とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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空島編2・妖精のサルベージ

 

 

 

 

 

 

サルベージとは簡単に言えば沈没した船の引き上げ作業のことであり、嵐などで沈んだ海賊船や貿易船、または戦争で沈められた輸送艦など対象は様々だ。パソコンの普及が進んだ現代日本では、失ったデータを修復すること、または大量のデータに埋もれ、行方がわからなくなったデータを探し出すこともサルベージと呼ばれる。

 

「じゃ幸運を祈ってるわ!頑張ってね!」

 

空島への手がかりを得るためには俺達の目の前で沈んだガレオン船をサルベージしなくてはならないが、如何せん大きすぎる。さらに言えば俺達にはサルベージのための設備は何一つないので元々無理な話なのだ。

 

というわけでルフィ、サンジ、ゾロの三人はウソップ作の即席潜水服を着て海へ潜ることとなった。樽でできた潜水服を装備した三人はメリー号から海へと飛び込む。

 

「こちらエレイン。皆さん、大丈夫ですか?」

 

『こちらルフィ。何だか怪物がいっぱいいるぞ。』

 

『ここは巨大ヘビの巣か!?』

 

『こちらサンジ。うわっ!!こっち見た!!』

 

「OK!」

 

「OKか!?」

 

俺がシャスティフォルの第二形態で三人の給気ホースを伸ばすリールを回しながら配音管に声をかけると元気な声が返ってきた。それを聞いたナミは頷き、ウソップはそれにツッコんでいる。

 

しばらくルフィ達の状況を聞きながら作業をしていると遠くから軽快な歌が聞こえてきた。その音楽は徐々に近づいてくる。笛やシンバルの音が鳴り響き、「サルベージ♪サルベージ♪」と歌っている。やがてその声の主はメリー号のすぐ隣へ停泊した。大きな船だった。先ほどのガレオン船よりは小さいがそれでもメリー号の3倍はあるであろう大きな船だ。船首はおもちゃ屋でよく見かけるシンバルを持ったおサルさんで、帆には猿の顔にバナナが交差されたガイコツが描かれている。海賊船のようだ。

 

「おいお前ら!そこで何やってる!この海域に沈んだ船はすべて俺のもんだ!手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

 

船の船長らしき猿っぽい男が俺達に叫んだ。聞けば彼らもサルベージをするらしい。ナミが上手いこと言いくるめ、俺達は彼らを様子見することとなった。

 

まず船から潜水服を着た船員が何人か海へ飛び込み、"ゆりかご"なる金具をガレオン船にセットする。そして今度は船首のサルが外れ、クレーンに吊られて海へ入っていく。それについてウソップとチョッパーが大絶賛していた。ナミは呆れていたが、俺も少しカッコいいと思ってしまったのは内緒だ。

 

そして驚くなかれ、何と彼らはホースから息を吹き込んで船を持ち上げようとしていた。無茶苦茶だ。しかし、桁外れの肺活量でガレオン船にはみるみる空気が溜まっているようだ。配音管からルフィ達の悲鳴が聞こえてきそうだったので、ウソップとチョッパーが慌てて配音管の口を押さえる。

 

すると何かトラブルがあったようで猿っぽい男は潜水服もなしに身一つで海に飛び込んだ。

 

「何なのよ……。」

 

「さ、騒がしい人達ですね……。」

 

ナミが額を押さえながら呟いた一言に俺は苦笑してコメントした。ふと後ろを振り返れば何故かウソップとチョッパーが抱き合って震えていた。

 

「?お二人共、どうかしましたか?」

 

「エ、エレ、エレイン………!!」

 

「ふ、船、船の下!!何かいる!!」

 

「船の下?」

 

俺はふわっと空に浮き、メリー号の下を見てみる。そこにはもうメリー号とは比べ物にならない大きさの影が動いていた。

 

「………………ホントだ。」

 

あまりの出来事に俺はそれくらいしか言えなかった。やがてその大きな影は海面に姿を現す。

 

「ぎゃあぁぁ!!あぁぁぁ!!!」

 

