウソップだが、俺にはどうも引っかかる。暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)のこともあり、肉体次第でゾンビは魔力も扱えることが分かっている。確かにウソップの言う通り、俺の持つ妖精王の魔力についてくるには普通の人間では役不足だ。だが、この世界には七つの大罪要素がねじ込まれている。例えばモリアが昔の妖精族の死体や、はたまた魔神族の死体を所有していた場合、俺のゾンビはオーズに負けず劣らない脅威となる。警戒するに越したことはない。

 

「よしいくぞっ! モリアをぶっ飛ばす!!」

 

「「「おう!」」」

 

「透明クソ人間めっ! クソ許さんっ!!」

 

 こうして俺達はルフィ、そしてナミが攫われたことで怒りに燃えているサンジを先頭に、再びスリラーバークに足を踏み入れた。向かってくるゾンビ達を返り討ちにしながら突き進む。俺、ルフィ、サンジ、ロビン、チョッパー、ウソップは階段を駆け上ってモリアのダンスホールを、ゾロとフランキーは階段の下の通路を通ってペローナの部屋を目指す。

 

ヒューン…

 

「! 皆さん下がってっ!!」

 

ドゴォンッ!!

 

 不意に嫌な予感を感じた俺は前を走るルフィ達に叫ぶ。その瞬間上から巨大な影が降ってきてモリアのダンスホールに続く階段を破壊してしまった。おそらくオーズの仕業だろう。俺とチョッパー、ロビン、ルフィは咄嗟に下がったので無事だったが、反応に遅れたサンジとウソップがたくさんのゾンビ達と共に下へ落ちてしまった。

 

「サンジー! ウソップー!」

 

「大丈夫ですっ! 私が助けます!」

 

 下に落ちた二人を受け止めようと俺はクッション状態のシャスティフォルを飛ばす。だが、そのシャスティフォルにドスドスッと矢が三本撃ち込まれた。

 

「「「!?」」」

 

「おっと、させないよ。」

 

 そう言って俺達の前に暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)の五人が降り立った。大剣を肩に担いだスレイダーがルフィの前に悠然と歩み寄る。

 

「何だお前ら!?」

 

「暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)だ。モリア様にたてつく者の排除を命令されている。」

 

「どけっ! 俺はモリアに用があるんだ!」

 

 そう言ってルフィは真っ先にスレイダーに突進していった。スレイダーはルフィを狙って大剣を真上からズドォンと振り下ろす。それをルフィはヒュッと横に移動してかわす。

 

「”ゴムゴムの鞭"っ!」

 

ズドッ!

 

「っ!」

 

 大剣を振り下ろしたことでできたわずかな隙を突き、ルフィはスレイダーの脇腹に蹴りを打ち込んだ。その蹴りで体勢が崩れたスレイダーにルフィは連続で攻撃していく。スレイダーは大剣を使っている分、懐に潜り込まれると弱いようだ。

 

「だあっ!」

 

ドンッ!

 

「ぐわっ!」

 

 ルフィの連続攻撃を止めるべく、ヒューゴが二つの斧を重ねてハンマーのようにしてルフィに振り下ろした。ルフィは階段に叩きつけられクレーターを作り、スレイダーはその間にルフィから距離を取る。

 

「”腕力強化(アームポイント)”!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 倒れたルフィに追撃をしかけようとしたヒューゴをチョッパーが止めた。腕力を強化した状態のチョッパーならヒューゴのパワーにも対抗できる。

 

「面倒ね、その生き物。」

 

 チョッパーの姿を見たジリアンが曲剣の先をチョッパーに向けた。

 

「事が済むまで身悶えしててもらうわ。」

 

 曲剣の先に光が宿る。拘束の魔力でチョッパーの動きを封じる気だ。

 

「”八輪咲き(オーチョフルール)”。」

 

「なっ!?」

 

「悪いわね、事が済むまで身悶えしててもらうわ。」

 

 だが、ジリアンが魔力を発射する前にロビンがジリアンを無数の手で拘束した。何とか抜け出そうとするジリアンだが、がっちりとホールドされているので身動きが取れない。

 

「ちっ! 構え太刀”円”!」

 

 そんなジリアンを助けようとサイモンがロビンを狙って長い太刀を横薙ぎに振り回した。

 

ガキィィンッ!!

 

「なっ!?」

 

 だが、サイモンの太刀は俺が槍形態のシャスティフォルで防御した。サイモンの太刀を押さえつけた俺は、ヒュンッとサイモンに近づき、彼のおでこにピトッと手を置いた。

 

「ちょっと失礼♪」

 

ボウッ!!

