生まれ変わったら忍者の末裔になっていた件について 作:砂糖露草
史上最強の弟子ケンイチとは
いじめられっこの少年が(非常識な)武術家が集まる『梁山泊』なる場所に弟子入りすることから始まる。
愛と希望、そしてエロスがつまった笑いあり涙あり青春活劇である。
この作品の見所は数あれど、一つあげるとすれば達人とよばれる人間卒業予定者の存在である。
魔法だとか、超能力の類いはまるで皆無の世界観のはずなのに、銃弾は軽々避けるわ既に離陸してしまったヘリに跳んで乗り込むわ非常識を地でいく輩がうじゃうじゃといる、そんな世界なのだ、そんな彼らが戦う姿はもはやギャグにしか見えないと言う声もあるほどである。
-まぁ、さらにその上をいく人間卒業組も何人かいるのだがそれはおいといて。―
最初は不良同士のケンカから始まり、いつの間にか命を懸ける死闘が日常茶飯事になるこの世界で『暗鶚』の名はとても重要な役割を持つ。
武術、というものが(一部で)衰退することなく一定のアドバンテージとなるこの世界では、知る人ぞ知る武の名家であり、またどす黒い一面を持つ闇の深い一族だ。
というか、作中最後の大事件の遠因の一つを作り、かつ自らの国を亡ぼしかねない事件に加担するとかダブル役満もいいところ。
地雷なんてもんじゃない、火薬庫レベルに危険な一族なのだ。正直泣きたい。
待て、待て。落ち着くんだ。
クールになれ私。
確かにここに属しているというだけでいつ死ぬかわかったもんじゃないが、だからと言ってそこまで切羽詰まった状況でもないはず。
少なくとも子供時代はつらい目にあっても死ぬようなことにはそうそうない…はず。少数民族なのだから一族の未来を担う子供たちを早々無下に扱うことはないだろうし…たぶん。
それに、ある意味でラッキーだったも言える。
暗鶚は血が薄まり力が弱まる事を恐れ山奥の隠れ里に隠遁してるだけあって、その実力は折り紙付きだ。その一族の一人である私にも一定の才能があると思ってもいいだろう。
一先ず、見限られないように実力を付けつつ、あまり危険な仕事を回されないように適度に手を抜けばちょうどいい塩梅になるはず。
そう思えば、今の状況でも余裕が少しだけ戻ってくる。
ついでに何があっても冷静を保てるように心の準備もしておくことにした。あまりおどおどして心配されたくないし。
まぁ、これ以上の衝撃の事実なんてそうポンポンと出てこないだろう。
あっても、ちょうど主人公のライバルたちと同年代とかそれくらいだろう。それはそれで逆に楽しみなくらいだ。
決して明るくはないが、希望がなくはない未来に思いを馳せているうちに、先頭を行く父がふと立ち止まった。ようやく目的地に到着したということだろう。
少しだけ息を切らしながら父に追いつき、促されるままに前に出る。
すると、目の前に小さな里が見えた。
「…なんか思ってたよりちっちゃいね」
「…」
つい漏れ出た本音を聞かれてしまい、暫し気まずい雰囲気になってしまったのは蛇足である。
さて、割とどうでもいい一幕のあと父と一緒に里に下りると、思っていたより活気があることにに気付き少しだけ驚く。
なんせ殺人拳の一族なんておっかないイメージしかないものだからもっと殺伐としたものを想像していたのだ。
パッと見時代劇に出てくるような普通の村と変わらない。いや時代劇って前振りの時点で普通じゃないんだけど。
そこまで危ないような場所じゃないかも、とまた一つ希望を持ちながら大きな背中を追っていった。
◆
『して、赫鵜よ。そ奴が貴様の子か』
「は、いかにもこれが我が倅にございます。そろそろ頃合いかと思いまして、目通り願った次第です。」
『ふむ、なるほど、歳に似合わぬ賢しい目をしておるわい。』
『しかし、赫鵜の倅にしては、ずいぶんチミッこく感じるのう。才気は十分の様じゃが』
周りを異様な気配のご老体に囲まれながらも、大男はかしこまりながらも確かに受け答えをしていく。
そして、大男の隣にはちょこんと今にも空気に飲まれそうな子供が一人。
言わずもがな私だ。
あの呑気な空気から一転、気を抜いたらとって食われそうな状況に冷や汗が止まらない。
今にも気絶したくなる恐怖に耐えながら、会話が終わるのをただひたすらにまつ。
正直話をふられたらまともな受け答えができる気がしないので必死に何事もなく終わってくれと祈っていた。
そして-。
「う、ううん…妖怪怖い。おじじ怖い…。-ん?ここどこ?」
気が付いた時には見知らぬ部屋に自分と同じくらいの子供と二人きり。
そして、私が声を発したことで起きたことに気付いたのか、利発そうな男の子がこちらに近づいてきた。
日本男児らしい黒髪を伸ばして一瞬女の子と間違いそうになったが、まごうことなき男の子、のはずだ。
「おきたか。何処か痛いところはないか?」
「それは大丈夫だけど…ここどこ?」
「ここはぼくの家だ。きみが気を失って倒れたから起きるまでここに寝かせていた。それだけだ」
「えっと、つまり僕のことを助けてくれたんだよね?ありがとう」
「礼は要らない、父たちに言われてしただけだから」
この年にして謙遜ができるとは、なかなか聡明な男の子だ。人のこと言えないかもしれないが。
そして、彼から事の顛末を聞くことになるだがまぁ予想の通りだった。
あの妙な威圧交じりの会合の場を無事乗り切ったはいいが、部屋から出たところで気力を使い果たし眠るように気絶してしまったのだそうだ。何とも情けない話だが個人的にはあの場で気絶しなかった自分をほめてやりたい。
ちなみにすでに日付は変わっていたそうだ。
そして、今度はこれからの話に移った。
「きみはこれから、僕としんしょくを共にするらしい」
「エ、どういうこと?」
「ぼくといっしょに武術の修行をするため、だって父上が言ってた。きみの父上に頼まれたんだって。」
その話を聴いて父からじかに教われないことが少し残念ではあったが、毎日のように朝はやくに出て夜遅くに帰ってくる父がそんな暇はないというのも理解はできる。
それに暗鶚の技は一族共通して使えるものだからあまり変わらないだろうと割り切った。
「-そうなんだ。じゃぁこれからよろしく、えっと、」
ここまで話し込んでおいて名前が分からない事にようやく気付いた。
「えっと、名前聞いてもいいかな?」
「…そうだな。ぼくは-」
少し考える仕草をしてから、少年は口を開く。
しかして、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。
「
間延びした声と共に、一人の少女が部屋に押し入ってきたからだ。
年相応の無邪気さを持った、同じくらいの背丈の女の子だ。10年後が楽しみになるくらい可愛い。
「
「えー、そんなの後でいいじゃない。それにせんずいだけずるいよ、新しいお友達ができてー。ほら、きみも一緒にお外に出て遊びましょー!」
「え、ちょ、ま、アッー!」
突然現れた少女は片手で私の腕を、もう片方の手でせんずいと呼ばれた少年の腕を取り強引に外へ連れ出そうとする。
彼らの名前が少しだけ引っかかったものの、思いのほか力が強くもう一人の少年と仲良く(?)ズルズルと引きずられていくのだった。
-後に、この三人はかけがえのない唯一無二の親友になり、それぞれが多くの苦悩を背負うことになるのだが、それはまだ遠い未来のお話-