「何なんだよありゃー!!!」

 

「何あの大きさ!!バカにしてるの!まるっきり大陸じゃない!!」

 

「あら、あの子達全員船ごと食べられちゃったの?」

 

「ホースが口の中に続いてますから、間違いないですね。」

 

「「や~め~ろ~~~~!!」」

 

それは巨大なカメだった。顔だけでもメリー号の15倍の大きさはあり、全体の大きさなど考えたくもない。

 

どうしようどうしようとパニックになっているとメリー号の船体が大きく揺れた。カメの口から続いている給気ホースが引っ張られたようだ。

 

「野郎共!ロープを手繰りボスを救え!!ボスはまだ生きている!!」

 

「「「アイアイサー!!」」」

 

見ればあちらの船ではルフィ達と共に食べられたであろう猿顔の男を助けようとしている。なるほど、こんな時はチームの団結力が試されるのか。

 

「エレイン!」

 

「はい!!」

 

「ホースを切って安全確保!!」

 

「はいっ!?」

 

「悪魔かてめぇは!!」

 

ナミからの指示に俺は思わずコケそうになって、ナミにウソップがツッコむ。そんなやり取りをしていると突如周辺がどっぷりと暗くなった。ふと目をやればあちらの船では「不吉の前兆」やら「怪物が出る」やらと騒いでいる。

 

ドサッと甲板にガレオン船で手にいれたであろう大荷物を持ってルフィ達がメリー号の甲板に落ちてきた。自力でカメの口から脱出し、ルフィの能力で帰って来たらしい。あちらの船を見ればどうやら猿顔男も無事らしい。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」

 

「わっ!どうしたんですか!?」

 

何やら猿顔男は俺達に怒っている。早くここから離れようと船を出す準備をしているとチョッパーが俺に泣きながら抱きついてきた。

 

「エ、エレイン!!あれ!あれ!!」

 

「あれ……って……。!!え!?」

 

「な!?」

 

「なんだありゃ!!?」

 

チョッパーがエレインボディの平たい胸に顔を埋めながら指す方向を見て驚愕した。そこにはカメなんかより数十倍でかい巨人の影が三人分あった。

 

「「「怪物だぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

俺達は恐怖の余り無我夢中で逃げた。メリー号の帆をたたみ、オールを全員で目一杯漕いだ。しばらく漕いでいると暗くなっていた海域は抜け、そこにはカモメが舞う穏やかな海が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色んなことが起こりすぎて精神的に疲れていた俺達は怪物から逃げきった後、甲板に座り込んでしばらく休んだ。そのあとルフィ達が持ってきた戦利品を開けてみたが、錆びた剣や食器、ボロボロのヨロイなどろくなものがなかった。

 

完全に行き先を失ったかに見えたメリー号だが、ロビンが猿顔男の船からこっそり奪っていた"永久指針(エターナルポース)"のお陰で何とか路頭に迷わずに済んだ。

 

ちなみに永久指針(エターナルポース)は記録指針(ログポース)の亜種で、その島の磁場をあらかじめ指し示してくれる物だ。

 

メリー号の行き先は"ジャヤ"という島。そこで俺達は空島についての情報収集をすることとなった。

 

「船長、ジャヤで何か必要な物とかありますか?」

 

「ん?そうだな……肉!!」

 

「………だと思いました。調達しておきますね。」

 

メリー号の船首(ルフィの特等席らしい)で昼寝をするルフィに俺がシャスティフォルに抱きついてふよふよ浮きながら尋ねると予想を裏切らない答えが返ってきた。それを俺はナミからもらった紙にメモしておく。

 

七つの大罪原作でキングは主人公メリオダスらの酒場の仕入れ係を担当していた。俺もそれにあやかり、雑用係兼仕入れ係を担当しようと思っている。半ば無理やりとはいえ俺のようなへっぽこを主人公組に入れていただいたのだ。これくらい働かないと申し訳なくてしょうがない。メリー号にはベッドが2つしかなく、あとの面々はハンモックを吊って寝ている。俺はチョッパーを除けば仲間の中で一番小さいのでよくベッドを勧められるがいつもシャスティフォルを枕に床で寝ている。主人公組を差し置いて俺がベッドで寝るなど……殺されそうな気がするのだ。

