生まれ変わったら忍者の末裔になっていた件について 作:砂糖露草
ー一方暗鶚の里では一人欠けたいつものメンバーが集まり、伸び伸びと(?)鍛練に勤しんでいた。
「大丈夫かなぁ天馬。そこら辺の奴等には負けないくらいには強くなってるとはおもうけど」
「静葉。心配なのはわかるが、あまりにも度が過ぎると天馬にも失礼だぞ」
そう今所用で里から離れている友人を心配するのは、紅一点である静葉。
そこに付き合いの長い穿彗が嗜めるように続けた。
二人とも、度合いや意味合いが違えども今いない親友の身を案じているのは確かだ。
「きっと天馬さんのことだから、上手くかわしてひょっこり帰ってきますよ」
「どうせだから少し怖い目に遭って、今までの行いを反省すればいいんですよあの人」
対して後から入ってきた後輩二人ー正道と孝信は彼らよりも気楽に考えていた。
単に、先輩としての実力を二重の意味で信頼しているためだろう。
どうしようもない事態になるまえに逃げ帰るだけの判断力も、時には大事である。
逃げ帰ったときはみんなして鍛え直してやろう、というのが彼らの共通認識だった。
ーそして、すこし離れた古びた家屋にも一人。天馬を心配するものがいた。
『彼が旅立つまでにできる限りのことは託した…………託しましたが、不安です。心配です。もっと他にもできたのでは…………?」
屋内を所在なさげに右往左往する挙動不審の人物が一人。
天馬に少なからず武術の手解きをしていた天狗面その人である。
が、修行の最中に見せた泰然自若な立ち振舞いとはうって変わって色素の薄い髪をたなびかせ天狗面は悶々と不安を募らせていた。
もういってしまったものしかたがないと、慰めてくれる者はなく、ただ一人で思い悩む日々が続くだろう。
とにもかくにもどこか一抹の寂しさや不安を感じつつ、彼らは欠けてしまった一人の帰りを待つのだった。
◆◆
暗鶚の里をはなれ、半月が過ぎた。
まだ、と呼ぶべきなのかもうと呼ぶべきなのか。
割りと濃い日々を過ごしてきたような気もしなくないが、それも長らく続けば飽きることはなくても慣れてしまう。
人間ってそういう生き物だ。
今回の仕事は命を狙われている要人の護衛という話だったけど、やって来るのは中国マフィアの構成員のみ。
その癖やたらと湧いて出てきては四六時中襲いかかってくる。
それが慣れを助長することになったのはある意味笑い話かもしれない。
うまい手加減の練習がわりと新たな戦い方の模索に、あるいは里の遊び(ガチ)で培われた罠の数々を試してみたり、と余裕があるほどだ。
依頼主との関係も良好で、まさしく順風満帆。
しかし、得てして物事とはそう単純に、簡単には運ぶものではないものだ。
若しくは、フラグでもたっていたのだろう。
自分か、他の誰かのものかはわからないが。
◆◆◆
カランカラン、と奇襲対策に張っておいた即席鳴子の音が響く。
嗚呼、また懲りもせずにやって来たんだなぁ、なんてぼやきつつゆったりと準備を整える。
最早緊張感の欠片もない。
物足りなささえ感じる昨今、しかしふとあることに気づいた。
「あれ、何でいままで気づかなかったんだ?いつもなら音の鳴る前にうっすらと感じてたはずなのに。」
慣れてきたから鈍感になったのか、否。
元より修行も踏まえていち早く、自力で襲撃を察知するよう心がけていた。
あくまで非常時の備えとして、警報用の鳴子は自らの知覚範囲より狭く設置されている。
だというのに、今なお驚異が接近している感覚はどこか朧気だ。
なにか、嫌な感じだ。
まとわりつく嫌な空気のなか、今なお安心してくつろいでいるであろう雇い主の元へと急ぐ。
突然の来訪に少々機嫌を悪くした雇い主ではあったが、こちらの様子を察してさっと顔色を青くして逃げ出す準備を始めた。
終わり次第あらかじめ用意していた抜け道を使い、私が囮になりその間にまず雇い主を逃がす。
そのあと刺客を撒くなり倒すなりして、指定の合流地点を目指す、という流れ。
その細々とした流れを頭で整理しつつ、警戒を欠かさないように周囲を見渡していた。
その時だ。
「-ッ!?」
全身を駆け巡る悪寒。
危険を察知するかのように、第六感とも言うべき感覚が激しく警鐘をならす。
感じるままに、自らの反射神経に身を委ねて体を動かす。
警護対象を思いきり突き飛ばして、すぐに防御体制をとった。
刹那、命を刈りとらんばかりに蹴りの一閃が私を襲う。
間一髪のところで間に合いはしたものの、咄嗟に前へ出した腕が痺れる。