 

「ぐほっ!!」

 

 俺はそのまま至近距離で”そよ風の逆鱗”をぶっ放した。強風を受けたサイモンは階段に叩きつけられ、ぐちゃっと頭部が潰れる。

 

「はっ!」

 

 そのまま俺は階段の端から俺達を狙って弓を引き絞っているワインハイト目掛けてシャスティフォルを飛ばした。シャスティフォルは空気を切り裂きながらワインハイト目掛けて一直線に飛んでいく。

 

スカッ

 

 だが、シャスティフォルはワインハイトをすり抜けた。シャスティフォルが通過するとワインハイトはゆらゆらと揺らぎ、消えた。どうやらこの場にいた彼は魔力で作った幻影だったようだ。本物の彼はどこだと魔力を探ってみれば、彼はスリラーバークの塔、ちょうど崩れた階段の先にいた。魔力を宿した矢をこちらに向けて構えている。

 

「”ゴムゴムの銃(ピストル)”!!」

 

ガンッ!

 

「がぁっ!」

 

 だが、ワインハイトはその矢を放つ前にルフィの長いリーチのパンチをくらって倒れる。俺が幻影を攻撃して外したことで油断していたようだ。

 

「へへっ、どうだ!」

 

 バチンッと腕を戻したルフィがスレイダーに得意気に笑う。さっき俺一人で戦った時は暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)の技術、魔力、連携に何もできずにやられてしまったが、ルフィ達と戦えばこんなにも優勢に戦うことができる。ルフィを中心に俺達が誰かを押さえることで技術を潰し、魔力は悪魔の実の能力で対抗し、連携はゾンビになってしまった彼らよりも俺達の方が圧倒的に上だ。

 

「素晴らしいな。さすがスペシャルゾンビの影の主だ。だが、俺達は不死身だ。」

 

 そう言って大剣を構え直すスレイダーからはルフィから受けたダメージを感じない。さらにチョッパーが戦っているヒューゴ、俺が頭部を潰したサイモン、ルフィの拳をくらったワインハイトもケロッとした様子で立ち上がった。このゾンビ達を倒すには、塩を食べさせて影を持ち主の元へ返すか、焼いて身体を完全に消滅させるしかない。

 

「ではこれでどうですか?」

 

 俺がスッと指先を下に向けると階段から勢いよくボッと巨大植物が生えてきた。シャスティフォルの第四形態だ。シャスティフォルはメキメキと限界まで成長するとキュゥゥンと光を吸収し、やがてブワッと蕾を開く。

 

「霊槍シャスティフォル第四形態___」

 

 高速で動き回って戦う暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)の面々に塩を食べさせるなんてことはウソップのような狙撃能力でもない限り不可能に近い。だったら光線で身体を粉微塵に焼いた方が早いだろう。俺はシャスティフォルの標準を合わせ、彼らを焼き払おうとした。

 

 その時だった。

 

ドンッ!

 

「え…!?」

 

「何だ!?」

 

「エレインの霊槍がっ!?」

 

 光線を放とうとしていた第四形態のシャスティフォルが何者かに縦に真っ二つに切り裂かれてしまった。槍形態に戻ったシャスティフォルが真っ二つになってカランッと階段に落ちる。

 

「シャスティフォルが……! 一体誰が………!?」

 

「さてさてさーて、誰でしょう?」

 

「「「!?」」」

 

 俺がキョロキョロと辺りを見回していると上空から声が聞こえてきた。上を見上げてその者の姿を見た俺は絶句した。

 

「な…………え…………!?」

 

「それはあなたが一番よく分かっているんじゃないかな? 元ご主人。」

 

 その人は、俺がよく知っている人物だったからだ。黄色と緑のパーカーに黒のズボン、緑の靴に左足首には熊の印(シンボル)、茶色の髪の特徴的な寝癖、何より俺のシャスティフォルを容易く両断する力量。そんな人物、一人しかいない。

 

「兄………さん…………?」

 

「「「えっ!?」」」

 

 「キング」と言おうとしたのだが、俺の口は勝手にそう呟いていた。目の前のゾンビが俺の、エレインの兄だと聞いたルフィ達は驚いて俺とキングを見比べている。そしてキングはというと、俺の言葉を聞くとニタァと、原作のキングは到底浮かべないであろう気味の悪い笑みを浮かべた。

 

パァンッ!!