 

そうこうしている内にメリー号はジャヤという島についた。遠目から見ればリゾートのようないい感じの町並みだが、上陸してみればそんなことはなかった。港にはたくさんの海賊船が堂々と停泊していて、建物はボロボロ、町行く人々はほとんどが武器を持った無法者で「物騒」という言葉がこの上なく似合う町だった。

 

ルフィとゾロが空島への行き方を聞き込みすることになったが、この二人がトラブルを起こさないわけがないとナミもついていき、計三人が聞き込みを担当、サンジ、ウソップ、チョッパーは船へ残り、俺とロビンが物資の調達をすることになった。

 

「えっ!?この皿一枚で3万ベリー!?……ぼったくりじゃないですか?」

 

「何を言うかねお嬢ちゃん。この町じゃ安いほうだよ。」

 

「……予算オーバー。結構です。ありがとうございました。」

 

俺はよく見ればヒビが入った大皿を店主へ返し、ふよふよとまた店を探し始めた。ここは金が有り余る海賊が金を湯水のように使うことで成り立つ町らしく、物価がそれ相応に高い。これじゃあナミからもらった予算では頼まれた物すべてを買うことは難しそうだ。

 

キョロキョロと店を探しながら浮遊していると誰かが俺の肩を掴んだ。

 

「ぐへへ、お嬢ちゃんかわいいね。」

 

「どうだい?そこのホテルでいいことしないかい?おじさん達がおごってあげるよ。」

 

無精髭を生やしたふくよかなおっさん二人が下卑た笑みを浮かべていた。あっち系の趣味があるらしい。俺は抱きついていたシャスティフォルを素早く無数のクナイへと変化させ、おっさん二人の喉元や心臓などあらゆる急所に突き立てる。

 

「……すみません、聞こえませんでした。もう一度お願いします。」

 

「「………な、なんでもありません。」」

 

俺が黒い笑みを浮かべればおっさん達はそう言って一目散に逃げていった。こんなやりとりはこの町に入ってからよくあることだ。一度路地に連れ込まれてマジでやられそうになった。その時は第二形態にしたシャスティフォルを無茶苦茶に暴れさせて何とかなったが、めちゃくちゃ怖かった。それ以降俺はからまれるたびにシャスティフォルで追っ払っている。

 

「ゼハハハハ!中々肝が座ってるな!嬢ちゃん!」

 

「ん?」

 

クナイとなったシャスティフォルをクッション状態に戻しているとふと後ろから笑い声が聞こえた。振り返るとウソップ程ではないが鼻が長めのビール腹の男がいた。

 

「中々面白いモン見させてもらった。嬢ちゃん、海賊か?」

 

「あ、はい。雑用係ですけど。」

 

会話をしながら俺は首を傾げていた。この男、どこかで見たことあるような気がしてならない。恐らくキャラクターの一人なのだろうが如何せん俺は原作知識がない。必死に記憶から引っ張りだそうとするも喉まで出かかって引っ込んでしまう。

 

「じゃあな嬢ちゃん!りっぱな海賊になれよ!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

男はそう言って去っていった。俺は男から教えてもらった安い雑貨屋の地図を片手に再びふよふよと移動を始めた。

 

「あら、エレイン。」

 

「あ、ロビンさん。」

 

移動し始めた矢先、近くの酒場からロビンが出てきた。

 

「酒場で何してたんですか?」

 

「ふふ、情報収集よ。それよりエレイン、物資は集まった?」

 

「いえ、この町は物価がやたら高くて。でも親切なおじさんから安い雑貨屋さんを教えてもらいましたよ。」

 

「そう。これから服を調達しようと思ってるの。良かったら一緒にいきましょ。」

 

「はい。」

 

俺とロビンは再びジャヤの町を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 


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