続いてもう一打放たれる前にと、突き出された足をつかもうとする。
とはいえ破れかぶれの行動である。
それなりに実力が伴う相手なら避けることは容易い。
現に、下手人はその気配を察知したのかあっさりと追撃を諦め距離をとった。
一撃で決めるつもりだったのか、その上で様子見に切り替えたのか。
『なるほど、一先ずあの噂に違わないだけの実力は持っているようだな。』
独特な構えをした刺客はこちらに話しかけてくる。
その様子から感嘆を示していることがわかった。
…が、ザンネンなことに現地語をまだ完全習得していない私ににはなにをいってるのかさっぱりであった。
「あー、…アイドントスピークユアランゲージベリーマッチ」
『お前は何をいってるんだ?』
あ、これまるで伝わってないパターンだ。
ワンチャン英語なら意思疏通ができると思ったけどなぁ…(白目)。
まぁ、元々奴さんはこちらの命を狩りにきた刺客である。
コミュニケーションの必要性はないわけで、逆に相手としては無駄話をしている状況ではない。
続く連撃をすんでのところでかわしつつ、私も気を引き閉めなおし目の前の刺客と対する。
『いいぞ、そう来なくては面白味がない。』
ゆらゆらと揺れながら刺客はまっすぐにこちらを見つめる、もとから目当ては自分だったようで護衛対象には目もくれなかった。
それは不幸中の幸いというべきか、いや直で命を狙われるようになった分状況は悪くなってるな。
「そんなこと言っても仕方ない……かぁ!?」
今度は真正面、その下の方からから鋭い突きに見舞われる。間一髪避けられたがあれも喰らったらただじゃすまないだろう。……金的狙いだったし
どうやら無駄口を叩くことすら許されないようだった。
途切れることのない連撃が、低空飛行する戦闘機のように襲いかかってくる。
今まで自分より背の低い敵と戦ったことのなかった弊害か、どうにも捌きにくい。
それだけじゃない、かの刺客はこちらが思ったよりも一段上手だった。
正直いま善戦しているのがやっとだ。
実力が上の刺客と渡り合えてるのは相手がまだこちらの実力を測り損ねていること、そして地の利を活かせていることが大きい。
まるで足元から沸いてくるような一撃を時に避け、時に辺りに鎮座する家具を遮蔽物にしたりと必死に迎撃する。
『くっ、ちょこまかと逃げの一手に関しては一流のようだな!』
「へへっ!お褒めに預かり光悦至極ってか!?」
渋い顔で吐き捨てるように紡がれた異国語は、私にはわからない。
何となく煽られてるのを理解できるくらいである。
なので煽り返しながら紙一重で蹴りを交わし、その合間に相手を観察していく。
相手の動き、技の挙動。それら全てを余さず見逃さず彼我の実力差を見極める。
小さな勝機を見出だすために、今は時間と情報がほしかった。
だから私はその言葉の殆どを理解されずとも刺客へと話し掛ける。
「なぁ。アンタの
半ばまで言い切り地躺拳までを言い切ったところで刺客の動きが止まる。
どうやら当たりのようだ。
一先ずこちらの話を聞く体制になったようで、構えを解かずに様子をうかがっている。
そこで隙を見せないようにしつつ、カタコトの現地語で話を続けた。
その甲斐あってか、相変わらず相手方の言葉はニュアンスでしかわからないが、多少は伝わっているようだった。
『いやー君の武術、なかなか独特だから分かりやすかったよ」
『フン、当てたことは見事だがソレがどうしたというのだ。その程度で優位にたったなどと思わぬことだ。』
『ソレはごもっともだ。私が言いたいのは、名乗りくらいはしようぜってこと。お互い自分の倒した強者の名前は覚えていたいでしょ?」
最後に『武術家として』と強調するようつけくわえる。
一人の武術家として決闘に挑んでみたいという猛り半分に提案してみると、目の前の男は不適に笑い声をあげると一度素早く身を引いた。
どうやらこちらの誘いにのってくれるらしい。
『ハハハ、たしかに自分の倒した男の名前をを覚えておくのも悪くない。仕切り直しだ、小僧。お前から名乗れ』
あくまで上から視点(のように聞こえる)での物言いにカチンと来なくもないが仕方ない。
下に見られた怒りとすこしの高揚、そして目論見が外れきれてない安堵のなか、私は名乗りをあげる。
「暗鶚衆、天馬」
『
互いに名乗りをあげ、ゆっくりと構えーどちらからともなく。
『「いざ、参る!」』
はじめての決闘が始まる。