生まれ変わったら忍者の末裔になっていた件について   作:砂糖露草

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暗鶚の妖怪変化

 それからというものの、天狗面(やつ)は宣言通り、夜中に秘密の特訓をしようとするときにフッと現れるようになった。

 あるときは件のお化け屋敷とは違う廃屋で、またあるときは森の奥深くの開けた野原で。

 ことあるごとに、天井裏木陰地面の下から…いや、さすがに地下はなかったな。

 ともかくあれから一週間。あの手この手で現れては邪魔される日が続く。

 

 そのせいで、鍛錬ができない焦りと奇怪な現象に遭遇したSAN値の減少で眠れない夜が続いたのは言うまでもない。

 毎日目の下に大きなクマを作り、寝不足でジト目になったその顔はそれはもう、『お前、憑かれてるんだよ…』と真顔で言われても不思議じゃないほどに怖い形相をしていたそうな。

 流石に看過できなくなったせんずいの父親が当身でねむらせて、丸一日休みを取らされた(気絶させられた)後に聞いた話だ。

 

 絶不調から抜け出せはしたが、それでもいまだ、謹慎期間が明けるまで長い。

 あと半月以上も間が空いて差が開くとか考えるだけでも発狂ものであった、こんなことしている場合じゃないのに-

 

「あ、てんまさんだ。」

 

 ふと名前を呼ばれてその方向を見ると男の子二人がこちらに近づいてくるのが分かった。

 

「…正道と孝信か、なに?」

「なにって…最近様子が変だからみんな心配してたんですよ?」

「アー、一寸寝不足でねぇ…。」

「寝不足って、一番悩みとかから縁遠そうな人なのに…」

「それ遠回しに馬鹿って言ってるのか?」

「そんなことは…ちょっとしか」

「よし孝信、ちょっと裏手までついてこいよ。二人っきりで話そうぜ?」

「そういいつつ頭掴ま…ギャァァぁぁァぁ!?」

「こうしーん!」

 

 余計な一言を口走った考信の頭をアイアンクローで締め、それを正道が必死に止める。

 実はこの一連の流れ、この四年間で暗鶚の里でおなじみの光景となっていた。この後どこからともなくしずはが現れ物理的に止めるところまでが完全にセットになっているので誰も気に止めることはないが。

 

 しかし、今回は少し違った。

 

 ついあることに気を取られ、手から考信がすっぽ抜けたのだ。

 

 

「―ッ!」

「うわっ、イタタ…やっと解放された…」

「こうしん、大丈夫?てんまさん少し悪ふざけが…ってどうかしましたか?」

「…さっき誰かこっち見てなかったか?」

「こんだけバカ騒ぎしてたんだから、目に留まってもおかしくないですよ」

「いやそうなんだが、そうじゃなくて…」

「なんだかまるでお化けでも見てるみたいな…」

 

 考信が茶化すようにでた言葉は、今の私には少しばかりシャレにならないものだった。

 気が動転していて気の利いた返しができない私を見て、考信が口を開いた。

 

「ハッハッハ、てんまさん。そういう冗談はやめてくれよー。いつもそうやって変な話するからしずはさんに毎度怒られるんだからー」

「もし…冗談じゃなかったら?」

 

 そう切り返すと、二人とも顔を青ざめてプルプルと震えだしてしまった。別にからかっていたわけではないが、この怯えようは見てておもしろ…もとい可哀想だったので無理に笑い嘘の種明かしをすることにした。

 

「いやいやお前ら本気にすんなよ。お化けなんているわけないだろ。」

「そそそうですよね。ありえないですよねー」

「なななにあたりまえなこといってるのさせいどう。かっこ悪いぞー」

 

 声を震わしながら気丈にふるまう正道と考信。

 確かにこの年でお化けが怖いというのもわかる。然しこれはちょっと怖がり過ぎではないだろうか。将来が不安になるほどだ。

 

 と、そこでいつぞやの、しいて言えばこの二人を仲間にしたときの様子を思い出した。

 今まで、特訓に使っていたあの屋敷のことを聴いたのもこの二人だった。あの時はただお化け屋敷だという認識だけで済んだけど、天狗面の遭遇(あんなこと)があった後だから気になってしまう。

