とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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空島編6・妖精の試練

 

 

"貝(ダイアル)"

 

それは、空島での生活に欠かせないものだ。見た目はごく普通の貝殻__まぁ、普通じゃないのもあるがとにかく見た目は貝殻だ。その貝殻には特殊な力があり、音を録音する"音貝(トーンダイアル)"、風を蓄えていつでも放出できる"風貝(ブレスダイアル)"など、種類も豊富だ。

この貝(ダイアル)は空島文化を直接支えており、空島とは切り離せないものだ。

 

「まとめるとこんな感じですか?」

 

「はい。そう思って頂いて結構です。」

 

今日も今日とてシャスティフォルに抱きつき、ふわふわと浮かんだ状態の俺の質問を返したのは、金髪と言うよりクリーム色と言ったほうがしっくりくる髪をピョコンと虫歯のキャラクターのように可愛らしくまとめ、背中に空島の住人である証の翼が生え、ピンク色のワンピースを着た少女__コニスだ。

 

彼女とは、砂浜で遊んでいる時に出会った。彼女は俺達を自分の家に招待し、空島について何にも知らない俺達に色々教えてくれた。彼女の父親もまた独特の雰囲気漂う人で親切に対応してくれた。

 

ただ、コニスが俺を見た瞬間固まったことには驚いた。俺が首を傾げて彼女の顔の前で手を振ってみると少し頬を染めて「す、すみません!あんまり綺麗だったものですから!」と後ろに下がった。

 

俺が綺麗って……この子大丈夫か?

 

確かに見た目はエレインボディだし、綺麗なのは認めるが、中身が俺である以上それだけでマイナスだと思うのだが。むしろ身も心も純粋無垢なコニスのほうがよっぽど綺麗だと俺は思う。だって俺、中身は男なんだぜ?引くだろ。

 

コニスと話しているとキッチンから大量の料理を持ったサンジがコニスの父親と一緒に出てきた。空島の食材を存分に使ったフルコースが完成したようだ。俺達はコニス達と料理を食べながら会話を楽しむ。

 

「"神"がいるのか!?"アッパーヤード"って所に!?」

 

コニス達とおしゃべりを楽しんでいると、海で"ウェイバー"に乗って遊んでいたナミが見えなくなったことに気がついた。コニスはそれを聞くと、顔を青ざめて空島には"神・エネル"が住む絶対に入ってはいけない場所があるのだと説明した。もしナミがそこに入ってしまえば神の裁きがくだされるそうだ。ちなみにルフィはそのことを聞いたら嬉しそうにニコニコしていた。こいつ絶対入る気だ。

 

まあ、空島編のストーリー上、結局全員がその"アッパーヤード"に入ることになるのだが。

 

空島編の大ボスと言えばなんと言ってもエネルである。3種の悪魔の実の内、最強種と言われる"自然系(ロギア)"ゴロゴロの実の能力者で、身体を雷に変えることができるチートな御方だ。最大2億ボルトもの電圧を出すことが可能でしかも雷速で移動できる。始めて見た時は「え?こいつどうやってたおすの?」と絶望感に包まれたものだ。あんな絶望感は某宇宙の帝王様の変身以来だった。

そんな奴相手に俺のようなへっぽこ妖精が敵うわけがない。だから今回の戦いでは、俺は極力暗躍に徹するつもりだ。理想としてはエネルに次々にやられるゾロ達を治療、介護する役割が望ましい。即効性がないとはいえ、一応傷を治療する機能ならシャスティフォルに備わっている。うん、それがいい。そうしよう。

 

いなくなったナミを探すべく、メリー号に乗り込んでいた俺達。そんな俺達の前に白い服を着た屈強な男達がほふく前進で登場した。彼らはコニス達と「へそ」と会話している。多分あれが空島の挨拶なのだろう。

 

"マッキンリー隊長"と名乗る男達のリーダーは俺達を不法入国者と呼び、第11級犯罪故、700億エクストル払えと言った。1万エクストルで1ベリーなので、700万ベリーだ。

高い、高すぎる。だいたい俺達はあのおばあさんに「入っていいよ」と言われたから入ったのだ。それで入ったら不法入国って詐欺もいいとこだ。まぁ、ルフィ達ならあそこで断られても力づくで入国しただろうということは置いといて。

 

「ルフィ!その人に逆らっちゃダメよ!」

 

俺達がマッキンリーと話しているとナミがウェイバーで帰って来た。どうやら無事のようだ。ナミはマッキンリーには逆らわないように言っていたが、請求額を聞くと、ウェイバーでマッキンリーを吹き飛ばしてしまった。あーあ。

