とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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空島編3・妖精と絵本

 

 

 

 

 

 

 

「お、重い………。」

 

無事買い出しを終えた俺とロビンはメリー号へ帰っていた。しかし、如何せん物資の量が多すぎた。まず俺が頭に乗せている銀のボウルにはルフィに頼まれた骨付き肉が3つ入っている。手に持つバッグにはサンジから頼まれた食材、その状態で抱きつくシャスティフォルにはロープが巻かれ、チョッパーの医学本にメリー号の資材、酒、食器、服などが吊るされている。こんな重装備で俺はロビンの隣をふよふよ……というかふらふら飛んでいた。さすがにちょっと持ち過ぎたかもしれない。

 

「それでエレイン、何か思い出した?」

 

「へ?何がです?」

 

「記録指針(ログポース)が真上を指した時、あなたは真っ先に"空島"と呟いた。空を飛べるあなたのことだもの。故郷は空島だったりするんじゃない?」

 

「あ!いえっ…!その、まだ何も……。私が失ったのは経験記憶のほうで、情報のほうは残ってたみたいなので……え~と…!」

 

ロビンのもっともな指摘に俺は慌てて弁解した。忘れてた。そういえば俺は記憶喪失という設定だった。しばらく弁解しているとロビンは「そう。」と言って納得してくれた。危なかった。なるべく原作知識は話さないほうが良さそうだ。

 

「それでロビンさんは酒場でどんな情報を仕入れたんですか?」

 

「これよ。」

 

そう言ってロビンは懐から一枚の地図をピラッと取り出した。俺は手がふさがっているため、魔力を用いて地図を顔の辺りまで浮かせる。見ると地図はこのジャヤのものだった。ジャヤの島が海を挟んで二つに割れていて、左側の島には俺達がいる町が記され、右側の島の東の海岸にはバツ印がつけられていた。

 

「このバツ印は何ですか?」

 

「ある人物が住んでいるのよ。名前は『モンブラン・クリケット』。夢を語ってこの町を追われた男よ。話が合うんじゃない?」

 

「おぉー!すごいですロビンさん!」

 

何て機転の利く御人だニコ・ロビン。俺が慣れない仕入れに四苦八苦している間にここまでやってくれていたとは。俺はロビンの高いスペックに詠嘆の声をもらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が船に戻るとルフィとゾロが傷だらけでチョッパーの治療を受けていた。何があったのかナミに尋ねると「あんたが空島なんて言うから!」と怒られてしまった。ウソップから「今あいつに近づかないほうがいい」と忠告もいただいたので素直にロビンの背中に隠れることにした。

 

「オウオウ!ニーチャン!勝手にここらの海域に入ってくんじゃねぇぞ!ウォーーホーー!!」

 

そしてロビンの情報を元に俺達はモンブラン・クリケットという人物を訪ねることになった。その道中、またもや俺達は猿っぽい男に出会った。海で出会った猿顔男とは別人で、緑の海賊帽子に緑のコートを羽織ったオランウータン風の猿顔男だ。何故か今日は猿と縁が深い日らしい。

 

そのオランウータン男"ショウジョウ"は、俺達が海で猿顔男(ちなみに"マシラ"というらしい)に会っていたことを知ると途端にマイクを片手に大声で叫び出した。俺が特にマシラには手を出していないことを告げようとするも、頭に血が上っていて聞こえていない。ショウジョウの雄叫びはとても大きく、ルフィ達は耳を塞いでいる。

 

その時、バキバキッとメリー号から嫌な音が聞こえてきた。見ればメリー号がウソップの修理した箇所から壊れ始めている。ルフィ達の無茶な航海でダメージを蓄積したメリー号にとってショウジョウの音波攻撃は大打撃だ。

 

「全速前進よ!ここにいたら船がバラバラにされちゃうわ!」

 

俺達はナミの指示の元、大急ぎでその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トンテンカン…トンテンカン…

 

「まったく…!あの…!オランウータンめ…!船をさらに破壊してくれやがって…!」

 

ショウジョウから逃げきった俺達はモンブラン・クリケットの家を目指しながらメリー号の修繕をしている。ウソップとルフィが主に船の側面を、ゾロと俺がマストの修理だ。

 

「気がつきゃいつのまにかボロボロだなこの船も。替え時か?」

 

「勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!!」

 

剥がれたマストの表面の木材に、俺が買ってきた木板を上から張りつけて、トンカチで釘を打っていたゾロがボソッと呟いた一言にウソップが怒る。しかしゾロの言う通りよく見なくてもメリー号はボロボロだ。所々傷だらけで、今俺達がやっている修繕だってただのツギハギにすぎない。

 

「着いたわよ。」

 

トンカチを持って振る力すらないため、魔力でトンカチを操作して修理していた俺の後ろからいきなりロビンがそう声をかけた。あまりにいきなりだったので俺はビクッと反応してしまった。俺の反応が可笑しかったのかロビンは口に手をあてて「ふふふ♪」と笑っている。

 

そのことに若干頬を膨らませながら前を見るとジャヤの東の海岸があった。海岸と言っても砂浜があるわけではなく、草原がそのまま海に面している。

 

「「「すっげぇ~~~!!」」」

 

そして海のすぐ近くにあるモンブラン・クリケットの家を見てルフィとウソップとチョッパーが目を飛び出させて驚いた。その家はお城だった。シンデレラに出てくる城とアラビアンの城を足して2で割ったような城だ。

