とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

9 / 44
幕間・船医と妖精

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から差し込む光で俺は目が覚めた。上体を起こしてうーんと伸びをしてからベッドから立ち上がり、船室からメリー号の甲板へ出ると東の空に太陽が昇っていた。まだ明け方だったらしく、西の空はまだ暗い。

 

「ん?あれ?」

 

俺はふと、ボロボロだったメリー号が修復されていることに気がついた。俺が昨日神官から守れなかったせいで折れてしまったメインマストも、穴が開いた船底も、上手いとは言えないがしっかりと直っている。ウソップが直してくれたのかな?

 

「あ!そうだ!空の騎士の薬作らねぇと!」

 

俺は急いで船室に戻った。昨日サンジから分けてもらったシチューのアロエとニンニクで空の騎士の火傷薬と消毒薬を作らなきゃいけない。あと、今日の宝探しで多分皆いっぱい怪我するからな。傷薬もいっぱい作らなきゃだ。神官や神兵に加えてシャンディアっていう敵もいるみたいだしな。

 

「あれ?薬できてる。」

 

俺が船室に戻るとテーブルの上にはすでに消毒薬や火傷薬が作られていた。よく見れば傷薬までちゃんと用意されている。一体誰が……

 

クンクン

 

俺が鼻を鳴らすと近くからアロエとニンニクの匂いがした。俺はその匂いのするほうへ歩く。

 

「あいてっ!」

 

「んっ……すぅ……すぅ……」

 

匂いに集中していた俺は何かにつまずいて転んだ。見ると俺がつまずいたのは、光を反射してキラキラする金髪を持ち、白いドレスに身を包んだ少女、エレインだった。エレインはベッドの小さな枕に頭を置いて気持ち良さそうに床で寝ていた。いつもの大きなクッションはどうしたのだろうとキョロキョロすると、そのクッションはベッドにあった。昨晩は俺に譲ってくれたみたいだ。

俺はベッドから布団を引っ張ってエレインにかけた。こいつはナミやロビンがベッドで寝ろと言っているのにいつも遠慮して床で寝ている。まったく、体悪くするぞ。

スンスンと鼻を鳴らすとアロエやニンニクの匂いはエレインの手からするのが分かった。あの薬はエレインが作ってくれたみたいだ。

 

俺達がエレインに会ったのは、アラバスタでルフィがクロコダイルを倒した後のことだ。その日の偉大なる航路(グランドライン)は特に荒れていて、天候がとても不安定だった。メリー号の舵はいつも俺が切っているが、ナミの指示で忙しかったのでルフィに任せた。でもルフィは舵を切るのがすごく下手くそだった。いくら天候が不安定でも、どうすれば船が島に乗り上げるというのか。

 

メリー号が乗り上げたのは小さな無人島だった。島の外側は砂浜でそれ以外は森の本当に小さな島だ。メリー号が島に乗り上げてしまった以上、何日かはそこで過ごさなければならなかった。だから俺達は食べ物を探すために島を探索することになった。しばらく島を歩き回るとそれなりに食べ物を見つけることができた。それを持ってメリー号に戻るとゾロが帰って来ていなかった。また迷子になったらしい。

皆で探しに行こうとした時、空からゾロを連れて降りてきたのがエレインだった。ナミとロビンは空から降りてくるエレインを見て綺麗だと呟いていた。俺もそう思った。白いドレスと金髪を風に揺らして空から降りてくるエレインは、まるで絵本の一ページみたいでとても綺麗だった。

 

エレインとの出会いを祝っての宴の時に、ゾロがエレインの力について話した。エレインが操る槍はゾロの力と同じ、もしくはそれ以上の力を持っているらしい。エレインは手と首をすごい勢いで振って否定していたが、それでもゾロが認めるだけの力を持っているということだ。

案の定、エレインは不思議な力を持っていた。いつも持ってる大きなクッションは戦う時に槍や熊のぬいぐるみなど色んな形に変形した。どうやっているのか聞くと"でぃざすたー"という魔力を操っていると言われたが、それが何なのかは分からなかった。

そんなエレインをルフィは一目で気に入って、エレインは俺達の仲間になった。エレインは、自分には役に立つことがないからと雑用係として働いている。いつも誰よりも早く起きてメリー号を掃除したり、サンジと一緒に朝食を作ったり、ゾロの訓練に付き合ったり、俺の薬の調合を手伝ってくれている。エレインが来て一番変わったことは食料の減りだ。エレインがルフィのつまみ食いをしっかりガードしてくれるおかげで食料の心配がなくなったとサンジが嬉しそうに話していた。

俺もエレインにはずいぶん助けられている。ルフィ達はよく怪我をするため、そのぶん薬の調合が間に合わない時もあった。でもエレインが手伝ってくれるおかげで最近はそういうことはなくなった。それについてありがとうと言うと、エレインは「そんな、私なんて何の役にも立っていませんよ」と言っていた。

 

本当はお前が誰よりも働いているのに、エレインは本当に謙虚なやつだ。

 

ある日、俺はずっと疑問に思っていることをエレインに聞いてみた。エレインは基本空を飛んでいる。メリー号を掃除する時も、宴の時もあまり地面に着かずに空を飛んでいる。もしかして能力者かと思ったが、水を苦手にしてる様子もない。それが俺はずっと不思議だった。

聞いてみると自分は人間ではなく、"妖精族"だという答えが返ってきた。それを聞いて俺は悪いことを聞いてしまったと思った。青っ鼻で、ヒトヒトの実を食ったせいで"化け物"と呼ばれて、人間じゃない孤独は俺が一番分かってたはずなのに。察することができなかった自分が情けなくて、申し訳なくて落ち込んでしまった。

けどエレインは怒らなかった。それどころか俺の頭を優しく撫でて慰めてくれた。俺はそれがたまらなく嬉しかった。

 

外はまだ明け方だ。皆が起きてくるまで時間がある。俺は布団に潜り込み、まだ寝ているエレインの胸元に顔を押し付けた。息を吸い込むとエレインから甘い花の匂いが漂ってきた。ちょうどエレインが寝相で俺を抱き締めるようにしてくれて、とても暖かくて安心できた。

 

いつも皆に優しくて、皆のために働いてくれるエレイン。時々ルフィ達と悪戯をすると怒るけど、落ち込んだ時は頭を撫でたり、抱き締めたりして励ましてくれるエレイン。そんなエレインが俺は大好きだ!

 

俺はゆっくりと目を閉じてエレインの腕の中で眠りについた。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。