当然マッキンリーは怒って攻撃を仕掛けてきた。ただでさえ詐欺まがいなことで取り締まる彼らだ。あんなことをすれば当然公務執行妨害的なことになる。

ルフィ、ゾロ、サンジが男達を蹴散らしてくれている。その間に俺はナミをメリー号に乗せた。途中飛んでくる雲を引く矢は槍状のシャスティフォルを円を描くように高速回転させて弾いている。

 

無事、男達をたおした俺達だが、犯罪者になってしまった以上、ここを離れなくてはならない。ここにいれば関係ないコニス達に迷惑をかける。俺は出航に必要なものをコニス宅から分けてもらおうとするルフィ、サンジ、ウソップについていく。荷物持ちは雑用係の役目だ。

 

コニス宅で出航の準備をしていると、望遠鏡でメリー号を見たウソップが騒いだ。見ればメリー号は超巨大なエビに掴まれ、どこかへ猛スピードで連れていかれている。そのスピードは本当にすごいもので、あっという間にメリー号は見えなくなった。

 

コニスの父親によれば、あのエビは"超特急エビ"といって神の島(アッパーヤード)へ生け贄を運ぶのだそうだ。だが、生け贄とは名ばかりで、ナミ達は人質として捕らえられ、俺達4人はナミ達を助けるために神の島(アッパーヤード)で"試練"を受けなくてはならないのだ。

 

何にしても俺達がやることはナミ達を救い出すことだ。そして多分ルフィのことだからエネルやその部下の神官、神兵も倒そうとするだろう。神兵くらいは俺も戦えるが、神官あたりは怪しいし、エネルには勝てない。俺は傍観させてもらおう。ああ、こんな無能な雑用係を許してくれ。

俺達はコニスに導かれ、エンジェル島の船着き場へやって来た。神の島(アッパーヤード)は数百を越える"雲の川(ミルキーロード)"が流れているので、船でしか行けないのだそうだ。

 

「皆さんの船はこちらです。どうぞ、"カラス丸"です。」

 

コニスがそう言って指したのは大きめのパラソルをつけたカラスの船だ。はは、船だと言うのにカラス……水鳥ですらない。そんな船より、隣の豪華絢爛な船が良いと言うルフィを俺は平手打ちしておいた。礼儀ある日本人としてその発言はいただけない。

 

さあ、いざ出発といったところでルフィがコニスがずっと震えていることに気がついた。言われてみれば冷や汗もすごい。ルフィがよく問い詰めるとコニスは口を押さえて地面の雲にペタンと座り込んだ。そしてポロポロと泣き始め、意を決して叫んだ。

 

「超特急エビ呼んだの!私なんです!!」

 

犯罪者を確認したら裁きの地へ誘導するのが国民の義務だから、そうしないと殺されてしまうからと、あまりの天使達が止めるなか、コニスは泣きながら叫んだ。

 

その叫びを聞いた俺達の心は一つだった。

 

「バカヤロー…!お前!こうしなきゃ仕方なかったんだろ!?じゃあそれを___!!」

 

「「「何で俺達に言うんだ!!!」」」

 

「………え?」

 

「あなたが狙われるんですよ!?」

 

俺はコニスの肩を掴んで揺すった。その間に周りの天使は「裁きが来る」と言って俺達から離れていく。ゾクッと空から嫌な気配を感じた。エネルの攻撃が来る。そう思った俺の行動は早かった。槍状のシャスティフォルの柄の部分でルフィ達三人を遠くへ弾き飛ばし、そのシャスティフォルを上空へと飛ばす。

 

「コニスさん!私に捕まっていてください!」

 

「な、何を……!!あなたも早く逃げて……!!」

 

「言うとおりにしろ!!どうなるかなんて俺にもわかんねぇんだ!!」

 

エネルの攻撃は雷速だ。ぐずってる暇なんてない。いつもの敬語すら忘れて俺が叫ぶとコニスは俺にギュッと抱きついた。頭上を見上げればシャスティフォルが高速で回転し、空は異常な程光っている。もう一瞬の猶予もない。

 

「霊槍シャスティフォル第八形態____!!」

 

俺が叫ぶと同時に巨大な光線と轟音がその場に到達した。

 

 

 

 

 

 

 

「エレイーーーン!!!」

 

 

………ルフィの声が聞こえる。俺はゆっくりと閉じていた目を開けた。すると目の前に薄い緑色の膜が広がった。その膜は俺とコニスを包み込んでいて、外側には光線で消し飛んだ周りの雲と、煙が見える。なんとか俺は生きているようだ。目を閉じていたコニスも生きていることを確認している。やれやれだ。俺がパチンと指を鳴らすと緑の膜は俺の頭上に粒子となって集まり、元の槍状のシャスティフォルに戻った。

