生まれ変わったら忍者の末裔になっていた件について   作:砂糖露草

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生兵法は何とやら

 本格的に暗鶚としての修練(いとなみ)を初めて早五年。

 あまりの厳しさに泣きが入りそうになる事は何度もあったし、その都度せんずいに励まされたり、しずはが唐突に遊びに連れ出したりと忙しく時間は駆け巡り、退屈する暇なんてなかった。もちろんうれしい悲鳴というやつだ。

 とまぁ、二人の助力もあって今日まで何とか厳しい修行についていくことが出来た。

 

―そう、もうあれから五年がたつのだ。だというのに-

 

「何回やっても、何回やってもせんずいとしずは(あの二人)がたおせないよ!」

 

 -あの鶚穿ち(蹴り技)何回やってもよけれない。後ろに回って打ち続けてもいずれは綺麗に投げられる。

 タイム連打も試したいけれどそれじゃあ組手の意味がない!

 だから次は絶対勝つために僕は捨て台詞は最後まで取っておく-

 

「…どうしたてんま?いきなり歌いだして」

「変な歌―!」

 

 せんずいが心配してくれる傍ら、しずはは先程の替え歌を聞いて面白そうにコロコロと笑っているが、正直それはどうでもいい。

 まだ五年、されど五年だ。

 せんずいをして化け物と称されたしずははまだいい、いや男の沽券という意味では結構拙いが。

 しかし一緒に鍛錬に励むせんずいから一本も取れないのは、少し、否。かなり精神的につらいものがあった。

 誰だって負けっぱなしはつらいのだ。

 思わず体育座りしていじけてしまうくらいには。

 

 

「どうせ、せんずいやしずはみたいなできる子には分からないですよー、僕の気持ちなんて…ブツブツ」

「あわわ、ゴメンねてんま。でも歌はうまかったよ?」

「そういうことを言ってるわけじゃないと思うが…その、なんだ。お前が強くなってないわけじゃないんだ」

「でも遥か上に存在する君たちには届かないんですね分かります…」

 

 同じ暗鶚の仲間というのに、ここまで実力の差があるのは不公平すぎやしないだろうか。

 せんずいがフォローに回ってくれても、本当に成長しているのか疑わしくなるくらいには、今までの戦績は惨敗まみれだった。

 

「てんま、よくききなさい」

「―え?」

 

 と、そこで私たちに暗鶚流忍術を教えるせんずいのお父さんが割って入ってきた

 彼は、修行を付けるときは厳しく、それはもう鬼教官と言えるようなしごきっぷりに何度泣かされたことか。

 そんな彼が、今は優しく私に語り掛けていた。

 

「確かにお前は、まだ二人には勝てない。でもそれは仕方ないことなのだ。」

「…つまり、それだけ自力にも才能にも差があるってことなんですね。」

「それは否定しない。」

「そこは否定してくださいよぉ」

 

 あんまりにもバッサリとした物言いにさらにへこむ結果となった私に、彼はつづけた。

 

「何も、お前に才能がないというわけじゃない。才能の差は少なからずあれど、なによりこいつらとお前が違いは、武に関わってきた時間だ。お前がまだ初めて五年なのにたいしてせんずいとしずはは物心ついたときからやっている。功夫の量も質もお前より上なんだ。このまま続けていったとしてもおまえが実力で上回るのは夢のまた夢というものだ。」

「それは、遠回しに諦めろってことですか」

「違う、ただこの二人に追いつきたいというなら同じだけの功夫を積んでも意味がないことを知ったうえで、諦めずに上を目指す心構えはしてほしいんだ。」

 

 そう言って私の肩を掴んでいる彼の瞳は修行を付けているときの真剣な瞳そのものだった。

 しかしそこには普段はない優しさと、何かを期待しているような光を宿していた。

 

 

 そんな風に見られては、ふてくされてはいられない。

 それに、武術(この)世界では努力は才能をも凌駕する、それを示したやつがいる。なら、仮にも持っている自分が弱音を吐くわけにはいかない。

 

「…ああ、もう!先生、もう少しだけお付き合いお願いします!」

「うむ、よろこんで付き合おう」

「え~、もう今日の分は終わってるよー?この後は三人で遊ぼうっていったじゃない。」

「しずは。今日は二人で遊ぼう。二人の邪魔しちゃいけない。」

「じゃぁ、私たちもやりましょ!せんずいもいいよね?」

「え」

「…そうだな、父上。僕たちもお願いします。」

「え」

 

 いや別に悪いというわけじゃないけれど。

 結局、この後三人そろって仲良く鍛錬に励むことになり、結局彼我の実力の差は縮まることはなかったという。

 

 

 

 

「…よし、今日も気付かれてないな。」

 

