更新がない時は察して下さい。
「ぷはー、今日もいいペンキ☆」
夏祭りから一週間。殆どの艦娘には、半ば強制的に休みを取ってもらった。
戦いがライフワークである艦娘から戦いを奪うのは悪いが、たまには、ね?
という訳で今日は休憩の日。
もとい、黒井鎮守府閉店の日である。
殆どの空母は四泊五日全国食べ歩きツアーに参加して、金剛型とか海外艦はヨーロッパに旅行、最上型は熊野の神戸旅行について行って、駆逐艦の多くは遊園地へ、川内型は嫌がる那珂ちゃんを引きずって山籠り……。
……という訳で、今の黒井鎮守府には、殆ど人がいらっしゃらない。
普段は沢山の艦娘で賑わっているこの食堂もガラガラですわ。
まばらにいる艦娘は、呑んだくれてる響、呑んだくれてる隼鷹、呑んだくれてる武蔵……。
なんてこった、たるんどる。
え?俺?俺はお座敷の席で鳳翔に膝枕されてるけど?何か問題ある?
「……と言うより、鳳翔も休んだら?」
いつも家事とか頑張ってくれてるしな。
「ふふふ、大丈夫ですよ、旦那様。一昨日は、間宮さんと伊良湖ちゃんと旅行に行きましたし、ちゃんとお休みは頂いてますからね」
「もーっと休んで良いのよ?」
「いえいえ、家事でも何でも、私が好きでやっていることですから。……こうして、旦那様の側にいれるだけで、私は幸せですよ❤︎」
女神かな?
「鳳翔は良い嫁さんになるなぁ」
「もう、何言ってるんですか?私は旦那様のお嫁さんですよ❤︎」
はっはっは、ケッコンカッコカリの意味を理解してない艦娘の多さよ。……カッコカリだから確定じゃないとあれ程言ったよね?
……ん?爆発音?明石……、じゃないな、明石は今秋葉原にいるからな。
「何だよ、全く」
あー、やだやだ。
窓から海を見てみると……、
「……深海棲艦?」
……何だありゃ、見たことがないタイプのやつだ。しかも、数が多い。やたらめったら多い。
「……戦艦、でしょうか?千体以上はいますね。……どうしますか?艦娘を呼び戻しましょうか?」
すぐ近くにいた大淀が言う。
うーん、正直、そこまでやる必要はないと思うんだよね。
ここに残った艦娘だけで対処は可能だと思うんだけど……。
「にしても、大分近づかれてしまいましたね。あの防衛システムを乗り切ると言うことは、それなりの実力があると言うことでしょうし……」
そうなんだよなー。量も質も揃えて、ここまで来られるとなー。対処はできるけども、手が足りない。
戦って勝つことは出来ても、鎮守府とか陸地とかを護りながらだと面倒だよなー。勝ったけど鎮守府周辺は更地になりました、じゃ困るし。
「……あ、そうでした。明石さんから、こんなものを預かっていたんでした」
「……何このスイッチ」
「いえ、その、私がいない間に鎮守府に危機が迫った時、押して欲しい、とのことです」
お、おう、そうか。
「え、じゃあ、押す?」
「そう……、ですね。一応、危機ですし」
「だなー。……えい」
『alert!alert!alert!』
うおっ、サイレンうるさっ!!
思わず、スイッチを落としてしまう。
するとスイッチから、明石の立体映像が流れ始めた……。
『……提督……。貴方がこれを見ていると言うことは、私は既にこの世にいないでしょう……』
芝居掛かったセリフを吐く明石の立体映像。嘘つけ、君、五分前までコトブキヤにいただろ。ツイッターで見たぞ。
『黒井鎮守府は今、空前絶後の大ピンチなんですね……。しかーし!希望はここにあります!!』
何なの?何でそんなテンション高いの?……よく見たら、立体映像の明石の目元にクマがある。……深夜テンションで撮ったんだな?そうなんだな?夜更かしは身体に悪いからやめなさいとあれほど言ったろ?