 

「エレイン!!コニス!!」

 

「良かった!!お前ら無事だったか!!」

 

煙が晴れ、俺達が無事だと分かったルフィ達が駆け寄ってきた。俺に抱きついてきたルフィの背中をポンポンと撫でる。

 

通用して良かった。霊槍シャスティフォルの第八形態"花粒園(パレン・ガーデン)"。神樹は自身が傷つくと花粉を出して傷を外敵から護り、癒す。それは何十年、何百年とかかるため即効性はないが、傷の痛みだって充分和らぐ。そんな神樹の特性を活かしたキングの防御技だ。

だが、エネルの大規模な攻撃に通用するか不安だったので通用して本当に良かった。通用しなかった俺もコニスも今頃丸焦げだ。

 

「あの……あなたは一体……?」

 

「ん?私ですか?私はエレイン。普通の妖精ですよ。」

 

コニスが聞いてきた質問に俺は笑ってそう返した。そう、俺は普通の妖精だ。某普通の魔法使いを真似て言ったつもりだが、きっと分からないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々あったが、俺達は神の島(アッパーヤード)へナミ達を助けにカラス丸で出航した。コニスは「ほう、我輩が出るまでもなかったか」とその場に登場したガン・フォールへ預けた。まさか彼女を連れていくわけにはいかない。ガン・フォールはコニスを守ってくれると言っていたし、あの場に登場したということは恐らく原作なら彼がコニスを助けたのだろう。なら安心だ。ていうかだったら俺が怖い思いをしてまでコニスを守ることなかったのか。くそう、俺に完璧な原作知識があれば!

 

長い雲の川(ミルキーロード)をカラス丸で進むと巨人の顔のような壁があり、それには「沼の試練」、「鉄の試練」、「紐の試練」、「玉の試練」と四つの入り口があった。この四つから一つを選べということだろう。

俺達は「玉の試練」を選んだ。決めたのは運転手のウソップだ。決め手は「唯一暴力的な響きがないから」らしい。

辿り着いた玉の試練では、そこら中に小さな玉の雲が浮かんでいた。その玉雲は中からヘビが出てきたり、爆発したりする。

「ほーうほうほう!!」

 

俺達が変な玉雲に四苦八苦していると上からそんな笑い声が聞こえた。見れば玉雲の上で玉みたいな丸い眼鏡をかけた玉のように丸い体型の男が踊っていた。その男は自身を四人の神官の一人"サトリ"と名乗った。

 

「………(スッ」

 

「ほう、槍を飛ばすか。」

 

「え?」

 

俺はシャスティフォルをクッションから槍に変え、サトリ目掛けて飛ばした。するとサトリはこれを読んでいたかのようにかわし、俺にすばやく近づいた。そして俺の腹部へ手を沿え___

 

「"衝撃(インパクト)"!」

 

と叫んだ。すると俺は体の内部に強烈な衝撃を受け、カラス丸から吹き飛んでそこら一体に生える巨大樹の一本にぶつかった。その衝撃で一瞬意識がとびかけ、ゴフッと血を吐いた。華奢なエレインボディに今のは大分応えた。

強大な魔力に反して体力は人並み以下な妖精族の身体を、息切れしながら持ち上げるとルフィ達もサトリにやられ、カラス丸から吹き飛ばされている。さすがは神官だ。こいつを倒すのが玉の試練というわけか。

 

勝てるかどうか分からないが、やるしかない!

 

俺達がいなくなったカラス丸は雲の川(ミルキーロード)を勝手に進んでいく。カラス丸を見失う前にカタをつけなくては。ルフィと俺がサトリの相手をし、サンジとウソップがカラス丸を回収に向かう。

 

「"ゴムゴムの~銃(ピストル)"!!」

 

ルフィが右腕を勢いよく伸ばして攻撃してもサトリはそれを読んでかわしてしまう。俺がシャスティフォルを遠隔操作して攻撃しても結果は同じだ。

 

サトリは完全に俺達の動きを読んでいる。あれは"心綱(マントラ)"、後に"見聞色の覇気"と呼ばれる力だ。生き物が身体から発する"声"を聞いて相手の次の動きを予測することができる。厄介な力だ。

 

「こんにゃろ~~!!"ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)"!!」

 

「って待ってください船長!!やたらと玉を打ったら………!!」

 