 

「ぐっ…!!」

 

 俺がその笑みに不快感を感じていると、不意に横から強い衝撃を受けて俺の身体は吹き飛んで、モリアのダンスホールから大分離れた森に不時着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレイーーーンっ!!」

 

 ルフィはエレインが吹き飛ばされた方向に叫んだ。ルフィ達の目の前ではエレインの兄だというゾンビがふよふよと浮かんでいる。その傍らには地面から生えた巨大な木の触手がゆらゆらと揺れている。エレインを吹き飛ばしたのはこの触手だ。

 

「何すんだお前っ! エレインの兄ちゃんなんだろっ!」

 

「身体はね。でも今はモリア様の忠実な僕なんですよ。」

 

 キッとルフィがキングに怒りの視線を送るが、当のキングは気にも留めずにスレイダーの元に降り立つ。

 

「まったく暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)ともあろう者達がいつまで手こずっているんですか。」

 

「この者達がなかなか強敵でな。何か用かスペシャルゾンビ。」

 

「アブサロム様の命令を伝えに来たんですよ。暴れているオーズを止めるため、将軍(ジェネラル)ゾンビは全員集合です。」

 

「そうか、分かった。」

 

 キングから命令を伝えられるとスレイダー達はヒュッとその場から立ち去った。この場に残ったのはキングとルフィ達だけとなる。

 

「…………何ですか? 何か言いたそうですね。」

 

「っ! 当たり前だ! お前よくもエレインを!」

 

 飄々と喋るキングにチョッパーがそう叫んだ。チョッパーは青キジに妖精族が滅ぼされた種族だということを聞かされたあの日から、エレインのことを気にかけていた。一人の寂しさはチョッパー自身よく知っていたから。それはチョッパーだけでなく、ルフィもロビンも、麦わらの一味全員同じだ。冒険を続けて誰か一人でも生き残りの妖精族に会わせてやりたい。そう思っていた。

 

 だというのにやっと会えた同胞がゾンビと化した兄だというのだ。彼らが怒るのも無理はない。

 

「そりゃあ今の私はモリア様の兵士なわけですし、敵を倒すのは当然じゃないですか。」

 

「このっ!」

 

 ゾンビになっているとはいえ自分の妹を「敵」と呼ぶキングに怒ったルフィが我慢ならずにキングに殴りかかる。ルフィの拳をキングはどこからともなく取り出した緑の剣でガードした。

 

「霊槍シャスティフォル第五形態”増殖(インクリース)”…………ってね。」

 

ザザザーッ!!

 

「ぐわっ!」

 

「ぐっ!」

 

「あうっ!」

 

 キングはその緑の剣を瞬間的に何本にも増やし、三人目掛けて飛ばした。至近距離で攻撃を受けたルフィはもちろん、チョッパーとロビンも攻撃を防ぎきれずに傷を負う。

 

「じゃ、私は元ご主人と遊んできますので。あなた達もあまり暴れないでくださいね。スペシャルゾンビとして私の仕事が増えるんですから。」

 

 そう言い残すとキングはシューンッとエレインが飛ばされた方向へ飛んでいってしまった。

 

「くそっ、待てぇ!」

 

「待ってルフィ! 深追いしないで!」

 

 腕を伸ばしてキングを捕まえようとするルフィをロビンが止めた。

 

「私達の目的はモリアを倒すことよ。ここで彼を追っても体力と時間のロスになる。彼はエレインに任せましょう。本当にエレインのお兄さんなら、彼のことはエレインが一番よく分かっているわ。」

 

「でもっ………!」

 

「モリアを倒せばすべての影が返ってくる。そう言ったのはあなたでしょう。エレインのお兄さんから影を抜くことができれば、彼をちゃんと弔うこともできるわ。それが今あの娘にしてあげられる一番のことよ。」

 

「っ………! 分かった。」

 

 未だ納得いかないルフィだが、ロビンが言うことが正しいことは理解できるので自分は前に突き進む。

 

「モリアァァァァッ!!」

 

 キングのこともあり、ルフィのモリアへの怒りは一層強くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほっ………!ごほっ………!」

 

 木々を破壊し、森にクレーターを作った俺は咳き込んで血を吐いた。

 

「まさか……キングまで………。」

 

 七つの大罪”怠惰の罪(グリズリー・シン)”のキング。見た目は小さな少年だがその正体は妖精王の森を治める妖精王”ハーレクイン、かつて人間の王国と密約を結び、絶大な魔力で人々に恐怖を与えた存在だ。闘級は4190、俺のシャスティフォルは本来妖精王たる彼のために神樹から作られたものだ。

 

 まさか暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)に続いてキングまで出てくるとは。それもゾンビになって。しかも彼の左足首にはしっかりと七つの大罪団員の証である獣の印(シンボル)が刻まれていた。これでこの世界に七つの大罪が存在することは確定だ。

 

ヒュンッ!