 だから、少しの嘘を含ませてそれとなく聞いてみることにした。

 

「そうそう、お前らが前言ってたお化け屋敷に足繫く通ってみたけど、全然そんなことなかったしな!」

「うえぇぇぇぇ!?行ったんですかあそこ!」

「嗚呼、夜に。しかも一人でだ。」

「馬鹿だ…わざわざ足繁く通うとか…」

「今率直に馬鹿にされてたが、あえて二度目は許してやろう、考信。代わりにわかってること全部話せ、な?」

「わ、わかってることって何さ?」

「あの屋敷の知ってること全部、だ。何、別に話したら呪われるようなものじゃないんだろう?」

 

 とはいえもし呪われる系の話だとしたら早々にこの話は打ち切るつもりではあった、べ、別に怖いわけじゃない。被害を最小限にしたいだけだ(震え声)

 

 すると正道と考信は顔を見合わせてアイコンタクトを取り始める。

 時間はたっぷりあるし。焦らずその様子を見守るとそのうち二人が口を開いた。

 

「あの屋敷には、『白髪鬼』が棲んでいるって噂なんだ」

「はくはつき?」

「はい。あの屋敷にはそれそれは恐ろしく強くて怖い白髪碧眼の鬼が棲んでいて屋敷に不用意に近づいた者を攫って喰うって話が結構有名なんですよ」

「あれ?僕が聞いた話だと白髪赤眼のおっそろしい形相の山姥だって話だったような…」

「考信…それはデマだったって前言ってたじゃないか。」

「そうだったけ…?」

 

 如何やら少し齟齬があるようだが根本的なことはあまり変わらないようだ。

 全体的に真っ白なヒトガタが屋敷の中から現れ人を襲い喰ってしまう、俗な昔話によくあるモノだった。

 つまり、それは私が考えていたものとはまるで違うものだということを示している。

 

「えっと、その話以外にもっとない?たとえば天狗の住処だーとか。」

「天狗ぅ?そんなのいままで聞いたこともないけど」

「そっちならまだ可愛げがあったんですけどね…」

「いや、どうせならもっとかわいいのがあるだろ。猫又とか」

 

 

 考信はいきなり出てきたワードに訝しんだが、正道の話ですぐに興味を失い。可愛い物の怪談義に花を咲かせている。

 暇つぶしにはなったものの、結局今起きていることについての打開策を知ることは終ぞなかった。

 

 

 

「で、結局何も考え付かないないまま夜になってしまったと…」

 

 いつものように里が寝静まったころに起きだし、こっそり外へ抜け出していく。

 どうせまた天狗面(アレ)に邪魔されるだけだとわかっていても、もはや日課となり染みついてしまった流れ作業で家を出る。

 別に、やる気が出ないというわけではない。問題なのはどんなにやる気にみちていても確実に邪魔が入りそれどころではなくなることだ。

 そして、その邪魔をする天狗面が出てこなさそうな、そして特訓に使える広さの場所にもう見当がつかないというのも大きい。

 ここまで来ると、もはや道は二つに一つ。

 諦めておとなしく謹慎を受け入れるか、それとも天狗面を打倒するか。

 そういう考えに至ったのも、今日正道と考信の話を整理した結果だった。

 あれがもしも本物の妖怪の類だとしたら私になす術はなかっただろう。だがその可能性は低くなった。

 何者かはあずかり知らないけど、あの背丈からすると私より三つか四つ歳上の青年に違いない。

 なら、この拳が届くかもしれないのだ。

 

 どちらにせよ格上の相手ではある、だけどよく考えてみればあの背格好から鑑みる年齢ですでに達人の域に達しているかと言えばおそらくないだろう。というかあってたまるか。

 よくて妙手、(私的にうれしいのは)弟子クラスの上位のはず。

 彼奴が油断している間にきついのを一発入れる。それくらいのことはできるはずだ。

 きっと勝つことは難しい、だけど今の実力を示せれば天狗面は引くかもしれない。あれが里の先達が扮したものなら成果を示せば納得してくれるだろうから。

 もちろん本当にそうなるという保証はどこにもない。けれども私には、悠長に構えて居られる時間など、無くなってきている。

 