『こんなこともあろうかと!!!用意しておいた秘密のシステムがあるのですっ!!!『明石さーん、もう深夜ですよー?寝ましょーよー!』……夕張ちゃん、これ終わったら電気消すから、あと五分だけ待って!』
しかもこれ、自室かよ!同室の夕張に迷惑かけちゃ駄目だろ!!……後で説教だな。
『と、兎に角!!凄いシステムなんですよ!!!はい、終わりっ!!!バリアシステム起動!!!……夕張ちゃーん、ごめんねー、じゃあおやすみー』
その一言と共に、鎮守府をすっぽりと覆う半円状のバリアが現れた。ウッソだろお前。
「……マジかよ」
「す、凄いですね、驚きました」
形成されたバリアは、深海棲艦の砲撃を見事に防いでみせた。
「……この調子なら、鎮守府の防衛は大丈夫だな。……ほら、皆んな起きてー!敵襲だよー!」
「ぐー、ぐー……、えへ、司令官、くすぐったいよ……」
「あっはっはっはっ!!たまには洋酒も良いねぇ!!……ありゃ?もう昼かい?おっかしいな、さっきまで夜だった筈じゃ?」
「あ"ー、頭が痛いな……。お、芋焼酎か。……迎え酒、だな」
あーもう。
「ほら!敵襲だって!ウチに深海棲艦が攻めて来たんだよ!!起きて!!」
全くもう、引き摺って行くしかないか。
「大淀も、鳳翔も、出撃だ!付いて来てくれ!」
「「はい!!」」
『…………デ?ソノ体タラクカ?コノアタシガ、アタシトネ級ノ量産型ヲコンナニモ用意シテ、先週カラ攻メル準備ヲシテタッテノニ、ソレカ?』
「ははっ、いやー、なんかごめんね、レ級ちゃん。うちの子皆んな休みでさー?また来月くらいならちゃんと相手してあげるから、今日のところは帰ってもらえる?」
レ級か、ラミアみたいな見た目だな。……どっちが頭なの?
『…………帰レ、ジャネェヨ!舐メヤガッテ!!叩キ潰シテヤル!!!行クゾ、ネ級!!!』
『……了解』
ネ級は、レ級のちっこい版みたいな子。どっちもかわいいね、うん。
あー、あと、舐めるな、だっけ?
「いやぁ、あのさ、俺って旅人でさ?」
『ア"ァ?何ダ急ニ?』
「誰かに守ってもらえる訳じゃないもんで、危機察知能力がないとやっていけないのよ。……つまり、相手を舐め腐って、油断慢心しまくるようじゃ、とっくに死んでるってこと。だから俺は、相手を侮ったことなんて一度もない。唯の一度もね」
『何言ッテヤガル?今現ニ、アタシ達ノコトヲ舐メ腐ッテ、ソレッポッチノ戦力デ…………?!!』
やだなぁ。
「適正な戦力だよ?」
舐めてるんじゃない、余裕なんだよ。
『ーーーッ!!!』
すぐ近くのレ級の量産型が、文字通り弾ける。爆発的な殴打によって。
「ふむ、少しばかり、固いな。だがそれだけだ」
酔っ払う?それが何かな?艦娘を人と同じ次元で語っちゃ駄目だ。飲める量も、分解する力も、人とは段違いなんだよ。
「ゴクッ……、ゴクッ……、っぷはぁ!酒を飲んだ後の水は美味いもんだな、酔いもすっ飛ぶ……!」
2リットルのペットボトル一杯に詰まった水を飲み干した武蔵に、先程までのような酔いは見られない。犬歯を剥いて嗤うその姿は武人のそれだ。
「他所では深海棲艦が艦娘を襲う。黒井鎮守府では、艦娘が深海棲艦を襲う(ロシア的倒置法)。……なんてね」
左肩に担いだ巨大な鎖付き鉄球を思い切り投げつける響。肉の詰まった袋を地面に叩きつけたような、湿った音と共に、レ級の量産型が吹き飛ぶ。
「ほいほい、っと!お仕事お仕事!働いた後の酒は美味いからなー!……ま、今も飲むんだけどね!アハハハハー!!」
日本酒をラッパ飲みしながらも式神をばら撒く隼鷹。ふらふらと揺れる身体とは裏腹に、微塵の狂いもなく動く式神は群としてうねり、雲のように浮かぶ。
「と、言う訳で。今からやるのは防衛戦じゃない。……殲滅戦だ!!!全員突撃ィ!!!!」
ノリノリである。俺が。
「「「「了解!!!」」」」
さ、行くぞ。
目にものを見せてやろう。
武蔵
保護者の大和がいないのを良いことに、昼間から呑んだくれていた。
響
いつも通り呑んだくれてている。
隼鷹
常人なら死ぬレベルの量を飲む。毎日。
旅人
カッコつけたかった。