俺が慌てて叫ぶも、もう手遅れ。ルフィの拳の雨はサトリにあっさり避けられ、拳はその辺に浮いていた玉を弾き飛ばす。弾き飛ばされた玉は他の玉へぶつかり、連鎖が起こって四方から玉が飛んでくる。

俺は飛んでくる玉をシャスティフォルでさばきながらサトリを観察する。なんとか勝機はないものか。

 

そして見つけた。その勝機を。

 

「霊槍シャスティフォル第五形態"増殖(インクリース)"!!」

 

俺はシャスティフォルを無数のクナイに変化させ、サトリへと飛ばした。サトリはそれを"心綱(マントラ)"でかわす。しかし、逃がさない。俺は無数のクナイがサトリを取り囲むように操作した。シャスティフォルはシャラララと高速回転しながらサトリに徐々に近づいていく。これではいくら動きが読めてもかわせないだろう。

 

「ぐぬぬ……!!かあぁぁ!!!」

 

サトリは傷を覚悟でクナイの檻から強引に脱出した。そのせいでサトリは手に足に所々切り傷を負っている。サトリは「残念だったな」と得意気に俺を木の上から見下ろした。

 

「そうでもありませんよ。」

 

「なに?」

 

「"状態促進(ステータスプロモーション)"。」

 

ブシュッ!!

 

「ぐあっ!!!」

 

俺が右手をサトリに向けるとサトリの身体中の切り傷が一気に悪化した。足の傷も開いたために立っていられなくなったサトリはその場に膝をつく。

 

シャスティフォルを操るキングの魔力"災厄(ディザスター)"だ。かすり傷を重傷化させ、毒を猛毒に変え、小さな腫瘍を増大させる。木々や植物を成長・繁殖させる一方、間引くことで森を維持し統べる妖精王ならではの力。

 

「エレイン!よくやった!だんごめ!もう逃がさねぇぞ!!"ゴムゴムの~~___!!」

 

「ま、待て………!!」

 

「"バズーカ"!!!」

 

動けないサトリにルフィは後ろへ伸ばした両腕で強烈な一撃をおみまいした。サトリは玉のようにその辺の木にガンガンぶつかってはずみ、やがて地面に落っこちた。

俺達の勝ちのようだ。

 

「おぉ~い!船を捕まえたぞ!!」

 

俺とルフィがハイタッチしているとウソップが遠くで叫んだ。ウソップが腰から出したロープでカラス丸を捕まえ、そのウソップにサンジが抱きついている。それを見てなんとなく嫌な予感がした俺はルフィの脇を持ってふわりと浮かび、自分でカラス丸へと向かう。

そしたら案の定、ウソップとサンジは勢いよく飛び過ぎたせいで木にぶつかりながらカラス丸へと乗ってきた。それを見てルフィは「エレインのおかげで助かった」とほっと息をついている。サンジはウソップを「あとで覚えてろ」とげしげし蹴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉の試練を終えた俺達がカラス丸を進めると、無事ナミ達の待つ"生け贄の祭壇"へたどり着くことができた。俺達を待つ間、ナミ達はチョッパーを船番に残して島を探索していたが、その間にチョッパーは神官の一人に襲われたみたいだ。チョッパーはとっさにガン・フォールを呼んで助けてもらったみたいだが、メリー号はメインマストが折られ、さらに超特急エビのせいで船底に穴が開いてしまい、もう船として生命があるのかどうかという状態、チョッパーもガン・フォールも神官のせいで重傷を負ってしまった。俺はメリー号を守れなかったことを必死に謝るチョッパーを抱きしめて「戦ってくれてありがとうございます」と伝えた。神官からメリー号を守るために戦うなんて、俺だったらできるかどうか分からない。

 

ナミ達の探索にも収穫があった。驚愕の事実が発覚した。なんとこの神の島(アッパーヤード)はジャヤの一部だということが判明した。神の島(アッパーヤード)は俺達と同じように突き上げる海流(ノックアップストリーム)で空へ吹き飛ばされてきたのだ。ノーランドが見つけた黄金郷は海に沈んだのではない。400年間ずっと黄金郷は空を飛んでいたのだ。

 

黄金郷はここにある。そんなことを聞いて黙っているルフィ達ではない。宝を目の前に何もしない海賊がどこにいる。今日はもう日が沈むので、一晩ここでキャンプをし、明日皆で宝探しをすることになった。

 

夕食のサンジ特製"石焼シチュー"を食べ終え、後は寝るだけとなったとき、ルフィとウソップが「キャンプファイアーだ!」と騒ぎ出した。夜の森の怖さを知っているナミとロビンは当然それを止める。だが、ルフィ達も引かない。