 

「!」

 

 考え事をしていると緑の剣が飛んできた。俺はそれを上空に飛び上がることで避ける。これは……キングの親友ヘルブラムが使っていた魔剣か。

 

「おぉ~、咄嗟の不意打ちにもちゃんと反応できましたね。さすがにエレインの身体を持っているだけのことはある。」

 

 声のする方を向くと、そこには魔剣を傍らに戻しているキングの姿があった。ゾンビらしく生気を感じさせないその顔は、他のゾンビと比べると腐敗や損傷が少ない。妖精族は死んでも肉体が腐らないからだ。

 

「………あんまりその口調で喋らないでもらえますか? キングに敬語はあまり似合いません。」

 

「あっそ。ま、言われなくてもそうするさ。ここには俺とお前しかいないからな。」

 

 ん? 今の言葉、まるで転生のことをバレないように違和感をなくすために敬語を使っていたということか?

 

「もしかしてモリアに転生のことは…………」

 

「もちろん言ってねぇよ。聞かれなかったしな。」

 

 何というか、キングは他のゾンビ達とは違うような気がする。本人が意識しているかは分からないけど、まるで俺のように転生のことを隠しているみたいだし。

 

「何で報告しないのかって? それは俺も知らねえよ。ただ、モリア様は俺から他の妖精族の居場所を聞き出すために過去消去の契約をしなかったから、そのせいであんたの自我が残っているのかもな。」

 

 そこまで言うとキングは「でも……」と言って魔剣を構えた。

 

「俺のやることは変わらない。モリア様の兵士として目の前の敵を倒す。それが俺の仕事だっ!」

 

パァンッ!

 

「ぐっ!」

 

 キングは地面から木の触手を生やし、それを振るって攻撃してきた。俺はそれをクッション状態のシャスティフォルを盾にして防御し、一時下がる。

 

「まだまだいくぞ。」

 

ボッ!ボッ!ボッ!

 

 キングはさらに木の触手を生やし、合計四本になった。俺は触手の波状攻撃を第二形態のシャスティフォルで一本一本防いでいく。そうやって防いでいると触手の間に隙を見つけた。ちょうど触手と触手の間に隙間ができ、俺からキングまで一直線の道ができている。

 

「いけっ! シャスティフォルっ!」

 

 俺はそのチャンスを見逃さず、シャスティフォルを槍形態にしてキング目掛けて飛ばした。シャスティフォルは正確にキングに向かって飛んでいく。

 

ピタッ

 

「…………え?」

 

 だが、シャスティフォルはキングに当たる直前でピタッと停止してしまった。いくら魔力を込めてもこれ以上進まない。

 

「何やってんだ?」

 

カキンッ!

 

 ピクリとも動かないシャスティフォルはキングの魔剣で弾き返されてしまった。シャスティフォルはフィンフィンと回転しながら俺の横に戻る。

 

「よいしょっ!」

 

バチッ!

 

「あうっ!」

 

 キングが手を横に振ると気の触手がブゥンと横に振られ、俺は打たれて森の中に墜落した。倒れる俺に追撃しようとキングが触手を振り上げる。俺はその触手を迎え撃とうとシャスティフォルを第五形態に変形させる。

 

パァンッ!

 

「なっ!?」

 

「おいおいそれは攻撃のつもりか?」

 

 だが、無数のクナイとなったシャスティフォルはいとも簡単に触手に撃ち落されてしまった。

 

ドンッ!

 

「ぐはっ!」 

 

 俺は背中を触手で打ち付けられると今度は触手に持ち上げられた。

 

シパパパパーンッ!

 

「はっはっは! 1億の妖精はよく弾むな!」

 

 キングは俺を四本の触手でまるでボールのように弾いて弄んだ。空中に投げ出された俺は第五形態のシャスティフォルを操作してギュルルルルッと触手の一本を取り囲んだ。

 

「はっ、そんな攻撃じゃ止められないぜっ!」

 

ズドッ!

 

「がっ!」

 

 だがそれは何の障害にもならず、触手はシャスティフォルごと俺を吹き飛ばした。再び森へ墜落した俺はよろよろと立ち上がって頭から流れてくる血を押さえながら空中のキングを見上げた。

 

 おかしい。あまりにも強すぎる。前述の通り、キングの闘級は4190、対して原作エレインの闘級は2830だ。だが、今の俺(エレイン)はシャスティフォル分の能力が加わっているからキングと実力は近いはずだ。なのに現実はこうしてキングに一方的にやられている。何かがおかしい。もしかして俺は何か見落としているんじゃないか? 重要な何かを。

 

「元ご主人、あんまり頑張らないほうがいいと思うぜ?」

 

「? どういう……意味ですか……?」

 

 俺がそう聞くとキングは「だってさぁ……」と言いながらくるっと後ろを向いた。俺は彼の背中にあるものを見て息を呑んだ。

 

「絶対俺には勝てないんだから。」

 

 そう言うキングの背中では小さい羽がピコピコと動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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