 

 だから-

 

「―いるんだろう?出てこいよ。」

 

 最初に出逢ったお化け屋敷の前でただ一言言い放つ。

 ざぁざぁ、と周りの木々がざわめく。

 落葉が視界を覆ったと思うと、視線の先に件の天狗面が突如として姿を現していた。

 

『なんだ、気づいておったのか。』

「別に、いつも通りいるだろうなって程度の勘だよ。それに、今日一日中ずっと薄気味悪い視線感じてたからな。それだけだ」

『薄気味悪いとは失礼な…。童子が隠れて無茶していないか見ていただけなのに」

 

 少しだけ声を落としてそうひとりごちた天狗面。まるで落ち込んだかのようなそぶりを見せる奴は、少しだけ老成した口調を崩していた。

 おそらく今出かかったのが素なのだろう。

 

『ッゴホン、それで童子。今宵も性懲りもなく鍛錬もどきか?だというのなら-』

「だというなら-なに?」

『ム』

「その場の雰囲気とか、その珍妙な出で立ちやらでつい呑まれちゃったけど、()()()()()妖怪とか魔法とかあるはずないんだ。この近辺に天狗が出たなんて話聞いたことないし、唯一聞いた怪談はあんたとは関係のないものだったし。

-あんた、この里の人だろ?」

 

 最後の一言に天狗面はピクリ、と体を震わした。

 構わずに私は続ける。

 

「よくよく思い返してみればアンタの体捌きにはどこか見覚えがあったんだ。…というか僕が習っている暗鶚のソレだし、そもそも此処に部外者がそう簡単に来れるわけない。」

 

 天狗のお面をかぶった武闘家のような不審者が、夜中とはいえ闊歩できるほどこの里の警備は甘くない。

 つまりそれが容認できるほどの権力者か、この里の住人のどちらかというわけだ。

 気づいてしまえばなんてことはない種明かしだ。なんで今まで気づかなかったんだっていうのは禁句である。

 

 そこまで言い終えると、天狗面は纏う雰囲気をあからさまに変える。

 先程までは怪しい怖気を感じさせるものだったのか。武術家然とした静謐な気を全身に巡らせていく。

 その口から放たれる言葉は、今までよりも重く感じた。

 

『そうだ。私は暗鶚の忍びが一人。お前の先達に当たる、その先達としてもう一度言う。こんな無意味なことは、やめなさい。』

 

 淡々と、しかし私の身を案ずるように天狗面は忠告を発する。

 その言葉が逆に私の神経を逆なですることになった。

 しかしすんでのところで怒りを飲み干し口を開く。少しばかり反抗的な態度をとって。

 

「―確かに思いつきでやらかした技の鍛錬はそうだったかもしれない。けれどもうそんな馬鹿な真似はしないよ。だからほっといてくれ」

『それはできない相談だ。同門の後輩の未来が閉ざされる様を見たくないからな。それに、私が辞めろといったのは謹慎期間中の武術の鍛錬すべてだ。』

「これだけは絶対にやめないよ。だってそうしなきゃあの二人にはいつまでも追いつけないからね」

『今の状況を繰り返しても、無意味だ。』

「―無意味無意味って、ヒトの努力をばかにすんな!」

 

 売り言葉に買い言葉。平行線を辿る会話に嫌気がさし、ついに堪忍袋の緒も切れた。

 その衝動のまま前方に跳び、不意打ち上等と天狗のお面に拳を突き立てた。

 一瞬だけ明らかに動揺を見せた天狗もどきはすんでのところで攻撃をかわし、軽く跳び退く。

 

『まて少年、別に君を馬鹿にしたわけじゃ-』

 

 天狗もどきが何やら御託を並べ立てようとしているけど、そんなこと知ったこっちゃない。

 もう話し合いでどうにかなるラインは超えてしまったのだ。

 だから私は改めて戦闘態勢をとる。

 

「どっちにしろアンタは今までの鍛錬に意味がないっていうんだろ?なら本当に無意味なのか自分の目で確かめろ!」

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