 

「ちょっと!ゾロもなんか言ってよ!!」

 

何を言っても聞かないルフィにナミはゾロに協力を求めた。

 

「おい!ルフィ!組み木はこんなもんか?」

 

「あんたらもやる気満々かぁ!!」

 

だが、ナミよ。無駄である。すでにゾロはルフィ側だ。ゾロは俺とサンジと共にすでにキャンプファイアーの組み木を完成させていた。すまぬ、ナミ。俺もキャンプファイアーをしたいのだ。たとえこの命尽き果てようとも。

 

「あっはっはっは!!」

 

「おウォウォウォ~~!!」

 

「ウオウオ~~!!」

 

「ノッてけノッてけ!!黄金前夜祭だ!!」

 

反対していたナミもロビンもキャンプファイアーが始まればしっかり楽しんでいる。ロビンはエールを片手に、大樹の根に座ってルフィ達を見て微笑んでいる。俺はそんなロビンの隣に座り、ロビンのジョッキにエールを注ぐ。見れば神の島(アッパーヤード)に住んでいた狼達も宴に混じっているがまあいいだろう。キャンプファイアーは人数が多いほうが楽しい。

 

「雲ウルフも手なずけたか。」

 

「あ、ガン・フォールさん。気がつかれましたか。」

 

宴を続けているとメリー号の船室で寝ていたガン・フォールが起きてきた。ガン・フォールは俺の隣にあぐらで座る。俺はまだ残っているサンジのシチューを勧めたが、ガン・フォールは断った。消化管がやられているらしい。

 

「して、おぬしよ。」

 

「はい?」

 

ガン・フォールはロビンやゾロとこの大地は空に住む者達の永遠の憧れだなんだと話をしていたが、急に俺に話をふってきた。俺は口に含んだアップルジュースをごくんと飲み込んで返事をした。

 

「おぬしは一体何者なのだ?」

 

ガン・フォールは真剣な顔で俺に尋ねてきた。曰く、エネルの神の裁きを防いだのは俺が初めてなのだそうだ。ガン・フォール自身も昔、部下と共にエネルに挑んだが、その圧倒的な実力に為すすべもなくやられたらしい。

 

「何より、おぬしの中に"王"を感じるのだ。」

 

「?王、ですか?」

 

「そうだ。あの娘を守った時、おぬしは娘に叫んだであろう。『言うとおりにしろ』と。」

 

「あら、ダメよ、エレイン。そんな言葉を使っちゃ。」

 

「あ、あはは、すみません。切羽詰まってたもので。」

 

ロビンが俺の頭を撫でながら何故か笑顔でそう言ってきたので俺は素直に謝った。ガン・フォールの話は続く。

俺がコニスに叫んだ時、ガン・フォールは俺の中に王の存在を確かに感じたらしい。エネルのように、支配する王ではなく、皆を守り、皆を導くことのできる王の姿を彼は確かに見たと言うのだ。

 

俺は自分の手をじっと見る。"王"か。確かにこの体はエレインで、力は妖精王ハーレクインだ。ガン・フォールが俺に王を感じてもおかしくはない要素が揃っている。だからだろうか。それともガン・フォールはこの体に宿る"俺"自身に王を感じたのか。いや、それはないか。平凡に平凡を重ねたような俺が王であるわけがない。もしかしたらガン・フォールは"俺"という存在が宿る前の"エレイン"の姿を見たのかもしれない。俺がいない本来のエレイン……どんな存在だったのだろう。

 

そんなことを黙々と考えていると、ルフィ達と踊っていたチョッパーが目を擦りながら俺の元へやってきた。そして俺の膝の上にポスッと倒れる。眠くなったようだ。可愛いやつめ。

俺はロビン達に「お先に失礼します」と言ってチョッパーを抱えてメリー号へ向かった。いい加減俺も眠くなってきた。そしてチョッパーをベッドへ寝かせて布団をかけ、いつものように床で寝ようとすると、チョッパーが俺の服をギュッと掴んできた。引っ張っても離してくれない。

仕方ないので、非常におそれ多いが俺はチョッパーの隣へと潜り込んだ。いわゆる添い寝だ。しかし、あまりにも申し訳なかったので、せめてもの償いにクッション状態のシャスティフォルにチョッパーを乗せ、俺は小さい普通の枕で寝ることにした。神樹の香りに包まれたチョッパーはくーくーとなおいっそう気持ち良さそうに眠る。

 

「ふふ、おやすみなさい。チョッパーさん。」

 

俺は目の前で眠る小さな船医にそう告げて瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 


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