 誰もが寝静まった時間を見越して一人、私はせんずいの家を出て誰にも見つからないように里を横断する。

 そして、やって来たのは一年前に見つけた、あの不気味な屋敷だ。

 その不気味さも相まってなかなか人が寄り付かない場所になっていて、そのうえ月が真上に昇ったころになれば、その不気味さも拍車がかかり誰も近寄ろうとはしないだろう。

 さて、そんな場所になぜこんな夜遅く、一人でやってきたのかというと-

 

「よし、それじゃぁ秘密の特訓と行きますか!」

 

 そういって、早速型の反復練習を始める。

 要は、あの二人に追いつくための苦肉の策というやつだった。

 このまま道場で鍛錬を積んでも、結局あの二人が一緒についてくるので差が縮まるどころかどんどん離されていく幻覚が見えてしまう。

 だからこそ誰にも気づかれないように一人で強くなっていこうと思ったのだ。

 

 それに、私には一つだけ誰にも言えないアドバンテージがある。そう転生者としてのありとあらゆる知識が。

 それを使えばチートまで行かないまでも、一人でもそこそこ力を鍛えていけるだろう。

 まぁ、かなり時間も経っているから記憶がおぼろげだけども、問題ないはずだ。

 とはいえそんな雲巣が買ったような記憶を頼るのも正直怖い、だから今の今まで後回しにしていたのだけど-

 

「ノルマも終わって、まだ時間もあるし。何か一つくらい試しても問題ないよねー」

 

 終に、湧きでる好奇心に負けてやってみることにした。

 それにこれが成功すれば自分はひとつ強くなれたということだし、最悪不発に終わるくらいだろう、と。

 

 ―しかし、こんな言葉をご存じだろうか。『生兵法は怪我の元』ということわざを。

 

 その日、人里離れた森から怪鳥のような奇妙な泣き声が響き渡った。―

 

 

 

 

 

 翌日、右腕と頭に痛々しいテーピングをして道場に通う少年の姿が、言われるまでもなく私です。

 そんな恰好をしていれば心配されるのは自明の理で、真っ先にしずはやせんずいたちに心配されることになったのはいうまでもない。

 

「いや、だから本当に大丈夫だから。そこまで心配しなくても…」

「でも大事をとって一カ月は修行できないんだよね…?」

「う!」

「父上、すごく怒ってたぞ。なんでそんな無茶するんだって」

「ふぐぅ!?」

「しかもこれじゃできる遊びも限られちゃいますよね…」

「だよなぁ」

「がっはぁ!」

 

 集まったメンツからの精神攻撃(100%善意)にさらされ、思わず吐血するかのように息を吐きだす。

 とはいえ、今回ばかりは完全にじぶんだけの責任だから誰かに八つ当たりするわけにはいかない。

 一つ息を吸って平静を整え、今度こそ心配してくれるみんなを落ち着かせた。

 実際痛みはそこまでひどいものではないし、逆にいつもの鍛錬のほうがひどい怪我をするしでなぜ一週間も休みを取られたのか不可解なくらいだ。

 そのお陰でまた、二人に差を付けられてしまうという焦りの方が大きい。

 とはいえ、これからみんなで遊ぶってときに、そんな気持ちはおくびに出すわけにかない。

 気持ちを切り替えて今という時間を思いっきり楽しむことに専念するのだった。

 

 

 

 で、

 時間を吹き飛ばして、とっぷりと日が沈んで久しい時間帯。

 またもや私は、せんずい邸を抜け出てあの不気味な屋敷の前へと来ていた。

 そりゃ絶対安静とはいわれたけれど、ただのねんざと軽い打ち身くらいでへこたれる私じゃない。自分の身体くらいは自分で把握できるし、このままくすぶって差を付けられるのもいただけない。

 だからまた誰にもばれないようにこんな人気のないところまできて、秘密の特訓をしようと思ったのだ。

 流石に怪我した次の日なので少し気を付けてやろうとは思うが、それでも手を抜くことは絶対にしない。あの二人に勝つためにも。

 

 たゆまぬ努力はいつか実を結ぶと信じて、今日も今日とて鍛錬に励むことにしよう。

 

「よし、そう決まれば早速型の練習でも-」

『待つんじゃ、そこな童子(わっぱ)

「―ッ誰…だ…?」

 

 突如響いた第三者の声。

 その方向に視線を移すと小柄人影が。

 そう、それはいい。問題はその容姿だ。

 

 暗鶚の男衆が使う忍び装束を身にまとい髪を隠すように頭巾をかぶり、そして最後に天狗のお面で顔を隠している。

 そう、それはまるで-

 

「不審者だー!?」

「違います!?」

「え?」

「ハッ…『ゴホン。儂を不審者如きと同列に視るでない。もっと高尚で気高い生き物じゃからのう…』

「え。いやでもさっきかわいらしい声が-」

『ナンダ…!?』

「なんでもないです天狗-サン。」

 