 

「ん?」

 

「どうした?エレイン。」

 

「いえ……何かが…………あ。」

 

俺はその城を見てふと違和感を感じた。何と言うか、その城には何かが足りないような気がしたのだ。うまく言葉では言えないが、存在感というものをイマイチ感じ取れない。その正体を確かめるべくメリー号から飛んでその城に近づいて俺は呆けた声を出した。

 

「げ!ただの"板"!?」

 

「……モンブランさんはずいぶん見栄張りな人のようですね。」

 

城の正体に気づいたルフィが、ガーンという効果音と共に叫ぶ。その城は木の板に描かれたただの絵だった。本当の家は2階建ての小さな物で、あとはベニヤ板に描かれた城だけだった。

 

「ねぇロビン。その人はどんな夢を語ったの?」

 

「詳しくは分からないけど、このジャヤには莫大な黄金が眠っていると言っているらしいわ。」

 

「「「黄金!!?」」」

 

ロビンの情報にルフィ達は大声をあげて驚いた。特にそういった物に目がないナミはチョッパーにその辺を掘るように言って黄金を探し始める。そんな簡単に出る物じゃないと思うのだが。そう言ってもナミは聞かない。

 

「!これは…絵本?」

 

目をベリーにして黄金を探すナミに溜め息をついた俺は、近くの切り株のテーブルに一冊の絵本を見つけた。かなり年期が入っている。題名は「うそつきノーランド」。汚れた表紙にはタイトルと頭に栗のような帽子を乗せた男が船の甲板に立つ絵が描かれている。

 

「うそつきノーランド?へ~、懐かしいな。ガキの頃よく読んだよ。」

 

「知ってるんですか?」

 

「あぁ、俺は生まれは北の海(ノースブルー)だからな。」

 

俺が絵本のタイトルを呟くと、それを聞いていたサンジが反応した。聞けばこの絵本は北の海(ノースブルー)では有名な話で、主人公のノーランドは昔実在したという話もあるのだとか。というかサンジが北の海(ノースブルー)出身とは知らなかった。役に立たない原作知識は今日も平常運転である。

 

絵本の物語を簡潔に言うと、「モンブラン・ノーランド」という探検家の話だ。その男はいつも嘘のような大冒険の話を村人にしていた。ある日、冒険から帰ったノーランドは王様に「ある島で山のような黄金を見た」と報告した。王様はそれを確かめるため、多くの兵士を連れて船を出した。が、苦労の末辿り着いた島は何もないジャングルで黄金など影も形もない。ノーランドはうそつきの罪で死刑となり、誰にも信じられることのないまま処刑された。

 

「…あわれウソつきは死んでしまいました。"勇敢なる海の戦士"になれもせずに…。」

 

「俺を見んなぁ!!切ない文章勝手に足すなぁ!!」

 

「あははは♪」

 

ナミがウソップを可哀想なものを見るような目で見て絵本をパタッと閉じ、それにウソップはツッコんだ。その一連の流れが面白くて俺はつい笑ってしまう。

 

そんなやり取りをしていると、海岸に座り込んで海を眺めていたルフィが突然海に落ちた。何事かと俺達が目を向けると海から顔がひし形で頭に栗を乗っけたご年配の男が上がってきた。

 

「狙いは"金"だな?死ぬがいい。」

 

そう言って男は一番近くにいたサンジへ蹴りかかった。男の蹴りをサンジは軽いフットワークでかわしていく。サンジが男の蹴りをしゃがんで避けたところで男は左の手刀を繰り出した。それをサンジは左足のスネで受け止める。

 

ドウンッ!!

 

「おわっ!!」

 

「サンジさん!!」

 

攻撃を受け止めたことでサンジに一瞬のスキができてしまった。男をそのスキを見逃さず、拳銃を取り出して発砲した。サンジは何とか既の所でかわしたが、身をのけ反ってかわしたためバランスを崩して後ろに倒れてしまう。

 

「霊槍シャスティフォル第五形態"増殖(インクリース)"!」

 

俺は格好の的になったサンジを庇うように前に出た。そしてシャスティフォルを無数のクナイとなる第五形態に変化させる。

 

「ぐっ………!」

 

「へ?……あ、あの、私まだ何もしてませんけど。」

 

俺が攻撃しようとした矢先、男は苦しそうな呻き声をあげてその場に倒れてしまった。一先ず俺はシャスティフォルを元のクッションに戻して男を乗せてあげた。その後、チョッパー先生の指示の元、男を男の家に運び込んでベッドに寝かせる。

 

「!この人…"潜水病"だ!!」

 

チョッパーが男を診断してそう叫んだ。チョッパーは皆に指示を出して家の窓を全開にする。

 

"潜水病"。前世で学校で教わった記憶がある。生物の授業で微妙に時間が余ったので先生がそんな話をしていた。詳しくは覚えていないが、ダイバーがたまにかかる病気で、海底から海上に上がる時の減圧が原因で、体内のある元素が溶解状態を保てずその場で気泡となり、その気泡が血管、血管外で膨張して血流や筋肉などに障害を与える。

 

本来この病気は持病になったりするものではない。チョッパー先生曰く、この男は毎日無茶な潜り方を続けてきたらしい。何か目的があるのだろうか。

 

「分からないけど……危険だよ。場合によっては潜水病は死に至る病気だ。」

 

チョッパーの言葉が重くその場を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 


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