 有無を言わさない雰囲気につい敬語で返してしまうが、頭の中はいまだに混沌としていた。

 だって、一人で特訓しようとしたら天狗のお面をかぶった不審者が乱入してきたとか、なにそれイミワカンナイ。

 …いけない、思考停止するところだった。

 いったん気を取り直して目の前の天狗もどきの動向に気を配るが、やはりこの異様な状況に頭が理解することを拒否していた。

 

 

『して、童子。話を戻すがその鍛錬もどきをいったん止めい』

「鍛錬もどき!?それはちょっと聞き捨てならない!」

『身にならぬどころか滅ぼす一助となっているそれを、鍛練とは呼べぬわ。阿呆』

 

 天狗面はそう告げると、こちらに近寄りおもむろに私の腕を取った。捻挫してない方の腕を、であるなのに―。

 

「あだだだだ!?」

 

 先ほどまでは感じることのなかった激痛が全身を襲った。

 けれど天狗面は大したことをしてないように見えるのに、軽くひねるように持ち上げたただけのはず。

 何か奇怪な技でも使ったのかもしれない。天狗の面をかぶるくらいだし、きっと無敵超人とか妖拳とかの類だろうもしくはお面つながりで拳魔邪神の使いか!?

 本物の妖怪ではないにしても、怪しさが際立って警戒するなという方が可笑しい。

 そう思い無理やり拘束をほどこうとすると思いのほかあっさり腕が離れ、その勢いを利用して素早く距離をとった。

 そして件の天狗面を見やると、何やら呆れた表情でこちらを見ている。

 

『わしは何もしとらんぞ?ただ腕を持ち上げただけでそこまで警戒せんでも』

「うそだ!めっちゃ痛かったぞ!なんか怪しい技でも使ったんだろ!」

『ふぅ、もう少し賢しいやつかと思っておったが…、何度も言うが、何も特別なことはしとらん。ホラ-』

 

 まるで心外だと言わんばかりに大きくため息をついたかと思うと、一瞬姿がぶれて一息を継ぐころには目の前に現れもう一度片腕をとられていた。

 

「へ?」

『こうして、一寸ひねりを加えただけよ』

「ひぎぃ!?」

 

 確かに関節を極められたほど腕がひねられたわけでも、まして何か怪しい動きを見せたわけでもない。

 なのに、なぜか全身に妙なしびれとも痛みとも取れない何かが響いたのだ。

 

『わからぬか?なぜこんな体になったのが』

 

 天狗面が心を見透かしたかのように問いかけてくる。

 そうだ、分からない。

 なぜこんな脆い体になってしまったのか、なぜこんな怪しい不審者にく組み付されて話を聴かされているのかも。すべてがワカラナイ。

 

『云うただろう?遊びにもならない鍛錬ごっこをやめんからだ。』

 

 いやそもそもこいつは本当にただの不審者か? もしかして本当に-

 

『おおかた、身の丈に合わん技の習得でもしてた、といったところか。体がついていけない頃にやっても会得はもちろん、変な癖がつくだけで百害あって一利なし。最悪今のお前のように身体を痛める。』

「―だ」

『ん?』

「なにが、目的だ…?」

 

 必死にかすれる声で、それだけ問いただすと、天狗面は考え込むように顎に手を当てた。

 

「―」

「え?」

 

 一瞬天狗面の内側からか細い声が聞こえたような気がしたが、それも一瞬のことで聞き逃してしまう。

 結局いつも通りの声音でこう続けた。

 

『なぁに、少しもったいないと思っただけよ。才は十分にある、なのになぜ生き急いでいるのかとな』

「―べ、別に、て天狗のお面被った不審者には関係ない話だろう?」

『無論、関係のない話だ。関係はないが、興味はあるし暇もある。無謀なことをしでかす童子を窘めるのも一興だと思ってな。こうして止めに入った』

「―ハァ!?」

『―まぁ、今日は様子見といったところだ。もう日付も変わって久しいし、そろそろ家路につくといい。ああ、それと』

 

 -今度から無茶な特訓をしようものなら、どこからともなく現れ邪魔するつもりだからそのつもりで-

 

 それだけのこしてようやく拘束がほどかれる、と同時に不気味な高笑いをまき散らしながら天狗面の姿がふっと消えて居なくなった。

 その立ち振る舞いまさしく妖怪そのもの、いやきっと誰かが悪ふざけでやっていただけで、そもそもお化けなんてそんな非科学的な-

ガサっ

 

「スイマセンでしたぁああぁぁあ!?」

 

 

 

 無様とか滑稽だとかそういうのを抜きにして、私は泣き叫びながらその場を後のするしかなかったのだった。

 

 

 

 だって、怖いじゃん、お化け。

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